あんな話 こんな話 (70)
 
森下敬一 『食べもの健康法』 より その11
 
 
● せり
 
万葉人もせり摘みを楽しみ、うたに詠んでいる。
そして、われわれの先輩たちが、正月七日に無病息災を願って食べる習慣とした春の七草には、せりは筆頭に上げられてる。
 
それは、せり特有の香気と味が好まれたからに違いないが、医学的な見地から見ても、日本人がせりを珍重した理由は十分に納得できる。
すなわち、せりは、冬から春に向かっての健康推進に対して、絶大な効果をあらわすからである。
 
寒い間は、われわれの血液は、どうしても酸毒傾向になりやすい。
体の新陳代謝は緩慢になるし、運動量も大幅に減る。
その上、体を温めるために動物性食品を多食しやすい。
 
そんなこんなで、血液中には過剰な栄養物や老廃物が停滞しがちとなり、血液の粘稠性も高くなる。
これでは春の活動にさしさわりがあるだけでなく、そのまま放置すれば健康失墜につながる。
その事実を経験的に知った昔の人は、野草食をして浄血をはかったのである。
そんな野草の代表がせりなのだ。
 
せりは、湿地、田んぼ、流れのふちなどの水がたっぷりあるところに生える。
なぜなら、冬寒期としては、相対的に温かくなっている水にの保護され、他の野草にさきがけて成長するからだ。
 
せりにはビタミンA、B1、B2、C、Dおよびカルシウム、リン、鉄などの各種ビタミン、ミネラルが含まれている。
これが老廃物の排泄を促し、酸毒化した血液を健康な弱アルカリ性に回復する。
その中でも特に注目したいのは、胆汁の流れを円滑にする働きである。
 
 
■ 田ぜりのおろし和え
材料(5人分)
・田ぜり・・・1束  ・大根・・・200g  ・桜えび・・・15g  ・もみのり・・・少々
・米酢・・・大さじ2  ・自然塩・・・小さじ1/4  ・しょう油・・・少々
作り方
@田ぜりは根もきれいに水洗いして、色よく塩ゆでして、3cmに切ります。
A大根はすりおろして軽く水気を切っておきます。
B桜えびはフライパンで空炒りしておきます。
C米酢、みりん、塩、しょう油で、合わせ酢を作り、材料全部で合わせ和えます。
D小ばちに、こんもり盛りつけ、もみのりを天盛りします。
 
■ せりの豆腐くずし
材料(4人分)
・せり・・・150g  ・ごま油・・・大さじ2  ・自然塩・・・小さじ1  ・豆腐・・・1丁
・しょうが汁・・・小さじ1  ・しょう油・・・少々
作り方
せりは4cmに切り油で炒め、小さじ3分の1杯の塩をふり入れ、水切りした豆腐をくずして、しょうが汁、塩小さじ3分の2杯と、しょう油を加え炒めます。
 
 
 
● よもぎ
 
よもぎはモチグサといわれるように、モチに入れて草モチをつくることは誰もが知っている。
いかにも春らしい色と香りを楽しむことのほか、来るべき飛躍の季節に備えて浄血をはかろうという、われわれの先輩たちの生活の知恵なのである。
 
寒い季節には、体の代謝活動は鈍るから、老廃物も停滞しがちで、それだけ血液も汚れている。
よもぎはそういった悪い状況を解消してくれる。
 
実際、よもぎの浄血作用はめざましい。
まず、血液pHを健康な弱アルカリ性にする作用がある。
加えて葉緑素がたっぷり含まれている。
葉緑素は胃腸や肝臓の機能を高めることによって、造血作用、解毒作用を大いに高める。
 
その上葉緑素は直接、血液中の毒素と結びついて、それの中和解毒をはかる。
だから、よもぎは慢性病全般に有効で、特に胃腸病、高血圧に卓効をあらわす。
 
3月3日の節句の菱モチに、もともとは、緑の色づけにはよもぎが用いられた。
これで健胃・整腸をはかる。
そして、黄色には解毒作用のあるクチナシが、赤には血の巡りをよくする紅花が用いられて、女の子を健康に賢く美しく育てるための配慮がなされていたのである。
 
それに比べると現代は、発ガン性すらある人工着色料を用いているのだから、なんという変わりようであろう。
 
よもぎが主に草もちや草団にのされるのは、実に合理的な利用法だ。
よもぎには澱粉質の代謝をスムーズにするビタミンB1、B2がたくさん含まれているからだ。
ビタミンB群を十分に補給することは、肥満を防止する秘訣である。
 
日本人に不足しがちなカルシウムも多い。
そのため、気分のいらだちを鎮めるとともに、組織に炎症を起こしにくくして、病気にかかりにくい体を作る。
また、ビタミンA、Cも豊富で、肌を美しく作用も著しい。
 
よもぎはまた、不思議に体を温める。
体の冷えやすい人、寒さに弱い人、神経質の人は、よもぎ入りの玄米もちや玄米だんごをたびたび食べるとよい。
それと併せて、よもぎ風呂に入り、よもぎ茶を愛用すれば、いっそう望ましい。
 
