■ 予防医学〜
病気にならないために〜  その2
武熊宣孝×山田英生 対談
 
■ 食も甘いが、親も甘い
● 子供の時からメタボ予防
山田
最近の子供たちは背も高く、体格も私たちの子供の頃に比べて格段とよくなりました。
その一方でいろいろな病気が増え、特に肥満は約30年前の2倍に増えた、とさえ言われています。
しかも、大人だけの病気と思われていたメタボリック症候群がついに子供の世界にまで押し寄せてきました。
厚生労働省の研究班も6〜15歳を対象とする「小児メタボリック症候群」の診断基準を作成するなど、今や生活習慣病は子供の時から予防対策を進めなければならない時代になってきたようです。
 
竹熊
肥満児の中には、小学生の頃から動脈硬化が始まっている子もいます。
子供の時に肥満になると、大人になってもなかなか治りにくい。
そうなると、心筋梗塞などの心臓疾患や脳梗塞などの脳血管障害、糖尿病などのリスクが一段と高まる恐れもあるだけに肥満は、実にやっかいな病気といわざるを得ません。
 
山田
私たちが子供の頃は、まるまる太った子供は健康優良児といわれましたよね。
食べるものが今のように豊富でなく栄養も不足気味でしたから、「体重が重い」ということは、それだけで健康の証でした。
それが今では、健康どころか、生活習慣病の元凶になっていますからね。
 
竹熊
昔、「赤ちゃん大会」というのがあったでしょう。
1歳くらいまでの乳児を集めて保健師さんが育ち具合をチェックする大会ですが、あれも体重と身長を中心に健康優良児かどうかを決めたんです。
また、「健康優良校」を選ぶイベントもありましたね。
子供たちの健康づくりを表彰する制度ですが、あれも体重や身長が重要な決め手の一つでした。
終戦後の食糧難の時期に、子供たちの健やかな成長を願って始まった行事ですから当然といえば当然ですが、当時としては体重が健康か否かを判断する重要な目安だったことは間違いありません。
 
● 食生活の乱れが肥満招く
山田
今、街中や家庭などでも片手に甘い飲み物、もう一方にスナック菓子などを抱えている子供たちの姿をよくみかけます。
おやつだけでなく、今の子供たちはファーストフードなどをよく食べますね。
働いているお母さんが多いから、やむを得ない面もありますが、3時のおやつは4度目の食事とも言われ、昔はお母さんたちが直接握ってくれたおにぎりや手作りのお菓子が多かったような気がします。
それが今は、おにぎりといえば、コンビニやスーパーで買うものと思われていますね。
 
竹熊
確かに、子供たちの乱れた食生活が肥満に悪影響を及ぼしていることは否定できません。
ファミリーレストランに入って、子供たちに何を食べたいかと聞けば、きまって「お子様ランチ」と答えるでしょう。
私はお子様ランチがけっして悪い、とは言いませんが、その中身が問題なんです。
 
山田
チキンライスやオムライスに、ハンバーグやエビフライ、それにジュースなどの飲み物がセットになっています。
いかにも子供たちが好きそうなものばかりで、ご飯の上には国旗が立ち、おまけにオモチャまでついています。
子供連れの家族を狙った企業の戦略が見え隠れしているように私には思えてなりません。
6歳ごろから11歳くらいまでの間に慣れ親しんだ味覚は、その後の食事の好みに大きく影響すると言われています。
かの有名なファーストフードメーカーでは、子供をターゲットとする戦略を立てられているそうですが、店側の経営効率化の理由で、メニューが増えた分、子供たちの食の選択肢が狭くなったことは確かです。
砂糖まみれの脂っこい食べ物に慣れ親しんだ子供たちが、40代、50代になっても同じようなものを食べている姿を想像したら、ぞっとしますね。
 
竹熊
子供のときの食べ癖は一生を支配しますから、よほど注意しないといけません。
現代は「毎日がお正月」というくらいの飽食の時代。
ことわざに「暖衣飽食 風邪のもと」というのがあるでしょう。
暖かい着物を着て、好きなものを腹いっぱい食べていれば風邪を引きやすくなる、との喩えなんですが、それだけ、何不自由のない、贅沢な生活をしていれば病気になりやすい、と警告しているんです。
風邪も甘やかされた状態のときによく引きますから。
 
