あんな話 こんな話  121
 
ドクター帯津良一の
『ときめき養生食』
海竜社刊
より その7
 
第7章 夫のキッチン、妻の台所
 
 
● おいしい料理をつくることも
生命場エネルギーを高める
 
最近は男性も厨房に入るべし、という空気があり、男の料理教室も盛んなようです。
大いに男性も厨房に入り、ご夫婦でおいしいものを作ってほしいのです。
「おいしい!」と喜んで食べると自然治癒力が上がり、料理作りが楽しくなり、元気度も倍増するはず。
何よりも料理作りは脳を刺激し、若さを保つに最適です。
 
その上に夫婦が協力して料理を作ると、こういう料理がよいとか、こう味つけしたらおいしいとか夫婦の会話もはずむことでしょう。
 
私も、自分が食べたいものを自分で作ることができたらどんなよいかと思うことがあります。
特に、作ってみたい料理は、幼い頃に食べた、忘れられない味の数々です。
私の場合は、お袋の味ではなく、おばさんの味です。
というのは、私の生家は、川越の目抜き通りでおもちゃ屋を営んでいました。かなり繁盛していたようで、父親も、母親も、朝早くから夜遅くまで店で年中無休で働いていました。
そこセ、子供の面倒を母より10歳くらい年上のおばさんが見てくれていたのです。
 
おばさんは当時としてはハイカラで、食べもののセンスが良く、私の好みは、自然とおばさんの好みそのままになっていきました。
おばさんの作る料理はすべておいしかったのです。
終戦が近づいた頃は、米はなく、ほとんど食べるものは手に入りませんでした。
くる日もくる日もすいとんといも類でしたが、じゃがいもで作ってくれたマッシュポテトは忘れられない味です。
 
戦後、少しずつ手に入るようになると、おばさんはメンチカツ、カレーライス、ハンバーグ、卵丼などを作ってくれました。豚肉のしょうが焼きを調理したあとのフライパンに残った汁で作るチャーハンのなんとうまかったことか。
 
病院で食べる夕食のときに、じゃがいもとにんじんがゴロゴロ入ったカレーや、じゃがいもの薄切りの油炒めなど、「こんなものが食べたい」と注文すると、「ああ、これはおばさんの味ね」と、看破されますが、忘れられない味は誰にでも一つや二つあるものではないでしょうか。
 
夫婦でそんな思い出の味を作って楽しみ、思いがけずお互いのルーツに思いを馳せるのも年輪を重ねた熟年夫婦ならではの人生の味といえましょう。
おいしく食べることは生命場を高めます。
料理を作ることも生命場を豊かにします。
二人で楽しめば、さらに、生命場エネルギーは高まります。
 
 
● 心に残る、とびきりおいしい気品漂う一品
 
東京・丸の内は帝劇の地下街にKという洋食屋さんがありました。
ここのメンチカツがとびきりうまい。
ナイフを入れた時、ジューっと音を立てて肉汁が溢れ出るのです。
 
メンチカツは管理栄養士の幕の内秀夫さん流にいえば “毒”に違いない。
それでも私は好きなのです。
 
メンチカツは2枚と決めています。
ビールあるいはワインを飲みながら、メンチカツを1枚半食べます。
残った半分をご飯の上にのせて、これにウスターソースをかけてご飯にしみ込ませるのです。
ウスターソースは私にとって青春の味なのです。
 
若い頃のこと、友人のTの大学受験発表を見に行きました。
私はすでに大学生だったので、Iは浪人して2回目の挑戦だったのでしょう。
残念ながらこの時も不合格でした。意気消沈するTを誘って有楽町駅前のトンカツ屋に入り、これもまたトンカツ定食にウスターソースです。
これもほろ苦い青春の味です。
 
子供時代、夜行列車に乗るときにおばさんが作ってくれたお弁当はサンドイッチでした。具はポテトサラダでしたが、カラシがピリリと効いていて、本当においしかったのです。
サンドイッチはカラシの効いたポテトサラダが一番と今でも思っています。
 
川越の市役所の前にHというおそば屋さんがあります。
ここではビールのあと『雲海』という焼酎のそば湯わりを飲みます。
肴は冷奴に厚揚げのステーキ。
 
私は湯豆腐が好きですが、冷奴も、厚揚げに醤油をつけて焼いたもの物など、豆腐は大好物です。
 
北京にある四川料理の店の麻婆豆腐は天下一品でした。
やや堅めの正立方体の豆腐の角に気品が漂っているのです!
よほどの手錬が切っているに違いない。
食べるほうだけでなく、作るほうの心も同じように大事なのです。
北京を訪れるたびに何とか時間を取ってこの店に足をはこび、豆腐の角に漂う気品に満足していたのですが、前回行きましたら、料理人が変わったらしく、気品のないマーボ豆腐になっていてガッカリしました。
あの気品のあるマーボ豆腐作りに、ぜひ、挑戦してみたいと思っています。
 
