食品添加物のトップセールスマンが明かす
食品製造の舞台裏
知れば怖くて食べられない!
安部司著
『食品の裏側』
より その4
 
 
◆「低塩梅干し」は『高塩梅干し』より体に悪い!?
 
「添加物を大量に使う食品」のもう一つは漬物です。
日本人の生活に欠かせない漬物ですが、20〜30年ほど前から塩分の過剰摂取の原因として槍玉にあがるようになりました。
 
そのころからです。
漬物の加工現場に転換期が訪れたのは。
それまでは塩と、せいぜい着色のためのウコンかシソぐらいで作られていた漬物が、添加物をたっぷり溶かし込んだ「添加物のプール」でつくられるようになったのです。
 
さらに、低塩漬物がこれに拍車をかけました。
私が添加物商社に勤めていた時期は、塩分の取りすぎが高血圧になるとしきりに言われ始めたころでした。
それを逆手にとって、低塩で一儲けできないかと思い立ち、早速研究を始めたのです。
 
最初に考えたのが「低塩梅干」でした。
通常、梅干しには梅の重量の10〜15%の塩を使います。
塩は、味付けのためばかりでなく、保存(カビ)、色落ち防止、それから食感を保つという役目もあります。
 
低塩で塩を減らすなら、この役割をほかの何かで補う技術が必要になってきます。
すなわち、味付けは「化学調味料」、保存は「ソルビンサン」、色落ち防止には「酸化防止剤」、酸味は「酸味料」で補うのです。
 
しかし、これではまだ「しょっぱさ」は従来品と同じです。
そこで「甘草」「ステビア」「サッカリン」などの甘味料を加えてこれを抑えます。
食べる人の舌を「塩分が半減した」と錯覚させるのです。
これで「低塩梅干」の完成です。
 
この技術を漬物にも応用。
併せて「低塩漬物」シリーズとしてたいヒット商品となりました。
今でこそ、こうした「低塩漬物」は当たり前ですが、当時としては画期的な商品でした。
 
たくあんなども「新漬たくあん」などとして、大いに売れました。
新漬たくあんが好評だった理由は、低塩であることももちろんですが、食感がポリポリ、シャキシャキしていること。
これは、昔ながらのおばあちゃんの手作りたくあんでは出ない感触なのです。
添加物で作り上げた食感といっていいでしょう。
みんな添加物の味を「おいしい」といって食べているのです。
 
 
◆梅干しの形をした添加物
 
最近のことですが、人からもらった梅干しを見て私は思わずうなりました。
「塩分5%」とあるのです。
私が作っていたころの低塩梅干しは、前述のように塩分は8%か10%がせいぜいでした。
その分、技術が進歩したということでしょうか。
 
しかし食べてみて絶句。
「添加物の味きき」をいやがうえにもしてしまう私にとって、それはもう梅干しではありませんでした。
「梅風味の添加物」あるいは「梅干しの形をした添加物」にしか思えないのです。
 
塩分5%といったら、常温では保存できません。
腐敗を防ぐため、アルコールにつけてあるのです。
梅自体も、梅焼酎に使われた「リサイクル梅」なのか、風味もうまみもない。
その分、「グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)」「天草」「ステビア」「グリシン」「ソルビット」「かつおエキス」「たんぱく加水分怪物」で味を補う。
合成着色料も2〜3種類使って鮮やかな色を出す。
すっぱさは「酸味料」で出します。
 
要するに、添加物で作られた「5%の低塩梅干し」なのです。
それは梅干しが持つ、素朴な味(塩と酸味のバランスが取れ、梅の香りが口に広がるという風味)とは程遠い代物です。
日本人が伝承してきた、塩としその葉だけで作る梅干しは、いったいどこへいってしまったのでしょうか。
 
 
◆「低塩」の代償は誰に?
 
一度スーパーで売られている「低塩漬物」をひっくり返して、原料表示を見てみてください。
「アルコール」「調味料【アミノ酸等)」「pH調整剤」「ステビア」「サッカリン」「酸化防止剤」「ソルビン酸」「着色料」「酸味料」「リン酸塩」「増粘多糖類」「天草」・・・・・・。
びっくりするぐらい大量の添加物が使われていることに気づくはずです。
 
「低塩だから健康によさそう」
そう思って買っているのに、その実、「有害」な添加物を何種類もせっせと摂取しているのです。
「低塩」の代償は、まぎれもなく添加物の大量摂取。
そして、それを引き受けるのは私たち自身に他ならないのです。
漬物の原材料と添加物
無添加のたくあん 一般のたくあん
・干し大根  ・米糠
・食塩  ・アジ干物
・昆布  ・砂糖





