あんな話 こんな話  119
 
ドクター帯津良一の
『ときめき養生食』
海竜社刊
より その5
 
 
第5章 体が求めるものこそ滋養のもと
 
 
● 1日3食きちんと食べなくてもよい
 
私たちは大自然の中で生きています。
朝になると太陽が登り、あたりが明るくなり、世の中は活発に動き出し、太陽が沈んで夜になると、あたりには静けさが漂います。
 
朝起きて日中働き、夜に寝るという、自然との調和の上から1日3食が定着していったのではないでしょうか。
だからといって、3食とらなければならないということはありません。
 
私が時々講演に招かれる、長野県・飯綱高原の、ホリスティック・スペース「水輪」の施設では2食です。
朝食は10時ごろで、玄米と野菜料理。
夕食は6時ごろですが、その間、おなかがすいて困るようなことはありません。
2色で十分です。
 
周りの環境と共に私が何よりも楽しみにしているのは、オーナーの塩沢研一さんが作ってくれる夕食です。
自然の恵みと旬のパワーがつまっています。
 
私が「おいしい!」といって食べると、その次の時にはさらに心を込めて作ってくれます。
作ってくれる人の心も、自然治癒力を高める力を持っていると感じるひと時です。
 
これは家庭でもいえることです。
作ってくれる奥さんに「おいしい!」と口に出していい、感謝して食べると、自然治癒力は上がるのです。
 
「水輪」の体験からも、3食きちんと食べなければいけないといういけないということはありません。
生活のリズムは崩さないほうがよいと思いますが、必ず食べなければいけないということではありません。
 
サラリーマンなど勤め人は朝、昼、夕にきっちりとることはできますが、小説家や報道関係の人は夜中に働いたりしますから、食事は夜型になるでしょうし、仕事によっては4食になることもあると思いますが、その人その人の生活リズムに合っていればよく、3食きちんと食べなければいけないといった強迫観念にかられないほうがよいと思います。
 
ただ、食欲不振には注意が必要です。
肝炎の始まりは急に食欲が落ちます。
それから、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、がんのときにも食欲がなくなりますから、食欲不振の場合はチェックしなければなりません。
 
 
 
● 「1日30品目」にこだわるよりバランスよく
 
国立がんセンターがすすめる、がん予防のための食事は1日30品目とされています。
30品目ぐらいあると発がん性があるものが混ざっていても薄まって、がんの発生率を抑えるということからのようですが、考えようによっては、発がん性のあるものが増える可能性もあるわけです。
 
ですから、30品目にこだわる必要はありません。
それよりもバランスよく食べることが大切です。
30品目にこだわるより、日本の伝統的な食生活を基準に組み合わせるのがよいと思います。
 
帯津三敬病院では『粗食のすすめ』の本を書かれた幕内秀夫管理栄養士に食事の指導をしていただいていますが、幕内さんは玄米ご飯に漬けものと味噌汁、それに、旬の野菜のおかずを中心にした伝統的な日本食をすすめています。
 
春夏秋冬と四季のある日本には、春には、たけのこ、ふき、春キャベツ、根みつ葉などがあり、夏には、きゅうりやナス、トマトピーマンなど、秋には、里いも、にんじん、ごぼう、冬には、白菜や大根、ねぎなどがおいしくなります。
 
こんなに野菜の種類が多いのに、日本人の野菜のとり方は、多くないといわれていますから、なるべく野菜中心の食事にしたいものです。
 
緑黄色野菜のにんじん、ほうれん草、ブロッコリー、さやえんどう、かぼちゃなどには、体に禍を招く活性酸素をやっつけてくれる抗酸化栄養素が含まれています。
また、野菜には、食塩のナトリウムを尿の中に追い出すカリウムが含まれています。
 
ほうれん草や小松菜などの葉野菜に含まれるカリウムは、ゆでると溶け出していく恐れがありますからスープ煮にするなど、調理のときに養分を逃さない工夫をします。
 
その点、鍋料理はよい料理法ですね。
大根などの根野菜はカリウムが壊れにくい野菜ですから、冬の食べものとしては大いに活用したいものです。
 
昔から日本には、切り干し大根、干ししいたけ、干しぜんまいなど食材を乾燥して食べるならわしがありますが、これは、漬ける保存より塩分のとりすぎの心配がなく、カリウムと食物繊維が取れて、まさに日本人の食の知恵といえるものです。
白い色の大根は体を冷やしますが、切り干し大根や干した大根のハリハリ漬けは保温効果がありますから、日本の伝統的な食品をなるべく食べるようにしたいものです。
 
 
 
● 根野菜には潜在的な生命力がいっぱい
 
「小さい頃から、根っこのものを食べなさい、とよく言われましたが、本当に体によいのですか」という質問を受けて、私は魯迅のお父さんの、「冬の芦の根」の話を思い出しました。
 
