あんな話 こんな話  108
 
幕内秀夫著  PHP新書
『健康食』のうそ
より その2
 
 
第1章 健康情報にだまされるな  の2
 
 
● 「ごはん、みそ汁、漬物」
が基本の食生活をすすめる理由
 
「何を食べたら健康になりますか?」
そう訊かれるたびに、私はこう言いつづけています。
「ごはん、味噌汁、漬物を基本とした食生活でいいのですよ」。
 
『粗食のすすめ』(東洋経済新聞社、新潮文庫)をはじめとして、ほんに何度も書いているように、かつて日本のどの家庭でも見られた当たり前の食生活をすればいいのです。
 
ごはんからエネルギー源となる糖質(デンプンに含まれています)をとり、みそから血や肉をつくる材料となるたんぱく質を摂取すれば、あとは季節の野菜のぬか漬けでもあれば充分。
野菜をとるのにビタミンCだ、カロチンだと難しく考えることはありません。
 
なかでも食生活の改善で大事なことは、とにかく、ごはんをきちんと食べること。
その理由を説明しましょう。
 
@ ごはんは飽きず年間を通して毎日食べることができる。
 
世界で主食とされているものは、米、小麦、いも、トウモロコシなどがありますが、この中で加工しないで1年を通して毎日食べることができるのは米だけです。
 
パンやパスタは小麦を加工しなければ食べられません。
トウモロコシは水に弱いので、雨が多いところでは育ちにくい。
サツマイモは主食の条件がほとんどそれっているのですが、寒さの厳しいところでは栽培できませんし、甘みが強いので毎日食べると飽きてしまいます。
 
その点、米は広範囲でつくることができ、加工しなくても水で炊けば食べられます。
水にも米にもにおいや味はほとんどなく、ご飯の甘みはサツマイモのようにきつくないので、毎日でも食べられます。
 
A ごはんは消化吸収がゆるやか
 
パンやパスタは小麦を原料とした粉食で、消化吸収が非常に早く、腹もちがよくありません。
消化吸収が早すぎると、インシュリンの消費もすすみます。
 
その点、粒食の米は消化吸収に時間がかかるため、インシュリンの消費ベースがゆるやかです。
世界的に糖尿病が増えている今、米飯のよさを見なおす国が多くなっています。
 
B ご飯を主食にすれば太らない。
 
「ご飯を食べると太る」と思っている人は多いようですが、それは大きな誤解です。
米などに含まれる糖質は優先的にエネルギーとして消費されるので、太る原因にはなりません。
また、ごはんは米にたっぷりの水を含ませて炊き上げたものなので、量のわりにはエネルギーが低く、ダイエットには効果的な食べ物なのです。
 
パンに合うのは、ほとんど油料理です。
パンにバターを塗る人はいても、みそを塗る人はまずいません。
また、パンのおかずとして、ムニエルやバター炒めにすれば飲み込みやすいですが、焼き魚やホウレンソウのおひたしを食べたら喉に詰まってしまいます。
 
パスタは、それ自体にオリーブ油がまぶしてありますし、ソースには大量の油が使われています。
脂肪の多いチーズもつきものです。
蕎麦やうどんも粉食ですが、蕎麦に粉チーズをふりかける人はいないでしょう。
もっとも、今は「サラダうどん」なるものもあるので、いずれ蕎麦にマヨネーズをかけて食べる時代が来るかもしれませんが。
 
それはともかく、パンやパスタは腹もちが悪いため、食後しばらくすると、また何か欲しくなり、ケーキやスナック菓子など甘くて脂肪の多いものを食べてしまいがちです。
その結果、かえって太ってしまうのです。
つまり、パンやパスタをごはんに替えるだけで、不必要な油や砂糖を排除できるわけです。
 
人間には生まれつき、でんぷん欲求というものがあり、でんぷんに含まれる甘みを求めます。
ご飯を主食として、そこから甘みをとるのがいちばん自然なのです。
 
C ごはんには添加物の心配がない。
 
水と米しか使わないごはんは、パンと違って添加物の心配がありません。
皆さんは、日本で市販されているパンが、
油や砂糖、そして添加物だらけであることをご存知でしょうか。
 
