帯津良一・幕内秀夫 著   三笠書房
「なぜ「粗食」が体にいいのか」  より その1
 
● 「豊かな風土から生まれた豊かな食生活」
――それが粗食です!
 
私は子供のころ、風邪をひくのが楽しみでした。
風邪をひいて寝込んだりすると、おいしいものが食べられたからです。
当時はなぜか、病気をすると桃の缶詰やみかんの缶詰、バナナなどが出てきたものです。
 
かつて、結核の人たちにバター療法が行われた時期があります。
文字通り、結核の患者さんにバターをなめさせるという療法でした。
つまり、病気に対する食生活の考え方は「うまいものを食べて寝ていなさい」だったのです。
「ご飯とパンのどちらがいいのか」「「肉と野菜はどちらがいいのか」――そんなことに悩む必要はなかったのです。
何を食べるかよりも、何が食べられるかが問題だったのです。
 
そして今、私たちは新しい経験をしています。
デパートやスパーマーケットの惣菜売り場に行けば、世界のあらゆる国の食品が所狭しと並べられています。
いまや、私たちが口にするものの半分以上は外国から輸入されたものなのです。
また、ホテルやレストランなみの食材が並べられているのも珍しいことではありません。
そればかりか、どんな野菜、果物でも、一年中買い求めることができるようになっています。冬でも西瓜やメロンが食べられるのは、当たり前のこととなってきました。
 
ある意味では「豊かな食生活」と言えるのかもしれません。
しかし、それで私たちは、健康になったと言えるのでしょうか。
 
日々、私たちが医療機関で接するガンの患者さんは若くなっています。
20、30歳代の患者さんは珍しくありません。
 
私たちが子供のころ、春先に鼻水を流しながらクシャミをしている人などいませんせした。アトピー性皮膚炎で苦しむ子供もいませんでした。
 
「豊かな食生活」という言葉には、二つの意味があるように思います。
1つは量的な意味です。
その面では確かに豊かになっています。もはやわが国では飢える人はいません。
 
しかし、「豊かな食生活」のもう一つの意味――質的な面でも、私たちは本当に豊かになっているといえるのでしょうか。
 
私には、現代の食生活が「五無の食生活」のように思えてなりません。
 
「五無」とは「無国籍」「無地方」「無季節」「無家庭」「無安全」という意味です。
食生活に国籍がなくなり、地方の味がなくなり、季節がなくなり、家庭の味がなくなり、安全性がなくなっています。
 
このような食生活が、本当に豊かだといえるのでしょうか。
なさに今、そのことが問われはじめているのではないでしょうか。
 
私が提唱する「粗食」とは、決して「貧しい食事」といった意味ではありません。
むしろその逆で、「日本の豊かな風土から生まれた豊かな食生活」のことなのです。
 
本書では、見せかけではない、「本当の豊かな食生活とは何か」を提案したいと考えています。
そのことが、結局は健康を守る食生活であり、自然治癒力を高める食生活だと考えるからです。
 
 
● 病院が患者さんに「食生活」
を指導しない意外な理由
 
これから、皆さんの食生活を改善するためのお話しをしたいと思います。
 
そこでまず、食生活の一般について現在どのような状況なのか、具体的なお話をしながら確認していきます。
 
私の勤めている帯津三敬病院には、遠方からの患者さんがかなり多いんです。
先日の例で言うと、私が接した患者さんの7割はがんの患者さんだったんですが、患者さんの中には、富山県や石川県など、かなり遠方の人もいました。
 
なぜ、遠くから私たちの病院まで患者さんがくるのか、その理由をたとえて言えば、こういうことだと思うんです。
 
ガンの患者さんなどの場合、体という畑に「雑草」が生えてきてしまって、それを抜いたり焼いたり切ったりすることは、どこの病院でもやってくれます。
「雑草」という意味は、体にとって具合の悪いものということです。
どの病院でも、それをとることはやってくれますが、それが終わったら、あとは好きにしてくださいという態度なんです。
 