よもぎ風呂は、あらかじめ乾燥したよもぎ三つかみほどを適量の水で30分ほど煎じておいて、その煎じ汁を風呂に入れ、普通に入浴すればよい。
このよもぎ風呂は、腰痛や痔にも効果的である。
 
よもぎ茶は、乾燥したよもぎ1日分20gを、3カップの水で、約30分煎じたものを、3回ぐらいに分けてのむ。
このよもぎ茶は便通をよくする作用もあるので、血行作用も著しい。
そのため、よもぎ茶は高血圧、肝臓病、腎臓病、ぜんそくなどにも効く。
どくだみ、はぶそうを少し加えればいっそう効果的である。
 
 
■ 草もち
@よもぎは、早春のごく若いころの、ビロード状に新芽を出したばかりのものが最適です。爪でていねいに摘みとりましょう。
ごみを除いてきれいに洗い、自然塩ひとつまみ入れた熱湯でゆで、水にさらします。
A細かくきざんで、さらにすりばちでよくすり、汁気を軽くしぼって皿にとります。
B玄餅粉を水で練ってからセイロまたは蒸器で25〜30分ふかします。
C、BにAをよく搗きこんで、適当な大きさに丸め、あずき餡や、きな粉をつけてください。
 
■ よもぎの天ぷら
成長した葉でも大丈夫。
天ぷらは、野草料理で一番手軽で、美味しい料理法です。
薄めにといた衣にサッとくぐらせ、やや低めの温度でカリッとなるまで上げます。
 
■ よもぎのつくだ煮
ゆでて水にさらし、細かく切ってサッとごま油で炒め、しょう油で汁気がなくなるまで煮ます。
 
 
 
● はこべ
 
春の七草の一つ「はこべら」とは「はこべ」のことだ。
細く柔らかくて、いかにも頼りなげなふぜいだけれど、花期が終わるとすぐに結実し、それがこぼれて春二番の芽を出す、大変にバイタリティに富んだ野草だ。
それゆえ、はこべを食べる人間のバイタリティをも高めてくれるのである。
 
繊維が柔らかく、クセもないから、汁の実、おひたし、ごま和え、天ぷらなどに普通の野菜と同様に用いればよい。
 
まず、はこべはすぐれた健胃・整腸作用がある。
普通に料理して食べてもよく、葉茎をすりばちですりつぶしてガーゼでしぼった生汁を1日に盃1杯ずつ飲んでもよい。
 
これまで肉や卵をたくさん食べていた人は、はこべジュースにしてとると効果的だ。
胃腸の疲れをとるとともに血液中の酸毒成分を早く体外に排泄できる。
きれいに洗ったはこべに適量の水、レモン汁、はちみつを加えてミキサーにかければ出来上がり。好みでにんじんやりんごを加えてもよい。
 
はこべの消化作用もすばらしい。
そのよい例は、盲腸炎に卓効を表すことだ。
生葉のしぼり汁2分の1カップを1時間おきに、1日5回ほど飲む、または乾燥した全草を濃いめに煎じたものをお茶代わりに飲むと、軽度の盲腸炎なら治まってしまう。
 
盲腸は不要なものの代名詞にされているけれど、人間の体に不要なものなどない。
穀菜食動物では、消化作用に欠かせない一役を担っている。
それが、肉や白砂糖などの不自然食を常食していると、満足に働かなくなる上に、炎症を起こしてしまうのである。
 
ついでに言うと、盲腸手術はできるだけ避けたい。
腹膜にメスを入れることはスタミナ減退のもとだからだ。予防が大切なゆえんだ。
 
はこべはまた、たんぽぽの根、鯉こくと並んで、代表的な催乳食品の一つである。
ある健康雑誌に「母乳の出をよくするには牛乳をたっぷり摂れ」とあった。
これは完全な間違い。乳を入れれば乳が出る・・・・・・といったように、われわれの体の生理というものは機械的ではない。
 
母体の生理機能が健全になったとき、その働きの一つとして必要十分な母乳が分泌されるのである。
少なくとも穀菜食民族である日本人にとっては、胃腸の働きを混乱させ、体質を悪化させる牛乳は、母乳の分泌促進に役立つことはありえない。
 
本当に母乳の分泌をよくすることは、子供のためであることはいうまでもないが、母親自身の老化防止や慢性病防止に直結する重要なことなのである。
同時に、はこべは産前・産後の体力保持、産後の古血の排泄促進および腹痛の鎮静にも有効である。
 
食生活の改善をはかるとともに、はこべを活用したい。
料理に用いるほかに、はこべの全草を乾燥して煎じ、お茶代わりに飲む。
このはこべ茶に、たんぽぽの根を乾燥したものを少し加えると、なお結構だ。
 