冬の芦の根は「芦根(ろこん)」と呼ばれ、清熱生津(せいねつしょうしん)、つまり余分な熱を取り除き、水気を与える漢方薬です。
とくに肺の余分な熱を除くため、咳、痰、喉の痛みなどの治療に用いられます。
 
肺結核を病んでいた魯迅のお父さんには必要なものだったのだと思われます。
しかし、結核菌に特別に作用するとか、気管支を拡張するといった西洋医学的なメカニズムで効くわけではありません。
ただ”場”のゆがみによって生じるはいの熱とか水分不足を解消するには役立ったのでしょう。
 
なぜ、冬のものでなくてはならなかったのでしょうか。
芦は多年生植物ですから冬期に地上の部分が枯れてしまっても、根はそのまま年を越し、やがて春が来ると、その根から緑の芽が吹きだします。
ということは、冬季の根は潜在的な生命力に富んでいるのかもしれません。
したがって”場“に働く力も強かったのではないでしょうか。
 
魯迅のお父さんも自分の生命場をいとおしみ、冬の芦の根の中に大自然の場を感じ取っていたのだと思います。
 
昔から中国の養生法の中には「補薬物」という考え方があります。
養生のために薬物も利用しますが、この薬物は西洋医学の薬のように、ある成分を純粋な形で抽出したり合成したりしたものではなく、すべて大自然の恵みです。
大地の”気”を豊富に含み、私たちの生命場の秩序性を向上させてくれるものです。
 
このような大自然の恵みで、元気を補ってくれるものに多いのが、朝鮮人参、山いも、西洋にんじん、百合根など、根のものです。
このようなことから、根のものを食べなさいといわれたのではないでしょうか。
 
このほかにも、ごぼうには、セルロースやリグニンなどの炭水化物(食物繊維)が多く含まれ、腸の蠕動を促し、腸内の善玉菌の発育を助け便秘を治します。
 
大根には、でんぷん分解酵素のジアスターゼ、タンパク質分解酵素のステアーゼをはじめ、オキシターゼ、タカラーゼなどの酵素類やビタミンが多く含まれているので健胃作用があり、食中毒や二日酔いに適し、便通をよくし、風邪の時の咳止めや去痰の効果があります。
まさに根菜は大地の気がいっぱいの贈りものなのです。
 
 
 
● 水はとりすぎてもよくない
 
「水はたくさん飲んだほうが体によい、といわれますが本当でしょうか。一方で、あまり飲むのは体を冷やし、むくみをつくるからよくないと書いた本もありました。どちらが正しいのでしょうか」という質問をよく受けます。
 
これは一概には言えないのですね。
体質によって違います。
 
水を飲むと、血のめぐりやリンパ液の循環はよくなりますが、それが、誰にでもよいとはいえないのです。
もともと心臓や腎臓に疾患のある人が水を大量に飲むと負担がかかりすぎてしまいます。
 
冷え性の人が水を多量にとれば、むくみが生じます。
また、親が脳梗塞とか、脳血栓の素因のある人が、いつも水気の少ない生活をしていたとしたら、脳梗塞の発作の発生率は、高くなると思いますから、少し多めに水をとるという努力をすることはよいと思います。
 
一律に考えるのではなく、体の欲求にまかせて、飲みたい時に飲むというほうが、ごく自然だと思います。
喉が渇いたら飲むという程度でよいのです。
 
がんの患者さんで、水をとったほうがよいといわれて、すでに貧血になって、むくみがあるのに、必死で飲んでいる人もいますが、そういう人には、私はちゃんと話してやめさせています。
とりすぎてはいけない人も、当然いるわけです。
 
アメリカで、トイレを我慢して水をどれくらい大量に飲めるか、というコンテストに出場した女性が、帰宅したあと自宅でなくなっていたという話を聞き、何と愚劣なコンテストかと思いました。
 
死因は急性心不全でしょうね。
とにかく、そんなに水を無理やり飲めば、循環血漿量が急に増えて心臓と肺に負荷がかかります。
胃も膨れ上がって急性胃拡張の状態になります。
そしてトイレを我慢することは膀胱が拡張します。
胃にしても膀胱にしても臓器が急に拡張することは、反射的に低血圧を引き起こします。
 
さらに、トイレを我慢すれば腹腔内圧が上昇し、胸腔内圧もそれにつれて上昇します。
ちょうど怒咳(どせき)の状態になるわけです。
心臓と肺に対して、これだけの悪条件が急速に起こるのですから、死に至る危険性が十分にあります。
 
むくみがどこかに出ていれば、それは水のとりすぎです。
しかし、人間には予備力がありますから、むくみまでなかなかいかないのですが、負荷がかかるのが、心臓や腎臓で、生命に非常に関係のある臓器ですから、水のとりすぎはよくありません。
 
