あんな話 こんな話  112
 
幕内秀夫著  PHP新書
『健康食』のうそ
より その6
 
第2章 危ない「一品健康食ブーム」 の4
 
● 「無糖」表示の飲み物ならいくら飲んでも大丈夫?
 
?答え? いいえ
最近、缶コーヒーをはじめとする飲料に、「甘さひかえめ」や「無糖」と言う表示のものが増えました。
糖分のとりすぎが気になる人は、「これなら安心」と思って飲んでいるかもしれません。
なかには、「カロリーオフ」と勘違いして飲んでいる人もいるようです。
 
実は、「甘さひかえめ」と言う表示は、基準となる数値が法的に決められているわけではなく、各メーカーが感覚的に決めているものです。
 
「無糖」という表示も「砂糖ゼロ」ではありません。
「飲料100mlあたりの糖類が0.5g未満」を意味しています。
カロリーについても、同様に「ゼロ」ではありません。
糖類以外の甘味料が含まれているものもあります。
 
体のことを考えるなら、飲みものは水や番茶、麦茶などカロリーがないものを選びましょう
 
 
● 野菜ジュースや乳酸菌飲料は健康飲料?
 
?答え? どちらともいえない
「野菜不足を補うために」と、野菜ジュースを日常的に飲んでいる人は少なくありません。
「1日分の緑黄色野菜を使用」と容器に記されているジュースを飲んで、「これで今日は野菜を食べなくていい」と思っている人もいるようです。
 
ところが、市販の野菜ジュースの中には、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖など〉が入ったものがあります。異性化糖はトウモロコシからつくられます。
砂糖よりも安いため、お菓子などにもよく使われています。
 
もし、あなたが毎日飲んでいる野菜ジュースを、お子さんが嫌がらずに飲んだとしたら、それはたいてい、砂糖か異性化糖が入ったジュースです。
 
大人は「健康のために」と頭で考えるので、青臭い野菜ジュースでも青汁でも飲みますが、子どもはたいがい飲みません。
でも、砂糖を入れると甘さに惹かれて飲むのです。
 
野菜ジュースに限らず、糖分がたくさん入った飲みものを子供に飲ませると、お腹がいっぱいになって、食事でごはんが食べられなくなるので注意してください。
 
では、糖分が入っていないジュースなら問題はないのでしょうか。
「問題はないが、特に健康にはいいとはいえない」というのが私の答えです。
なぜなら、多くの野菜ジュースは果汁入りで、しかも、その果汁はほとんど濃縮還元果汁だからです。
 
濃縮還元果汁とは、搾った果汁を乾燥させ、粉末にして保存し、あとから再び水に溶いてつくったもので、果物の香りがしないので香料を添加しています。
 
比較的よいといえるのは、還元果汁ではなくストレート果汁(果物を搾っただけのもの)が入っている野菜ジュース。
それさえも入れていない野菜ジュースもあるにはありますが、残念ながら少数です。
市販の野菜ジュースの中で「まともなもの」は、わずかしかないのが実情なのです。
 
野菜ジュースのほかに、腸のことを考えて乳酸菌飲料を飲んでいる人もいますが、これにはたくさんの砂糖が入っています。
 
もともと乳酸菌飲料というのは、その名のとおり酸味が強いもの。
ためしに自分でつくってみるとよくわかります。
ヨーグルトを買ってきて鍋に入れ、温めながらかき回していくと、ドロドロしてきて、〈カルピス〉とまったく同じにおいがします。
嘗めてみると、非常に酸っぱい。
 
それを飲みやすくするために、砂糖をたっぷり入れているのです。
乳酸菌飲料をこぼすと、周りがベタベタになるのはそのためです。
乳酸菌自体はいいものなのに、それをわざわざ最悪の状態にしているようなものです。
 
 
● 「健康にいい水」「病気が治る水」はほんとうにある?
 
