あんな話 こんな話  125
 
白澤卓二著  PHP新書
『ボケたくなければ、これを食べなさい』
より その1
 
● はじめに
 
平成23年10月に、聖路加国際病院の理事長の日野原重明先生は、元気に100歳の誕生日を迎えられました。
 
100歳以上の人を100寿者」と呼びますが、日本の百寿者の人口は47000人を超えました。
ところが、百寿者の8〜9割は寝たきりの状態で、元気な百寿者は1〜2割程度しかいないのが現状です。
 
皮肉なことにこれからの時代は、100歳の誕生日を迎えることよりも、元気で100歳を迎えることのほうが重要になっています。
 
私は、老年学と、抗加齢医学を専門にしていますが、この10年間は、元気な100歳の人と寝たきりの100歳の人とでは、どこが違うのかという研究に没頭してきました。
 
その結果、「食事」「運動」「生きがい」という3つの要素が「元気に100歳を迎える」ために重要であることを見出しました。
 
また、日本は女性の平均寿命が世界一の長寿国ですが、世界中の長寿研究者がその秘訣として注目しているのが、日本古来の伝統食なのです。
 
欧米には、ヨーグルトやワインなどの発酵食品がありますが、日本にも味噌や納豆などの伝統食があり、古くから醗酵技術が伝承されてきました。
 
しかし、食品の流通システムが近代化されるとともに、日本におけるフードマイレージ(食品の産地から消費地に運ばれてきた距離)は、世界でも群を抜いてトップになってしまいました。
 
つまり、日本人は自国の伝統食からもっとも離れれいる民族なのです。
 
これほど、すばらしい日本食という伝統食文化をもっていながら、なぜ日本人は古来の伝統食を離れ、欧米化してしまったのでしょうか。
 
本書は、日本食がいかにすばらしいか、日本食がどのように長寿へと結びついているのか、発酵食品などに含まれている栄養素が健康長寿にどうつながっているのかに関して科学的根拠を示しています。
 
第4章まででは、特に著者がすすめる伝統食材や健康長寿食を解説。
第5章以降では、健康長寿を達成するための「食べ方のルール」「食と運動」を解説し、伝統食が日々の食生活の中で自然に取り入れられるように工夫しました。
 
本書を読むことで、食事が欧米化してしまった人に、日本人本来の伝統食を見直すきっかけを作ってもらえれば、著者の望むところです。
 
2011年12月
白澤卓二
 
 
序章 「日本の伝統食」が
健康長寿をもたらす  の1
 
● 「食」の改善から健康長寿を目指す
 
私のテーマは、一貫して「健康長寿」です。
そして私はこれまで「100歳」というキーワードで、老化を防止しながら健康で長生きするためにはどうすれがいいのかについて、書籍やメディアでいろいろな指摘をしてきました。
 
健康長寿の実践法については主に「食」「生活習慣」「運動」といった要素がありますが、本書では健康長寿の第一歩となる「食」を中心に、さまざまな手立てを紹介していきたいと思います。
 
その理由は、「食」を改善することによって健康長寿は実現できる、といったことにとどまりません。
次項で述べるように、私たちの現在の生活環境を考えると、「食」が健康長寿の阻害要因になっている状況が数多くあるのです。
 
 
● 世の中には、老化を促進する「食品」があふれている
 
いま、私たちの周りには老化を促進してしまう食品があふれています。
 
たとえば食品添加物、農薬が残留している野菜、血糖値が上がりやすい食品、味つけの濃い弁当・・・・・・。
おいしいと思うものほど、体に悪いという状況があります。
 
つまり私たちは、健康長寿を拒んでしまう食品に手を出してしまいがちな環境におかれているのです。
よって「食」に潜むリスク、これを避けるえる工夫が必要です。
 
老化のリスクを多く含んでいる「食」ですから、何にも増して私たちは食べ物に注意を払わなければなりません。
 
しかし、これを言い換えると、食べることに気をつければ真っ先に老化のリスクから逃れることができるということでもあります。
 
ですから健康長寿の第一歩は、まず「食」。
そのうえ「生活習慣」と「運動」があると考えましょう。
 
● 「食」を軸に考えれば、生活習慣も改善しやすい
 
「食」は体に栄養をもたらすだけではありません。
「食」の重要性は限りなく挙げることができます。
たとえば、現代の社会構造ではストレスから逃れて生活することはできませんが、「食」によってストレスを軽減することはできます。
つまり、ストレスをやわらげてくれる食品や食べ方があるのです。
 
詳しくは後の章で触れますが、「食」を軸に考えれば、生活習慣の改善もしやすくなります。
たとえば、朝・昼・夕の食事を決まった時間にとることを決めれば、不規則な生活スタイルから抜け出すこともできるでしょう。
 
