ドクター帯津良一の
『ときめき養生食』
海竜社刊
より その9
 
第9章
 「心の安定」「職の習慣」「気を高める」
ことが自然治癒力を上げる
 
 
● 自然治癒力は免疫力の司令塔
 
病院でレントゲンの撮影をしたとき、「影が見えるけど、今は治っていますから心配ありません」といわれたり、あるいは胃を検査したところ、潰瘍が治った後が見つかったというケースはしばしばあります。
本人に自覚症状がないうちに、肺や胃袋のほうが勝手に患部を修復していたのです。
 
かすり傷を負った時、軽いものならそのまま放っておいてもいつの間にか、血が固まり、かさぶたができ、それが治っています。
年月を経れば、どこに傷を負ったのかわからなくなるくらいきれいになっています。
 
私たちは人間は自ら秩序を作り出すこの力をもっと信じて、自然治癒力に目を向けていきたいものです。
 
では、自然治癒力とは何でしょうか。
実は医学的に、正体がわかっているわけではありません。
しかし、生きものにはその力が存在することを実証によって私たちは知っています。
 
私は、生命体の持つ自然治癒力は、免疫力よりも、もっと奥にあるもので、免疫力の司令塔になっているものではないかと思っています。
 
多田富雄先生(免疫学、東京大学名誉教授)は「免疫は自己組織化するスーパーシステムであり、自然治癒力は「場の力」である」と、いっておられます。
つまり、それは、からだの「生命場」に備わった本能的な能力で、生命エネルギーが低下したときに、これを回復させる力です。
 
私たちの体は単に臓器の集合体ではなく、「場の中の存在である」とは前述しましたが、人間の体の中にはあちこちにすき間があり、そのすき間に生命に直結する何ものかが存在し、これが生命場として機能しているわけです。
だから「自然のままにしておけば、生命維持のために秩序性の高い方に進む性質をもっている」のです。
 
ストレスなどによって「生命場」が乱れたとしても、ストレスを解消すると、まるで起き上がり小法師のように元に戻ってくるという高い秩序性があり、これが自然治癒力の正体であり、この力は人間の生命を維持しようとする力で、ゆがんだ状態を修正しようとする力です。
おそらく、からだの中の臓器を円滑に動かすために、この不思議な力が神経やホルモンに働きかけるとともに、さまざまな病原菌や毒素から身を守るために私たちの体の免疫力を上げるのではないかと思うのです。
 
 
● 自然治癒力を高める、大自然の気場
 
生命に深く関わり、生命の維持に強大な力を持つ自然治癒力は、その正体を求めて、からだの中ばかりに目を向けたくなりますが、実は外界の環境にもあるのではないか、と私は考えています。
例えば「気」のよいところに身を置くと体調が整うのはその理由ではないかと思います。
 
都会では自然に親しむ機会がだんだん減ってきましたが、これは自然治癒力の低下につながります。
自然治癒力を維持し高めるためには、大自然の秩序に近づくことです。
大自然の中に身を置くと、気分が爽やかになり、気持ちよく感じますが、これは、体が大自然の秩序に近づき、自然治癒力が生まれてきた証拠なのです。
 
五木寛さんとの「健康問答」で、この問題について話し合いましたが、五木さんは「百寺巡礼」で日本全国の寺周りをしているときは、過酷なスケジュールのわりに元気だったそうです。
緑豊かな森や気場の高い寺社仏閣にお参りすると、気分がすっきりして体調が整う気がすると話されていました。
 
緑豊かな森や山、湖は、自然治癒力を高めてくれる気場でもあります。
そこに身を置くことによって、私たちの「生命場」に自然治癒力を取り込むのです。
 
私の自然治癒力を高めてくれるところを挙げるとすると、草の緑と空の青の2色の世界のモンゴル高原です。
私が体の中にある空間に気づき、生命場というものに思いを馳せるようになった最初にきっかけが、モンゴル大草原の空間であったことは間違いありません。
 
「私たちの体は臓器と空間からなり、
空間には、生命を生命たら占めている物理量が存在して、
一つの場を形成している。
この場を姓名場と呼ぶとして、生命場の秩序性を限りなく高めていって、
虚空の永遠の場と一体化することこそ、養生の場である。
そして、養生の道は死によって終わるものではなく、
肉体が滅んだあとも生命葉はそのまま残って、
養生の道は続くのである」
 
というような考えが私の中で次第に固まっていく過程で、常にモンゴルの草原がありました。
 
 
● 自然治癒力の働きで胃がんが消えた!
 