一例として、ある食パンの原材料表示を上げると、「小麦粉、糖類、マーガリン、パン酵母、食塩、脱脂粉乳、醗酵種、植物油脂、乳化剤、イーストフード、ビタミンC、原材料の一部に大豆を含む」と書かれています。
 
油と砂糖がたっぷりと入っている日本のパンは、主食というよりは「不健康なお菓子」。
添加物の多さからいっても、安全性はすこぶる怪しいといわざるを得ません。
 
実は今、この原稿を書いている目の前に、2008年12月に購入したパンがあります。
カチカチに固くなって油がにじみ出ていますが、一見、3年近くも皿の上に載せたまま放置しているものとはわかりません。
購入して1年間ほどは、いい香りもしていました。
今ではさすがに変なにおいがしているので、知らない人が間違って口にすることはありませんが、カビも生えておらず、腐りもしていないのです。
 
このパンが置いてあるのは仕事場の台所で、エアコンはなく、すぐそばにはガスコンロがあって毎日お湯も沸かしています。
そんな環境の下にあって3年たっても腐らないパンとは、いったいなんなのでしょう?
 
 
● 米のよさを無にする
「米粉パン」と「ふりかけスナック」
 
ごはんのよさ、米のよさをいろいろ述べてきましたが、それを無にするおかしな食品がもてはやされています。
米粉パンです
 
粒食の米は、消化吸収のゆるやかさか世界で見なおされているのに、その価値をわざわざなくしてつくる米粉パンには、米のよさが何もありません。
 
「お米からつくっただけあって、モチモチしておいしい」と言う人がいますが、市販の米粉パンは、ただの輸入小麦のパンに米粉がわずかに入り、砂糖たっぷりのものがほとんどなのです。
そのどこが「米粉パン」なのかと思います。
 
学校給食に米粉パンを導入している自治体の中には、「子どもたちの食文化への関心を高めるのがねらい」と、本気で考えるところがあります。
米粉でつくったパンが、どこの国の食文化を伝えるというのでしょうか?
ふざけるのもいいかげんにしてほしいものです。
 
何よりも、米粉パンには「健康」がどこにも見当たりません。
どんなパンだろうが。マーガリン、バター、ジャムに、揚げ物、炒め物、マヨネーズやドレッシングたっぷりのサラダという、油だらけの献立になることは何も変わりません。
 
普通のパンと違うのは、値段が高いことだけ。
日本のお米は美味しいので、諸外国の米より価格が高いのです。
ばかばかしくてお話になりません。
 
最近ではついに、ごはんにかける〈ふりサク〉というスナック菓子まで登場しました。
スナック菓子を、ごはんにふりかけて食べるのですよ!
 
回転寿司でフライドポテトが回り、学校給食にアメリカンドッグが平気で出てくるくらいですから、いずれはこうした商品が出てくると思っていました。
冷静に見て、私は「まだ早い」と思っているのですが、メーカーは市場調査をして「売れる」と判断したから開発したのでしょう。
新聞に大きな公告も出たそうです。
 
〈ふりサク〉は、ご飯にかけるせいか、従来のスナック菓子より脂肪は少なく、25%です。
それにしても、自然界の食品で脂肪25%を上回るのは、サーロインステーキとマグロの大トロくらいでしょう。
ウナギの油でも、それより下ですし、サンマやサバなど勝負にもなりません。
 
これが売れて、子供たちが日常的にご飯にふりかけるようになったら、この先の日本人の食生活はたいへんなことになってしまうでしょう。
 
 
● ごはんをめぐる罪つくりな情報
 
以前、テレビのある情報番組で、「1日1食の米飯より、1日3食の米飯のほうが内臓脂肪の蓄積を防ぐのに効果的」といっていました。
こういう情報が流れると、「朝・昼・版、絶対にご飯を食べなければいけない」と思い込んでしまい人がいますが、前の晩に食べ過ぎてしまったときや、日常的に夕食が遅い人は、翌朝、無理してご飯を食べる必要はありません。
 