● 米消費減って砂糖増える
山田
自律神経が副交感神経優位になった時、風邪を引きやすいと言われていますよね。
 
竹熊
しかも、今の子供たちは食べ過ぎに加え砂糖づけ、油まみれといっても言い過ぎではありません。
特に問題なのが砂糖。
例えば、日本のパンは、砂糖がいっぱい入っているうえに油で揚げてあるのが多いでしょう。
パンというよりケーキといったほうがいいほどで、うちによく来るドイツの男性もパンをすすめると、「日本のものは、いらない」と言っては、ドイツから小麦粉を取り寄せ天然酵母で焼いて食べています。
和食だって、お寿司も「砂糖めし」と言われるくらい、砂糖をたくさん入れ、酢をかけているでしょう。
いなり寿司なんかは特にそうです。
他にも煮魚や野菜の煮しめ、すき焼き、酢の物、甘酒だって砂糖がたっぷり入っているでしょう。
 
山田
確かにそうですね。
今、子供の低血糖症が問題になっていますが、これも砂糖の摂り過ぎが原因の一つではないかとも言われています。
低血糖症になった子供は、無気力になったり、時にはイライラし、キレ易くなることもあるようです。
最近、子供の暴力行為が多発していることも、これが一因なのかもしれませんね。
 
竹熊
無関係ではないでしょうね。
子供たちの大好きな飲み物も砂糖のほかに人工着色料や香料などで色や匂いをつけていますが、子供の頃から飲み続ければ、味覚が変わってしまいますよ。
今の食品業界は、まさに砂糖漬けといってもいいほどです。
砂糖の消費量は、どんどん増えて年間1人当たり平均で約20キログラムとも言われています。
コメの消費量が1人当たり年間約60キログラム弱ですから、実にその3分の1に当たる量を摂取している計算になりますね。
 
山田
総務省(旧総務庁)の家計調査でも、お菓子類の購入金額は1世帯当たり年間で平均6万5千円で、米やパン、麺類などの穀物購入額(約7万円)と大差ありません。
これでは、ご飯と同様、毎日お菓子を主食のように食べているようなものです。
 
竹熊
その砂糖も精白した白砂糖ばかり。
精白すると、ビタミンやカルシウムといったミネラルが失われるんです。
砂糖の摂り過ぎは虫歯だけでなく、アレルギーや糖尿病、心臓病などの原因にもなりやすい。
病気になりたくなければ砂糖を、まず摂り過ぎないこと。
成長期にある子供の場合は、特にそうです。
 
山田
先生もかつては、大変な甘党だったとうかがっていますが…。
 
竹熊
沖縄にいた頃は、缶ジュースは1日5本ぐらい空け、アイスクリームやチョコレート、ケーキも手当たりしだいに食べました。
ステーキも安くておいしいからよく食べ、その結果は、肥満、偏頭痛、アレルギー、高脂血症、糖尿病まで併発し、子供たちも肥満や虫歯に悩まされました。
ところが、砂糖の害を知って、家族全員で砂糖を断ってみたら肥満だけでなく、他の症状もウソのように消えました。
 
山田
不思議ですね。
 
● 低下する家庭の教育力
竹熊
子供は「甘やかすな」とよく言うでしょう。
「わがままをさせるな」という意味のほかに、「甘いものを必要以上に与えるな」という意味もあると思うんです。
もちろん、甘いものがすべて悪いとは言いませんよ。
大切なのは、食べ方や使い方を親がよく知ったうえで与えること。
野菜でもニンジンやカボチャが嫌いな子が多いですが、元はといえば親が嫌いだから子供も真似して食べないだけ。
ニンジンやカボチャに多いビタミンAが不足すれば、夜盲症などになったりするのはご存じでしょう。
また胚芽米などによく含まれるB1が欠乏すれば脚気や肩こりなどになるのは、よく知られています。
こうしたビタミンが欠乏すれば、身体にゆがみが出てくるのを親はよく勉強したうえで食事を作ることが大事です。
 