そうされると、「病気になる前と同じ生活をずっと続けていって大丈夫なんだろうか」「また畑に雑草が生えるのではないか」――と、患者さんは不安になると思います。
それでわざわざ富山県や石川県など遠方から、埼玉県にあるこの病院にまでやって来るんだと思います。
 
さて、生活の一部として食生活があるわけですが、ほとんどの医療機関というのは、患者さんに食生活を教えません。
 
教えない理由の一つは、採算がとれないからです。
 
糖尿病の患者さんで、大学病院にいっている場合は、食生活の指導を受けているかもしれません。でも、病院はそれでいくらの収入があると思いますか? 1人で1000円くらいにしかなりません。
 
これでは、病院は食事指導をやりません。当然です。
 
指導する人の場所代や人件費を考えたら、とても採算がとれません。
ですから、大きな大学病院の場合は、糖尿病教室を行って、1人1000円で100人集めて何とか採算をとるということになるわけなんです。
ですから、病気になっても、食生活をまともに指導してもらうことは、残念ながらむずしいのです。
 
ましてや健康なうちに、食生活に関心を持っても、どこでも教えてくれません。
それが現状だと思います。
そうすると、気になる人は、図書館や本屋さんに行って、いろんな食生活の本を読むことになるわけです。
 
 
● 「お皿でなくてお盆のことを考える」
野が、食生活の基本です。
 
ところが、本屋さんに行って本を探そうとすると、当るも八卦の世界、運がよければいい本に出会える。私はこれを「おもいッきりテレビ現象」と呼んでいるんです。
 
「おもいッきりテレビ現象」というのは、同タイトルのテレビ番組の健康特集のように、食生活全体のことではなく、食べ物のことばかり話題にすることを指します。
 
じつは、本屋さんにある「食生活」と名乗っている本のほとんどは、食べものの話しかしてないんです。
これから私がお話しするのは、「水はどうか」「ご飯はどうか」「野菜はどうか」、そして買い物の仕方や、一日の食事の回数なども含めた、「日常の食事の考え方はどうか」という、食生活全体の話です。
 
つまり、食べものだけではなく、それらを乗せているお盆全体の話ですね。
ところが、本屋さんに行ってみると、大部分は食べものの話だけの本なんです。
 
この間、大型書店の健康書のコーナーに行ってみたら、行き着くところまで行ったという感じがしましたね。
「よくこんな本が書けるな、よく恥ずかしくないな」という本が並んでいたんです。
私も食生活の本を書いていますが、何も自分の本だけがいいと思っているわけではありません。
でも、いくらなんでも『チョコレート健康法』はひどいと思います。
「アマチャヅル」だの「ハーブティ」だの、良くわからないのがたくさん出ていますが、これらのほうが、まだましに思えるくらいひどい本です。
「○○健康法」の中には「青汁健康法」など、なんとなくよさそうだなというのもありますが、「ココア健康法」というのも混じっていたりするんです。
 
これをみて驚きました。どういう理屈でココアを勧めるのかと思い、立ち読みしてみましたが、ますます呆れただけでした。
それから、極めつけは先ほどの『チョコレート健康法』ですね。
本屋さんの健康法のコーナーは、まったくひどいことになっています。
 
「これを食べれば健康になれる」という「おもいッきりテレビ現象」では、いろいろな食べ物が健康にいいと紹介されています。
もし、すべての食べもの健康法が正しいなら、世の中に病気になる人はいません。
若い女性の中には、ご飯も食べないでチョコレートをはじめお菓子ばかり食べている人がいますが、あの本を読むと、そういう人が一番健康だということになるんです。
信じられない話です。
 
ですから、食生活の情報はあふれているようで、じつはその9割がいい加減な食べものだけの話なんです。
食生活全体を考えないのは本の世界ばかりでなく、国立がんセンターなどの医療機関でも、「わらびを食べるとガンになる」などと、食べものだけの話をしている始末です。
 
しかし、私や帯津院長は、食生活全体を良くしてさえ、病気や健康にとってほんの一部にしかならないと思っているんです。
 
健康は生活全体の問題であり、食事だけで語れるものではありません。
ましてや、ある食べ物さえ食べていれば健康になるなんて、無茶な話です。
チョコレートを食べたら健康になるなんて、どう考えてもおかしいのです。
だから、食べもの健康法を説いている9割の本は、いい加減だといっているわけです。
 
 
● 「一日何品目食べればいいのか」
健康には関係ありません!
 
