■ 家森幸男先生の 「日本食と長寿」
家森 幸男京都大学名誉教授 国際健康開発研究所 所長
 
日本人は今、世界で一番の平均寿命で長寿を楽しんでいます。
その秘訣は日本食にあることが世界中の調査からわかりました。
 
● 世界の61地域を調査して
1983 年に私は世界保健機関(WHO)に提案し、1985 年からこの地図の世界の61 地域を調査し、日本食が世界の健康食だとわかりました。
この図の緑の大きな丸は健康的な長寿食の地域、緑を赤で囲んだ地域は長寿食が崩壊した地域ですが、このルーマニアの近くではブルガリアがそのひとつです。
ブルガリアはいまや東欧で一、二の短命国です。
最も短命な国は大きな赤丸です。
短命食の代表は、スコットランドでの日常的な食事で、肉とパンとポテトチップスを食べ、野菜が少ないのです。
それがファーストフードとして地球上に広がり、この食事に影響されたオーストラリアの先住民のアボリジニがアフリカ以外では世界一の短命になっています。
 
● 野菜を食べず食品摂取の多いチベットの人の40%が高血圧でした。
世界中で、丸一日24 時間の尿を集め、栄養を評価する研究をしました。
チベットの方は海抜3700m の高地に住み、野菜は食べず、保存食からの食塩摂取が多く、採尿検査した女性も血圧が200 ミリ以上あり、50 才代になると40%の人が高血圧でした。
一方、マサイ族は塩を使わず、ほとんどの人々の血圧は正常でした。
この世界調査では、一定の自動血圧計を使い血圧を正確に測ります。
マサイ族の主食はヨーグルトで、大人は一日平均3 リットルも飲みます。
1986 年の最初の調査から12 年目の1998 年の再調査の時には、マサイ族も塩を使いはじめ、高血圧の人が増えていました。
 
● 食塩摂取量を減らし、野菜を食べる
世界調査によって、食塩の過剰摂取が血圧を高め、脳内血管が破れたり詰まったりして脳卒中が多くなることがわかりました。
2000 年に沖縄でサミットがあった時に、このデータを発表しました。
日本では沖縄の人が長寿ですが、他の日本の地域に比べ食塩を一日8g から9g しか摂らず、脳卒中が少ないからです。
この研究によっていえることは、食塩の一日の摂取量を6g 以下にすれば脳卒中や、それが原因で寝たきりや認知症の予防ができるということです。
WHO は、食塩は一日6g 以下にすることを目標としています。
長寿で有名なコーカサス地域の人々は食塩を日本人なみに摂っていますが、長寿の秘訣は、野菜からカリウム(K)や食物繊維を十分摂るため、食塩の害が防げるからです。
さらに良いのは、肉は日本人の1.5 倍以上に食べますが、肉を沖縄の人のようにゆでこぼして食べているので、血中コレステロールが高くなく心臓死が少ないのです。
 
● 野菜・果物からカリウムを多く摂る地域が長寿地域
世界調査でも野菜摂取が多いと増えるカリウム(K)に対する食塩の摂り方を計算しますと、ナトリウム(Na)とカリウム(K)に対する比率が高いと脳卒中が多く、少ないと脳卒中にならず、野菜、果物からカリウムを多く摂る地域が世界中でも長寿地域であることがわかりました。
 
● 動物性脂肪を多く摂る肉食文化地域は短命
人は血管と共に老いるといいますが、血管の老化はコレステロールを多く摂ると動脈硬化になることで起こります。
コレステロールの多い動物性脂肪を多く摂る肉食文化地域は短命です。
日本は米を食べますからコレステロールが低く、心臓死が少ないから長寿になったといえます。
例外は、コレステロールが高くてもヨーロッパで一番長寿なのはフランス人です。
赤ワインが抗酸化を予防するからだとされましたが、実はフランスは農業国で心臓死の多いスコットランドとは、野菜の摂取量に大きな違いがあります。
それは、色とりどりの野菜や果物を毎日でも食べられるからです。
このような野菜の中には抗酸化栄養素が多く、たとえ悪玉コレステロールが多くても、これが酸化されなくなれば血管にコレステロールが溜まらない為、動脈硬化にはなりません。
赤ワインではなくブドウを乾燥させて年中食べている、シルクロードのあたりに住むウィグル族には長寿です。
ブドウの中には抗酸化栄養素が多く含まれますが、女性ホルモンの作用があるレスベラトロールが多いとわかってきました。
女性が世界中で男性よりも長寿なのは女性ホルモンを自分で作ることができるからです。
 
● 老人が尊敬されている社会では長寿の人が多い
ウィグル族は100 才以上の方が多く、この大家族の長老は106 才、奥さんは104 才です。
毎日食事を家族一緒にとるのが長寿の秘訣といえます。
老人が尊敬されている社会では長寿の人が多いこともわかります。
食事もごはんが主食で、ごはんが赤くみえるのは人参など野菜を多くまぜ、カレーライスの香辛料をよく使っているから、抗酸化栄養を多く摂っています。
中国の南の方の貴州省は長寿な人が多いので、その理由を調査しました。
ここは米があまり育たないため大豆や大豆製品が主食です。
大豆にはブドウと同じで女性ホルモンの働きをするイソフラボンが多く含まれています。
中国の方ですから豚肉をよく食べますが、豆腐やもやしのスープ、それに抗酸化栄養素の多い山菜を沢山食べます。
大豆からの女性ホルモンと山菜からの抗酸化栄養素を一緒に食べているわけです。
 
