あんな話 こんな話  124
 
ドクター帯津良一の
『ときめき養生食』
海竜社刊
より その10
 
第10章 養生の道を広げる
ホリスティック医学とホメオパシー
 
 
● 人間全体を見るホリスティック医学
 
医学は日進月歩なのに、がんの治療成績に反映されないのは、人間に何か西洋医学には手の届かない、生命や心など目に見えない領域が、あるのではないかと思うようになりました。
 
医学には西洋医学と東洋医学という2つの大きな流れがあり、西洋医学は現代科学の力を借りて、可能な限りミクロの世界を解明し、人体を臓器の集合体と考え、臓器を物として捉えています。
 
東洋医学は、人体を生命体と考え、臓器そのものを見るより、臓器と臓器の間にある空間、つまり生命場に着目して、それを整えることで病気に立ち向かおうとしています。
その生命場にこそ生命維持の源があると考えますから、臓器にメスを入れることをしないで、根本治療を施すところに大きな特徴があります。
 
どちらも一長一短で、西洋医学は客観性、再現性、普遍性に立脚し、対症療法を得意とし、悪いところを即効的に治療しますが、人間を一つの生命体として捉える視点に欠けています。
 
それに対して東洋医学は、即効性に欠けますが、対症療法ではなく、病根を元から断とうとします。
副作用がなく、治療の仕方に無理がありません。
 
それなら、その両方の長所を合わせた医学ができればいいのではないか、という考えから生まれたのが、「ホリスティック医学」です。
 
ホリスティック(HOLISIC)という言葉は、「全体」を意味するギリシャ語のHOLSを語源としていますが、このHOLISのほかに「精神」や「健康」や「癒し」を意味しています。
したがって、ホリスティック医学は生命体として人間全体を見る医学であり、そこには当然ながら部分としての臓器や癒される対象としての「心」も含まれます。
 
西洋医学は「治す」、東洋医学は「癒す」という違いがあり、「治す」は修理、塀を直したり、電気製品を直したりするのと同じで、詰まった血管にバイパスをつくったり、がんを切り取ったりするのが「治す」です。
「癒す」は臓器と臓器の間にある目に見えないつながりのゆがみを取り除いて、秩序ある状態にすることです。
この両者を融合させたのがホリスティック医学で、西洋医学と東洋医学のよい点を融合させた上に、心を重要テーマとして位置づけているところに大きな特色があると思います。
 
 
● 身体、精神、霊性(生命)
丸ごとの健康を求めて
 
ホリスティック医学で言う健康とは、身体、精神、霊性(生命)すべてを考えなくてはいけないということです。
身体に故障がないだけが健康ではなくて、心の面でも生命の面でも健康でなくてはなりません。
そして人間丸ごとですから、病というステージにとどまらないで、生老病死、さらに死後の世界まで対象が広がります。
 
世界保健機構(WHO)の原案にも「霊的」が提案されました。
今までの健康の定義は、「健康とは、身体的、精神的克、社会的に健康な状態をいうのであって、単なる病気や障害の不在を意味するものではない」でしたが、それに「霊的」が加わり、健康とは、「身体的、精神的、社会的、霊的(スペチュアル)となりました。
 
これが『季刊仏教』という雑誌にはじめて書かれた時には、私は、本当にびっくりしました。
霊的ということは、医療の世界ではものすごく嫌われていましたから。それがWHOの定義の中に入ったのはすごいことだと思ったのです。
 
それが総会に提出されて承認を得ると本当の定義になるのですが、10年経っても総会報告に出ていないのです。
全会一致でないと出さないらしいのです。
反対している国が2〜3あるというのですが、日本もその1つのようです。
要するに、医学は科学、という硬い頭を持っている人は、「霊的」を嫌うわけです。
しかし、医学は科学だといっても科学でわからないことがたくさんあるわけですから、私は「霊的」を入れてもよいと思うのです。
 
「霊的」ということが、「健康」の定義の原案として出されたということを、日本経済新聞と東京新聞が報じてくれ、しかも両紙とも「霊的」を入れたほうがよいと、とても好意的でした。
 
