あんな話 こんな話  107
 
幕内秀夫著  PHP新書
『健康食』のうそ
より その1
 
● はじめに
健康食にこだわる人はかえって不健康になる
 
今の世の中には、食と健康の関する情報があふれています。この本を手にとってくださった中にも、そうした情報に気をつけている方が多いことでしょう。
ヶmm工になるための情報がこれほど流布しているというのに、周囲を見渡すと、不健康な人の、何と多いことか。ひょっとして、あなたもその一人ではありませんか?
 
★栄養バランスを考えて、なるべくたくさんの種類のおかずを食べるようにしている。
★ご飯は太るからあまり食べないが、野菜や果物は意識してとるよう心がけている。
★腸の調子をよくし、骨を丈夫にするために、乳製品や牛乳を毎日とっている。
★減塩醤油や減塩みそを使い、おかずはできるだけ塩気を薄くするようにしている。
★からだによいと言われる有機野菜や玄米を食べるようにしているから安心だ。
 
健康に対する意識の高い人は、このようなことをいろいろと考えて食事をしています。
 
けれども、実は健康にこだわる人ほど、かえって不健康になっている可能性が高いのです。
まぜなら、誤った健康情報や常識に踊らされている危険性があるからです。
 
健康情報の誤りの第一は、戦後の栄養教育がつくりあげた「常識」です。
 
日本では昭和30年代から、気候風土も体質も違う欧米の栄養学をそのまま受け入れ、動物性食品や油を多くとるようになりました。
その結果、生活習慣病、肥満、アレルギー、アトピーなどに悩む人が多くなってしまったのです。
 
その反動として、健康情報があふれるようになりました。
これが第二の誤りです。
 
なぜなら、巷に流れるさまざまな健康情報を冷静に見てみると、食生活の話ではなく「○○を食べると病気が治る」「□□という食品には血圧を下げる効果がある」「△△を食べればやせる」といった、一つの食品の話がほとんどだからです。
 
そのそも、健康を食生活だけで語るには無理があります。
運動不足、ストレス、睡眠不足、環境など、健康にはさまざまな要素がからんでいると考えるべきです。
ましてや一つの食品で病気が治ったり予防することができたりすることなど、あるえません。
 
第三の誤りは、多くの人が体重や血圧、血糖値などを気にしているにもかかわらず、「食の快楽」に走っていることです。
「9800円日帰り食べ放題」のようなツアーは人気の的ですし、「食の遊園地」と化したデパ地下には、中高年男性までもがひしめいています。
 
怒涛のような「食の快楽」の裏返しとして、健康に自信をもてない人がますます増えました。
そこにつけこむ業者が、「○○を食べて健康になりましょう」とハイエナのように押し寄せ、「栄養バランス」という言葉だけが独り歩きをしている――これが、今の日本の病理です。
いわば、みんなが「健康」というなの「病気」になってしまっているのです。
 
では、本当の意味で健康になるために、私たちはどのような食生活をすればいいのでしょうか。
その方向性を示したのが本書です。
 
第1章では、食生活をトータルに見直すためのヒントを掲げました。
そのヒントとは、日本人にいちばん合った食生活の知恵=「粗食」に隠されています。
ごはんと味噌汁を中心とした「当たり前の食事」を、今こそ見直したいものです。
 
第2章では、ここ数年の間にブームとなった「健康食」のウソを、一つひとつ暴いていきます。
根拠のアヤシイ「健康食」やサプリメントなど必要ないと理解していただけるでしょう。
 
第3章では、戦後の栄養教育の誤りについて説明します。
これまで刷り込まれてきた「食と健康の常識」が、いかにアテにならないものか、おわかりいただけるものと思います。
 
第4章では、嗜好品をどうとらえるかということ、そして、極端なダイエットや食事療法を続ける危険性についてお話します。
これからの人生を健康で幸せに過ごしていきたい方はもちろん、お子さんの食生活に頭を悩ませている方にも役立つはずです。
 
もっとも大事なのは「考えずに食べる」と言うこと。
病気のため日常的に食事に注意すべき人は別として、みずからの本能に従って食べるのが自然な行動なのです。
健康によいとか悪いとか考えるから、話がややこしくなってしまうのです。
 