また、「玄米は白米より優れている」と誰かがいうと、独特のにおいが苦手な人まで我慢して玄米を食べたり、「自分は玄米、子どもは白米」と、ごはんを分けて炊いたりする人が出てきます。
罪つくりな情報の多さに、憤りすら感じます。
 
白米より玄米のほうが食物繊維、ビタミン、ミネラル類が多く含まれているのは事実ですが、白米を避けなけれがいけない病気でもないかぎり、「自分は玄米、子供は白米」のやり方はおすすめできません。
食事は365日、毎日のことなので、無理をしても長続きするはずはありません。
家族みんなで同じものを食べるのが、継続の秘訣です。
 
もちろん、ごはんをうまく飲み込めなくなったおじいちゃん、おばあちゃんのためにお粥を作ったり、子供だけおにぎりにしたりすることはあるでしょう。
でも、健康のためにご飯を分けて炊くことは、それとは意味合いが根本的に違います。
 
「玄米を食べるか、白米を食べるか」は二の次、三の次で、「いかにして、ごはんをもっと食べるか」が今の日本人の課題なのです。
玄米が苦手なら、分搗米でも、胚芽米でも、もちろん白米でもいいのです。
 
 
● 「ごはんを抜いて肉を食べれば糖尿病が治る」
という笑い話
 
ところで、私が提唱する「祖食」は、これまでに「菜食主義だ」「時代に逆行している」「粗食で長生きできない」といった批判を受けたことがあります。
どの批判もピンとはずれで、すでに消えていきました。
 
「貧しかったころの日本の食事が理想だ」と私が言ったことなど一度もありません。
菜食主義にしても一貫して疑問を呈しており、著書の中にあるレシピには、魚も入っています。
批判している人たちは、私の本をよく読んでいないのでしょう。
 
私が尊敬する民俗学者の宮本常一先生は、日本列島を何周も歩き回り、庶民の食事や生活について詳細な記録を書き残しました。
先生の民族調査の旅は、延べ日数にして4000日、自らの足で歩いた距離の合計は、地球を4周したのと同じ16万キロにも及びました。
 
宮本先生の著書には、田舎へ行くと栄養失調で腹の膨れた子供がかなりいたことが記されています。
白いごはんはおなかいっぱい食べられても、たんぱく質が少なすぎだからだと先生は言っています。
白米大食で動物性食品が少なかったことが、感染症をはじめとする多くの病気の原因だったのではないかと私も思います。
 
ではなぜ、私はごはんをすすめるのか?
今の日本人があまりにもご飯を食べなくなったからです。
 
その一方でカタカナ主食(パン、菓子パン、パスタ、ラーメン、ピザ、ハンバーガーなど)が増えています。
それらには、砂糖や油脂類だけではなく食品添加物が使われているものもあります。
あるいは肉、食肉加工品、牛乳製品などの動物性食品が過剰になっています。
 
それらを減らすもっとも簡単で現実的な方法が、ご飯をきちんと食べることだと考えているのです。
「むかしに帰れ」ではなく、あくまでも時代に即した提案をしているつもりです。
 
近年は糖尿病などの増加により、「糖類の多い」穀類やイモ類などは食べずに、肉類や魚介類、野菜などを中心に食べたほうがよいといった説も登場しています。
さまざまな主張がありますが、一まとめにすれば、「低炭水化物〈ローカーボン〉ダイエット」と呼ぶことができます。
 
「ごはんを抜いてステーキを食べよう」などという主張も出てきました。
ステーキならまだいいかもしれません。
極端なものになると、「原始人ダイエット」〈パレオ・ダイエット〉なども紹介されるようになっています。
その実践者の中には、ふだん生肉を主食にしている人もいるということです。
 
それらの主張が拠りどころにしているのは「400万年という人類の長い歴史の中で、農耕の歴史はわずか1万年ほどでしかない。
狩猟・採集によって肉や魚を食べていた歴史は、比べ物にならないくらい長い」と言うこと。
 