?答え? いいえ
一時期、「健康にいい」「病気の予防になる」と謳われた水がブームになったことがありました。
その背景として、水道水への不安が高かったことが上げられます。
昔の水道水は、塩素化動物などで殺菌されていました。
私が東京に出てきたころは、水道水が塩素臭く、味もまずくて辟易したものです。
 
ご飯にしろ、みそ汁にしろ、私たちはありとあらゆる食べ物に水を使います。
いわば、水は「基本食中の基本食」です。
その水がまずくて健康不安もあるというのでは、大きな問題です。
 
そのため、水道水に含まれるトリハロメタンや有機塩素化合物などの有害物質を少しでも取り除きたいと思う人が多くなり、浄水器を取りつける家庭が急増しました。
 
ちなみに、最近の家庭用浄水器は、カートリッジの濾過剤に活性炭と中空糸膜(マイクロフィルター)を組み合わせたものがほとんどです。
活性炭によってトリハロメタンや残留塩素・有機塩素化合物、カルキ臭やカビ臭さなどを取り除き、中空糸膜によって、細菌や赤サビ、金気を取り除く仕組みになっています。
 
さて、家庭用浄水器がヒットし、「水はお金になる」ことがわかると、「健康にいい水」なるものを高い値段で売り出して儲けようとする業者が出てきました。
 
浄水器がマイナス70点の水をマイナス20点にするものだとしたら、「健康にいい水」は、プラスになることを歌ったものです。
(πウォーター)(深層海洋水)(パナジウム天然水〉(アルカリイオン水)など、さまざまな水が出回り、健康効果が喧伝されました。
「抗菌作用がある」とアピールするアヤシイ水や、「これを飲むと病気が治る」とまで唱えるありえない水まで登場する始末でした。
 
その後、各地の水道局が努力した結果、日本の水道水は世界でトップクラスのおいしさになり、安全性も高いものになりました。
いまや、東京の水道水はペットボドルに詰められ、東京都水道局から〈東京水〉の名で売り出されているほどです。
 
水道水がおいしくなって安全性が高まったこともあり、ここ数年、「水で健康になる」といった話はあまり聞きません。
ネットでは販売されているようですが、「この水を飲めば健康になる、病気が治る」など絶対にありません。
だまされないように注意しましょう。
 
人々の不安に乗じて高価な商品を売りつけようとするやり方は、「一品健康法」全体にいえることです。
 
 
● 熱中症の予防にはスポーツドリンク?
 
?答え? いいえ
近年、熱中症で倒れる人が急増し、社会問題二までなっています。
特に平成23年(2001)に夏は、節電対策もあって、人々の関心と不安をかきたてました。
 
メディアでも熱中症対策が盛んに取り上げられ。「スポーツドリンクを飲むといい」とよく言われますが、3度の食事できちんと塩分をとっている人が、熱中症で倒れることはめったにありません。
 
昔から、炭鉱や溶鉱炉などで大量の汗をかきながら働く人たちは、塩の入った容器をそばに置き、塩を舐めながら仕事をしていました。
また、食事のときは塩気の強い味噌汁を飲んでいました。それで熱中症を予防していたのです。
 
スポーツドリンクは、糖分がたっぷり入った清涼飲料水に、若干の塩が入っているだけです。
緊急時の対策としては有効ですが、問題は糖分が多いことです。
 
熱中症予防として日ごろからこんなものばかり飲んでいたら、糖分によってカロリーの取りすぎになり、食事ができなくなってしまいます。
 
いざというときは別として、普段は塩をちょっと舐めて普通の水を飲んでいればいいのです。
 
 
● 砂糖は脳の栄養になる?
 
?答え? いいえ
数年前、「砂糖を科学する会」という団体が、「砂糖は脳のごはんだ」というコマーシャルを流して問題になったことがありました。
脳のエネルギー源は砂糖しかないとの誤解を与えかねないと批判を受けたのです。
 
脳というのは大食漢で、体重に占める重量はわずかなのに、私たちが1日に摂取するエネルギーの約18%をエネルギー源として消費しています。
 
脳がエネルギー源にしているのは、唯一、ブドウ糖だけです。
ブドウ糖は砂糖(ショ糖)にも含まれていますが、砂糖から取らなくても、米や芋などに充分に含まれています。
 
むしろ、砂糖は消化吸収が速すぎるので、消化吸収がゆるやかなごはんや芋などを食べ、でんぷんに含まれているブドウ糖をゆっくり送り込むほうが、脳のためにはいいのです。
食べ方としても、砂糖を舐めるよりも、ご飯を食べるほうがまともなことは言うまでもありません。
 
砂糖を擁護する学者達は、「ごはんより砂糖のほうが速やかに脳にエネルギー源を供給できる」と主張していますが、「速さ」がそんなに大事なら、病院で点滴を受けたほうが効率的という話になってしまいます。
点滴に使われるのはブドウ糖液ですから、それを血液中に入れるのが、いちばん手っ取り早いという理屈です。
 