ですから健康長寿を考えるうえで、まずは「食」なのです。
食べ物に対する配慮がなければ、いくらは屋寝早起きしても、運動しても意味がなくなってしまいます。
 
 
● 注目すべきは
「発酵食品」「ネバネバヌルヌル食品」「雑穀類」
 
これまで私は、健康長寿に効く食べ物をさまざまな形で紹介してきましたが、大事なのはその食べ物が体にどういった作用をもたらすのか、といった構造をきちんと理解しておくことです。
つまり、健康長寿によいとされる食品を五月雨(さみだれ)式に食べても意味がなく、それどころか、量をとりすぎるとかえって体に悪影響を及ぼすケースもあります。
 
健康長寿に効果的な食品は数多くありますが、その中でも効果が高いものは何か。
そこで本書は、いまもっとも注目すべき3つの食品の重要性について解説していきます。
 
それは「発酵食品」「ネバネバヌルヌル食品」「雑穀類」です。
 
それが体に良いということは、皆さんもどこかで聞いたことがあるでしょう。
ところが、私たちはこうした食品のどんなところが具体的に体によいのか、どういったメカニズムで体に効くのか、ということについてまでは、ほとんど把握していません。
 
それぞれの食品が持つ構造を知ってこそ、健康長寿にとって意味のある食品選び、料理の仕方、食べ方ができるのです。
 
 
● 「経済偏重の食」が
日本人の病気に変化をもたらした
 
それぞれの商品がもつ力については、個別の章で触れますが、この3つの食品には重要な共通点があります。
それはキムチなどの食品も一部取り上げていますが、基本的にこれらの多くが「日本の伝統食」であるということです。
 
私たちの食生活は、戦後に大きく欧米化し、その後はなるべく食べやすくおいしいといったことを優先して日々変化しています。
 
時代とともに「食品がやわらかくなっている」ということを聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
 
「食」が経済の一要素として扱われる中で忘れられていったのが、それ以前の「日本の伝統食」なのです。
 
こうした経済偏重によりもたらされた食生活の変化が、何をもたらしたのか。
 
それは、成人病、または生活習慣病と呼ばれる、戦前の日本には存在しなかった病気の登場です。
 
すなわち豊富な食べ物によって、病気にかかる人が出てきてしまったのです。
 
戦前は、ほとんど植物アレルギーといった症状はなかったですし、アトピー性皮膚炎もありませんでした。
これは最近の原発事故と同じ構造ですが、私たちの便利さと引き換えに大きな代償を背負ってしまっているのです。
 
少し余談になりますが、自動車事故が絶えなくても自動車は亡くなりませんし、
東京電力の福島第一原子力発電所のような原発事故が起きても、おそらく原子力発電所は世界から完全にはなくならないでしょう。
極端に言えば、人の命が失われる事態がわかっていても、この構造は変わらないのです。
 
いったい、なぜなのでしょうか。
これは世界的に見てもそうですが、あらゆる事象に対して「経済が優先」してしまうからです。
環境に悪いのに決まっているのに、社会は開発の手を緩めません。
 
アメリカは「ハリーケーン・カトリーナ」で多くの人命が失われてはじめて、真剣に環境という問題に言及し始めました。
 
つまり、多くの人が死なないと経済偏重の社会構造に気づかないほど、この問題は根が深いのです。
 
しかし、これも社会構造を変えるまでの要素にはなならず、いつしか社会はハリーケーンなどなかったかのように環境に配慮しなくなり、便利さの享受に傾いていきます。
 
ですから現在、人の体に余りよくなくてもその食品が「おいしい」「食べやすい」といった利点で売れていれば、それが動かしがたい既成事実となってごく当たり前に市場で流通し、私たちの食卓に上がってしまう現実があるのです。
 
 
● 健康長寿には「日本の伝統食である3つの食品を
 
もちろん「食」も、このような経済構造に組み込まれていますから、私たちの健康長寿を実現するのは容易ではありません。
 
ただ原発や車と違って、健康長寿に関しては自分で工夫ができます。
その一番手が「食」なのです。
 
要するに、私たちは工夫次第で、この市場原理に組み込まれない食生活を送ることとが可能だということです。
 
そして、その工夫こそ日本の伝統色である3つの食品なのです。
 
この3つは、戦後に「食」が欧米的な市場原理に組み込まれる前の古くから存在していた食品であり、長く日本人の健康を支え続けたものです。
 
これらは市場動向に左右されることなく、力強く存在し続けました。
 
逆に市場原理の中から生まれてきた食品というのは、先に述べたように便利で食べやすく味が濃いものが多いでしょう。
 
フライドポテトなどのファストフードがその代表ですが、これらは糖分が多くてカロリーが高いだけでなく、血糖値も急激に上昇させやすく、老化に向かって体を暴走させてしまうような食品なのです。
 