たしかに、ここまでは正しい。
でも、そんなことはわざわざ力説しなくてお、みんな中学や高校で習っています。
 
『The Paleo Diet』(パレオ・ダイエット)の著者である進化生物学者ローレン・コーデイン教授は、その本の中で「世界中の食生活が穀物に頼りすぎている。先史時代の食事のメニューからかけ離れてしまったことが、がんや肥満、高コレステロールといった文明病をもたらした」といった主旨のことを述べています。
低炭水化物ダイエットを唱える人たちも、ほとんど同じ主張をくりかえしています。
 
農耕が始まる以前は、肥満も糖尿病も少なかった可能性が高いと思います。
なぜなら、糖尿病にかかるほど長生きした人が少なかったからです。
 
たとえば、日本の縄文時代の平均年齢は10代前半だったと推定されています。
乳幼児の死亡率が極めて高かったためです。
15歳以上の平均死亡年齢は、男性で30歳から34歳、女性は20歳から24歳ぐらいだろうといわれています。
いずれにしても、現在とは比較にならないほど寿命が短かったはずです。
 
それだけ若くして亡くなるのですから、糖尿病もがんも少なかったのは当然。
穀物を食べるようになって糖尿病が増えたのではありません。
長生きするようになって糖尿病が増えてきたのです。
 
じつは、一連の主張は今はじまったことではありません。
かつて「縄文食健康法」なるものが話題になったことがあります。
今、それを実践している人は、はたしているのでしょうか・・・・・・。
ブームというものはそういうものです。
 
粗食批判には、こうした突拍子もない話が多いのですが、最近、笑って見逃せない説が出てきました。
それは「粗食のせいで低栄養の老人が増えている」です。
 
 
● 「粗食で低栄養になる」という暴論
 
以前、新聞に「低栄養の人が増えている」と言う記事が出ていました。
要約すると、次のような内容です。
 
――日本人のエネルギー摂取量は徐々に減り、近年では終戦のレベルにまで下落したとされる状況の中、専門家から、適切な食物摂取ができず栄養状況が悪化する「低栄養」を問題視する声が上がっている。
 
原因としては、加齢による食欲減退、食べ物を飲み込む機能の低下、買い物難民、粗食がからだによいという認識、健康によいといわれる特定の食品を重点的に食べる、といったことも関係しているという。
低栄養の予防には、たくさんの食品群からバランスよくとることが大事だという・・・・・・。
 
「粗食がからだによいという認識」とは、私の主張を指しているのでしょうか?
2010年4月に放映されたNHKの番組『試して合点』でも、同じような説が展開されていました。
 
――戦後間もないころまでは、ごはん、味噌汁、漬物、煮物、魚中心の伝統的な日本食だったが、これでは充分なたんぱく質が摂取できず、結核や肺炎、脳卒中で亡くなる人が多かった。
そのため、国の主導による栄養改善普及運動が始まり、肉や卵を油で調理する方法が紹介され、日本の食卓には洋食が増えていった。
その成果もあり、必要なたんぱく質がとれるようになって栄養バランスがよくなり、結核、肺炎、脳出血の死者は激減、日本は世界一の長寿国になっていった・・・・・・。
 
この番組では、「階段から落ちて骨折し、病院で調べたところ、たんぱく質不足による低栄養がその背景にあることがわかった」と言う一人暮らしの87歳の女性を取り上げ、「肉を週に一度も食べていない」とか、「一人暮らしになってから自分の好きなものしか食べなくなった」とか、「健康のため魚や野菜などをすすめる健康情報もあふれるようになった」〈これも私の私の主張を指しているのでしょうか?〉とか、お年寄りの不安を煽るようなことばかり言っていました。
 
そしてやはり、たくさんの食品群を食べている人のほうが低栄養を予防・改善でき、健康になれるとの説を展開していたのです。
 
これらの説には、いくつもの誤りやほころびがあります。
 
第一に、「食べる品数が多い高齢者は元気」と言う説。
これはすでに述べたように、「品数豊富に食べられるほど元気」なのであって、「多くの種類を食べているから元気」なのではありません。
品数を多く食べるには、家庭環境や経済環境も関係してくるはずです。
 
