旬野菜の選び方と保存法 (その1)
■ はじめに 
  野菜の鮮度と栄養 (1)



「野菜の鮮度と栄養」について考えていく上で、生物の中における野菜と人間とは、どのような位置づけにあるものかをおさらいしたいと思います。
 ●「生産者」
野菜(植物)は根から吸収した水と空気中から吸収したの二酸化炭素と太陽の光エネルギーを浴びて、栄養分を作り、酸素をはき出します。
この働きを光合成といいます。
生物の中で自分で栄養分を作る(生産)ことができるのは植物だけです。
そこで植物のことをは「生産者」と呼びます。
植物が全生物の必要とする養分(エネルギー)を生産しているのです。
植物がなければ他の生物は生きていくことはできません。
 
●「消費者」
これに対して、動物は自分で養分を作ることができませんから、他の生き物を食べ、その養分を取り入れて生きています。
動物には、植物を食べる草食動物と動物を食べる肉食動物がいますが、自分で養分を作ることができず、他の生き物を食べる(消費)ことによって生きているので、植物の「生産者」に対して動物のことを「消費者」といいます。
人間は植物の産出する酸素を取り入れ、野菜や果物(植物)と魚や肉(草食動物・肉食動物)を食べる雑食系動物の「消費者」です。

 ●「分解者」
一方、植物の死体(枯葉や朽ちた根や幹、枝など)、動物や昆虫の排泄物や死骸は、虫などの小動物によって食べられ、細かく砕かれ、多くの微生物にとって分解され、これらは次の新しい植物生命の成長に欠かせない養分となって土に還されてゆきます。
それでこれら微生物は「分解者」といいます。

 ●「食物連鎖」
「生産者」である植物が作った養分が貯蔵されている葉や実、その他は、「消費者」である草食である虫や草食動物の栄養源として食べられます。
 その虫や小動物は肉食動物の栄養源として食べられます。
そして「生産者」や「消費者」の死骸等は「分解者」である微生物の餌(栄養源)となってきれいに分解され土壌中に還元されます。
そして、新しい植物「生産者」の成長にとって欠かせないの栄養分となってに吸収されていきます。
こうした、生き物たちの関係を「食物連鎖」といいます。                           




さて、旬野菜の選び方と保存方法を考える上で、「野菜は生きている」ということについて知り、その法則にしたがって適切な対応をとることが必要です。

 さて、野菜(植物)は「光合成作用」を行って養分を作り成長していきます。
「水と二酸化炭素を用い、太陽エネルギーを糖と酸素に変換している化学反応」のことです。
 
植物は、葉の葉緑体にある葉緑素が太陽光エネルギーを吸収し、根が地中から吸い上げた水分は茎を通って葉に送られ、葉の裏側ある気孔が空中から二酸化炭素を吸収します。太陽光エネルギーと水と二酸化炭素から、糖やデンプン(炭水化物=炭素Cと水素Hの化合物)などの栄養分を作ります。このとき酸素が作られ気孔から空中に排出出されます。
植物は、わたしたち人間を含む動物にとって欠くことのできない酸素と食物栄養分を作り出すものであり、生きていく上でかけがえのない「生産者」なのです。
 
二酸化炭素(CO2)+水(H2O)+光(エネルギー)
―→炭水化物(C、Hの化合物)+酸素(O2)
 
ところが植物の「光合成作用」は、二酸化炭素と水と太陽光によって炭水化物(デンプンや糖など)を作るだけです。
しかし、植物が生きて成長いくためには、植物自らが光合成作用によって体内に産出した炭水化物(デンプンや糖など)を、生命活動に必要なエネルギー(体温を保つなど)に変換しなければなりません。
そのため植物は「光合成作用」を行う一方で「呼吸作用」を行っています。
 
気孔から吸った酸素で糖分を燃焼させ、体温を保つなどのエネルギーに換え、そのとき二酸化炭素と水を体外に放出します。
動物や人間も酸素を使って糖をエネルギーに換え、二酸化炭素と水に分解しているのです。
 
炭水化物(C、Hの化合物)+酸素(O2)
        ―→ 水(H2O)+二酸化炭素(CO2)+エネルギー

「呼吸作用」は「光合成作用」とはまったく逆の反応なのです。
 
太陽光を受ける昼間はに「光合成作用」をするとともにと「呼吸作用」も行っています。
植物の「光合成作用」は光が当たっていないと行われませんから、太陽光がなくなった夜間には「呼吸作用」だけを行っています。
植物の成長期における「光合成作用」は、その「呼吸作用」に比べてはるかに大きいので、どんどん成長し養分が蓄えられていきます。

 


収穫された野菜を放置しておくと、時間の経過とともに水分を失い、萎びたり黄色くなったりして急激に鮮度が落ちていきます。
そればかりではなくビタミンCをはじめ糖分や各種栄養分、そしておいしさもどんどん失われていきます。
これは収穫後も野菜は生きているからです。
野菜や果物は、収穫後も直ちに死滅するものではなく、酸素を吸って二酸化炭素放出する「呼吸作用」と水分と熱を放出する「蒸散作用」を行いながら生きています。
この作用によって自分の体内に蓄えられた糖分などの栄養分をエネルギー源として「自己消化」ながら生きているのです。
 
野菜や果物は、土や根や枝や茎につながっている間は、水分や光合成によって作られた栄養が運ばれて成長していました。
ところが収穫によって土から離れ、根や茎から切り離され、供給源を切断されてしまったらもう一切の補給はありません。
収穫された野菜や果物が生きるとは、自分の中にある蓄えをを消費すること=自分自身を食べることで生きているということです。
 
これを人間にたとえるなら、収入をまったく絶たれた人が、これまでの貯蓄をはたきながらの生活を余儀なくされるのと同じです。
これまでの通りの生活スタイルや遊び呆け、浪費暮らしをしていたのでは、アッという間に破産しに、生きることも難しくなります。
可能な限り最小限の消費で健全な生活を持続する工夫をしなければなりません。
 
炭水化物(C、Hの化合物)+酸素(O2)
        ―→ 水(H2O)+二酸化炭素(CO2)+エネルギー

収穫後の野菜には呼吸作用(自己消化作用)によってをして生きており、この呼吸作用が激しいほど、養分の自己消化が激しく、水分の蒸散も大きいのです。
したがって、この呼吸作用を何とかして最小限に抑えることができれば、鮮度の維持はもちろん、栄養分とおいしさの損耗を防ぐことができるのではないか。
 
野菜の呼吸を抑える最大のポイントは「低温」と「湿度」と「ガス調節」です。
一般に野菜は、温度を低くして呼吸を抑えることにより、新鮮さを長く保つことができます(例外あり)。
また、水分含有量が多い野菜は、湿度を高くすることで長持ちします(例外あり)。
さらに、野菜の保管場所の炭酸ガス濃度を上げたり、酸素濃度を下げて呼吸を抑制することにより、貯蔵期間を伸ばし、野菜の老化を遅くすることもできます。
これらは後述するように、家庭における保存についても十分応用できることです。