くりかえしますが、脳のエネルギー源はブドウ糖であって、砂糖ではありません。
砂糖は果糖とブドウ糖がいっしょになったものなので、「脳のごはん」というフレーズの一部は事実ですが、ブドウ糖を含む食べ物ならいくらでもあります。
 
それをあたかも「砂糖だけが脳の絵ねルー源」であるかのようにすり替え、「脳は砂糖を求めている」と言うのは、明らかな詭弁です。
 
砂糖は8世紀に、鑑真和尚が中国からもたらしたといわれています。
もし、砂糖が脳の唯一のエネルギー源なのだとしたら、それ以前の日本人は脳がはたらいていなかったことになります。
笑い話とかいいようがありません。
 
砂糖業界に都合のよいことばかり言う学者たちは、「ストレス解消には砂糖が不可欠」とか「子どもが甘いケーキやジュースを欲しがるのは、からだの自然な欲求だ」などと、呆れたことをいまも言いつづけています。
 
 
● 料理にスプーン1杯の酢をかけて食べると
健康にいい?
 
?答え? いいえ・・・・・・でも
「酢は健康にいい」と信じている人は、昔ほどではないにしろ、いまもかなりいます。
この説は「クエン酸サイクル」(クレブスサイクル)と呼ばれる、人間によって重要なからだの仕組みと関係しています。
 
私たちは、ごはんなどを食べて糖質を体に取り込んでいます。
その糖質が酸化・分解され、エネルギー源として燃焼するまでには、クエン酸が重要な働きをします。
そのため、摂取した糖質が燃焼するまでのプロセスをクエン酸サイクルと呼ぶようになりました。
 
では、クエン酸はどんな食品に多く含まれているのか?
「それは酢」だということになり、「酢は健康にいい」と話が展開していったのです。
 
その後、「酢を飲むとからだがやわらかくなるらしい」と、まことしやかに囁かれるようになりました。
根拠は何もなく、「迷信」としか言いようがありません。
 
さらにその後、リンゴスとハチミツをあわせて飲むと健康にいいとする「バーモント健康法」がブームになりました。「アメリカのバーモント州には健康な人が多い、この地方の人たちはリンゴとハチミツをよく食べている。ゆえに、この2つを一緒に食べれば健康になる」という三段論法です。
「リンゴとハチミツとろ〜りとけてる」でお馴染みのカレーも、このブームから生まれました。
 
こうした経緯があって、「なんとなく、酢は健康によさそうだ」と思われるようになったのですが、クエン酸サイクルと食品の酢は、もともと何の関係もありません。
だからといって、酢は決して悪いものではありません。
 
料理にスプーン1杯の酢をかけて食べるかどうかは、「健康」ではなく「好み」の問題です。
ちなみに私は、何にでもポン酢をかけて食べるほど、酢が大好きです。
 
 
● 「オリーブ油はコレステロールを下げる」ってホント?
 
?答え? いいえ
 
食品は、さまざまな栄養素が含まれた複合栄養素状態になっています。
油の原料にされるナタネ、胡麻、オリーブの実なども同じ。
そこから油だけを搾り取り、油かすを捨てたものが食用油です。
この過程を精製といいます。
 
植物油やラードのような精製油脂は、脂肪100%という自然界にはない成分になっています。
オリーブの実に含まれる脂質は約15%ですが、それを精製することによって、脂肪100%のオリーブ油になるのです。
 
第4章で詳しく述べますが、精製された食品の味は強烈で嗜好性があります。
したがって精製油をたっぷり使った食事は、そのうまさゆえに食べ過ぎてしまう可能性があります。
そして、食べすぎと運動不足が続けば、血中コレステロールが増えていきます。
 
オリーブ油は、「オレインサンが悪玉コレステロールを減らす」とか、「リノール酸が血中コレステロール値を下げる」などといわれていますが、過食と運動不足が続くと、血中コレステロールは確実に増えます。
 
これまでにも、コレステロールを下げる」「脂肪がつきにくい」「ヘルシー」といった触れ込みで、さまざまな食用油が登場し、ブームになりました。
「高脂肪は問題だ」と思う人が増え、みんなが油の取りすぎを気にするようになったためです。
 
メーカーからすれば、こうした能書きをつけた商品ほど、高い値段をつけてもよく売れるので、いい商売になるのです。
 
マヨネーズも、カロリーが「ハーフ」だ「3分の1」だと、いろいろな種類が登場していますが、そのなかでも安いものについては、単に原材料の卵を減らしているだけです。
 
そんなにカロリーが気になるのなら、初めからマヨネーズなど使わなければいいのに、と思うのですが、「電気もガスも使わないサラダはエコな食べ物だ」といった空疎なCMにふりまわされ、多くの人が新しい商品に目を向けます。
 
油に関する話は、よくよく考えていただきたいと思います。
 
 
● 「トクホ」には手を出すな!
 