山田
親は子供たちにとってお手本でもありますから、きちんとした考えや知識を持ち合わせていないと、正しい食が伝わっていかないと思います。
昔は母親が食の考え方や料理法などを娘や嫁に教え、さらに孫へと代々伝えていったものですが、今は核家族化で伝わりにくくなりました。
食についての家庭の教育力が随分、落ちたような気がします。
それだけ子供たちは、食べ物の情報をテレビのCMなどから得ているようです。
CMを流す企業側も子供を1人の消費者としてとらえ、その欲望を刺激して買わせようと、子供たちの嗜好を煽っているような気がしてなりません。
食に関する情報は、大人になっても重大な影響を及ぼしますから、CMを流す側も、その内容が子供たちの健全な育成に悪影響を及ぼさないかを、よく考えて流すべきだと思いますね。
 
竹熊
もう一つ、気になるのが、食べ方なんです。
食べるというより飲み込むといった方がふさわしいほど早く食べる人がいるでしょう。特に肥満の人に多い。
「早飯食いの大飯ぐらい」という言葉がありますが、急いで食べるのは肥満のもと。
だから話をしながら、よく噛んでゆっくり食べる。
一口食べたら箸置にハシを置いて、また食べる、というぐらいが丁度よいかも知れません。
しかも、腹八分目。
食習慣は食べ物だけでなく食べ方にも問題があるのです。
「病気治しは食いぐせ直し」と言われるほどですから、食べ方の悪い癖は子供の時から直すよう心掛けてほしいですね。
 
山田
他に子供たちの健康を守るには、どんな食生活を心がければよいでしょうか。
 
竹熊
まず、間食を減らすこと。
親は子供が間食しなくても済むように栄養のバランスを十分考えて食事をつくり、3度3度きちんと食べさせることが基本だと思いますね。
 
■ 朝メシ抜けば、気も抜ける
● 気になる睡眠、就寝時間
山田
最近、気になるのは子供たちの睡眠時間が極端に減っていることですね。
小学生で、10〜11時間、中学生でも、8.5時間〜9.5時間の睡眠が必要と言われていますが、最近のある調査では、「8時間以上」の睡眠時間を取っている小学生は、約79%、中学生はぐーんと減って約30%、高校生に至っては7%にも達していません。
特に高校生は、その約半数が「6時間以内」と答えています。
本来、必要とする時間より2時間以上も足りないわけですね。
睡眠が足らないと、子供たちはいつも眠い状態にあり、注意力も散漫となり、学業への意欲にも影響が出ると聞いたことがあります。
 
竹熊
睡眠を十分取ることは、子供たちにとっては特に大事ですね。
昔から「寝る子は育つ」と言うでしょう。
子供にとって重要な成長ホルモンは寝ている間に分泌され、しかも夜間に多い。
睡眠時間が短いとそれだけ分泌が悪くなって脳や身体の成長にも影響を及ぼしかねません。
 
山田
それと、就寝時間が遅くなっているのも気にかかります。
例えば、夜10時前に寝かされる3歳児は約5割しかないとの調査結果もあるくらいです。
子供たちがなぜ夜更かしをするかといえば、携帯電話やパソコンでメールやゲームをする、また、多チャンネル時代の到来により、テレビは、いつも面白い番組を放送しており、ずっと見ている。
それで寝る時間が遅くなるというんですね。
特に高校生は、携帯やテレビ、ネットなどのメディアを利用する時間が1日、5時間半を超える子供も結構多いとのデータもあります。
ネット漬けの子供たちをどう守るか、親の責任も大きいですね。
 
竹熊
子供たちの生活は、昔と比べ一段と忙しくなっています。
例えば小学生は塾や習い事に、中学生になると部活動も加わって遊ぶ暇もないくらい勉強に追いまくられているみたいです。
その目的も、できるだけ偏差値の高い有名な学校に合格し、一流会社に入るためですからね。
最近では学習塾による小学生の全国統一テストまで行われるようになりました。
確かにこの時期は受験期でもあり、親の心配も分からないわけではありませんが、同時に子供たちにとっても成長期であり、十分な睡眠時間を確保してあげるのも親の大事な務めだと思います。
 
