あんな話 こんな話  72
 
森下敬一 『食べもの健康法』 より その13
 
● いわし
 
栄養のバランスをとる最も確実な方法は、丸ごと食べることである。
つまり、魚であれば、頭・尾・骨・皮・肉・内臓など、生きて泳いでいたときのままを、そっくり食べることだ。
 
生物は栄養のバランスが完全にとれているから生きていられるわけで、その生きているものを丸ごと食べれば、栄養成分をかたよらないで摂取できる道理であろう。
 
いわしは、小魚である上に、骨も柔らかいので、丸ごと食べるのにおあつらえ向き。
丸ごと食べると、いわしの主成分である蛋白質、脂肪、炭水化物は、いわし自身が持っているビタミン、ミネラル、酵素などの有効成分によってスムーズに代謝される。
 
そのため、胃腸に余計な負担をかけず、肝臓や腎臓を痛めつけることもなく、血液を汚さないで、体の構成成分やエネルギー源にできる。
 
本当のスタミナ食とは、このような食物をいうのである。
食品分析値がどんなにすばらしいものであっても、うまく代謝されないで、内臓を過労に追い込んだり、血液を汚すものでは、スタミナ食とはなりえない。
 
いわしは大量漁獲されるところから下級魚扱いされているけれど、決して下等な食物ではない。
安価な強壮・強精食品なのだ。
 
いわしには体質を陽性化する効用もある。
細胞の働きを盛んにして、体の活力を高めるのである。
このため特に子供では、虚弱体質・内向的性格を改造して、活発で、頭の回転のよい積極的な性格を作るのに大いに役立つ。
心身の改造は若いときほど容易なのだ。
 
骨ごとそっくり食べられるいわしは、カルシウム補給源としても最適。
日本の土壌にはカルシウムが非常に少ないから、意識的に補給を心がけないと欠乏に陥りやすい。
病気に対する抵抗力を強め、神経を安定化してイライラやノイローゼを防ぐには、カルシウムを十分に摂ることだ。
 
またビタミンA、Dが多いから、皮膚や粘膜の抵抗性を高め、骨を丈夫にする。
 
いわしは、公害物質による汚染も少ないといわれている。
公害物質は食物連鎖によって次第に濃縮されていくが、いわしは他の魚と違って、成魚になってもプランクトンしか食べないからだ。
 
いわしは、まいわし、うるめいわし、かたくちいわしなど種類が多く、ほとんど一年中売られている。
はらわたが飛び出しておらず、手にとって見てピンと身のしまっている鮮度の高いものを選ぶことが大切。
から揚げにしたり、全体をすりつぶしてつみ入れにすると、骨も苦にならずに食べられる。
 
釜揚げちりめん、ちりめんじゃこ、シラス干し、カエリ、ゴマメ、煮干し(イリコ)、丸干し、目刺しはすべていわしの稚魚・幼魚を加工したもの。
そのまま、あるいは焼いたり、おろし和えなどで簡単に食べられるから、大いに活用したい。
 
 
■ ちりめんじゃこの寿司
材料(4分)
・玄米・・・3カップ  ・ミネラル水・・・玄米の2割増し  ・ちりめんじゃこ・・・40g
・合せ酢(米酢・・・大さじ4、みりん・・・小さじ3、自然塩・・・小さじ1)
・自然酒・・・大さじ2  ・しいたけ・・・中2枚  ・油揚げ・・・1枚  ・しその葉・・・4枚
・きゅうり・・・1/2本  ・しょうが、干し菊、しょう油・・・各少々
作り方
@玄米は2割増しの水で普通に炊いておきます。
A合せ酢は、少し煮立てて、冷ましたものを、ご飯にふりかけ、切るように混ぜ合わせ、寿司飯をつくります。
Bちりめんじゃこは自然酒に漬けておきます。
Cしいたけと油揚げは千切りにして、しょう油、みりんで下煮します。
Dしそ葉、きゅうり、しょうがは千切りにし、干し菊は塩湯にサッと通し、ほぐします。
E、BCを寿司飯に混ぜ合わせ、お皿に盛りつけて、上にDをきれいに飾ります。
 
 
 
● いか
 
日本人の大半はいかが好きだ。
一年中、日本近海で取れるから、値段も安く、ご飯のおかずはもちろん、酒の肴にも、おやつにもできる。
 
日本人は、もともと穀菜食民族である。
けれども周囲を海で囲まれている日本列島では、当然海産物も利用してきた。
また、海産物は日本人の生理にとって必要不可欠でもあった。
 