この本が「本当にからだによい食事とは何か?」を考えるきっかけとなり、皆さんが「健康食」の呪縛から解き放たれ、心身ともに健やかな生活を取り戻す一助になれば幸いです。
 
2011年9月
幕内秀夫
 
 
第1章 健康情報にだまされるな  の1
 
 
● 「長寿の人は何を食べているか」のバカらしさ
 
日本には昔から「賀寿」という習慣があります。
長寿のお祝いのことで、中国から伝わりました。
平安時代の貴族達は、40歳から長寿を祝ったそうです。
きっと現在の80歳くらいのイメージだったのでしょう。
 
今の日本では、80歳など珍しくありません。
多くの人が「長生き」からイメージする年齢は、100歳ではないでしょうか。
 
「できれば100歳まで生きたい」と言う目標をもっている方は、たくさんいるでしょう。
「100歳になっても元気に暮らしている人は、どのような生活をしているのだろう。見習いたいものだ」と思っている方も多いはずです。
 
こうした関心を持つのは自然なことですが、問題なのは、「元気な高齢者は何を食べているか」という一点に関心が集中しがちなことです。
 
たとえば、聖路加国際病院理事長の日野原重明先生は、明治44年〈1911〉生まれ。
100歳にして現役の医師です。
そんな日野原先生が肉を食べることは、かなり知られている話です。
 
テレビや雑誌では、日野原先生がステーキを食べている姿がよく報じられるので、それを見た人は、「肉をモリモリ食べるのが長寿の秘訣」という印象をどうしても、もってしまいます。
 
けれども、日野原先生は毎日、肉ばかり食べているわけではなく、ごはん、漬物、野菜の煮物なども食べているそうです。
「健康の秘訣は腹8分目か7分目」ともおっしゃっています。
朝食と昼食はごく軽く、夕食は魚か肉に野菜、そして、ごはんをきちんと食べる――これが日野原先生の食生活のスタイルのようです。
 
昼間は病院の仕事や講演会などを分刻みのスケジュールでこなし、夜は午前3時ごろまで本の執筆などをされているそうですから、夕飯を多めにとっても、胃がもたれたまま寝てしまうようなことはないでしょう。
 
ですから、日野原先生の食生活は、昼間はあまり運動せず、夜は9時ごろに布団に入るライフスタイルの高齢者が、そのまま真似できるものではありません。
 
「肉を食べているから長寿で元気」というのは、大きな誤解なのです。
むしろ、見方を逆にすべきです。
 
日野原先生は、ステーキを食べているから元気なのではなく、100歳になってもステーキを食べられるほど元気で、消化機能が優れているのです。
 
もう一人、例を上げましょう。
かつてギネスブックに長寿世界一と記録された泉重千代さんです。
慶応元年〈1865〉生まれで、昭和61年〈1986〉に120歳でなくなりました。
生年に関しては疑問もあるようですが、100歳以上であったことは間違いないでしょう。
 
鹿児島県徳之島生まれの重千代さんは、若いころからサトウキビ畑や港で働いて、体をよく動かし、規則正しい生活を送っていたそうです。
黒砂糖焼酎が好きで、晩年まで飲んでいました。
そのため「重千代」という名の焼酎まで売り出されたほどです。
そして何と、115歳まで煙草をすっていました。
 
だからといって、「焼酎と煙草で長生きできる」と思う人がいるでしょうか?
「115歳まで煙草を吸い、晩年まで焼酎を飲めるほど丈夫だった」と考えるのがふつうです。
 
つまり、「長寿の人は何を食べているか」は、まったく意味のない質問なのです。
 
元気で長生きしている人たちが、からだを作り上げる若い時期に何を食べていたか、どのような生活をしていたかも調べずに、今食べているものだけを取り上げて「長寿の秘訣はこれだ!」と言ったところで、何の説得力もありません。
 
そもそも、たった一つの食べ物だけを取り上げて、健康にプラスだ、マイナスだと断定すること自体がおかしいのです。
 
 
● 木を見て森を見ない栄養学者たち
 
巷にあふれる健康情報は、「からだのために、こういった食品をとりましょう」というも」のばかり。
それだけなら食生活の一端を語っているともいえますが、今の栄養学は、食べ物の栄養学を分析して「この栄養素は健康にいい、これは悪い」といっているだけです。
 