● 世界一長寿になった沖縄の人々の食の秘密
それと同じような食事をしているのが世界一長寿になった沖縄の人々です。
ゴーヤ(にがうり)など抗酸化力が強い野菜を豆腐と混ぜて食べるゴーヤチャンプルなどは最高の長寿食です。
ここでは中国の長寿食、豆腐と豚肉、それに日本の長寿食、海藻と魚を毎日食べているから長寿なのです。
豚肉は沖縄ではゆでてコレステロールを少なくして食べています。
沖縄の人が20 世紀のはじめからハワイやブラジルなどに移住しました。
ハワイに住んだ人々は1980 年代に世界一の長寿になりましたが、ブラジルに住ん
だ人は心臓死が多くなり17 年も短命になりました。
その原因はブラジルの食事です。
牛肉が安く、毎日塩味の濃い焼肉を食べます。
塩が多いと腸からのコレステロールや脂肪の吸収が多くなり、動脈硬化や肥満になります。
 
● 日本人は肉を沢山食べると白人以上に糖尿病になりやすい
沖縄に住む日本人と、ハワイやブラジルに移住した日本人を比べますと、肥満、高血圧、高脂血症がハワイ、ブラジルでは多くなり、特に、糖尿病はブラジルの日系人の4 人か5 人に1 人が抱えています。
日本人は肉を沢山食べると白人以上に糖尿病になりやすいことがわかりました。
肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病は「死の四重奏」といわれ、心臓死が多くなることから、今年の4月から日本では、この4 つの症状を多くもつ人々はメタボリックシンドロームと診断され、予防に力が入れられるようになってきました。
 
● 肉食を控え、大豆、魚を食べましょう
とりわけ日本人がブラジルのように肉を多く食べるような食事を続けるとメタボリックシンドロームになりやすいことがわかりました。
24 時間尿中のイソフラボンは大豆を食べると多くなりますが、ブラジルの人では少なく、大豆を食べてないことがわかりました。
また、血中のDHA などの脂肪酸は魚を食べると増えてきますが、ハワイ、ブラジルの日本人でも魚を食べなくなりつつあることがわかりました。
 
● 魚を食べて血液サラサラ
私どもの世界調査でも魚に由来する脂肪が血液中に多いと心臓死の少ないことがわかっています。
一日一食は100g などの魚を食べると血液がサラサラになり、血管が詰まる病気、心筋梗塞や脳梗塞にならないから長生きできます。
 
● 大豆のイソフラボンが血圧上昇を抑える
大豆に多いイソフラボンは実は女性ホルモンに似た構造をもち、大豆の芽が出る胚軸に多いことがわかっています。
動物実験で卵巣をとって更年期にしたラットに大豆の胚軸を食べさせると血圧が上がらず、毛つやもよく肥満にならないことがわかりました。
 
● 大豆で血圧とコレステロールが、3 週間で下がりました。
そこで大豆を食べないブラジルに住む日本人に、この胚軸をふりかけにして食べてもらったところ、更年期女性の高めの血圧とコレステロールが、たった3 週間で下がりました。
 
● 大豆を食べると美しくなり、心臓や脳の血のめぐりがよくなる
そこでその理由を研究しました。
血管の壁は三つの層からできますが、一番内側の内皮細胞はその遺伝子の働きで血管を拡張させ、血液をサラサラにする一酸化窒素(NO)を作ります。
これを作るための重要な遺伝子の働きを助けるのが女性ホルモンです。
女性ホルモンにはこの遺伝子を助ける働きがあり、血液の循環もよいのですが、更年期では女性ホルモンが少なくなります。
しかし、このような更年期でも大豆のイソフラボンがこの大切な遺伝子の働きを助けます。
また一酸化窒素(NO)は活性酵素によってこわれるので、野菜などからの抗酸化栄養素を食べるとよいことがわかりました。
大豆を食べると美しくなるのはイソフラボンという女性ホルモンを食べるからです。
これで血のめぐり、循環がよくなり肌もきれいになります。
肌のみならず、心臓や脳の血のめぐりがよくなり、元気で長生きができるわけです。
だから、世界中で女性の肌がきれいなところは長寿だといえるのです。
 