本書では白米よりも玄米、パンなら全粒粉が健康長寿に効くと紹介していますが、
 
 
● 欧米の健康食が、日本人の体質に合うとは限らない
 
先述のように、私たちの食卓はすっかり欧米化しています。
ただ注意しておきたいのは、欧米の食品は必ずしも、日本人の体質に合うものばかりではないということです。
 
健康長寿を考えるうえでは、私たち日本人の体にあった食べ物を摂ることが必要だといえます。
たとえば、チーズやヨーグルトも発酵食品ですが、醗酵に含まれる効能をすべて日本人が享受できるのは、じつは日本の伝統色である味噌や納豆からなのです。
 
これらに比べて、チーズやヨーグルトからでは効果的に摂れないのは、何も食品が悪いからではなく、食物アレルギーの問題に見られるように、私たち日本人の体が乳製品に慣れていないからなのです。
 
健康長寿を考えるうえでは、こうした視点も大事にしなければなりません。
いくら世界のどこかで「健康長寿の絶品」が発見されても、それが私たち日本人に効くかどうかはわからないのです。
 
日本人には日本人にあった健康長寿食が必要だということです。
 
 
● 体内の放射物質を「解毒」してくれる食品もある
 
先ほど挙げた「発酵食品」「ネバネバヌルヌル食品」「雑穀類」――この3つの食品は、私たちが知らず知らずのうちに組み込まれている「食」のリスクから身を守ってくれます。
 
健康長寿を考えるうえで、現代人の生活を見るとリスクだらけです。
それは食品だけではなく、最近では原発事故による放射性物質も挙げられます。
また日常的な運動不足、精神的なストレス、どれもエイジング、つまり老化を促進するものばかりでしょう。
 
この中でもっとも気になるのは、放射性物質ではないでしょうか。
2011年3月12日に、福島第一原子力発電所での爆発が報じられてから、私たちのもとには確たる情報がもたらされていません。
 
原子炉が今どういった状況になっているのか、そしてどの程度の線量の放射性物質がどこまで拡散していて、どういったリスクヘッジをすればいいのか。
 
政府や官庁、マスメディアの多くは「安全です」「落ち着いた状況にあります」「放射線量は減り続けています」としかいいません。
まったく困ったものですが、こうした放射能のリスクからも私たちを守ってくれるのが、3つの食品なのです。
 
個別には各章で紹介していきますが、これらの食品の中には「解毒作用」をもっているものがあり、からだの中に入ってきた放射性物質を体の外に排出する効能があるのです。
 
チェルノブイリ原発事故の有名な話があります。
 
事故後、風向きはヨーロッパに向かっていました。
その風を直(じか)に受けていたポーランドでは、政府によってヨウ素のタブレッドが国民に配られたのです。
 
20年ほどたって、国境を挟んだベラルーシュ〈当時ソ連〉側では甲状腺ガンの発症が多数報告されましたが、同じような放射線量を浴びていたはずのポーランドでは甲状腺ガンがほとんど発症しなかった、という報告があります。
 
私は、日本政府は避難勧告よりも、ヨウ素のタブレットを一刻も早く被爆の懸念がある地域の住民に配るのを優先すべきだと思います。
 
なぜなら原発事故が本当に収束しつつあるとは、誰にも言い切れないからです。
ただこうしたタブレットでなくとも、ヨウ素を含んでいる食材はあります。
それが、ワカメや昆布などの海藻類なのです。
 
 
● 食は文化であり「人間が生きることそのもの」
 
言うまでもなく「食べること」は「生きること」です。
日本では流動食、つまり管を使って延命措置が施されることがありますが、ドイツでは自分で食べられなくなった状態になれば、ほとんど延命措置はしないといいます。
 
生きることには、いろんな価値観がありますが、107歳で天寿を全うした成田きんさんは「歩けんようになったら、人間おしまいだ」という言葉を残しています。
 
これは「食べれんようになったら、人間おしまいだ」と言い換えることもできるのではないでしょうか。
 
また「食」は文化でもあります。
「食文化」と言う言葉があるように、「食べる」と言う行為は栄養摂取や健康長寿に役立つだけでなく、大前提として文化であるということです。
 
東日本震災の際、ある劇団の座長が公演を予定通りやるかどうか悩んだとき、「文化を楽しむことができれば復興できる」という言葉に後押しされたといいます。
私たちは、健康はもとより文化によって救われながら生きています。
 
「食」にもこういった側面が当然あるわけです。
「食べる」と言う行為が単なる生命維持ではないことは、「おふくろの味」という言葉からも表せるでしょう。
これは単純な味覚を超えて、人の心へと訴えかけるものです。
 