さて、残りの1割に、食生活らしき本があります。
 
ところが、これにも問題があるんです。このことを説明するのは難しいので、いつもこんな風にお話しすることにしています。
 
例えば、1冊も食生活の本を読んでいない人は、たくさんの種類の食品を食べることがバランスの取れた食事だと考えます。
実際、病院で食事指導をしていると、「1日30品目食べなくていいんでしょうか」という患者さんが多いんです。
 
患者さんのうち、大体4割から5割の方がこうした質問をします。
私は短い時間の中で、買い物の話から献立の話までしなければいけないので、1日30品目という質問に何とか早く答えられないかと思って、「じゃ、七味唐辛子でもかけてくださいよ、7つ増えるから」と笑ってごまかしてしまうんです。
これは、そのくらいどうでもいいことなんです。
 
そして、食生活の本を10冊読んだ人は、そのうちの一つを信じ込んで突っ走ります。今この本を呼んでいる人の中にも、突っ走っている人がいるかもしれません。
本人はハワイに向かっているつもりで、台湾に着いてしまう人ですね。
 
30冊の本を読むと、だいたいノイローゼになります。
「あれっ、こっちの本で青汁がいいといったのに、こっちの本には青汁はだめだと書いてある」というように、本と本の間の矛盾に気づくんです。
30冊も読むと必ずバッティングします。
そうすると、分けがわからなくなってくるんです。
 
そして、100冊も読むと何も食べられなくなります。
ある本では肉はダメ、ある本ではニンジンはダメ、ある本では果物がダメと書いてあります。そうすると、食べられるものが何もなくなります。
それが食生活の本の実態なのです。
 
私の本をすでに読んでいる人の中には、「おもいッきりテレビ的な人」は少ないと思います。
ところが病院には、アマチャヅルから紅茶キノコになって、今はニンジンをぽりぽり食べているという人が来ることがあります。
「あなた、今度は何をやるんですか」と聞きたくなるほどあれこれと変わるんです。
私はそういうのを「趣味の園芸」と呼んでいます。
こういうのは放っておいても実害はありません。
 
チョコレートではなくニンジンですから、食べること自体は体に害もないし、悪くもありません。ただ、そういう人は、食生活全体は変えませんね。
好きなものを食べながらニンジンを食べるのですから。
それで体が変わるなら、一番簡単でいいと思いますが、そうはいかないんです。
 
 
 
● 「あなたの食生活」
一番の問題はどこにあるか
 
ここから本題に入ります。
これだけ健康の情報が氾濫していると、今の食生活はやはりどこかおかしいと思っている人が増えていると思います。
 
そこで、まず最初に何がおかしいのかを整理します。
そして次に、現代において食生活をどう考えればいいのか、その指針となる考え方をお話します。
そして最後に、食生活の改善法を買い物の話を含めて具体的にお話します。
 
今の常識的な考え方というのは、1日30品目食べて、塩分を10g以下に減らして、緑黄色野菜を300g食べる――大体そんな感じでしょう。
ご飯を少なくし、数多くの食品をまんべんなく食べるというのが一般的な常識です。
そういう常識ができてきた背景というのを、時代をさかのぼってお話します。
 
この常識が広がった背景には、昭和30年代の栄養改善普及運動というものがあったのです。
そして、この運動の理論的な根拠として「食生活近代化論」という理屈がありました。
このことの影響が今でも残ってるんです。
そして、このせいで食生活がわかりにくくなっているんですね。
 