「鉄分豊富なホウレンソウは貧血予防にいいが、シュウ酸も多く含まれている。シュウ酸がカルシウムとくっつくと結石の原因になるので注意しましょう」
こんな情報の垂れ流しに、一体なんの意味があるというのでしょう。
ホウレンソウを食べて鉄分だけを飲み込み、シュウ酸は吐き出しなさいと言っているようなものです。
 
これをわたしは「ヴェニスの商人理論」と名づけました。
 
シェイクスピアの作品「ヴェニスの商人」では、金貸しのシャイロックから金を返せなくなったアントーニオが、「返済できないときは胸の肉1ポンドを切り取らせる」という証文を盾に訴えられます。
けれども、彼の親友の妻ポーシャが裁判官に変装し、「肉を切り取るのはよいが、血は一滴も流してはならぬ」と言い渡し、アントーニオは救われます。
 
戦後の栄養学者たちが言っているのは、「血を流さずに肉を切れ」も同然なのです。
「さつまいもは食物繊維が多く便通をよくする」「卵は良質のたんぱく質を含む」と主張したのも栄養学者ですが、そもそも、食物繊維やたんぱく質などという食べ物は、この世に存在しません。
 
もちろん、こうした知識をもって食生活の参考にするのはいいことだと思います。
けれども、そこから飛躍して「だから食物繊維をとるためにサツマイモを食べなさい」「タンパク質をとるために卵をぜひ食べましょう」となってしまったことが問題なのです。
 
「木を見て森を見ない」ということわざがあります。
物事の細部のみにとらわれて、全体を見ようとしないことのたとえです。
食品に含まれるわずかな栄養素だけを取り出して、「いい、悪い」と主張する栄養学者たちは、まさに「木を見て森を見ない人々」といえるでしょう。
 
健康は生活全体の問題です。
その中には当然、食事も含まれますが、食事だけで健康を語れるものではありません。
 
私は食生活について研究し、埼玉県川越市の帯津三敬病院で20数年にわたって食事指導をしてきました。
そこで感じたのは、食生活全体をよくすることでさえ、健康にとっては、ほんの一部の役割しか果たせないということです。
 
ましてや、ある食べ物さえ食べれば健康になるというのは、どう考えても無茶な話です。
 
あとでくわしく述べますが、「一品健康」を唱える学者や業界の人たちは、自分たちの都合のいいデータだけを取り出して、「牛乳を飲むと骨が丈夫になる」「肉を食べると元気になる」などといっているに過ぎません。
トータルでどのような食生活をしていくべきかは伝えず、部分だけで全体を語ろうとし、断片的な情報をまき散らしています。
 
「どうにか頑張って100歳まで生きたい」「元気に仕事を続けたい」「家族の健康のために・・・・・・」とまじめに考えている人ほど、さまざまな断片情報を集め、「専門家の言うことだから」と忠実に実行しようとしますが、すぐに矛盾に突き当たります。
多くに人が混乱してしまうのは、無理もないことだと思います。
 
 
● まずは食生活をチェックしましょう
 
食生活の基本は、一つひとつのお皿ではなく、それらを乗せているテーブル全体を考えることです。
いわゆる「健康食」に共通する問題点は、この部分がすっぽりと抜け落ちていることだと思います。
 
ここで、あなたの食生活をチェックしてみましょう。
下記の13の質問に「はい」「どちらともいえない」「いいえ」のどちらか1つを選んで○をつけてください。
○のついた点数を合計したら、、?診断結果&アドバイス?と照らし合わせてみましょう
 
■ 食生活チェックリスト



















 

 
はい
 
どちらともいえない いいえ
 
ごはんは1日2回以上は食べている 15
夕飯は8時前には食べている 15
外食は多くても1日に1回まで 10


 
飲み物でカロリーをとらない
〈清涼飲料水、缶コーヒー、乳酸飲料、栄養ドリンク、スポーツ飲料などは常飲しない〉


 


 


