■ 相馬先生の ナスの話し

 

1.ナスの古里とその名前の由来

1) インド生まれ?のナス娘が奈良時代に訪日

ナスはインド原産の植物と言われていますが、東方、中国には古くから伝わり、その栽培の歴史は千数百年を超えます。

農業とその加工調理に関する世界最大の古典とされる斉民要術(405〜556年)には、ナスの作り方(栽培法)や種の取り方(採種)などが詳しく記載されています。

 

ところで、インドがナスの原産地と最初に言ったのは、スイス人、ド・カンドルです。

彼は1886年に、「栽培植物の起源」と言う本の中で、「ギリシア人やローマ人はナスを知らず、17世紀の始めまで、ヨーロッパの植物学者はナスのことを口に出すこともなかった。

それにひきかえ、インドでは大昔からナスが栽培されていた」と書いています。

これがナスのインド原産地説の始まり、根拠です。

 

チョツト考えますと、古くから栽培しているからと言って、それが原産地であると言うのは、随分いい加減な話ですね。

今では、どの野生植物がその野菜の祖先種であるかを突き止めないと、原産地は決定できないのです。

と言うことで、インド原産地説は?でもあります。

 

一方、ナスはペルシャ人によって、西方、中近東や地中海地方にも早くから伝えられました。

アラビア地方では5世紀に栽培の記録があり、北アフリカのマグレブ地方、例えばアルジェリアでも古くから栽培がなされ、食べられていました。

 

ところが、ヨーロッパでのナス栽培の歴史は浅く、13世紀に入ってようやく作られる様に成りました。

しかも、そのナスは観賞用のもので、長い間、ナスを食べる食習慣はなかったようです。

その後、17世紀に入ってナスが食用になりましたが、主要野菜とはなりませんでした。そのため、今も、あまり作られていません。

 

2) 天平美人(お多福美人)が食べたナス

ナスはインドが原産地で、もともと熱帯性の植物です。

これが中国を経て日本にかなり古い時代に伝えられたようです。

最古の記録としましては、東大寺正倉院文書に、天平勝宝2年(750)6月21日にナスが献上されたとの記録があり、奈良時代に、既にナスを食べていた事が明かに成っています。

なお、正倉院文書では、ナスを奈良比(なすび)と記載しています。

 

時代が下がって、平安時代の倭名類聚鈔(源順、923〜930年)でも、ナスを「奈須比」と記しています。

また、同時代の宮廷における規則や習慣を事細かく記した延喜式(藤原忠平、928年)には、宮廷の内膳司(料理を作る役所)の畑でナスやキュウリ、マクワウリ、ネギが作られており、その作り方(栽培法)ばかりでなく、漬物の作り方など加工についても、詳しく述べています。

この頃までに、ナスやキュウリは広く普及し、既に、日本の重要な野菜になっていました。

その後、宮中の女房言葉であった「ナス」が一般的な名前になりました。

 

室町時代に入りますと、京都周辺の山城(京都府南部:京都市周辺)や大和(奈良)で、ダイコン、マクワウリ、キュウリなどと一緒に、ナスが特産品として作られていました。

それが江戸時代になると、静岡県の三保あたりで促成栽培が始まり、初なりの茄子は賄賂に使われるぐらい高価で、人気のあった野菜でした。

賄賂にナスなんてチョツト信じられませんね。

江戸時代も後期になりますと、野菜の中ではもっとも需要が多かったと言われています。

 

江戸時代の農業全書(宮崎安貞 1697年)にも、ナスの苗の育て方(育苗法)や作り方が詳しく書かれ、当時のナスの種類として、色では紫、白、青の三種があり、形では丸いもの、長いものがあると、書き残されています。

 

日本(和名)では、「ナス」または「ナスビ」と呼ばれ、中国では「茄」、「茄子」と書きます。

なお、英語ではEgg-plants、すなわち「卵の木」と呼ばれています。

そう言われてみると、丸ナス(果実)の形は卵に似ていますね。

 

このナス、よほど日本人の嗜好に合ったのでしょう。

熱帯性の植物であったにもかかわらず、栽培の改良を重ねた結果、北限の記録を書き変え続けて来ました。

こうして日本全国に広まり、今では極早生品種ながら北海道でも作られています。

 

 