 
 
● 塩は「1日10g以下」に縛られなくてもよい
 
塩は、本来人間にとってなくてはならないものであり、体を温め、気力や体力を養う重要な栄養素です。
 
塩分を取りすぎると、高血圧や心筋梗塞、胃がん、腎臓病などを引き起こす恐れがあることから、塩は「1日10グラム以下」といわれていますが、私は、それほど厳密にしなくてもよいと思います。
むしろあまり神経質になってとらないことの害のほうが心配です。
 
先にも記しましたが、塩分はまったくなしで、食べるものはじゃが芋の丸焼きとか、野菜を煮くずれるまで煮込んだものなどが中心の「ゲルソン療法」をやりたい人が私の病院で増えたので、メキシコにあるゲルソン病院の実態を見てみたいと思ったのです。
自分でいけないので、山田幸子看護師長に1週間入院してもらいました。
 
結果は上々、1日目で体調はよくなり、お通じもとてもよいのが出て、健康とはこんなものか、やはり人間は菜食がよいのだと実感したそうです。
 
ところが2日目にひどい頭痛になりました。
病院勤めで知識もありますから、ひょっとしてクモ膜下出血では? と不安に襲われたのですが、これはきっと体が何か変調を起こしているのだと考えつきました。
 
原因はもしかしたら研究所で禁止されている食塩かもしれないと、持って行った塩昆布を食べてみたら、ケロリと治ってしまったというのです。
 
そして、1週間入院して帰ってきての報告は、よくなる人もいるけど、よくならない人もいる、とごく当たり前でした。
この体験でわかったことは、塩分はやっぱり必要ということです。
とくに夏、汗をかいたあとなどは、補給の必要があります。
 
学生時代、下宿の近くにA君という高校時代の友人が結婚して住んでいました。
深夜まで飲んだ時は、下宿は門限があるので、彼の家に泊めてもらったものです。
 
翌朝、奥さんが作ってくれる朝食がこれが実にうまかったのです。
いつも決まって、炊きたての白米のご飯に塩で固めたような塩鮭でしたが、塩が吹いているような塩辛い塩鮭は今でも大好きです。
 
今日は塩辛いものを食べて塩分をとりすぎてしまった! と思ったら、翌日は控える、といった具合にゆとりのある考えでよいと思うのです。
また、塩は精製塩よりは、ミネラルを含んでいる自然塩を用いるようにします。
 
 
 
● 牛乳と肉、必ずしも悪者扱いしなくていい
 
健康食として、特に高齢者にとって議論の的になるものに牛乳と肉があります。
 
私は若い頃は、牛乳が好きでしたので、よく飲みました。
ところが管理栄養士の幕内秀夫さんは牛乳を認めないのです。
どうして牛乳がだめなのかと聞きましたら、「だってあれは牛が飲むものですよ」というのです。
私はそれで急に牛乳を飲まなくなりました。
 
しかし、牛乳を悪者扱いにしなくてもよいと思います。
牛乳200ccには、たんぱく質と脂肪が共に約6gずつ含まれており、ビタミンA、B1、B2、マグネシウム、マンガン、リン、カルシウムなど、ビタミンやミネラルが豊富に含まれている完全栄養食品だからです。
 
栄養があるが故に、肥満、糖尿病、通風などカロリー過剰から起こる病気の人や、肺がん、大腸がん、乳がん、脳血栓、心筋梗塞など、栄養過剰から起こる病気のある人は、飲まないほうがよいのです。
 
牛乳を飲むと下痢をする人がいますが、これは乳汁中の乳糖を消化する酵素ラクターゼが小腸内に不足しているからです。
日本人はこのラクターゼが成人になると消失し、乳糖が消化できなくなり、牛乳を飲むとお腹が張ったり、下痢をする人がいます。
 
また、牛乳のように白い色をした食品は陰の性質を持っているため、冷え性の人が牛乳を飲むと体を冷やし、下痢をすることになりますから、そういう人は飲まないほうがよいでしょう。
 
牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類は、必須アミノ酸を豊富に含む良質の蛋白源で、胃腸の働きを助け、筋肉をつくり、排尿を促し、むくみをとって、体を温め、気持ちを明るくする働きがあります。
 
牛肉には、ビタミンB2や鉄分が多く、豚肉にはビタミンB1、鶏肉にはビタミンAが多く、いずれも体を温める食品です。
日本人の食生活が欧米化するにつれて、肺がんや大腸がん、乳がん、心筋梗塞、通風、糖尿病が増えているため、肉類はあまり食べないほうがよいとされています。
 
私は疲れたときにステーキを食べると元気が出るのです。
昔は、肉には体を温める作用があるため、体力回復の妙薬として食べられていましたから、生きている楽しみのために、時々、ときめいて食べる程度にしたらよいと思います。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001