それ以来、日本の医療に中で、霊性とか霊的ということがずいぶんゆるやかに受け入れられるようになりました。
それだけでも画期的な意味があったと思います。
 
「霊性」とは生命ということです。
英語圏の人は「body,maind,spirit」といいますからスピリットはすぐ生命だとわかるわけです。
 
日本人にはちょっとわかりにくいのですが、私は、これを身体、心、生命(霊性) 「body,maind,spirit」と考え、以前からいっている、身体のすき間、空間に「生命場」があって、そこのエネルギーがスピリットなのだというように解釈しています。
 
 
● 病気を治す選択肢は多いほうがよい
 
ホリスティック医学は、身体、心、生命が一体となった人間を丸ごとそっくりそのまま捉える医学です。
20年余にわたってホリスティック医学を求めてきましたが、まだこれを手にしたわけではありません。
 
そこでホリスティック医学については、あくまでも理想の医学として追い求めながら、身体に働きかける西洋医学、心に働きかける心理療法、生命に働きかける代替療法を一人の患者さんに重ね合わせ、何とかホリスティック療法に近づけようとしているのが現状。
 
代替療法には大きく分けて8つのカテゴリー(範疇)があります。
 
@食養生
今まで説明したように、動物性食品よりは、大地に根を張って台地のエネルギーを豊に含んでいる植物性食品を食べる。
地場の食材を使う。
その季節、季節に取れる旬のものを食べる。
加工食品、輸入食品は避ける。
農薬がなるべく使われていないもの、といっても難しいので、よく水洗いする。
魚介類は、養殖でないもの。
調理法は、煮る、焼く、蒸す、和えるなど、日本に古くから伝わり、素材の味を生かす調理法がよい。
現米や菜食主義、サプリメントもこのカテゴリーに入ります。
A エネルギー療法
 気功、スピリチュアル・ヒーリングなど。
B 独自の思想や哲学に基づいて編み出されたもの
 ホメオパシーなど。
C 伝統医学系
 アーユルヴェーダ(インドの医学。生命科学、哲学の概念の含む)、
中国医学など。
D 心身相関療法
 療法が心と体の療法に働きかけ、深いリラックス効果を呼び、症状が軽減されるもの。自律訓練法、名僧、アロマテラピー、音楽療法など
E 薬物療法
 薬草や自然薬、ワクチン(丸山ワクチンなど)。
F 免疫療法
G 人間の手を使って施術する手技療法
 カイロプラティックや頭蓋仙骨矯正法、指圧、鍼灸、マッサージなど。
 
これらの療法について思うことは、エビデンスは不十分ですが、自然治癒力を高め、自分自身の体の生命力で治していくすばらしい力を持っていますから、自分の直観(感)を研ぎ澄まして選び、病気に対して簡単に降伏しないで、希望を持って当たってもらいたいと願っています。
 
 
● やさしい作用で
生命力を回復させるホメオパシー
 
「ホメオパシー」の目標はバイタルホース(生命力)を高めることです。
ホメオパシーは、蔗糖と乳糖が混ざっているごく小さな粒の表側に「れめディー(Remedy)」と称する薬がまぶしてあります。
表側にまぶしてあるレメディーがさまざまで、それらの効能で選びます。
口の中で溶かし、口腔粘膜から吸収させますから、ごく微量でよいわけです。
 
この小さな粒でも大きな力を持つホメオパシーはギリシャ語のhomoeo(同類の)pathyha(病、毒)という意味の造語で「似たものが似たものを治す」医療、すなわち、「健康な人に投与してある症状を引き起こすものは、それと似た症状の病を治すことができる」と言う原理に基づいています。
 
レメディーがその人にぴったり合っていないと効果がありませんから、カウンセリングなどをして、患者さんの話を聞きます。
その物語(Narrative)を元にして全体像を把握していき、同じ像を持つ(レメディーを探していくのですね。
 