2.ナスの生態とその特性

1) ナスが木になること、知ってます

ナスは植物学上の分類では、被子植物門・双子葉植物綱・合弁花亜綱・管状花目・ナス科ナス属に属する潅木性多年草とされています。

そうなんですよ。日本では一年草ですが、熱帯地方では木になるのです。

ところで、まるで落語の「ジュゲムジュゲム」の様に、長ったらしい分類上の言い方、門・綱・亜綱・目・科・属は、何を意味しているのでしょう。

まず、門は植物を分ける際の最も大きな単位で、次いで、綱・亜綱とグループが小さくなり、目・科・属と範囲が狭まります。

 

各々の項目の意味は、第一の被子植物とは種子(胚珠)が子房と言う組織に包まれている植物を指し、逆に、マツやソテツの様に胚珠がむき出しの物を裸子植物と言っています。

次の双子葉とは、最初に出る葉、これを子葉と呼びますが、それが二枚あるものを言い、稲やトウモロコシの様に一枚なら単子葉植物と呼びます。

また、合弁花とは一つの花の花弁(花片)が全部(アサガオ)または一部(ナス・ツツジ)がつながっている花を指します。

そして、管状花とは花の形態が管状であることを意味します。

 

「夕づきて 夜のなかなかに 茄子の花 石塚友二」と詠われた、紫の可憐な花を、ナスは夏から秋にかけて咲かせます。

そのナスの仲間には、皆さんよくご存じの、トマト、トウガラシ、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、クコなどがあります。

トマトやジャガイモの花も花片が一部つながり、花の形が管状、と言うよりはラッパ状をしています。

ちなみに、ラッパは管楽器の一種です。

ところで、数年前にポマトと言うジャガイモとトマトの子供が実験室で出来たことがありますが、同じナス科植物だからこそ出来たことです。

 

2) ナスの仲間とその利用法

ダイコン以上長いヘビナス、メロン並みの大ナス、水の滴る水茄子

日本のナスは、栽培の歴史が古いだけに、各地に地方色豊かな品種が残っています。

外国のナスと比べますと、色は紫、果肉は白と言う点は共通ですが、形の変化は実に様々です。

加茂ナスの様に大きなものから、東北地方の小なす、またダイコン以上に細長い長ナス(ヘビナス)もあります。

これらは用途に合わせて、色々品種改良がなされ、各地に様々の品種が残っています。

それらは、形で卵ナス、丸ナス、中長ナス、長ナスなどに大別され、用途別に漬けナス、煮ナス、焼きナス、兼用種などに分けられます。

 

現代におけるナスの一般的な分類は次の通りです。

(1)千成ナス:

小型で卵形のナス、一番多く栽培されています。

真黒、千成、へた紫などが代表選手で、卵形ナスとも言います。

(2)長ナス:

中〜大型の長い形のナスで、例えば佐土原。

(3)ヘビナス:

非常に細長い、まさに蛇の様に長いナスです。

明治以降に中国から導入されました。

通称、シナ三尺と呼ばれる品種が代表品種です。

(4)丸ナス:

大型のはちきれんばかりの球形、偏円形のナスです。

古くから関西で栽培されています。

巾着、山科、芹川などがこのグループに含まれます。

(5)玉子ナス:

別名白ナス、銀ナス、金ナスなどとも呼ばれます。

色に特色のある小型・卵形のナスで、現在、日本では殆ど作られていません。

(6)アメリカ大ナス:

大型の偏円形、長形のナス、アメリカから導入され、最近、ぶらっく・ビューティなる名前でスーパーの店頭を飾っています。

ヘタが緑色をしているのが、一つの特徴で、そこが日本の丸ナスと違います。

(7)青ナス:

明治の初期に中国から導入された果実もへたも葉も紫色に欠ける青いナスです。

奈良漬の材料に使われています。

 

その他、

(8)珍しいナスとしては、民田ナス、出羽小ナスの様な漬物用の一口ナスがあります。

また、大阪の特産であった、と言った方がよくなりましたが、水茄子(みずなす)も珍しいナスと言えるでしょう。

肉質がきわめて多汁質で、果実を切断して軽く握ると、まるでレモンのように果汁が滴り落ちます。

これは生でも食べれますので、サラダ感覚で利用するのも面白いと思います。

これは従来、皮も柔らかく、果肉は緻密ですので、漬物用に最適とされていました。

 