75歳の女性に、胃がんが見つかりました。
その人は、ご飯も食べられるし、痛くもないから手術はしなくてよいというので、手術はしないことにしました。
 
その歳で玄米食や気功も無理と思いました。
丸山ワクチンとゲルマニウム療法は自宅でしますということなので、漢方薬を飲んでもらうことにしました。
 
それから時々、胃カメラで胃の具合を診たのですが、半年くらい過ぎた頃には、最初見たときより明らかに悪くなっていましたが、ご本人が、「自分は今、快適に生活をしているから入院したり手術したりするのはイヤです」というので、同じ治療を続けることにしました。
2年目に診たときは、1年目のときよりもわずかに悪化していましたが、3年目に見たときには、2年目の病状とほとんど変化はなく、悪化するのが少し遅くなってきたな、と思っていたところ、4年目に、胃カメラを見たら胃がんが消えていました。
完全になくなっていたのです。
これには、胃カメラを担当した医師がビックリして、「先生、がんがなくなっています」と私のところへ飛んできたのです。
これは見間違いでもなんせもありません。
組織をつまんで、ある大学病院で調べてもらったのですが、その病理学の先生からすぐに電話がかかってきて、「まったくがん細胞がありません、消えています」と、やはり非常に驚いていました。
 
なぜ、彼女のがんは消えたのか。
明確なことはいえませんが、私はこれは自然治癒力の賜物だと思っています。
というのも、漢方薬も丸山ワクチンもゲルマニウムも、自然治癒力を後押しするためのもので、特効薬といえるほどの作用を及ぼすとは思えないからです。
おそらく、がんを治そうとする自然治癒力が、4年間、がんといつも向き合って押し合いへし合い小競り合いをしてきて、それが何らかの理由で急に自然治癒力のほうが勝ち、がんを一気に追い込んだ、ということだと思います。
 
この場合、一番大切なのは、この夫人の”気持ち”の問題です。
漢方が効いたのか、丸山ワクチン、ゲルマニウムがよかったのか、3つの組み合わせがよかったのか、それはわかりません。
また、他の人にこの3つをやっても、必ずよくなるとは限りません。
私はこの人が、”毎日充実して生きていることが何より、それでいいじゃないか”という病気に対するおおらかな考えが自然治癒力を高めたのではないか、と考えています。
これは自然治癒力がうまく働けばすごい力を発揮することもある、という一つの間違いない証拠といってよいと思います。
 
 
● イライラは自然治癒力を低下させる
 
自然治癒力は誰もが持っている生命の力ですから、十分力を発揮するように生活して、健康的に過ごしたいものです。
 
年をとると怒りっぽくなる人がいます。
いつもイライラして文句ばかりいっている人は、自然体の人と比べると免疫力が低下して、潰瘍やがんになりやすいという研究結果があります。
 
「一怒一老」は、1回怒ると1歳年をとるという意味ですから、イライラしない、ストレスはためないように、いつもおおらかな心でいたいものです。
 
イライラしやすい性格の人は、怒らない性格の人と比べると、50歳前に死亡する確率が5倍も高いという調査結果があります。
また長い間、怒りの感情やうらみを持ち続けると、免疫力が低下して病気にかかりやすくなったり、潰瘍やがんを発生させる原因をつくるという研究結果も出ています。
 
一方、がんが消えてなくなるなど、現代医学から見て奇跡と思えることを起こさせるのが自然治癒力で、体に異常が起これば、それを正常な形に戻そうとする「秩序を整える力」であることはすでに述べたとおりです。
 
「イライラ」が自然治癒力を低下させる原因になるのとは反対に、「笑い」や「明るい感情」が自然治癒力を高める、という報告もあります。
 
この自然治癒力が全く働かなくなってしまう現代の病気がエイズです。
日本語では「後天性免疫不全症候群」。
原因はHIVウイルスの感染によって免疫の働きが低下してしまったのです。
 
人間には、もともと免疫が備わっているので、免疫力が正常に働けばはね返すことができたはずですが、外部の菌に対して対抗する力が全くなくなってしまったのです。
発見されたのは1981年と比較的新しい疾患ですが、その蔓延ぶりは目を見張るものがあります。
 
なぜHIVウイルスが急に猛威をふるいだしたのか、不明な点が多いのですが、人類全体のライフスタイルの変化、それによる自然治癒力の低下が関係していることは否定できません。
 