化膿菌を抑える作用も、はこべにはある。
そのため、はこべの乾燥粉末に自然塩を混ぜたものを、はみがき粉として用いていると、歯槽膿漏の防止に役立つ
 
 
ハコベの花のサク前の柔らかなところ2〜3cmを摘みとり、よく洗います。
■ はこべのサラダ
生のまま、フレンチソースで和えたり、各種料理のあしらいとします。
■ はこべのおひたし
自然塩ひとつまみ入れた熱湯でサッとゆでてから、冷水に通し、軽く絞って、しょう油をかけて食べます。
しらす干しを混ぜてみるのもよいでしょう。
■ はこべのごま和え
おひたし同様にゆでてしぼったものを、すりごま、しょう油、好みでみりんかはちみつを加えたもので和えます。
■ はこべの天ぷら
やや薄めにといた衣に、1cmぐらいに切ったはこべを混ぜ、かき揚げ風にカリッと揚げます。
■ はこべ 汁の実
1cmぐらいに切って汁に浮かせます。
 
 
 
● くこ
 
くこは、長い間利用し続けているとめざましい不老長寿の効果をあらわす代表的植物である。
 
その一つのあらわれは、視力の衰えの防止に威力をあらわれることで、古い本には「あたかも消えかかった灯明に油をさしたようになる」と書かれている。
したがって、かつての爆発的くこブームの終わりとともに、それとは無縁となってしまった人は、大変惜しいことをしたことのなる。
 
くこは、春、秋に新芽を出す。その軟らかい葉をくこ飯にすると、くこ特有の風味が満喫できる。
炊き上げたご飯に、油炒めしたくこを混ぜ込めばよい。
このほか、天ぷら、ゴマ和え、汁の実などにいろいろと工夫して用いるといいだろう。
 
どんな成分によるのかはわかっていないけれど、くこはとくに消化器、循環器、呼吸器の機能を健全にし強化する。
 
実際、慢性胃炎、肝臓病、高血圧、肺結核がよくなったという例が多い。
血管の老化を防止する作用もあるので、動脈硬化の防止に役立つ。
また、低血圧や冷え性にもよく効くことから考えると、自立神経機能の安定化作用もあるらしい。
 
くこ茶にして用いても、同様の効果が得られる。
これは乾燥した葉を香ばしくほうじて用いる。
番茶のように熱湯を注ぐだけで飲めるから便利でもある。
ただし、煎じ汁は感化作用を持っているから、便秘症の人は乾燥した葉を煎じて飲む方法がいいだろう。
 
また、ふりかけにして利用する、という手もある。
夏に、葉・つぼみ・花などを採取して、水洗いした後、陰干しして、こんがり炒って粉末にして用いるのである。
これに、ミネラル食品であるこんぶ、のり、ごまの粉末に、焼塩(自然塩を炒ったもの)を混ぜれば、すばらしい浄血・健脳ふりかけだ。
 
くこはまた、大変な強壮・強性食品である。
それもそのはずで、くこは非常に生命力の強い植物。
挿し木で容易に発根するばかりか、くこ風呂に使った後の実からも発芽するほど。
強壮・強制効果を得るためには、若葉を生食するか、またはくこ酒を飲むとよい。
 
くこ酒は、乾燥したくこの実(漢方薬店で売られている)300〜500gに、焼酎1.8?を注いで、3ヶ月以上ねかせておくとできる。
これを毎晩盃に1〜2杯ずつ飲む。決して飲みすぎないこと。
好みではちみつで味つけしてもよい。
このくこ酒は、そのほかに糖尿病、不眠症、冷え性、不感症にも有効である。
 
ところで、くこ風呂は、薬草学の古典に「くこ葉の煎湯は、人をして光沢ならしめ、百病を生ぜざらしめる」と書かれているように、美容、強壮効果が大だ。
葉だけでなく、皮膚機能を健全にする作用が著しい実も、一緒に用いるとよい。
煎じ汁を風呂に入れて、普通に入浴すればよいのである。
 
熟したくこの実を、同量の本物のごま油に浸して2ヶ月以上おいたものを頭皮にすり込むと、白髪止めとなり、ヤケドにも有効だ。
 
 
■ くこ飯
@くこは新芽を摘み、洗ってから、自然塩ひとつまみ入れた熱湯でさっとゆでるか油炒めにして塩味をつけておきます。
A玄米飯は塩を加え、軟らかめに炊いておきます。
@とAを彩りよく混ぜます。
■ バター炒め
塩ひとつまみ入れた熱湯でサッとゆで、冷水に冷まして水気を切り、植物性バターでいためます。
塩、こしょうで味つけします。
■ ごま和え
ゆでてしぼったものを、すりごま、しょう油、好みでみりんかはちみつを加えたもので和えます。
■ からし和え
やや薄めにといた衣に、1cmぐらいに切ったはこべを混ぜ、かき揚げ風にカリッと揚げます。
■ 天ぷら、 汁の実
天ぷらはかき揚げ風に、知るのみは知るのでき際に浮かせます。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001