(1) 千成ナス 卵形ナス

最も多く出回っているナスの主流品種です。

関東を中心に、東日本での消費量が多いです。

一年中出荷されていますが、露地物は7月から10月にかけてが旬です。

ポコンと膨らんだものは種が硬く美味しくないので、スンナリした形の物を選ぶことです。

 

(2) 小ナス

一口なす、茶せんなすとも呼ばれています。

東北地方・鶴岡の民田ナスが有名ですが、一般市場では埼玉や高知産のものが主力です。

芥子しみそ漬けにすると大変美味しいです。

 

(3) 長ナス

長さ17センチ程度まで伸びる品種で、西日本で人気が高いです。

寒冷地でとれたものは肉質が締まり、関西、四国など暖かい地方でとれたものは肉質が柔らかい傾向にあります。煮物に向きます。

 

(4) 丸ナス

京都の加茂ナスが代表種で、果肉が大変柔らかく、田楽や煮物に好まれています。

米ナスよりも全体に丸っこく、お多福を思わせる下ぶくれの形をしているのが特徴です。

 

(5) 米ナス

アメリカ種のブラックビューティを日本で改良した品種です。

大きいわりに種が少なく、炒めても焼いても美味しいです。

形に凹凸のあるものはす入りの可能性あり、避けましょう。

 

(6) 水ナス

珍しいナスの一つです。

新潟県刈羽市で露地栽培している八石茄子は、巾着く茄子の一種で、品種名は黒十全と言います。

手で搾ると水が出るほど果汁が多く、水ナスの系統に属します。

皮が柔らかく、煮物には不向きですが、浅漬や一夜漬けには最適です。

強めの火力で油炒めをしても、美味しく食べられます。

 

なお、巾着茄子は、外形的な特徴から呼ばれる通称で、縦長のものを縦巾着く、横広のものを横巾着と呼んで、便宜上区別しています。

八石茄子は、同巾着茄子の仲間ですが、外形的には中間型で、茄子独特の錆っぽさがなく、生でかじっると、林檎か梨でも食べているような爽やかな味がし、また、皮が薄く、かみ心地が良く、サクッとした歯ごたえがあります。

 

(7) 幻の在来品種“魚沼巾着”

明治の終わりごろ、栗田忠七という人が、在来の巾着茄子と四国から取り寄せた丸茄子とを交配して作り出した品種で、大正2年に品種登録がなされています。

丸茄子の形質が残っていて、縦じわも比較的浅いです。

肉質がよく締まっていて、煮崩れしないのが大きな特徴です。

味噌漬け用に新潟県の南魚沼郡で作り続けられています。

多くの在来ナスが消えて行っている中で、ぜひ、ガンバッて欲しいものです。

 

世界的に見ますと、ナスは元々インド原産の野菜ですので、東洋の国々では古くから作られており、各国で重要な野菜となっています。

暑さにも強いので、インドばかりでなく、タイやインドネシアなどの熱帯地方でも広く栽培されています。

ですから、タイなどの東南アジアの市場で、紫、緑、青、白、赤、黄色とビックリする程、色とりどりのナスが竹ザルに山盛りされ、売られています。

また、中国や台湾には、日本であまり見られないヘビナスがあります。

50〜60センチもの長いナスに観光客が驚かされます。

 

一方、アメリカではブラック・ビューティの様な特大のアメリカ大ナスが作られ、ヨーロッパでは千成りナスや観賞用ナスの流れを汲むタマゴナス等が栽培の主体と成っています。

しかし、欧米での栽培面積は少なく、ナスをあまり食べていません。

「秋ナスは嫁に食わすな」と言った表現は、きっとないのでしょう。 

 

 

4.ナスの旬と賢い選び方、保存法

1) ナスの旬は夏

今ではナスも一年中手に入れることができますが、秋冬は施設もの、夏秋は露地もので占められています。

美味しいナスの旬は、成り物の季節の夏・6〜9月です。

この時期のものは味がよい上に、値段も安いのです。

焼いて、煮て、炒めて、漬けて食べて下さい。

また、諺に有名な“秋なす”は、肉質が緻密で、特に美味しように思います。

嫁に食わすなという表現方法にも納得です。

ただ、この諺の解釈は後ほど述べるとします。

 