アメリカでは最近、エイズの治療として自然治癒力を高めることが重視され、食事療法をはじめ、八段錦など気功を取り入れ、効果を挙げているようです。
 
 
● 自然治癒力は心がけ次第で高まる
 
自然治癒力を目覚めさせて、胃がんを食い止めた実例を挙げましたが、自然治癒力にはそれだけの実力があるのです。
この自然治癒力は、すべての人が持っていることも述べました。
私の病院でも同じような経過をたどった患者さんはたくさんいます。
他の病院の医師からも多くの報告が寄せられています。
 
白隠禅師は、1700年代の臨済宗の名僧ですが、結核を自然治癒力で見事に治しています。
現代の人は結核と聞いても驚かないかもしれませんが、ストレプトマイシンやカナマイシンが出現する前までは、死にいたる病のナンバーワンで、肺を侵され死んでいく人がたくさんいました。
 
死の病とされた結核にかかっていた白隠禅師は、当時の医学の主流であった漢方薬も鍼も灸も受けつけなかったといいます。
白隠の選んだ道は、他力に頼るのではなく自らの修行のための全国行脚でした。
そして、京都・白川の山中で白幽子という仙人のような生活をしている人とであったのです。
白幽仙人から呼吸法を学び、この呼吸法一つで、ついに結核を治してしまったというのです。
 
白隠禅師は、呼吸法によって結核菌に対する免疫を作ったのですね。
免疫は精神的なことに非常に影響されます。
呼吸法を学び、精神的な強さを身につけ、それが体の中に免疫をつくり、とうとう結核菌を追い出したということになります。
これは自然治癒力以外の何物でもありません。
 
自然治癒力を高めるのに必要な要素を、大きく3つに分類しますと、
 
1、心を安定させる
必ず治るという信念を持って治療に当たることです。
2、食べもの、食べ方
基本的には、大地の気を受けた植物性のものを基本にして、旬に食べます。そして、美味しいと喜びを感じながら食べることも大切です。
3、気を高める
白隠禅師のように呼吸法を身につけ、自分の中に気を高めることが、自然治癒力を挙げていくのです。
 
つまり「心」「食」「気」の3要素が自然治癒力を上げるカギとなるのです。
 
 
● 大自然の摂理に則った生き方が養生の真髄
 
先に、自然治癒力は外界の環境にもあると記しましたが、中国の養生の書物には必ず、「適環境」という言葉が出てきます。
つまり、私たちを取り巻く自然環境にふさわしい生活様式をとることも養生法ですよ、といっているのです。
 
北方の寒冷の地の生活様式は、南の熱帯地方のそれとは当然異なりますし、同じ土地でも季節によって生活様式に変化が生まれます。
 
中国内蒙古ホロンバイル地方の人々が羊肉を好み、強い酒を飲むのは、1年の内に3分の2は雪に覆われるという風土によるものでしょう。
ですから、風土の異なる日本から行った私が、羊肉と強い酒の毎日に辟易するのは当たり前なのです。
しかし、これも数日間という短気の滞在だからであって、1年もホロンバイル草原で暮らしていたら、羊の肉も好きになり、彼らとの酒の付き合いも対等になってしまうのではないでしょうか。
これは慣れというものよりも、まさに「敵環境」なのです。
 
第二次大戦の終戦の年が小学校4年という私の少年時代は物の貧しい時代でしたから、冬の寒さは一入でした。
学校からの帰途、晴れた日は、家の近くのお風呂屋さんの裏の少し窪んだ空き地で、仲間とよく日向ぼっこしたものです。
ただ日溜りの暖かさを楽しんで他愛のない話をするだけですが、少年に日のかけがえのない楽しい思い出です。
仲間との大切なコミュニケーションの場であったような気がします。
 
日が翳り始めると家に帰ります。
夕食までの時間は、唯一の暖房であった火鉢に手をかざしながら宿題をするときもあれば、火鉢の上に跨るように乗って、好きな本を読んだ時もあります。
 
それに比べて、現在は冷暖房完備です。
わずか50年の間に、私たちの生活はずいぶんと快適なものになったものです。
文明という点から見れば、すばらしい進歩といってよいでしょう。
 
しかし、今の私たちの生活は「適環境」というのと少し違うようです。
中国の養生の本には、冬は限りなく暖かく、夏は限りなく涼しく暮らそうと書いてありません。
あくまでも「適環境」です。
環境には自然環境と社会環境がありますが、養生でいう場合は主として自然環境を指しています。
自然環境に適した性生活とはすなわち大自然の摂理に則った生き方ということになりますが、これこそ養生そのものということができます。
 