 
● 甘いものはなるべく和菓子にとどめる
 
甘いものは脳の代謝を高めるので必要なものだと思っています。
私は、一日外来にいますと、午前の部が8時半から始まって終わるのが1時半から2時です。けっこう疲れます。
そして昼食に行って、帰ってきてすぐに診察です。
そういう時に甘いものが食後に出ると、力がつくのが感じられるのです。
ですから、必ず甘いものを用意してもらっています。
 
あんこのものが特に大好きなので、大福や温泉まんじゅうはもとより、春は桜餅、初夏は柏餅、夏は水ようかんなどを出してもらいます。
幕内さんは、食欲がなくなり、肥満になるから、甘いものは食べてはいけないと大反対です。
 
幕内さんのアドバイスハこうです。
甘いものを食べたければ、甘栗、乾燥芋、焼き芋ぐらいでごまかす。
それでごまかしきれない人は、干しぶどう、プルーンなどの、ドライフルーツ当たりでごまかす。
それでもごまかしきれない人は、大福、まんじゅう、ようかんなどの和菓子で歯止めをかける。
何とか洋菓子にはもって行きたくない。
 
同じお菓子といっても、洋菓子と和菓子では全然違うというのです。
なぜなら、大福などの和菓子には、防腐剤などの薬もあまり入っていないし、香料や着色料なども入っていない。
問題になるのは砂糖だけです。
ところが、洋菓子の場合は、砂糖だけでなく、油脂類や乳製品はもちろん、人工着色量や香料などの化学物質が使われる場合が大変多い。
だから、意志の弱い人は何とか和菓子でとどめるように、といっています。
 
現在、私は和菓子でとどまっていますから、まあまあと思っています。
本当においしいと思い、これで疲れが取れると思うと、力が沸いてくるのですから、我慢しないでいただいていますが、“ちょいメタ”です。
健康上の心配はまったくありません。
 
太りたくない人は、幕内さんの注意をぜひ心にとどめてください。
和菓子を手作りすれば、防腐剤や添加物の心配がありませんから、寒天で作るみつ豆など簡単なものから始めてみてはいかがでしょう。
 
 
 
● 仲良く楽しい料理作りで
生命場のエネルギーアップ
 
定年後のご夫婦にちょっといい話を聞きました。
T子さんの報告では、ご主人が定年になると朝昼夕の食事の世話に加えて、テレビも自分の好きな番組だけというわけには行かなくなるなど、いろいろな束縛が多くなって嫌だなあとひそかに思っていました。
 
ところが、あにはからんや、仕事一筋で家庭をかえりみなかった夫が、買い物にも一緒に行ってくれて荷物を盛ってくれるし、思いがけないことに料理も作ってくれるようになったのです。
それは手際よくてとてもおいしいの。
「アラ、あたしよりよっぽど上手だわ」
これは、うれしい誤算でした。
 
夫のほうはというと、現役時代は奥さんが子育てをしながら、家事をこなし、自分の世話をしてくれる姿を見て感謝はしていても、自分の仕事のことで精一杯。
手伝うことはもちろん、声をかけてあげることもできなかったから、これからの人生、妻との時間を大切にし、家庭のこともいろいろ手伝っていこうと考えていたそうです。
 
そこで、手始めに料理をしてみたら、これが思いのほかの人気。その上に楽しい。
これからのどんどん作るぞ! と気合が入ったそうです。
それに料理作りは、奥さんと心を通わせる時間が濃密で、とても新鮮。恋愛時代のラブラブに。
その上、おいしい料理が食べられるとあって、生命場のエネルギーは、ますます上がるばかりです。
 
食養生では、食材が新鮮であること、農薬や添加物の心配のないものなど、食材の吟味も重要ですが、何といっても一番大切なのは心です。
夫婦で作る楽しい、おいしい料理、心ときめく食卓は、どのくらい生命場を燃やし、自然治癒力を喚起させるかわかりません。
 
89歳になる中国の老人がいます。
漢方の医者ですが、若者をもしのぐ活力に溢れています。
先生に、健康の秘訣を聞いたところ、「外食をしない。必ず家で食べることにしている」と。
その理由は「その時の自分の好みを忠実に食べられるから」ということでした。
好みのものを食べることは、からだが要求しているものを食べることです。
家庭料理ほど理想的な食事法はないかもしれません。
 
 
 
● 手作り食器が生きる楽しい食事
 
年を重ねるとはどういうことでしょうか。
介護だ、生活習慣病だ、近頃は年金問題、後期高齢者医療制度など、高齢者につきまとう、深刻な話題が絶えませんが、私は高齢化社会を暗いものと考えたことはありません。
 