患者さんを診るとパッとレメディーはひらめきますが、話を聞きながら、特徴をピックアップして、その一つひとつを『レパートリィ』という症状の辞典で引いてレメディーを選び、その選ばれたレメディーをレメディーの辞典『マテリア・メディカ』で確認していくのです、直観(感)と裏付けが重要です。
 
人間を丸ごと診て得たレメディーで、生命力を回復させ、病を癒していくものですから、最もホリスティックなのがホメオパシーだと思っています。
 
ホメオパシーは1種類を用いるのが原則ですが、がんの患者さんが花粉症のときは、2種類にして、少し時間をずらして飲んでもらいます。
 
心療内科にかかりながら、ホメオパシーも合わせて、という人も多いのです。
こういうケースでは、両方同時ということもありますが、その人その人の状態を見て、今は、まず心療内科を中心にして落ち着いたらホメオパシーにするというように、決めていくこともあります。
 
このホメオパシーは口の中に含めば2分とかからないのですから、心身にやさしい点ではいちばんです。
食事の取れない人とか、本人に意識がなくても家族の思いで飲ませてあげたいという場合もたくさんあります。
こういう場合は、飲む前に普通の水でうがいをするなど、口の中を清潔にすると効果がよくなります。
 
 
● ホメオパシーのレメディーの原料は
300種類を超える
 
レメディーの原料は、植物をはじめ動物、鉱物など自然界のもので3000種くらいありますが、これからもどんどん増える可能性があります。
 
例えばトリカブトなど毒をもったものから、アガリスク、ベラドンナ、カルク・カーボ(炭酸カルシウム)、フェルム(鉄)、グラフィテス(石墨)、ラケシス(蛇)、フィスホラス(燐)、それに、この発見に大きな役割を果たしたキニーネも使われている
風邪の初期には、トリカブトのアコナイトというレメディーが効きます。
 
私の専門は皮膚科でも耳鼻咽喉科でもありませんが、花粉症の時期になると、患者さんがたくさんこられます。
ホメオパシーが花粉症に有効なのです。
 
花粉症には、玉ねぎからとったレメディーを使います。
たまねぎを包丁で切ると涙や鼻水が出てきますね。
花粉症も涙や鼻水が出て、同じ症状になりますから玉ねぎを使ったというわけです。
これは同種の症状に同種のレメディーが効くという原理からきています。
 
玉ねぎを刻んだものを90%くらいのアルコール溶液につけて、一晩老いて漉します。
それが母液(マザーピンク)です。
それを薄めていくのです。
漉したときは物質性がいっぱいありますが、薄めていく過程でだんだん物質性がなくなってきて、玉ねぎのエネルギーだけが残るという考え方です。
 
私は、このホメオパシーをがんの患者さんに用いているのですが、退院してもみなさんやめないのです。
郵便で注文が来るので、書いてある状況を診断して送るようにしています。
 
がんのレメディーはいろいろありますが、がん細胞からとったカルシノジンをよく用います。
 
ただこれだけというのではなく、がんの患者さんにはいろいろな症状が出ますから、それに合わせたレメディーと、抗がん剤の副作用が出ているような場合には、それを和らげるレメディー、その人の体質のレメディーというものもありますから、それらがんに効くレメディーとうまく組み合わせていきます。
皆さん元気が出てきています。
副作用が全くないので安心ですね。
 
 
● ホメオパシーの2つの法則
ホメオパシーは、西洋医学の父、ヒポクラテスの時代からありましたが、それを実現化したのは、ドイツに医師、サミュエル・ハーネマン(1755〜1843)です。
ハーネマンが編み出した頃の西洋医学ではものすごく幼稚なものでした。
瀉血(血を抜く)、浣腸など、なんでもやっていたのです。
瀉血そのものは、現在も肝臓の慢性疾患の治療などで行いますし、実際に血が濃くなりすぎて、時々抜かないと心筋梗塞になる人がいますが、昔は、病気と見れば瀉血をしていたのです。
 