モンスーン地帯で雨量が多く、しかも山岳列島ゆえに、土壌中のミネラルはどんどん洗い流され、川や海に移行していってしまう。
深刻なミネラル不足に陥りやすいのも、そのためである。
だから、陸地から溶け出て行ったミネラルを受け止めている魚介や海藻を食べなければならないわけだ。
 
幸い、魚介類は、人間の体にスムーズに消化処理される食物である。
人類は進化の過程で、海辺で生活していた一時期があり、魚介類には十分適応しているからだ。
同じく動物性食品であるとはいえ、血液を汚す造病食である動物性蛋白質(肉、牛乳、卵)とは、全く違っている。
 
ただし魚介類も、健康にプラスさせるためには大事な約束事がある。
原則として全体食をする、ということだ。
切り身や刺身として食べるのではなく、頭から尻っぽまで、また骨も皮も内蔵も丸ごと食べるのである。
こういう食べ方をしたとき、効果的にミネラル補給ができ、体質陽性化作用が得られる。
 
シラスボシがその典型であることがわかろう。
とはいえ、それ以外のものは失格というわけではない。「原則として」という点をよく理解したいのだが、人間の生理には受けつけられない部分(貝の殻や目玉、いかの甲など)を除くのはやむを得ない。
それぐらいのマイナスは、内臓食(塩辛など)や下等小動物(ナマコ、クラゲ、ウニなど)で十分に補いがつくからだ。
 
そういう意味からも、いかはありがたい食べものだ。
全体が均質的になっているので、部分食も、実質的には全体食になるからだ。
 
いちばん理想的なのは、やはり正真正銘、全体食のできるホタルイカである。
主として富山県でとれる10cm未満の、見るからにかわいらしいいかだ。
これをサッとゆでて、ワサビしょう油で食べると、ワタの芳醇な味わいが口中に広がる。またからしみそで食べるのもオツである。
 
特にいかに目を細めるのは左党だ。
アルコールをとるときにいかを肴やつまみにするのは、実に合理的なのである。
 
軟体動物であるいかはタウリンがたっぷり含まれている。
このタウリンには優れた強肝作用がある。
そして、酒は本質的に体質を陰性化させるものなので、陽性化作用をもつ動物性食品と組み合わせてとるのは望ましいわけだ。
ようかんや大福もちでもつまみになる、などとへんにイキがっている人は、脳軟化症や糖尿病の危険大となる。
 
いかは60℃以上の高温で煮ると、タンパク質ミオシンがゴム状になり、固くなる。
それ以下で温めるような感じで煮ると、いか自身がもっている蛋白質分解酵素が十分に活動するので、驚くほど柔らかく煮える。
 
背の部分に黒褐色の斑点が密集している艶やかなものが新鮮だ。
その部分を指先で軽く押してみて、この斑点が小さくなったり、大きくなったりするのは、まだ組織の弾力性が健在なわけでイキのいい証拠である。
これをいかのチョウーチンと呼んでいる。
 
鮮度が落ちてくると、次第に身の透明感がなくなり、白くなってくる。
皮全体がピンクがかったものは、もはや食べられない。
 
スルメは、剣先いか、するめいかなどを開き、内臓を取り出して乾かしたもので、生干しからカチカチになるまで約半月くらいかかる。
“肴は焙ったいかでいい”と歌われているのは、むろんスルメのことで、焙る――つまり“軽く”焼くことが、ここでも大事である。
入梅期から夏に出回るものを一番スルメともいう。
肉が薄くて柔らかい。
五島列島で作るスルメが、一番スルメの一級品といわれている。
 
 
■ いかとわかめの炒めもの
材料(4人分)
・いか・・・2杯  ・自然塩、自然酒、くず粉・・・各少々  ・ごま油・・・1/2カップ
・生わかめ・・・80g  ・ながねぎ・・・1本  ・にんにく・・・1片
・合わせ調味料(しょう油、自然酒、米酢各大さじ2、だし汁大さじ3、みりんこさじ1、くず粉大さじ1)
作り方
@いかの胴は1.5cmぐらいの輪切り、足は3cmに切って、塩、酒、くず粉をまぶして低温のごま油にサッと通します。
A生わかめは水洗いして、熱湯を通して塩抜きし、ざく切りにします。
長ねぎは3cmのぶつ切りにします。
Bニンニクは薄切りにしてごま油大さじ2杯で炒め、Aを加えて炒め、合わせ調味料を入れて一混ぜし、とろみがついてきたら、@のいかを加え、さっと炒め合わせてごま油を少々落とし、香りづけをして仕上げます。
 