● 親も一因 子供の夜更かし
山田
しかし、実際は、大人の身勝手な生活ぶりが子供の夜更かしに拍車をかけている面もあるようです。
例えば夜間、コンビニやスーパー、レストランなどに子供を連れて出かけたり、中には居酒屋やカラオケにまで連れまわす親もいると聞きました。
昔でしたら考えられませんけれど、今の親は「自分が遊びたい」と思っている者が多く、自分のライフスタイルを無理矢理、子供に押し付けているような気がしてなりません。
 
竹熊
親たちに引っ張り回されている子供たちの方こそ、むしろ大人たちの身勝手な欲望の犠牲者と言えますね。
 
山田
私の育った家では、妹が生まれつき心臓が悪かったため、家族の生活は妹の健康のために回っているようなものでした。
だから両親は、今ほど「有機栽培」という言葉が定着していない当時でさえ、人一倍、無農薬や有機栽培にこだわってコメや野菜を作り、他の食べ物でも、無添加のもの、手作りのもの、旬のものなどをできるだけ食べさせていました。
それだけ、子供の健康を第一に考えてくれていたのですね。
だから私たちにとって食べ物は、親の愛情そのものでしたが、現代社会では食の愛情の部分が抜け落ち、単なるモノとしか捉えられなくなっているような気がします。
 
竹熊
山田さんのご両親が「食べ物はいのちの根源」という考え方に基づいて、無農薬、有機栽培を実践し、添加物などのない食事を、子供さんに与えてこられたことは、まさに、子を思う親の愛情であり、「いのちへの自覚」に基づく行動といってもよいでしょう。
ご両親の生命観に根ざした農業や考え方には敬服します。
恐らく、自然環境の変化に敏感なミツバチと一緒に暮らす中でお父さんは、「かけがえのないいのち」、「自然の大切さ」を学ばれたのでしょう。
 
■ 「命が一番」ならば、食が一番」になるはず
● 食生活は日本に学べ
山田
戦後、日本人の食生活が「ご飯・味噌汁・野菜・海藻・魚」といった伝統的な和食から肉・乳製品・油脂類などを中心とする欧米食へと大きく変わりました。
この50年間で肉の消費量は3倍、油脂類は4倍にも増えたと言われています。
これに伴って病気も欧米化し、多くの人たちががんや糖尿病、心臓病などの生活習慣病に悩まされています。
 
竹熊
これだけ短期間のうちに、民族食を切り捨てて欧米食に切り換えたのは日本ぐらいではないでしょうか。
まさに「食生活の文化大革命」で、この結果、メタボリックシンドロームをはじめ食を原因とする食原病が増えて、今や国民1億2千万人が半病人と言ってもいいくらい体調不良に悩んでいます。
やはり「病は口から」ですね。
 
山田
昔からの和食は、コメを主食に魚と大豆でタンパク質を補い、旬の野菜をしっかりとるのが基本でした。
特に一汁三菜(ご飯に汁物、おかず3種類)は、栄養バランスがとりやすく、ヘルシーで健康を保つ理想的な食と言われてきました。
 
竹熊
こうした健康食としての日本食に30年以上前から着目していたのがアメリカなんです。
1977年に上院栄養問題特別委員会のジョージ・S・マクガバン委員長が発表した、通称「マクガバンレポート」で、報告しています。
当時のアメリカは、がん、心臓病、糖尿病などの生活習慣病が蔓延し、国民医療費は限界に達していました。
レポートは、こうした病気の主な原因は、脂肪、砂糖の過剰摂取などによる食生活の乱れであると断言し、食事内容を改めなければ、やがて先進国は食原病で滅びるだろう、とまで警告しています。
その一方で穀類を主食とし、魚を主菜に、豆類や野菜、海藻などを副菜とする日本食が理想と指摘し、「食生活は日本に学べ」とばかりに日本食を勧めていたのには驚きました。
その日本も今や、食生活の乱れで病気も欧米並みになってきましたけどね。
 