 
● 「何を食べるか」だけでなく「どう食べるか」も大切
 
本書では「3つの食品」についてまず触れていきますが、食生活全般においては「何を食べるか」と同様に、「どう食べるか」も非常に重要になってきます。
 
この「どう食べるか」についても、大切なポイントはさまざまにあります。
それは調理の仕方、食べ方、食べる量、食べる順番、食べるのにかける時間、食べる時間帯といったことです。
 
これらの「どう食べるか」を総合的に押さえた前提で、「何を食べるか」についての策を講じるといった考え方が健康長寿の基本となります。
 
つまり、いくら健康長寿に良いとされる食物を多くとっても、食べ方によってはまったく意味をなさなくなってしまうのです。
 
これは第5章などで詳しく触れますが、その代表格が、お腹いっぱいになるまで食べることです。
つまり健康長寿食に良い発酵食品や雑穀類でも、満腹になるまで食べてしまえば、かえって体に良くないことになってしまうのです。
 
 
● 「よく噛む」ことが、脳の活性化と健康長寿につながる
 
また食べるという行為は、噛んだり飲み込んだりする「運動」によって行われています。
じつはこの食べるという運動自体が、健康長寿には効果があるのです。
 
その中でも「噛む」ことがなぜ良いのか。
噛むという動作は、頭部のこめかみ当たりの筋肉を使いますから、これにより脳の血流が増え、脳の神経細胞が活性化されるのです。
 
また、たくさん噛むことで消化器系の負担を軽くし、さらに多く噛んでいると満腹感が得られるため、食事の量自体をセーブすることができます。
 
つまり、噛むという動作には、アルツハイマー病や肥満を防止する効果があるわけです。
 
加えて、白米を思い浮かべていただければ分かるとおり、食物を噛めば噛むほど味が出てきておいしく感じます。
そして噛めば噛むほど、脳の活性化も促されるわけです。
 
逆に健康長寿にとって最悪なのは、いままで述べてきたことと正反対である「早食い」です。
噛まずに飲み込むことで消化器系の負担が大きくなりますし、満腹感も刺激されないので、ついつい食べ過ぎてしまいます。
また噛むことによる脳の刺激も得られません。
 
これではせっかくおいしいものを食べても、その美味を見過ごしてしまうような、もったいない食べ方になってしまうのです。
 
 
● 「健康」の情報が氾濫する時代――まずは正しい知識を
 
さて、健康長寿への関心の高まりから、今ではいろいろな情報が世に送り出され、テレビで取り上げられる健康食品もたくさんあり、サプリメント1つとってもは百花繚乱です。
こうした状況で大事なのは「蒸法の性差」です。先ほども述べたように、健康によいと塩田されている食品を五月雨式に食べても意味がありません。
しかも実際には効能がないのに「件子」を関している商品も少なくないでしょう。『健康』について情報が氾濫している状況は、逆に健康長寿へのリスクにもなります。
このリスクをヘッジするには、どうすればいいのでしょうか。
そのためには私たちが健康長寿についての正しいと式をもち、で痔が不確かな情報は鵜呑みにしないことがやはり大切です。
そして、正しい知識をベースにした健康長寿へのイメージがしっかり持てていれば、不確かな情報に惑わされることもありません。たとえば、栄養素の名称の1つを耳にして「これはこんな食品に多く含まれていて、こう調理すると効果的」などと頭に思い浮かべば、もう恐いものなしでしょう。
 
 
● 長生きは「遺伝子」ではなく、
「ライフスタイルで」実現できる
 
「長生き」に関しては、古くから遺伝が大きく影響するといわれてきました。
つまり、長生きしている人の家系は、代々長生きだということです(逆のパターンもあります)。
 
ただ最近の研究結果では、遺伝子が作用するのは25%で、残りの75%はその人自身のライフスタイルによるものだということが分かってきています。
 
しかも長生きに作用する長寿遺伝子は、食事など生活習慣の改善によって活性化できるという報告もありました。
 
つまり健康で長生きを目指すなら、長寿の家系に生まれるよりも、日常の生活習慣の改善のほうが効果的だということです。
 
体の老化とは、とどのつまり体を作っている細胞の老化です。
 
現在は、この細胞の老化のメカニズムが明らかになっていますから、これを防止する手立ても研究されています。
それが本書で紹介するさまざまな実践法というわけです。
 
健康長寿の実践はいつ始めても遅くありません。
「もう何歳だから」といって意味がないということはないのです。
 
その手立てはたくさんありますから、すべてを実践するのは難しいかもしれません。
しかし、一番大切なのは何より基本を押さえることと、自分が無理をせず習慣として続けられるものを選ぶことです。
 
本書で紹介する「発酵食品」「ネバネバヌルヌル食品」「雑穀類」の3つの食品は、その健康長寿の基本となる要素なのです。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001