■ いかのガーリック・サラダ
作り方
@いかはサッとゆでて細切りにします。
A白みそに米酢、にんにくのすりおろし、サフラワー油を加えてソースをつくります。
Bレタスは大きくちぎって冷水につけ、パリッとさせてから水気を取り、器に敷き、いかをソースで和えて盛り、刻みパセリをふりかけます。
 
 
 
● かき
 
人類がかきを食べるようになったのは有史以前からで、その証拠に貝塚からかき殻がたくさん出てきている。
それだけ人間の生理はかきに適応しているから、スムーズに消化・代謝される。
だから、同じ動物性食品でも、動物蛋白食品(肉、牛乳、卵)のようにひどく血液を酸毒化することはない。
 
かきには、体蛋白から赤血球をこしらえる際に不可欠なミネラルである鉄、銅、マンガン、ヨードなどがたっぷり含まれる。
レバーと違って腸機能を混乱させることもないから、それらの有効成分は確実に利用されるわけだ。
 
すぐれた強壮作用をあらわすのは主にグリコーゲンおよびビタミンB群によるもの。
これらの成分によってエネルギー代謝が効果的に行われるようになるためだ。
従って、体質が虚弱化したときにあらわれやすい寝汗にも、かきは卓効をあらわす。
 
また強精食品としても有名だ。
かき独特の美味しさを生み出しているもとは、かきの生殖腺であるだけに、アルギニンなどのホルモン成分がたくさん含まれている。
 
だから、このホルモン成分を失ってしまった後にかきはまずくなる「桜が散ったらかきを食べるな」といわれるのも、そのため。
別に有害というわけではない。
この間の事情は、かきの生態のアウトラインをつかんでいると理解しやすいだろう。
 
かきはすべてオスとして生まれ、産卵期になるとメスに性転換して産卵する。
産卵に備えて生殖巣が熟し始めるのが5〜8月で、そのため体内の栄養分を消費してしまうので、まずくなるわけだ。
産卵をすませた9月頃からは徐々に体成分も充実して、美味しくなってくる。
そして、味の絶頂期は12〜1月の厳冬期だ。
 
さらにかきには、神経を静めるカルシウム、視神経の疲れを取るビタミンAも豊富なため、不眠症、夜尿症、性欲減退、眼精疲労などに有効だ。
 
かき鍋、かき飯、かきフライなどいろいろな食べ方が楽しめるが、通人は生がきに限るともいう。
生がきにユズ汁をかけて食べるのだ。
そういえば世界一多くかきを食べるフランス人も、ほとんどレモン汁をかけるだけで生食している。
 
ただ残念ながら、公害物質による汚染の心配もあるし、それ以上に、不自然食による現代日本人の腸機能の弱体化減少もある。
食中毒などの害作用防止のため、なるべくなら十分に加熱したほうが懸命である。
 
ついでながら、かき殻にも薬効のあることを申し添えておこう。
かき殻は、かき自身が吐き出した唾液が石灰化したもので、天然の炭酸カルシウムやリン酸カルシウムを大量に含んでいる。
粉末を飲むと、胃酸過多、神経衰弱、タンなどに有効。
 
 
■ かきのかぶら蒸し
材料(5人分)
・かき・・・10粒  ・ぎんなん・・・5粒  ・しいたけ・・・5枚  ・うずまき麩・・・10個
・三つ葉・・・5本  ・かぶ・・・5株  ・くず粉・・・大さじ2と1/2
・だし汁・・・少々  ・自然塩・・・少々  自然酒・・・小さじ2
・くず餡(だし汁1と1/2カップ、自然酒大さじ1、しょうゆ大さじ2、くず粉大さじ1、みりん小さじ2、ユズの皮少々)
作り方
@かぶはすりおろし、くず粉、だし汁、自然酒、塩を混ぜておきます。
Aぎんなんは外皮をむき、塩ゆでして、薄皮をむきます。
三つ葉はサッと熱湯をかけてしんなりさせ、1本ずつ結んでおきます。
しいたけは少しのだし汁で煮て、しょう油、みりんで味つけしておきます。
かきは塩水できれいに洗っておきます。
B器にかき、しいたけ、巻き麩、ぎんなんを置き、@をかけてフタをし、蒸気の立った蒸し器で15分くらい蒸します。
Cくず餡をつくりBをかけて、結び三つ葉とユズの皮を飾り、熱いうちに召し上がってください。
 
