帯津良一・幕内秀夫 著   三笠書房
「なぜ「粗食」が体にいいのか」  より その4
 
● 「食材を丸ごと食べる」・・・・・・
栄養バランスはここから生まれる!
 
次に、世界中の人たちの食生活の共通点としてあるのは、土法ということです。
要するに、土法というのは、昔からその土地に伝わる調理法ということです。
土法、土地ごとにさまざまありますが、その意味は共通しています。
 
イヌイットの例で「なるほど」と思うのは、肉を食べるとき、全部生で食べることです。
焼肉が大好きな人でも、ご飯も野菜もイモもパンもなしで、焼肉だけを果たして何日間食べ続けられるかと考えたら、一週間だって無理です。
では、イヌイットはなぜ毎日食べ続けられるかというと、生で食べているからです。
 
飲み屋のメニューに馬刺しや牛刺しがありますが、あれには油が全然ないですね。
生の肉は、味もそっけもないんです。
肉というのは焼くと脂が出てくるわけです。
そうすると、3回と続けた食べられなくなるんです。
 
ところが、生だと続けて食べられるわけです。
これは知恵というより、木や草が生えていないから、燃料がなかったということでしょうね。
だから、焼くわけにもいかず、生で食べてきたということでしょう。
 
また、イヌイットのアザラシやオットセイの食べ方をさらに詳しく調べてみると、おなかをナイフで割いて、最初に肝臓、腸、腎臓といった内臓をまず食べて、その他の肉は放っておくわけです。
 
すると、零下何十度の世界ですから、肉が凍るんですね。
それを後で削って食べるわけです。
このように、内蔵を含めてアザラシなどの肉を丸ごと食べるわけです。
 
このことからもわかるように、肉を食べたら野菜も食べるというのが、バランスの取れた食事というわけではないのです。
 
肉を食べるなら、頭から尻尾まで食べることが、バランスのとれた食事なんだと思います。
さもなければ、砂漠や氷の世界などさまざまな土地で生活している人たちが、さまざまな形の食事をしているわけですから、世界の9割の人は偏食でおかしくなっているわけです。
 
肉とのつき合いの長い人が多く住んでいる土地、たとえば沖縄や横浜の中華街に行くと、豚の頭や足などがつるしてあります。
つまり、こうした土地では、豚の頭や足を食べるんですね。
さらに耳や内蔵も食べます。
やはり肉との付き合いの長い地方の肉の食べ方は、イヌイットの肉の食べ方と共通しているところがあります。
 
要するに、内蔵も含めて「丸ごと食べる」という点で共通してるんです。
 
肉を大量に食べてる分、野菜も食べているかというと、必ずしもそうではないです。
やはり肉も与えてくれ、野菜も与えてくれるという土地はそうそうないということです。
 
 
● インディアンの教え・・・・・・
 「病気になったら豆を食べろ」の「豆」とは?
 
私は中国の砂漠地方へ行ったことがあるんですが、物は試しだから、何でも食べてやろうと思っていたんですよ。
 
ところが、ラクダの脳みそを出されたときはさすがに困りました。
ラクダの頭をドンと置いてあって、子供がナイフで脳みそを生でとってくれたんですが、どうぞと出されても、さすがに私には食べられませんでした。
でも、あれこそが肉食民族の食生活なんだと思います。
 
見方を変えて言えば、たとえばイヌイットの人たちが、たいへんな思いをして一匹のアザラシをとっても、もしロースとヒレの部分だけを食べて、残りをみんな捨ててしまったら、獲物の大部分を無駄にしてしまうことになります。
 
内臓、毛、目玉、足などを捨てたら、きっと体重の8割くらいに当る量を捨ててしまうことになるでしょう。
そんなもったいないことはできません。
だから、「丸ごと食べる』ということの背景にあるのは、健康のためということではなくて、もったいないということですね。
それが結果的に言えば、非常に健康的だったわけです。
 
インディアンの伝説に、病気になったら「豆」を食べろというのがあります。
彼らも狩猟民族でしたから、食べものは鹿やバッファローなどの肉が中心です。
「病気になったら食べる豆」とは腎臓のことなんです。
鹿やバッファローの腎臓は見たことがありませんが、豚などの腎臓は確かに豆みたいな格好をしています。
 
さて、肉を食品成分表というので調べてみると、腎臓やレバーなどの内臓は、ロースやヒレとは成分がまったく違うんです。
とくに、ビタミンCなどはレモンなみなんですよ。
食品成分表には、もちろん鹿は出ていないんですが、豚、牛、鳥と成分に差がないと考えていいでしょう。
 
栄養学的な見地から言えば、インディアンの知恵は、なるほどもっともだなと思いますね。
 
 
● 「体にいい讃岐うどん」「ふつうの讃岐うどん」
ここが違います!
 