 
● 薬は病気に効く一方、自然治癒力を破壊する
 
抗がん剤は、がんに画期的な治療効果をもたらしました。
しかし、その使い方には問題があります。
私は抗がん剤を否定するものではありませんが、使うなら目的意識を持って使ってもらいたいと思っています。
他の方法でがん治療を行ってきて、あまり好転しないので一度抗がん剤を使ってみようかというのならわかります。
 
しかし、これまで何種類もの抗がん剤を使っていて、他に何もすることがないから別の種類の抗がん剤を使おうという姿勢は、残された自然治癒力を徹底的にたたいてしまうのでよくありません。
 
ところが、他にやることがないから、何もしないよりいいだろうということで、仕方なく抗がん剤を使うということも、また少なくないのです。
 
このことは副腎皮質ホルモンについてもいえます。
副腎皮質ホルモンは、例えば、リュウマチの痛みに劇的に作用し、一粒飲んだその瞬間にサッと痛みが消えてなくなります。
そこでリュウマチの患者さんは副腎皮質ホルモンに頼りたがり、また医者も患者さんが喜ぶため、すぐに出してあげるわけです。
 
しかし副腎皮質ホルモンは、長く服用していると副作用が現れます。
例えば、胃がんの手術をするときなど、副腎皮質ホルモンを自ら出せないために、麻酔をかけるとショックをおこすこともあります。
副腎皮質ホルモンの場合も、あまり服用しすぎると自然治癒力を破壊してしまうのです。
 
薬はこのように両刃の剣なのです。病気に効く一方、自然治癒力を破壊します。確かに、痛みの激しいときにはこうした薬を飲んで和らげることも大切ですが、一度痛みが和らいできたら薬をやめて、自分が持っている自然治癒力を高めて治していく、そういう積極的な姿勢が必要だと思います。
 
その自然治癒力を高めるためには、大地の気をいただく食事がいちばんです。
栄養補給ということだけでなく、よく噛むことは唾液の分泌を促し、発がん物質の解毒をし、脳を刺激して活動を活発にします。
「美味しい」という歓びを感じることで、心身ともにリフレッシュされ、自然治癒力が高まっていきます。
 
 
● サプリメントで体質の弱点を補う
 
サプリメントは薬ではなく食べ物です。
サプリメント自体は、薬と考えるにはしっかりしたリサーチをしていないので科学的根拠に乏しいわけです。
しかし、サプリメントのよいところは、大自然のスピリット(生命)を人間の体にもたらすことです。
例えば、プロポリスという蜂の巣からとったサプリメントがありますが、あれは蜂のスピリットをもたらしているのです。
 
蜂のスピリットは何かといいますと、花のスピリット。
花のスピリットは大地のスピリットです。
そういうものをもたらしてくれるから、何か一つ二つ、つき合うのがよいだろうと、私はいつもいっているのです。
 
自分の弱点を補うものがよいわけですから、免疫力が落ちているなと思ったら、それを補うサプリメントを飲んだらよいのです。
 
多田富雄先生が脳梗塞で倒れたときに、他人ごとではないと思いました。
私の父親も脳梗塞で倒れているからです。
だからということで、以来、ナットウキナーゼを飲んでいます。
ナットウキナーゼは血流をよくし、動脈硬化の原因になる物質が血管の内側にかすのように溜まってくるのを防ぎますから、もう5〜6年飲んでいます。
 
サプリメントは自分の弱点を補うものですから、弱点を感じない人は飲む必要はありません。
薬になるためには、かなりの基礎的リサーチが必要ですし、統計的処理をして、これは何に効くということが出てこなければ許可されませんが、サプリメントはそういう必要がないのです。
 
例えば、貧血の人が鉄剤がよいといわれて鉄剤を飲むと、胃の調子が悪くなるなど弊害があります。
ところが、サプリメントで同じようなものがある場合は、飲みやすいので、貧血の人はサプリメントのほうがよいのではないかと思い、すすめています。
 
ただし、私が患者さんにサプリメントをすすめるときは、食事を正しくして、それを補うのがサプリメントだからといいます。
サプリメントは「補う」という意味ですから、それだけに頼っていてはだめなのです。
よく若い人でサプリメントだけを飲む人がいますが、それは絶対してはいけません。
 
サプリメントの入手しやすい便利な時代ですから、生命エネルギーの自然治癒力を高めるために、足りないものを補う意味では利用してよいと思います。
 
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001