 
 
● しじみ
 
黄疸にかかって、さんざんしじみ汁を飲まされた経験の持ち主は結構多いはずだ。
しじみが黄疸の特効食品であることはつとに知られている。
そして、しじみは日本中のほとんどの地域の川、池、湖、沼で取れる。
旬は夏で「土用しじみは腹ぐすり」といわれているかと思えば、寒しじみの味は最高と聞かされている。
 
また、歳時記では春の部に入れられていて、「瀬田しじみ藤咲きしかば甘からん」(十七星)などと詠まれている。
要するに、どこでも、いつでも入手できたわけだ。
 
しじみが黄疸に卓効をあらわすのは、第一にビタミンB12が豊富なため。
B12は赤いビタミンと呼ばれているもので、強肝作用が著しい。
そしてコバルトが含まれている。
コバルトは微量元素で、すぐれた造血・強肝作用をあらわす。
さらにアミノ酸の一種であるタウリン酸が多く含まれ、これは胆汁酸と結合して解毒作用をあらわす。
 
しじみを食べると、体内でこれらが総合的に働いて、肝臓の炎症を治すとともに、機能の強化がはかられるので、典型的な肝障害の一つである黄疸に著効をあらわすのである。
同様に肝臓病全般、胆のう炎、胆石症などにも有効。
さらに寝汗、むくみ、ニコチンの解毒などにも効果をあらわす。
肝臓の機能が強化されるため、夜盲症その他の目の障害にも有効である。
 
今、肝臓障害の症候はなくても現代人は、しじみの薬効を活用することが望ましい。
それは、肉食や不自然食、公害食のせいで、みんな多かれ少なかれ肝臓機能の失墜を起こしているからだ。
 
前述のように、しじみにはかなり強力な造血作用がある。
それは、B12、コバルトなどの造血促進因子による。
そのため、しじみを常食していると、貧血症が防止でき、キズの治りも早まる。
病後や産後の体力回復も早められ、母乳のでもよくなる。
なおコバルトには、成長促進作用も見られる。
そのほか、カルシウム、鉄、カロチン、ビタミンB1などの有効成分も含まれているので、虚弱体質の改善に卓効をあらわす。
 
しじみには、脳神経の興奮を鎮める作用もあるから、イライラしやすい人、不眠症の人も大いに活用したい。
 
以上のようなしじみの薬効を最大限に引き出すには、みそ汁にするのがいい。
みその有効成分と相乗効果をあらわすからだ。
それにしじみに含まれるコハク酸がみその風味と最高にうまくマッチする。
しじみの薬効を手軽に、より効果的に活用するためには、健康食品としてのしじみエキスを利用するのも賢い方法だ。
 
 
■ しじみのみそスープ
材料(4人分)
・しじみ・・・1カップ  ・セリのみじん切り・・・適宜  ・だし汁・・・4カップ
・みそ・・・60g  ・三つ葉・・・5本  ・かぶ・・・5株  ・くず粉・・・大さじ2と1/2
作り方
@しじみは真水の中で砂を十分はかせておきます
Aせりはよく洗い、根ごとみじん切りにします。
Bだし汁にしじみを入れ火にかけ、煮立ってしじみが口をあけてきたら、みそをといて入れ、煮立つ寸前にせりを入れ、火を止めます。
 
■ しじみのむきみとねぎのみそ和え
材料(3人分)
・しじみのむきみ・・・50g  ・ねぎ・・・大1本  ・麦みそ(甘口)・・・適宜
・しょうが汁・・・少々  ・ミネラル水・・・適宜  ・自然酒・・・小さじ1
・自然塩・・・少々
作り方
@しじみのむき身に自然酒小さじ1杯をふりいれ、塩少々で煎り煮します。
Aねぎは小口から薄くきり、サッと熱湯をかけ、ざるにあげておきます。
Bみそにしょうが汁とミネラル水を加え、適当な濃度のみそをつくり、@Aをあわせて、Bで和えます。
 
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001