第二に、「伝統的な日本食を食べていた時代の日本人は短命だった」と言う説。
それまでの日本には、長寿の人がいなかったと言わんばかりです。
 
歴史好きの方ならご存知かと思いますが、徳川家康は将軍になってからも好んで麦飯を食べ、おかずが焼きみそだけのことも珍しくなかったそうです。
天下を完全に平定した大阪夏の陣では、満73歳という高齢にもかかわらず、みずから兵を率いて出陣し、その翌年74歳で亡くなりました。
今から400年近く前のことです。
粗食だった家康は、驚異的な長寿だったといえます。
 
この一事からしても、「伝統的な日本食のせいで短命」なんてウソっぱちだとわかります。
むしろ、若いころから粗食だった人たちが長生きしている例も少なくないのです。
 
第三に、「国の栄養改善普及運動によって洋食を食べる人が増えた結果、日本は世界一の長寿国になった」という説。
これはまったくのデタラメです。
国が洋食をすすめたのは、国民の健康を考えたからではなく、アメリカの圧力があったからです。
 
これについては第3章で詳しく述べますが、国の栄養改善運動によって「栄養バランス信仰」が生まれ、数え切れないほどの「一品健康食」が登場するようになりました。
それが現在に至るまで続き、私たちを混乱させているのです。
 
第四に、「肉を食べないとタンパク質が不足する」かのように言っている点です。
動物性タンパク質は、肉を食べなくても魚からとれます。
新聞で取り上げられた87歳の女性も、肉をほとんど食べなかったからこそ、そこまで長寿だったとの解釈も成り立つのではないでしょうか。
だいたい、肉を食べるか食べないかだけで論じること自体がおかしいのです。
 
 
● それでも「肉を食べろ」といえるのか?
 
近年、日本人の肉の消費量が減っているため、畜産業界と、業界に都合のよいことを言う栄養学者たちは「肉を食べないとタンパク質が不足する」と、さかんに主張しています。
 
肉の消費量が減少している原因は「肉より野菜がヘルシー」と考える人が増えたこと(これはこれで問題なのですが)、BSE(牛海綿状脳症)や鳥理インフルエンザの発生などが上げられますが、いちばん大きな原因は人口の減少と高齢化です。
 
お年寄りが焼き肉屋の常連などという話は聞いたことがありません。
加齢とともに、脂っこいに国は食指が動かなくなるのは、皆さんも経験的にわかると思います。
 
それより何より、お年寄りに肉を進める栄養学者には、次の表を見てからものを言ってほしいと思います。
 
■ 屠蓄検査頭数と処分件数〈平成21年度〉






 
 
検査頭数 90,746 184,102
処分件数 67,812 124,105
内訳

 
屠殺禁止
全部廃棄 34 218
一部廃棄 67,784 123,885
  74.7% 67.5%
 
これは、東京と福祉保健局が公開している資料です。
平成21年度(2009)に東京と芝浦食肉衛生検査所で、病気のために屠殺禁止処分や破棄処分になった家畜の頭数を表しています。
牛は約75%、豚は67%にも及んでいます。
 
なぜ、これほど病気の牛や豚が多いのかというと、まずは飼料の問題があります。
牛の場合で言いますと、本来は草食動物ですから牧草を食べるのですが、おいしくて柔らかい肉にするために、今外国から輸入した、トウモロコシなどを食べさせています。
 
また、飼料の効率をよくするために、牛を運動させません。
牛も人間も、のんべんだらりとしているほうが霜降りになりやすい。
運動して筋張った牛の肉より、霜降りのほうがおいしいので高く売れます。
そうした肉を作るために、牛に運動させないのです。
 
食性に合わない飼料を与えている上に運動をさせないので、どうしても病気になる牛が出ます。
そこで薬を与えます。
なかには、与えてはいけない薬を注射される牛もいます。
体に注射針が残っていたために処分された例もあります。
屠殺禁止処分や廃棄処分になるのは、そうした牛たちです。
 
お年寄り達に向かって「肉を食べなさい」と言う人たちは、こうしたことがわかった上で言っているのでしょうか?
この数字を見て、それでも「肉を食べろ」と言うのでしょうか?
 