老境という文字が示しように、老いとは高い境地に違いないからです。
生きていくということは養生を果たしていくということです。
養生は生命を正しく養うこと。この「正しく」が重要なのです。
前にも述べましたが、からだを労るといった守りの姿勢ではなく、生命のエネルギーを高める意志をもつこと。
これが正しい養生なのです。
 
定年になったら自由に使える時間を、自分の楽しみために使いたいと思っていた夫婦がいました。
夫婦が揃って始めたのは陶芸でした。
湯飲みなど簡単なものから始め、焼き魚用の皿や煮物用の鉢、ちょっと豪華な大皿と、今では食器のほとんどが夫婦で作ったものに代わろうとしています。
この器にはどんな料理を盛ろうかと、わくわくしながら料理の献立を考え、夫婦で作った料理を盛り付け、おいしい、楽しいと思って食べれば、内なるエネルギーが湧き上がってきます。
 
さらにこの夫婦は、器の産地をめぐる旅もしています。
佐賀の有田焼、京都の清水焼、岡山の備前焼・・・・・・と・焼き物の知識を得ることはもちろんですが、夫婦揃っての旅行が、とても楽しいと、目を輝かせながらいきいきと語ってくれました。
 
  「明の隠士、洪自誠の著『菜根譚』に、
  日既に暮れて、而も猶烟霞絢爛たり。
  歳将に晩れんとして、而も更に橙橘芳馨たり。
  故に末路晩年には,君子は更に宜しく精神百倍すべし」
  (太陽が沈んでしまっても、それでもなお夕映えは美しく輝いている。
  また、一年がくれようとしているのに、橙やみかんなどのかんきつ類は一段と香ばしい香りを放っている。
  だから、人生の晩年に当たって、君子たるものは更に精神を百倍にも奮い立たせて、立派に生きようとすべきである。)
 
とあります。
高齢社会とは、このように高い生命場のエネルギーを持ちながら、なお、精神百倍して生きる人々が多くなる社会です。
 
陶芸を楽しむ夫婦のように、自分がしたいことを積極的にして、勇気と歓喜に満ちた充実の老境にしたいものです。
老人が元気になれば日本は元気になります。
 
 
 
● 元気の秘訣は、上手な検査の受け方にあり
 
背中がいたいので整形外科を受診したら、内蔵の疾患が原因だったり、めまいがひどいのでないかを受診したら、メニエール病の疑いがあるので耳鼻咽喉科を紹介されたりと、思いがけない病気が発見されることが高齢者にはよくあります。
 
また、血液検査やX線検査で異常が見つからないと「異常なし」と診断されてしまうことがあります。
現代の医学は再分化してより詳しく病体を把握し、治療方法が多様化していくのは進歩ともいえますが、そういう対症療法ではからだ全体が診られなくなっていますから、一年に一度くらいは夫婦で全身の検査を受けられたほうがよいと思います。
よく胸部のレントゲン写真で、心臓の後ろにある肺がんの小さいのを見逃すといいますが、見逃されたのは運が悪いと思うしかないとはいえ、はっきりしたところに出たものは検査を見ればわかります。
一つでも見つかればよいと思って受ければよいのです。
 
胃カメラもある年齢になったら、年に一回くらいは行う必要があるのではないでしょうか。
医カメラを好きな人はいないでしょうが、私も嫌いで避けてきました。
ところが、ある朝、ご飯が使えたのです。
私は、よく旅をしますが、昔から、駅弁を食べるとつかえるのです。
あんじにかかったようにつかえるのです。
それで、駅弁を食べるときには必ずお茶かビールを用意するようになりました。
それがひどくつかえたので、これは調べた法外よいなと思って胃カメラを飲みました。
結果、医はきれいだったので安心しました。
 
現在の胃カメラは大変細くなっていて、鼻から入れられるようになっていますからとても楽になりました。
胃カメラは嫌いだという人にも、バリュウムが苦手だから仕方なく胃カメラ胃カメラをという人にも辛くなくなりました。
 
帯津病院でも糖尿病や、心臓病、高血圧で治療している人で、胃の調子が悪いというので検査して、かなり進行した胃がんが見つかることがあります。
循環器の病気の場合、通常お腹は見ません。
特に患者さんからの訴えがなければ調べることをしませんから、病院に通っている人も、たまには別の箇所の検査も受けたほうがよいと思います。
胃カメラ、胸のレントゲン、お腹の超音波、尿、血液検査、心電図、検便で十分です。
大腸がんは検便でだいたいチェックできます。
検便で血液成分がマイナスなら、まず心配ありません。
プラスの時には内視鏡検査を受けてください。
 

夫も大いに台所に入り料理を作るとよいよい。
夫婦仲良く料理を作ることは、
家庭の場のエネルギーを高める。
おいしい料理は自然治癒力を高め、免疫力を高める。
 
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001