● ごはんを食べ、魚、大豆、野菜や海藻を食べる
そのことが世界中で証明されました。
大豆を食べ、尿の中にイソフラボンがたくさん出ている日本人や中国人は心臓死が明らかに少なく、大豆を食べていないスコットランドの人々は心臓死が多く短命です。
スコットランドの人々は大豆もブドウも食べず、食べ物から女性ホルモンが摂れないため短命になるともいえます。
肝臓には悪玉のLDL コレステロールを処理する悪玉コレステロールの「受け口」があり、ここで女性ホルモンやイソフラボンが増えます。
ですから、大豆を食べると悪玉コレステロールが減ります。
さらに乳腺の細胞には女性ホルモンの「受け口」があり、エストロゲンが多くここに入ると強すぎるので乳がんになります。
ところが、エストロゲンと同じ形をしているイソフラボンがこの「受け口」に入ると、強すぎるエストロゲンは「受け口」に入らず、がんも少なくなります。
世界調査でも大豆を食べて尿の中にイソフラボンが多く出ている地域の人々には、乳がんが少ないことがわかりました。
今、日本でこれまで少なかった乳がんが増えているのは、大豆を食べなくなったからだと考えられます。
さらに、男性では大豆を食べていると前立腺がんが少なくなることが世界調査でわかりました。
イソフラボンは女性ホルモンのように働き、前立腺がんが増えるのを抑えます。
今、日本で前立腺がんが増えているのは大豆を食べなくなったからだと考えます。
さらに、あらゆる「がん」の死亡率は、大豆を食べて尿中のイソフラボンがたくさん出ている地域では少ないことがわかりました。
この理由はイソフラボンはがんが増えるときに必要な栄養を供給する血管を作らせないからです。
がん細胞の栄養を断ち切れば、がんは大きくならず、また血管を伝って全身に広がらず、おとなしいがんとなり、がんと共生することもできると考えられます。
そんなわけで、日本食は世界の長寿食といえます。
ごはんを食べ、それに魚、大豆、野菜や海藻を食べると心臓死が少なく、がんが少なくなるからです。
ただし、日本食の欠点は2 つあります。
塩分が多すぎ高血圧が多いと脳卒中が多くなり、寝たきりや認知症の原因となります。
また、ミルクや乳製品を食べないため、カルシウム不足で骨折から寝たきりになります。
 
● 野菜は多く塩分は少なく、肉ではなく魚や大豆に替えて
そこで日本食のメリットを最大限に生かしたお弁当を作り、ある有名企業の方に1ヶ月間、食べていただきました。
ごはんが多く、野菜も十分で塩分を少なくしてあるヘルシーランチです。
さらに肉を大豆と魚に替えた強化食を作り比較しました。
その結果、たった1ヶ月間で肥満度が減り、血圧が下がり、さらに魚や大豆を食べたグループでは悪玉コレステロールの割合が減り、動脈硬化になりにくくなっていることがわかりました。
そこで、一回でもより良い外食が出来るように、大手のファミリーレストランで私どもの世界調査から考えた健康的なメニューを提供することにしました。
これはそのメニューの一例ですが、野菜は多く塩分は少なく、肉ではなく魚や大豆に替え食べやすいおいしいランチが出来ました。
 
● 「一日一善」、「一日一膳」、ヘルシーメニューを
2 週間、毎日一食だけ私どものヘルシーメニューを食べてもらい、まる一日の塩分摂取量は日本人の平均12g から9g まで、3g 下がりました。
一日一回だけでもよいことをするのを「一日一善」といいますが、一日一回でもよい食事をする、すなわち「善」を食事を意味する「膳」にかえて「一日一膳」といっていますが、これを続けるとどんな効果が期待できるでしょうか。
 
● 一日6g まで塩分を減らせられると、脳卒中は0”になります
これは世界調査の食塩摂取と脳卒中との関係です。
今、一日12g の塩分をとっている人が世界一長寿の沖縄の人と同じくらいの塩分の少ない食事を食べ続けますと、脳卒中は大きく減少します。
一日6g まで、あと6g 減らせられると脳卒中は0”になりますので、一日3g も減らせるということは脳卒中を半分に減らせることになります。
これを日本中で実行すれば、日本では脳卒中の治療だけに2兆円を毎年使っていますから、これを1兆円にまで減らすことができ、そのお金は福祉などに使えます。
この4 月から日本ではメタボリックシンドローム、すなわち、肥満から起こる高血圧、高脂血症、糖尿病の傾向など3 つのうち2 つがそろうとメタボリックシンドロームと診断され、積極的に生活習慣をかえる制度がはじまりました。
なぜなら、メタボリックシンドロームは血管の老化を促し、脳卒中や心臓死も増やし、健康長寿をさまたげるからです。
 
●ごはん、大豆、魚、野菜など日本の伝統食は不可欠です
私たちの世界調査によれば、大豆のイソフラボンやたんぱく質、魚のDNA やタウリンというアミノ酸をよく食べることで、このメタボリックシンドロームになりにくく、ごはんや野菜を多く摂れば、この予防が有効に働くことが証明されました。
日本人が摂りすぎる塩分を控えれば、高血圧や動脈硬化も少なくなります。
要するに「食はバランス」です。
ごはんからカロリーを摂り、大豆、魚、野菜など日本の伝統食は不可欠です。
減塩でもおいしく食べながら、血管の老化を予防し、健康長寿を楽しめるわけです。
ルーマニアにお住みのみなさまも一日一食でもこのような食事をとられ、健康長寿を楽しんでいただくことを願ってやみません。

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001