では、一体どういうことが行われたのかをお話します。
 
まず、昭和25年に「タンパク質をとりましょう運動」というのが始まりました。
それから昭和33年、6つの基礎食品を提唱し、この知識の普及が始まったんです。
今でも保険証や病院では、この基礎食品の表を貼ってあるところがありますね。
 
1群は米など、2群はタンパク質、3群はカルシウムという具合に、食品をまんべんなく食べるため、6つに分類した表です。大学によっては、6つではなく4つに分けているところもありますが、狙いは同じです。
 
そして、その年に『頭脳』という本がベストセラーになりました。
慶応大学医学部の林先生が、頭をよくするにはどうしたらいいかを書いた本で、ポイントは2つあります。その1つが「米を食べるとバカになる」ということだったんです。
この本がベストセラーになって、日本中にこの考え方が広まってしまったわけです。
 
こういう例はいくらでもあるんですね。
例えば、現在流行っている、「牛乳を飲んで骨粗しょう症を予防しよう」というのも同じです。20年、30年たってみたら信じられないようなことが、平気で常識になるというのは結構多いんです。
この「ご飯を食べるとバカになる」という本も、そうした現象の一つだったんですね。
 
この本のもう1つのポイントは、あるものをなめれば頭がよくなるということでした。
何をなめるのか、わかる人もいると思います。
 
この本には、それをなめると子供の成績がよくなると書いてあります。
この本を私は持っていますが、坊主頭の子供が座っていて、その頭にじょうごでさらさらっと何かかけている挿絵があるんです。
 
呆れたことに、それが何かというには、「味の素」なんです。
 
今聞けば、ほとんどの人が笑います。おかしいと思います。
でも、今、骨粗しょう症で牛乳を無理して下痢をしながら飲んでいる人だって、同じようなことをしているんです。
 
私だって、もし『頭脳』が出た当時にこれを呼んでいたら、今のような知識があるわけではありませんから、的確に判断するのは難しかったでしょうね。それほど、健康についての情報というのは影響力が強いんです。
 
ただ、味の素をなめて頭がよくなるというので、本当に子供になめさせてしまった当時のお母さんは、今で言えば『チョコレート健康法』を買うような人だったろうなとは思います。
 
それはともかく、この本がベストセラーになって、米食低能論が広まったわけですが、この影響は今でも根強いですね。
今では、さすがにバカになると思っている人はいませんが、ただ、米をたくさん食べることはよくないというイメージが植えつけられました。
 
 
● 粗食のすすめ
「タンパク質信仰」は捨てなさい
 
昭和36年に、「1日1回フライパン運動」が実施されました。
この意味がわかりますか? 別名「油のオリンピック」と言います。
フライパンを使って、油をたくさんとろうという意味だったんですね。
油をたくさんとる国は豊かな国で、油の摂取量の少ない国は貧しいんだという考え方です。この運動が、保健所などを通して推進されました。
 
それから、昭和38年に、「タンパク質が足りないよ」というコマーシャルが大流行したわけです。たしかクレージー・キャッツの谷啓さんが、「タンパク質が足りないよ」というコマーシャルだったと思います。
 
また、「牛乳や卵や肉は完全栄養食品」というすごい言葉もありました。
完全食品というのは、ほかには何も食べなくても、それだけで生きられる食品という意味ですね。
卵だけで毎日過ごせるのかと考えたらおかしいわけですが、そういう言葉が出たほど、肉、卵、牛乳をたくさんとることがいいんだと信じられたわけです。
 
「タンパク質信仰」が決定的になったのが東京オリンピックですね。
昭和39年、オリンピックをテレビで見ていた当時の人たちは、おにぎりと味噌汁を食べていて体の小さい日本人は、肉などをたくさん食べる外国人にかなわないと思ったんです。
柔道でも負けてしまうし、走っても遅いし、飛ぶのもダメだと。唯一頑張っていたのがプロレスの力道山ぐらいで、あとはことごとく外国人に負けてしまうと思ってしまったんですね。
 
オリンピックに負けるのが悪いかどうかは別問題にして、タンパク質をとらないと体が大きくて強くならないと思い込んだのです。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001