 
朝食はごはん〈米〉を食べる

 
甘い菓子類〈和菓子、洋菓子などはほとんど食べない〉
 

 

 
アルコールは毎日は飲まない
肉よりも魚介類を食べることが多い
牛乳、乳製品はほとんど食べない
10 天ぷら、フライ類はほとんど食べない
11
 
野菜はサラダや炒め物より、にものやあえもの、おひたしなどが多い
 

 

 
12
 
ごはんは、玄米、分搗米、胚芽米などを常食している
 

 

 
13 食品を購入する際は「表示」を見る
 
?診断結果&アドバイス?
■ Aランク  100〜90点
理想的な食生活といっていいでしょう。
このままでも十分ですが、ゆとりがあるのでしたら食品の安全性を確認してみましょう。
 
安全性という観点でいちばんお金をかけたいのは、毎日使う調味料です。
調味料がもっとも大切なわけではありませんが、買い物の手間や経済的な事情などを考慮すると、調味料を検討するのが現実的だと考えるからです。
次のことを参考にしてください。
 
○みそ――「国産大豆から作られたもので、発行年数が半年以上」を最低条件とし、もう少しこだわりたい人は天然塩が使われているもの、さらにこだわりたいなら無農薬大豆から作られたものです。
○醤油――無農薬の国産大豆から作られたもの。
○油――使うとしても少量にしたいので、普通の食用油でもかまいません。
こだわりたい人は、溶剤の入っていないものを自然食品店で買うといいでしょう。
 
■ Bランク  89〜70点
かなりいい食生活です。
「いいえ」に○をつけた項目を見直して、「はい」の点数が高い項目を優先的に改善していくといいでしょう。
質問の中で「いいえ」に○がつきやすいのは、2の「夕食は8時前には食べている」ではないでしょうか。
 
昼過ぎと夕食の間があきすぎているため、夕方に甘いお菓子や缶コーヒーなどをとり、10時ごろに夕食をとる人は多いと思います。
まずはここから改善しましょう。
 
コンビニのおにぎり、海苔巻き、稲荷寿司などでいいので、夕方6時から7時くらいに主食のみの夕食を食べてしまうのです。
そうすれば「おやつ」を夕食代わりにしなくてすみますし、夜遅くに重たい食事を取ることも避けられルはずです。
 
■ Cランク  69〜50点
ボーダーラインスレスレの食生活です。
今のライフスタイルでは、やむをえない面もあるかもしれませんが、このままの食生活を続けるのは好ましくありません。
 
「ごはん、味噌汁、漬物」を基本食として意識し、外食でも日に2回はご飯を食べましょう。
それができたら、肉中心の脂っこいおかずを見直し、野菜、魚介類、豆類などにシフトしていくといいでしょう。
 
■ Dランク  49〜30点
根本的に食生活を見直す必要があります。
現在の食生活を続けていけば、生活習慣病へまっしぐらです。
生活習慣病の原因を食生活のみで語ることはできませんが、これまで外食やコンビニ弁当が中心だった人はもちろん、自宅で食事を作っている人も、「手作りがベスト」という気持ちを一度捨て、質のよい市販品を上手に利用することからはじめましょう。
 
スーパーに行けば、パックごはん、冷凍の焼きおにぎり、インスタント味噌汁、焼き魚やおひたしなどのお惣菜、煮豆や佃煮などの常備食がたくさん売られています。
これらを利用をすれば、ご飯と味噌汁だけは作ってみましょう。
そこに市販の常備食をプラスだけでもいいのです。
これができれば、すぐに食生活はCランクに上がります。
 
■ Eランク  29〜0点
失礼ですが、食事にはなっていません。
このような食生活を長く続けてきた人は、すでに、からだに何らかの問題が起きていても不思議ではありません。
 
根本的に食生活を見直すことをおすすめします。
食事をつくることなど考えなくていいので、?Dランクの?のアドバイスを参考にして、とにかく主食のご飯を食べることからはじめましょう。
 
さて、あなたの食生活はいかがでしたか?
ひどい結果だった人も、ガッカリすることはありません。
ちょっとの工夫と努力だけで、かなり今より、よい食生活になるはずです。
そのためのヒントを以下に述べておきます。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001