『ためしてガッテン』で展開された「肉を食べないとたんぱく質が不足する」との説は、肉が売れなくなっている→日本には高齢者が増えている→高齢者はあまり肉を食べない→健康のためだといって肉を食べさせれば巻き返しが図れる」という業界の意図が見え隠れしているように思えてなりません。
 
高齢者の低栄養を防ぐ援助は、私も必要だとおもいます。
ただし、それは「多品目をバランスよく食べること」や「肉を食べること」ではありません。
きちんとエネルギーを摂取できる環境づくりが大切なのです。
 
高齢者、特に独居老人の場合、体の不調で台所に立てない、経済的な理由から食事の回数を減らしている、新聞も指摘したように、近所に店がなくて買い物ができない、といったケースも考えられます。
 
高齢者の食生活は「何を食べるか」ではなく、「どうやって食べるか」が問題だと私は思っています。
 
 
● みそ汁を飲むと乳がんが防げる?
 
味噌汁は、ごはんとの相性がピッタリです。
大豆(みそ)とだし(煮干しやかつお節)のほかに、野菜やわかめなどの海藻が少し入っていれば、体に必要なものは、かなりとることができます。
 
平成15年(2003)、国立がんセンター(現・独立行政法人国立がん研究センター)が、「みそ汁を1日3杯以上飲む人は、飲まない人よりも閉経後の乳がんにかかる率が下がる」との調査結果を発表して、大きな話題になったことがありました。
 
このとき注目されたのが、みその原料である大豆に含まれているイソフラボンという物質でした。
女性ホルモンのエストロゲンと構造が似ていて、エストロゲンの作用を抑えるはたらきがあるのではないかと言われたのです。
 
これに尾ひれがつき、「みそ汁は乳がんを予防する」「イソフラボンは乳がんを防ぐ」と話が大きくなっていき、イソフラボンは健康食品としても売り出されるようになりました。
 
ところがその後、アメリカから「イソフラボンの過剰摂取は乳がんの発症リスクを高める可能性がある」との指摘が出てきたのです。
話がまったく逆になってしまったわけで、一時は消費者が大混乱に陥りました。
 
結局平成18年(2006)に内閣府の食品安全委員会が、「普通の食事のとり方なら問題はない。
食事以外に健康食品などからイソフラボンを追加摂取する量は、1日30mg程度まで」とする上限値を設定し、騒動は一応治まりました。
 
けれども、両方の情報を耳に入れた人たちの中には、「イソフラボンは乳がん予防になるのか、ならないのか。いったいどっちなの?」と今でも混乱している人がおり、私も病院で患者さんから質問を受けたことがあります。
 
国立がんセンターの発表があったとき、みそ汁だけを乳がん予防の要因ととらえるのに無理があるのではないかと私は考えていました。
むしろ私が注目したのは、「みそ汁を1日3杯以上飲む」という食生活のほうです。
 
みそ汁を朝・昼・晩しっかり飲んでいる人は、間違っても、パンやパスタを主食とする食生活ではない。
ごはんを主食として、みそ汁があり、ほかに何か1、2品おかずがつくような日本の伝統的な食生活をしている人たちだろう・・・・・・。
言い換えれば、「1日に3回箸を持つ人には乳がんが少ない」と言うのと同じです。
 
国立がんセンターの調査そのものは正しいと思いますが、注目すべきは「みそ汁」という単品ではありませんでした。
「みそ汁を1日3杯飲む食生活とは、どういうものか?」と、ちょっと想像力を働かせればよかったのです。
 
そうすれば、主食のご飯を中心とする日本食だと気づいたはずなのに、その部分が抜け落ちたために、「みそ汁さえ飲めばがんにならない」「イソフラボンは乳がんの予防になる」といった誤解を生んでしまいました。
 
じつは、こうした落とし穴は、すべての「一品健康食」に共通することなのです。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001