ナスは、表面に傷がなく、美しいなす紺色で、つやつやと輝いているものを選ぶことです。

また、身に弾力があり、ヘタの切り口が新しく、トゲに触るとチクチク痛いくらいのものが新鮮なナスと言う証拠です。

艶がなく茶色のものは鮮度が落ち、味も低下しています。

 

なお、茄子を保存する場合は、水分が蒸発しやすく、すぐしなびるのでラップで包んで、10〜13度程度の温度で保存します。

5℃以下だと、かえって品質が悪くなります。

冷蔵庫に入れない方がいい野菜です。

 

2) ナスの風邪ひき 冷蔵庫はナスの墓場です

ナスやバナナが、風邪をひくことを知らない奥さん達が結構いるものです。

ナスは低温にふれると、まず、肌の色つやをなくし、さらに冷蔵庫などで2日も3日も貯蔵しておくと、ピッチングという茶色の窪みが出来、そこから腐って行きます。

こうなる前に、実はタネのまわりが褐変し、硬くなりはじめています。

これを、ナスの風邪ひき、低温障害と言います。

ナスは冷蔵庫に入るのでなく、ラップで包装されたものを、日陰のダンボール箱に入れておくほうが、日持ちが良いものです。

お婆ちゃんの様に、シワシワになっても腐りはしません。

 

同じようなことが、バナナについても言えます。

冷蔵庫にバナナを入れておくと、2日もたたない内に、皮が黒褐色になり、中が溶け始じめます。

バナナも日影のダンボールで保管したいものですね。

 

もっとも昔、運動会か遠足の日にしか、バナナと巡り会わなかった時代には、バナナを2日も3日も置いて置くなんて、考えもしませんでしたが・・

 

ちなみに、普通の冷蔵庫の野菜ボックスは、温度が6℃から10℃で、湿度が50%程度の状態にあります。

バナナは12℃〜14.5℃の温度で風邪を引きますので、野菜ボックスに入れると、間違いなく風邪を引いてしまうのです。

ナスやピーマンはバナナよりは寒さに強いのですが、8℃を切ると風邪を引き、先に述べたピッチングや種子の褐変が生じます。

所で、野菜ボックスの湿度を90〜95%に高めると、ナスもピーマンも実は風邪を引き難くなり、貯蔵可能期間が長くなります。

 

 

5.ナスの栄養価と機能性

1) ナスはダイエット食にして発ガン抑制剤

ナスは、煮てよし、焼いてよし、炒めても、油で揚げてもよし、その上、漬物にしても美味しい、実に使い勝手のある野菜です。

そのため、古くから日本人の食生活に欠かせないものになっていました。

しかし栄養的には、他の野菜に比べ取り立てて豊富なビタミン類、ミネラルも無く、炭水化物、脂肪、タンパク質の三大栄養素のいずれの含有量も少なく、そのため低カロリーで、ゴボウと違った意味でのダイエット食品と言えます。

 

でも、栄養的には役立たない野菜と言うわけでもありません。

それは、ナスが脂肪分を吸収しやすいということです。

植物油を摂取するのにもってこいの野菜です。

それに油とナスは味覚的にも相性がよく、とても美味しく食べられます。

これも大切なメリットです。

なお、切り口が変色するのは酵素のせいです。

 

最近、ナスが見直されています。

ビタミン類に富むわけでもないナス自体に発ガン抑制効果が認めらるからです。

また、漢方では、のぼせや高血圧に効くとされています。

体を冷やす作用があるので、鎮静、消炎に有効で、酒の肴すると悪酔いの防止になるとも言います。

 

2) なぜ、秋ナスを嫁に食わせないのか

ナスにはコリンと言う機能性成分が含まれています。

人の副腎皮質、肝臓などに存在する、無色の強アルカリ性物質で、血圧降下、胃液分泌促進などの機能を持っています。

また、コリンは肝臓の働きを良くし、強壮、興奮作用があるとも言われています。

卵黄やレバーに多く含まれていますが、ナスにもそう多くはありませんが、含まれています。

 

夏に衰えた食欲、肝臓機能を高めるのに、適量のコリンの摂取は有効です。

だから昔の人は、夏から秋にかけて、ナスをよく食べ、夏バテを防止したのです。

しかし、秋のナスビは果肉の締りがよく、肉厚になって、種子も少なくなって、実に美味しくなります。

そのため、ついつい食べ過ぎまして、興奮します。

若い嫁に食べさせますと、興奮して、秋の夜長を・・・で、「秋なすを嫁に食わすな」と、姑が言ったのです。

 