● お膝元で和食離れ
山田
私も最近は、海外に行ってよく感じるのですが、どこへ行っても日本食は、「健康によい」と大変なブームになっています。
不思議なのは、これだけ日本食が世界から注目されているのに、逆にお膝元の日本で和食離れが進んでいるのは皮肉としか言いようがありません。
懐石料理に代表される和食は、日本の気候・風土の中で長年培われ、その作法やたしなみ、食べ方を含め日本が世界に誇る独特の食文化です。
目で見て喜び、香りを味わい、食感を楽しめるのが日本料理。
今、その伝統的な食文化が崩れようとしているのは、誠に残念でなりません。
食の欧米化は、日本人のコメ離れや魚離れを招く一方、パンや肉、乳製品などの消費を大幅に増やしました。
その結果、四季折々の旬の素材を使った日本食も、今ではコメなど一部を除き、大豆や魚介類をはじめ食材の大半を輸入に頼らざるを得ない状況に追い込まれています。
 
● 安さに飛びつく日本人
竹熊
豆腐や納豆、しょうゆ、味噌など、日本食とは切っても切れないのが大豆ですよね。
その大豆の自給率は、たったの5%ですよ。
結局、国産に比べ安いから、すぐ外国産に日本人は、飛びつくんです。
農薬がかかっていようといまいと、安ければいい、と言うのが今の日本人ではないでしょうか。
 
山田
私も「安ければいい」という消費者の意識は、非常に残念だと思いますね。
中国産の野菜や食品にしても一時、残留農薬の問題や冷凍ギョーザ事件で、輸入が激減しましたが、このところまた、増えているようです。
最近の景気悪化の影響で、消費者の節約志向が高まり、安全性よりも価格重視で食品を選ぶ傾向が戻ってきたのでしょうか。
消費者は口でこそ「安心・安全な食べものを」と言いながら、その食品の生産されている農業などの現場を知らないために、結局は安い価格に走りがちなんですね。
今では外食業界にまで低価格化の波が押し寄せ、デフレの影響で280円の牛丼が登場したり、250円の弁当までがスーパーの店頭に並び、飛ぶように売れていると新聞に載っていました。
食は、命を繋ぎ、身体を創る大切なものです。
ファッションや趣味に対しては、惜しみなくお金を払うのに、自らの「命」や「身体」を軽んずるのは、どうなんでしょうか?
 
竹熊
それは、「いのちが一番」という生命哲学が日本人には欠落しているからだと思いますね。
だから安全性よりもモノの値段が安いという経済性を優先してしまう。
デパートの地下食品売り場をのぞくとよくわかりますよ。
閉店1時間前の売り場に行ってごらんなさい。
中高年の女性客や仕事帰りの会社員などでごった返しています。
すしや弁当、惣菜は、2〜3割引き、モノによっては半額です。
その日のうちに売り切ってしまわないと廃棄処分にせざるを得ないため、投げ売りをしているんです。
 
● わかりづらい賞味期限
山田
廃棄処分といえば、食品に義務付けられている「消費期限」や「賞味期限」もわかりにくい表示ですね。
特に賞味期限は、わかりにくい。
元々、おいしく食べられる保証期限を示すのが賞味期限であり、期限が切れたからといって食べられないわけではありません。
あくまで「おいしく食べられる目安」なのに、賞味期限の切れた食品は毎日、大量に捨てられているのが実態です。
例えば缶詰や冷凍食品など商品によっては、おいしく食べられるかどうかは保存の仕方、加工の方法などによって違うのに一律に賞味期限を義務付け、期限がきたら捨てざるを得ないようにしているのは、明らかにおかしいと思います。
 
竹熊
きちんと殺菌されたり、真空パックされた食品は、多少期限が過ぎたからと言って必ずしも食べられなくなるとは思えませんね。
私だって賞味期限が切れていても平気で食べますよ。
 