「丸ごと食べる」といい食品は、何も肉ばかりではないんです。
そこで肉以外の実例をいくつか挙げてみます。
 
昔、米が取れずに、そばを朝昼晩食べていた地域がありますが、そういうところのそばの食べ方は全部同じです。
楽しみではなくて、そばを主食にしてきたところでは、そばの殻をとったら、なるべく丸ごと粉にして食べるわけですよ。
 
丸ごと使った粉で打ったそばは、黒くて、太くて、食べたらぼそぼそという感じになるんです。
岩手、出雲、戸隠といった、昔からのそばどころでは、どれもこういうそばなんです。
 
それから、香川県は讃岐うどんで知られた土地ですが、地元の年配の人たちに「どこかの時代で、うどんを食べるときの音が変わりませんでしたか」と聞くと、ほとんどの人が、少し考えて、「ああ、そういわれればそうですね」と答えます。
 
これはそばの場合と同じなんです。
要するに、茶色い糠がついたまま小麦粉にしてうどんを打つと、山梨県のほうとうみたいな、太くて、あまり見た目のよくないうどんができるんですよ。
こうしたうどんを食べると、「つるつる」と滑らかに食べることはできません。
昔の讃岐うどんは、そういううどんだったんです。
 
ところが、今は、小麦の精製度の高い真っ白な粉で作りますから、のどごしがよく、「つるつる」と食べることができるんです。
だから、あるときから、讃岐うどんを食べるときの音が変わったのです。
昔は、うどんが主食でしたから、小麦を丸ごと食べていたんですね。
主食は共通するんです。
 
 
● トウモロコシの「一番上手な食べ方」
知っています?
 
主食を丸ごと食べていた例をさらにいくつか挙げます。
 
南米のトウモロコシを主食にしている国では、私たちのように、ゆでてかじったりはしません。
保存の問題もありますが、それだけが理由ではありません。
 
私たちが、トウモロコシをゆでてかじるのは、おやつだからなんです。
でも、トウモロコシを主食にしているところでは、そんな食べ方をしないんです。
 
日本でも山梨県の一部では、トウモロコシを主食に近いほどよく食べてきた土地があります。
そういう土地で、トウモロコシを食べるときは、手でほぐして、さらに粉にしてから食べるんです。
粉をこねて、まんじゅうを作るか、お好み焼きのようにして焼いて食べたわけです。
 
なぜ、トウモロコシを主食として食べるときは、いちいちほぐして粉にするのかというと、そのままゆでてかじってしまうと、とうもろこしの芯に胚芽の部分が残ってしまうからなんです。
 
縁日の焼きトウモロコシがわかりやすい例ですね。
かじると、芯に黄色いものが残るでしょう。あれが胚芽なんです。
主食としてトウモロコシを食べていた人たちにとって、胚芽を残すような食べ方は、もったいなくてできなかったんですよ。
 
また、魚を丸ごと食べる例は数多くあります。
とくに、北海道に住んでいるアイヌの人たちは、かつてシャケを主食にしていたときがありました。
そのなごりで、今でも北海道に行くと、シャケ料理として、氷頭なますなど、骨を薄く切った食べものがあります。
 
また、お土産屋さんに行くと、メフンといって、シャケの肝を塩漬けにしたものもあります。塩辛みたいなものですね。
その背景にあったのは、健康のためではなくて、もったいないという知恵だったんだと思います。
 
ここで整理してみます。
食生活を考えるとき大切なのは、
一つ目は、その土地、その季節に取れるものを食べればいいということで、
二つ目は、なるべく丸ごと食べられるものの方がいいということです。
 
例外はあるんですよ。
「フグはどうやって丸ごと食べるんだ」といわれたことがありましたけれど、たしかにフグは例外なんです。
 
ところがこれは余談なんですが、「フグは例外です」といったら、富山県の人が私に猛毒のふぐの卵巣を送ってくれたんです。
卵巣が糠漬で2年、塩漬けで何年というふうに基準になる年月漬け込んで、検定印をもらって、はじめて食べられるそうです。高いそうです。
あまりにもったいないから、知人のところへもって行って、知人が食べるのを見てから食べました。
 
こうしたことが、伝統的な食生活の知恵なのではないでしょうか。
「丸ごと食べる」ことがいいと思っていれば、大きな間違いはありません。
 
さて、土産土法という2つの指針を基本において、今日からの食生活をどうするかという具体的な話に入って生きたいと思います。
 
 
● 家族と「2割以上違う食事」をしてはいけません!
 