スーパーの油売り場にいくと、「トクホ」(特定保健用食品)マークがついていないものを探すほうが難しいくらいです。
日本人が、いかに油のとりすぎを気にしているかがわかります。
 
「高脂肪恐怖症」ともいえる状況のなかで起きたのが、平成21年(2009)の「エコナの安全問題」でした。
 
「からだに脂肪がつきにくい」を謳い文句にして人気が高まった食用油(健康エコナクッキングオイル)(以下〈エコナ〉)に、体内で消化されると発がん物質に変わる可能性のある物質が、一般の食用油より高濃度に含まれていたのです。
 
しかも、〈エコナ〉は「トクホ」として国から許可されていました。
 
問題の発覚後、メーカーは販売を自粛してトクホを返上しましたが、「健康」を求めて〈エコナ)を長い間使ってきた人達は、逆の大きな健康不安を抱えることになってしまいました。
これは(エコナ)だけの問題ではなく、トクホそのものの問題です。
 
トクホ制度は、医薬品ほどの効果がない食品に「お腹の調子を整える」とか、「血糖値が気になり始めた方へ」といった用途表示する許可をする制度で、平成3年〈1991〉に導入されました。
当初の所管は厚生労働省でしたが、平成21年〈2009〉に消費者庁の食品表示化という部署に変更されています。
 
トクホが認可されるまでのプロセスは、メーカーから出された商品の有効性や安全性についての「科学的データ」を、国の食品安全委員会と消費者委員会が審議し、問題がなければ消費者庁が許可することになっています。
これまでの累計許可数は950を超えてます。
 
私は以前から、トクホ制度を疑問視しています。
薬でもない食品に「食後の血中中性脂肪の上昇を抑える」とか、「脂肪がつきにくい」などといった表示を許す制度は、どう考えてもおかしい。
本当のそうした効用があるなら、食品ではなく「薬」です。
 
ご存知のように、日本のは新薬の認可に関しては非常に厳しい国です。
ヨーロッパのように比較的簡単に認可されて犠牲者が出るのも困りますが、いつまでたっても新薬が普及しないことは問題視されています。
 
新薬の許可に対してはそれほど厳しいのに、トクホ制度では、薬に比べてはるかに多くの人々が口にする可能性のある食品に対して、「薬事法に引っかかるのではないか?」とも思える用途表示を平気で許可しているのです。
 
メーカーから提出されるという「科学的データ」も、私たちにはなかなか見えず、許可までに至るプロセスもブラックボックスになっています。
 
トクホの市場規模は、約5500億円になるそうです(2009年度、日本健康・栄養食品協会による)。
トクホを除く健康食品全体の市場規模は、約1兆円といわれているので、いかにトクホの市場規模が大きいかがわかります。
大手食品メーカーが黙って見過ごすはずがありません。
 
スーパーの飲料売り場に行ってペットボドル入りのお茶の値段を見てみると、普通のお茶は2リットル198円ほど。
1リットルあたり100円を切っている。
ところが、「トクホマーク」がついているいるものは、その3倍から5倍の値段になっています。
 
「健康」という謳い文句がつくだけで、100円のものが300円にも500円にもなるのですから、大手メーカーが次々と参入して当然です。
テレビで「トクホ、トクホ」と連呼し、「国が許可した安全で優れた商品です」とコマーシャルを流しているのは、すべて大手です。
 
トクホを取得するには莫大な開発研究費がかかるので、資本規模の小さなメーカーでは難しいのです。
この制度は、中小の健康食品メーカーやサプリメント・メーカーをつぶすためのものとしか思えません。
 
これまでトクホを認可してきた厚生労働省の担当者達が、定年退職後、どこに再就職したのか聞いてみたいものです。
現在の所管である消費者庁の担当者も、いずれどこかの大手メーカーに天下りするのでしょうか。
 
現に、〈エコナ〉はトクホを返上しただけでは、本来はすまないはずなのです。
どのような経緯で認可されたのか、そして何も罰則はないのか、はっきりさせるべきです。
 
「ヘルシーは金だけ減るしー、高価なだけで効果成し」
私はこんな標語をつくり、「トクホと表示された食品は買わないようにしましょう」とくりかえしています。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001