山田
当社が扱っているハチミツにしても、他の食品と同じように賞味期限の明記が義務付けられています。
しかし、ハチミツというのは、きちんと保存さえすれば100年、1000年経っていても、その品質を保つことはできるんです。
本来、長期保存のきくハチミツに賞味期限をつけること自体、変な話ですが、表示義務がある以上、メーカー側は「1年」「2年」といった賞味期限をつけなければなりません。
それでも、お客様のほうは、仮にまだ食べられる状態であっても賞味期限がきたら、捨ててしまうのではないでしょうか。
 
竹熊
まだ食べられるのに、捨ててしまうなんて、本当にモッタイナイ。
 
山田
元々、日本では食品衛生法やJAS法などにより、製造年月日を商品に表示することが義務付けられていました。
ところが、アメリカをはじめとする諸外国から「製造年月日の表示は、自由貿易を阻害する」と抗議を受け、1995年に賞味期限の制度を導入せざるを得なくなったのです。
 
竹熊
いわゆる、外圧を受けた結果、賞味期限の制度ができたんですね。
 
山田
そうです。製造年月日を商品に表示していた時は、消費者は、それを見て、食べられるかどうかを自分の知識と鼻と舌、目で判断したものです。
だから日々、五感を磨き、しかも食品についての知識も持ち合わせていなければなりませんでした。
それが賞味期限の表示に変わってからは、そうした知識も不要となり、企業が一方的に定めた期日を基準として、まだ食べられる食品を平気で捨てているのです。
消費者はまるで、「賢くなくてもいいよ」と言われているみたいです。
スーパーやコンビニにしても、「期限がきたら捨てればいい」と思うから、惜しみなく食べ物を捨てる。
21世紀になってから、医療の世界で起こった変化である「インフォームドコンセント」の考え方は、本来「医食同源」の原理からいっても、食の世界にも共通のことだと思います。
「消費者の利益保護」の視点からも詳細な情報開示が必要不可欠なのではないでしょうか?
企業がより健全であるためにも、消費者は本来、自ら判断のできる賢明さを持っているべきだと思うのです。
消費者が見識を持ち、賢くなって、適切な判断がくだせれば、自分で安全なものを選ぶことも可能ですし、このエコ社会において幾らでも食品の無駄を省くことができるんですから。
 
竹熊
同感ですね。
 
● 商品化した食べ物
山田
農薬や食品添加物の乱用など食の安全性が問われている今こそ、自分や家族の健康を守るためには、どの食べ物が安全で、健康に良いかを判断する知識や賢さが求められているのではないでしょうか。
特に、子供の食の安全は親が守ってあげなければならないと思います。
 
竹熊
これまで日本では経済優先の論理のもとに食べ物が作られてきたといってもよいでしょう。
企業は食わせんがために、あの手この手で宣伝し、工業食品を大量に生産してきました。
加工食品の氾濫で、体内に取り入れられる食品添加物の量も大幅に増えたことは間違いありません。
農作物だってそうですよ。
農薬などを使って不自然に農作物を栽培し、農産加工業的発想で農業が営まれた結果、食べ物は完全に商品化されたと言っても言い過ぎではないと思います。
食べる人の「いのち」を考えた食材が提供されてきたとはとても思えません。
 
山田
経済優先で進んできたツケが、戦後65年間で一気に噴き出し、食や農業にも影響が出てきたといえなくもありませんね。
 
竹熊
その通りです。今、いろんな病気が増えているのも、食べ物に主な原因があるといってもよいでしょう。
今では、いのちの糧である食べ物を世界からかき集め、その結果、病気も国際化しました。
もののない時代には、現在のように欧米化した生活習慣病は、少なかったように思います。
がん、心臓病、糖尿病などが増えたのは、まさに今日の飽食文明の結果といってもよいでしょう。
私は、病気を治す根本は、食にあると思っています。
私たちや子供、孫たちの命を守るためにも、皆で食と農を真剣に考えていく必要があるのではないでしょうか。
 
山田
病気にならない健康な身体をつくるためにも、私たち消費者一人ひとりが食べ物や農業にもっと関心を持ち、積極的に関わっていくことが求められていると思います。

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001