具体的な食生活を考えるにあたり、まず2つのことを確認しておきましょう。
 
1つは、病気が何かで、食事の問題を考えるのではないということです。
もちろん、私たちが医療機関にいるときは、患者さんのカルテや検査結果のデータを持って食事の話をします。
 
しかし、私の場合、そうしたものをほとんど見ません。
なぜ見ないかというと、薬は病気や症状にあわせて使えばいいのですが、食事はそうは行かないからです。
 
ある人の食事の指導をすると、その患者さんだけでなく、その人の家族や周囲の人を巻き込みます。
 
だから、理想的食生活というのは、体と家族と社会に合わないとダメなんです。
そうしないと、いくら理想的な食事でも、長くは続かないんですね。
戦後の間違ったキャンペーン、「タンパク質が足りないよ」という言葉のせいで、現代の食生活は、肉だの、牛乳だの、卵などを食べ過ぎていますね。
 
その反動として、菜食主義がいいなんていっているのんきな人がいます。
でも、そういう人のほとんどは、長く続きません。
なぜ続かないかというと、ほとんどの場合、家族の反感を買っているからなんです。
本人の食事はよくなっても、家族や友人に相手にされなくなってしまうパターンが多いのです。
 
健康のためなのに、友人とけんかしたり夫婦けんかをするというのは、やはりおかしいと思います。
そういう人は食事のことしか考えていないのです。
 
ただし、いっておきたいのは、これからの話は、特殊な人には当てはまらないということです。
たとえば、特殊なアレルギーの場合です。
もっとも、アトピーのほとんど9割9部は特殊ではありません。
サバを食べると蕁麻疹が出るような特殊なアレルギーがありますが、それとアトピーとは別です。
アトピーで何かを食べるとよくならないという人は、そうはいません。
 
特殊なアレルギーの人は自覚があります。
アメリカなどでは、ピーナッツを食べたら死ぬ人がいますし、日本で意外に多いのは、そばで死ぬという人ですね。
そうした特殊なアレルギーや、クローン病という腸が細くなってしまう病気の人、あるいは人工透析を受けている人などには、これからする食事は当てはまりません。
例外です。
 
大学病院で食事指導を受けている人は、大学病院の話に7割は耳を傾けないといけません。
大学病院というのは、病気を治すために食事を教えているのではなく、危険を避けるために教えているのです。
たとえば、クローン病のような病気の人は、普段からほとんど流動食です。
そういう人は、私の話を聞くまでもなく、病院の食事を守るしかないのです。
 
こうした例外的な病気でない人の場合は、「病気は何か」、あるいは「健康なのか、病気なのか」ということだけで、食事を考えてはいけないということです。
皆さんは、それぞれ家族構成が違います。
好みも違います。仕事も違います。
そうした自分の条件を考えて、自分の理想的な食生活を見つけないと、1ヶ月しか続きません。
 
たとえば、サラリーマンで、仕事の付き合いがあるから、夜どうしても飲まないわけには行かないという人は、アルコールの選び方を考える。
それがその人の食生活の理想だと思うんですね。
誰も彼もが同じ理想ではないんです。
 
自分の食生活の理想を考えるとき、まず理解して欲しいことは、目安として、家族と2割以上違う食事をしてはいけないということです。
たとえ玄米がいいと教わっても、主人は白米、娘はパン、私は玄米なんて無理なことをやるべきではありません。
なるべく家族と同じように食べるべきだということを覚えておいてください。
 
 
● 「おカネがかかる」「手間がかかる」食事療法ほど、
効果がない!
 