ハーネマンがこの治療法を思いついたのはイギリスの薬物書をドイツ語に翻訳していたとき、その薬物書に、「マラリアの特効薬であるキニーネの効果は収斂作用にある」と書いてああたことからです。
収斂作用のあるものがどうしてマラリアに効くのか? ということに疑問をもって、彼は自分が実験台になってキニーネの原料のキナという木の皮を食べてみたところ、マラリアと同じ症状が置き、熱はそれほど上がりませんでしたが、震えが起きてどうみてもマラリアの症状でした。
 
そこで、実際にマラリアの症状を起こすものがマラリアに効くということに気づいたのです。
これが同種療法なのですが、この原理を見い出したハネーマンはいろいろな物質(薬)を健康な人に食べさせて、そこに起きてくる症状を記載して同じ症状の人に使っていったのです。
ところが、そのまま使うと、例えば、熱が出ている人に発熱剤を使うと、本当に熱が高くなってしまいます。
そこで彼は、これは薄めて使ったほうがよいのではないかということに気がつきました。
薄めて使うと実際に熱が出なくて発熱を抑えることができるのではないかということで、どんどん薄めていきました。
そして、どんどん薄めるほど効くということがわかったので、一つの理論を構築したのです。
それが、「似たものが似たものを治す」と言う法則。
そしてもう1つ、いちばん少なくて有効な量の「最少有効量の法則」です。
その最少というのは、イギリスの標準では30Cといいます。
Cはセンテシマル(Cenntesimaie=100分の1)ですから100倍に薄めることを30回行うわけです。
 
もっと効かせたい時は、200C、1000Cと、どんどん薄めていきます。
薄めれば薄めるほど物質のもっているエネルギーが、病める人の生命力に働きかけて、エネルギーを高めるというわけです。
 
 
● 心身を解放するとき、本当の健康を得る
 
私は現代のホメオパシー界の第一人者であるギリシャのジョージ・ヴィソルカス教授にぜひ会ってみたいという思いがつのり、2005年、ついにエーゲ海に浮かぶ小島、アロニソス島に住む教授を訪ねました。
 
教授の健康についての定義は、
@ 身体性の健康とは、苦痛からの解放(Freedomm frome Painn)である
A 精神性の健康とは、情念からの解放(Freedomm frome Passion)である
B 霊性の健康とは、利己主義からの解放(Freedomm frome Egoism)である
 
健康を3つの側面から捉えており、これはWHOの定義に通じるものです。
まず身体性の健康を維持するのは日々の食事であるとして、教授は島に農場を持っていて、もっぱらここで採れたものだけを食べているといいます。
まさに地の旬のものを食べ、大地の気を思う存分取り入れている、理想的な生活です。
 
次の精神性の健康を維持するためには、ホメオパシーのある日常生活だといいます。
ホメオパシーには心の領域を扱うレメディーが多く、悲しみ、憂い、不安、うつ、怒り、恐れなどを癒すものが山のようにあります。それを日常の中で上手に使っていけば、確かに心の健康を保つのに役立ちます。
 
3つ目の霊性の霊性の健康を維持するためにはどうすればよいのか。
日々自らの霊性を高めていくことだといいます。
常にわが身を省みて利己主義を排していくことが、そのまま霊性を高めることに通じることは容易に想像きることです。
 
日本に戻った私は、英文学者で、詩人の目で『老子』を捉え続けている加島祥造さんを伊那谷に訪ね、ヴィソルカス教授の健康に対する考え方について話すと、加島さんは、「私なら、フロム(fryom)では菜菌(in)にする」と。
そうだ。そのとおりだ。
インにして考えたほうが健康とは何かがより鮮明になると私も思いました。
 
時空を超えて広がる大いなる生命の流れに身をまかせながら、苦痛からただ逃げるのではなく、苦痛は苦痛として受け入れて、その中で心身を解放していく。
もろもろの思いは思いとして、その中で心身を解放していく。
利己主義を排するものとしながらも、とりあえずはその中で心身を解放していく。
これはまさに『老子』の無為自然」と同じです。
一切の計らいを捨て、生命の流れに従って、あるがままに生きることによって心身を虚空に向かって解放するとき、私たちは本当の健康を手にすることになるのではないか、と強く思いました。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001