もつとも、ナスは体を冷やす作用がありますので、嫁(妊婦)に食べさせなかったとの姑善人説の話もありますが、今の時代ならば、姑が下手に「食べるな」なぞと言おうものならば、嫁から追い出されかねませんね。

なお、冷え性の人は食べるなとは言いませんが、とりすぎない方がよいでしょう。

 

 

6 ナスの料理

1)ナスの形を見て、料理を

 焼きナスは長ナス、煮物は鴨ナス、中型の丸ナス

ナスは、調理の面から見ると油と合うだけでなく、肉類との相性もピッタリです。

調理法も煮て、焼いて、炒めて、揚げてと色々。

また、糠漬け、塩漬けにしても爽やかな味わいが楽しめます。

ナスのもつ淡泊な味わいが、どんな調理法にも実に良く合って、一層美味しさを増すように思います。

 

現在、日本では千成りナスと長ナスが主として栽培されており、丸ナスも古くから作られていますが、最近は、どちらかと言えば、長ナスの中でも中長形の品種(千両)が全国的に広がっています。

 

一般的に、長ナス、丸ナスは果皮が柔らかく、卵ナスはやや堅めで、色つやの良いのが特徴と考えられています。

そこで焼きナスは果肉の柔らかい長ナス、大型の丸ナス、卵ナスを使い、しぎ焼き、煮物には、肉質が緻密で、煮崩れにくい鴨ナスの様な中型の丸ナスが向いています。

 

一方、漬物用としては、さきに述べた小ナス、水茄以外にも、卵形の千成りナスが塩漬け、芥子漬け、糠漬けなどに利用されていますし、長ナスの漬物も珍しくはなくなりました。

 

なお、最近、アメリカ大ナスが導入・栽培され、スパーの店頭で、その大きさにビックリさせられる事があります。

少し、大味ですが、バター焼きなどで食べると、それなりに美味しいですし、インド人のように、カレーに使ったり、油で揚げて食べるのも面白いでしょう。

 

鴨ナスに似た丸ナスの一種、米ナス(べいなす)は、果皮がやや厚く、緻密な果肉をしているので、煮崩れし難いのですが、大味であっさりしています。

そのため、煮物、焼物よりも、洋風の炒め物や揚げ物、グラタンなどに利用されています。

 

青なすは従来、奈良漬など加工用に利用されてきましたが、北海道の本別町ではこの珍しい青ナスを栽培し、いろんな料理(レシピ)開発に挑戦中です。

何にせよ、ナスの味は他の野菜・農産物に比べても、どちらかと言うと、味は淡泊、大味ですが、そのスポンジ状の果肉が和、洋、中華の味を吸収し、美味しさを生み出すので、日本人に愛されている言えます。

 

ナスの食べ方も日本とタイやインドでは違い、カレーのような煮込み料理に使うのが主流です。

ナス自身がそれほど美味しくないようです。

ですから、直径1センチほどのナスも利用している。

また、トルコやヨーロッパではナスは肉と一緒に煮たり、油で炒めたりして食べます。

日本人の食べる塩もみやしぎ焼きは特殊な食べ方と言えるでしょう。

 

 

7.ナス アラ・カルト

1) ナスと黒豆 古釘が取り持つ縁

「ウリの蔓にナスがなる」と言う言葉があっても、ナスの枝に黒豆がなると言う話は聞いたことがありません。

この何の縁も所縁もないと思われる両者の共通点は古釘です。

 

黒豆を煮る時も、ナスの漬物に漬ける時も、古釘をガーゼにくるんで入れておくと、色よく仕上がることは、オフクロさんの知恵でした。

なぜなら、ナスも黒豆も、アントシアニン系色素(ナスの色素はナスニンと呼ばれています)を多く含み、この色素が鉄やアルミニウム、スズなどと結合すると、青や紫色の金属塩が生じ、美しい色が安定するのです。

 

「古釘なんて、非衛生的」と、おしかりになる近代的奥さん達は、衛生的な“ナスの素”なる硫酸第一鉄(鉄ミョウバン)剤を使って、ナスの漬け物を作ることもなく、正直人間には、「漬物です」と、とても言えない、機械的に作られたモア・インスタント(限りなくインスタントに近い)の調味液漬け半生ナスを、「美味しい」と食べておられます。