2つ目にわかっていただきたいことは、食生活の改善では、大切なことほどおカネがかからず、手間がかからず、誰にでもできるということです。
 
中には、私の話を聞いても、「とても自分にはできそうもない」という人がいると思います。
でも、どんな人でも、一番大切なところは絶対に実行できます。
 
「一番大切なことは、ご飯をきちんと食べることだ」と聞いた瞬間、頭を抱える人はいませんからね。
「セブンーイレブンで買ったご飯を食べてもいい」といってるんですから、誰でもできます。
 
たしかに、3番目、4番目、5番目になってくると、うちではできないという場合も出てくるんです。
食生活は大切なことほど、簡単なんです。
ところが、食餌療法となると手間がかかるし、おカネもかかって難しいんです。
だから食生活改善は大変などというのは、病院で塩分を1日に7グラム以下にしなさい、などといわれている人の場合です。
 
もっとも、7グラムなんていう病院のほうもおかしいのです。
もし塩分7グラムなんて本気でやったら、半年も経つと間違いなく血圧が上がります。
朝から晩まで電卓をはじいて塩分の計算なんかしていたら、それがストレスのもとになるんです。
 
だから、食生活は、大切なことほど簡単で、どうでもいいことをやろうとすると難しいということを、ぜひ、ご理解ください。
 
もっともわかりやすいたとえで言えば、家を建てるとき、大切な土台や柱に関する質問には簡単に答えられます。
 
「柱は太いのと細いのとどちらがいいでしょう」と尋ねられれば、「太いほうがいい」とすぐに答えられるんです。
ところが、「カーテン花に色がいいですか」といわれたら、「ピンクでも黄色でも好きにしたら」とでも答えるしかないんです。
もし、ささいな問題にまじめに答えるとしたら、難しくなるんですよ。
 
食生活にも土台があり、柱があり、絨毯や表札もあると考えてください。
絨毯や表札なんかはどうでもいいんです。
それで家が傾いたり壊れたりするわけではないのですから。
 
でも、土台や柱が悪いと家が壊れる危険がありますから、そうはいかないんです。
だから、大切な土台や柱をどうするかというのは簡単にわかるわけです。
その点は食生活も同じだと思えばいいんです。
 
 
● みそ、漬物、納豆・・・・・・
「どうせ腐るなら上手に腐らせよう」という知恵
 
さて、ここからは、具体的な食生活改善のための提案を、原則として大切な順に話していくつもりです。
 
ただ、まず9番目に大切なことについて先に話してしまうことにします。
 
それは買い物の話なんですが、これをはじめに取り上げるのは、食生活情報の混乱のせいで、関心が高いわりに、もっともわかりにくくなっている問題だからです。
 
嫌味な言い方ですが、私は、生活クラブや生協の大好きな人のことを、「共同購入おばさん」と呼んでいます。
これは、一生懸命に低温殺菌牛乳や100%果汁を買って、子供に飲ませて、「うちの子供はご飯を食べない」と嘆いている人のことです。
 
あんなものを飲ませていたら、子供は誰だってご飯を食べませんよ。
安全なものを食べさせたいという気持ちはわかるんです。
それはそれでいいんです。
でも、話の大切さからいえば9番目ですからね。
8番目までできたらこれを考えるべきなんです。
 
一番大切なことを一言で言えば、「ご飯にしましょう」ということになります。
買い物ついでにあれこれ考えることより、一番大切な「ご飯を食べる」ということを実行したほうが効果が大きいんです。
ご飯にするということを言い換えれば、パンを減らしましょうということなんですが、少し考えてみてください。
 
朝、ご飯と味噌汁、漬物、焼き海苔、アジの干物などを食べる人と、パンにジャム、マーガリン、ハムエッグ、サラダ、ドレッシング、ヨーグルト、チーズなどを食べる人と比べたら、食品添加物はどちらに多くなりますか?
 
どちらの場合も、スーパーで買ったとしたら、間違いなくパンのほうですよ。
パンは工場で作られますし、チーズも工場で作られます。
コーヒー、ドレッシング、マヨネーズなども工場で作られますから、どれも全部添加物の心配をしなければならないものばかりです。
一方、ご飯、味噌汁、漬物、納豆などは、添加物が入っていても、まだまだたかが知れているんです。
 
というのは、もともと味噌、漬物、納豆などが中心の日本の食事というのは、最初から腐っているようなものばかりだからです。
 
つまり、日本の昔からの食事の中心は発酵食品なんです。
日本の国は湿度の高い国だから、どうせ腐るならその前に上手に腐らせてしまえという発想から発酵食品が多くなったんです。
 
だから、もともと防腐剤などが少ないんですよ。
ところが、ハムなどがもし腐ったら、とても食べられないですよ。
 
ハムなどは、その歴史のはじめから、添加物が使われていたんです。
肉の加工品が腐ると危ないからですね。
パンを食べながら安全性を考えるとしたら、お金がかかってしまうわけです。
 
でも安心してください。
パンからご飯に代えるだけで、添加物などは相当減ります。
無農薬の野菜など毎日買わなければいけないわけではないんです。
そんなことになったら、明日から何もできません。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001