 

そう、黒豆もナスの漬物も、もう自分達で作る物でなくなったのですね。

ヌカミソ臭い古女房が、時代のかなたに消え去って行くのと共に、おそらく、家庭で黒豆を煮たり、ナスを漬けることはなくなることでしょう。

「漬茄子の 紺さえざえと 子なし妻 星野丘人」と詠う人は、もういないのです。

 

2) 一富士、二鷹、三茄子(なすび)
ナスビは高値の花、せめて夢の中で、

縁起の良い初夢の順番は、一富士、二鷹、三茄子と、昔(江戸時代)から決まっています。

日本一の富士の山が一番縁起が良いのはうなづけますし、蒼空高く舞う鷹に引かれる気持ちも分かる気がします。

しかし、ナスがなぜ第三位なのでしょうか、

 

慶長17年(1612)の正月、駿府(今の静岡市)の徳川家康に、ナスの初物が献上され、それを天婦羅などにして、食したとの記録があります。

実は、この時代の初物のナスは、一個が一両もし、諸大名が儀式に買い上げていたと言う話しです。

この様に、江戸時代、正月に初物のナスを食べるのは、最高の贅沢で、余ほどの金持ちでなければ、かなわない夢でした。

 

なぜなら、高温作物のナスを冬に作るには、油紙障子で温床を作り、馬糞や麻屑などを踏み込んだ発酵材で温度を取り、随分と手間暇かけなければナスは出来ませんでした。

そのため、正月のナスは、庶民にとって高値の花でした。

だからこそ、初夢にナスが登場するのは、縁起が良かったと言えるのです。

 

現代の人々にとって、冬のナスに何の価値を認めなくなりました。

しかし、考えてみますと、高々20、30年前まで、日本人は飢え、腹を満たすのに汲々としていたはずです。

それをケロリと忘れ、グルメに浮かれる現代の人々と、初夢にナスを見ることを願った日本人と、どちらが本当の豊かさを持っているのでしょうかか。

 

ところで、家康が食べたナスは何処の物だったのでしょうか。

当時、静岡の三保や久能では、既に促成栽培でナス、キュウリが作られていました。

この三保の折戸産のナスが献上されたとの事です。

その後、このナス作りの技術は和歌山に伝わりました。

家康の第11子、紀州藩の藩祖徳川頼宜が紀州入りする時に、家康が持たせたとの事です。

「子を思う親の思い」を見る事が出来、晩年の家康の親としての一面を窺い知る事が出来ました。

 

3) 自然は雑居家族 ありのままに味わうことも・・・

夏場のナスやキュウリの生育は旺盛で、朝と夕で果実の大きさが異なります。

そのため、一株のナスの木に大小様々な実がなっています。

植物はもともと雑居家族が原則で、毎日収穫する農家と異なって、家庭菜園では、大きく成り過ぎ、チョツト堅くなったお年寄りナスもあれば、食べ頃の壮年期とも言うべきナスもあり、まだ、小さな少年・赤ちゃんナスもあります。

 

家庭菜園では余り大小を気にせず一度に収穫し、大ナスは輪切りにして焼きナスにして食べ、中ナスは煮ナスに、小ナスは浅漬けにすると美味しいです。

採れ過ぎて食べきれない時は、塩漬けにするぐらいの余裕があると良いですね。

まさに、自然は雑居家族、ありのまま楽しんで下さい。

 

4) ナスの味から飢饉を知った二宮尊徳

初夏にナスを食べた二宮尊徳が、その夏のナスに秋ナスの味がすることから、気象異変を察知し、農民達に非常食としてヒエを蒔くように命じました。

人々は不平を言いながらも、命令故に従いました。

世に言う「天保の大飢饉」の始まりです。

数年に及ぶ大飢饉により、餓死者が続出するなかで、尊徳が治める桜町領は一人の餓死者も出さずにすみました。

今年の夏は、農林省のお偉い方に夏ナスを山ほど送り、米騒動が二度と起こさないですむように、考えて貰いましょうよ。

 

「足りなくなるのは当然、タイ米とブレンドするのも当然、簡単な算数ですよ」

と、責任の一カケラも感じない高級官僚さんに、少しは損得でなく、尊徳精神を勉強して貰いたいものです。

 

故相馬暁博士が北海道立中央農業試験場長在任中に作成したものです。

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001