 
・大根  ・食塩  ・ぬか、ふすま
・グルタミン酸ナトリウム  ・グリシン
・乳酸  ・ポリリン酸ナトリウム
・ブドウ糖果糖液糖
・サッカリンナトリウム  ・甘草
・ステビア  ・グアーガム  ・ミョウバン
・ソルビン酸カリウム
・黄色4号  ・黄色5号  ・赤色3号
 
「低塩漬物」には、もう一つ落とし穴があることも付け加えておきましょう。
それは「塩分の過剰摂取」という問題です。
「低塩漬物」なのに、塩分を取りすぎるとはどういうことか。
 
「低塩漬物」は一口食べたときに、しょっぱさを感じさせないように、塩を控え「甘味料」を加えてできています。
昔ながらのしょっぱい漬物なら、1切れか2切れで済んだものを、「しょっぱくない」低塩漬物の場合は、つい5切れも6切りでも箸が進んでしまう。
逆に言えば、たくさん食べないと、満足できないのです。
また「低塩漬物だから少しくらい多く食べても大丈夫」という気のゆるみもあるはずです。
 
その結果「昔ながらの漬物」を食べているよりも「低塩漬物」を食べたときのほうが塩分の摂取量が多い、などということになるのです。
 
「低塩漬物」を開発した私がいうのもおかしな話ですが、漬物はいい塩でしっかり塩味のきいたものを数切れつまむ、という食べ方が一番いいと思います。
そして、家で食べる漬物ぐらいは自分で作ってはいかがでしょうか。
 
いまや漬物はスーパーで買うのが当たり前という時代ですが、わざわざ余計な添加物を摂取する必要はありません。
添加物の使用量が比較的少ないものもありますが、それを探し出すのも難しいもの。
 
一夜漬け、浅漬けでいいから、自分でつけるのが一番です。
自分でつけるといっても、市販の「浅漬けの素」を使うということではありません。
あれは添加物をたくさん溶かし込んで作られていますから、結局は完成品を買うのと同じことになってしまいます。
 
浅漬けに必要なのは、いい塩とせいぜい細切り昆布程度です。
やってみれば案外簡単にできるものです。
 
 
◆「おばあちゃんの手づくり漬物」に怒り
 
「おばあちゃん、この漬物はおばちゃんが家で作っているものと同じなの?ずいぶんいろんな薬を使っているけど、家でもそうやっているの?」
ある県の「村おこし」のイベントに出席した私は、模擬店で販売されていた漬物を手に取り、売り子のおばさんにそう尋ねました。
 
「いいや、家で作るのは塩だけしか使いません」
そういう答えが返ってきました。
その漬物の製造者は、農協の婦人部。
袋には「おばあちゃんの真心の味」
「昔ながらの製造方法で手間隙かけて作りました」などというキャッチフレーズが踊っていました。
 
しかし、「裏」の表示には原材料の野菜の他、「甘草」「ステビア」「酒精」「着色料(気4)」「ソルビン酸カリウム」「酸化防止剤」など、添加物がずらりと並んでいるのです。
スーパーに並んでいる添加物が大量に入った漬物となんら変わりません。
にもかかわらず、それをいかにも「手づくりの素朴なおばあちゃんの漬物」と称して売っているのです。
 
おばあちゃんが漬物を自宅で作るときに、果たして「ステビア」や「酸化防止剤」を使うでしょうか。
「家で使わないのなら、どうしてこの漬物を漬けるときには“白い粉”を使うの?」
重ねて尋ねる私に、おばちゃんは少々困り顔。
「家では使わなくても、工場で作るときは、こういうのを使いなさいといわれて、それで入れています」
 
それを聞いて、私は怒りを禁じえませんでした。
目の前のおばちゃんにではなく、この添加物を大量に使用した「おばあちゃんの手作り漬物」を平然の販売している農協の姿勢に対してです。
 
そのおばちゃんは、私にこう漏らしました。
「私らは、わけのわからん“白い粉”を溶かし込んでつくったものは、気持ち悪いです。だから本当は家では食べません」
それは添加物を大量に流し込んで漬物をつくる「現場」の、紛れもない本音だったのでしょう。
 
 
 
2章 食卓の調味料雅が
「ニセモノ」にすりかわっている!?
 
◆特売しょうゆはなぜ安い?
 
「ああ、よかった、まだ売り切れていなかったわ」
夕方、少々慌ててスーパーに駆け込んできたM子さん(37歳)は、残り少なくなった特売しょうゆを手にとって安堵の表情。
 
今日はしょうゆの特売日です。
「いつも1リットル258円のしょうゆが、月に1度の特売で138円になるの。ウチはいつもこの値段で買っているのよ」
ちょっと得意そうに微笑むM子さん。
なかなか節約上手の奥さんのようです。
 
しかし、M子さんが購入したこの特売しょうゆ――実は、ずばり「しょうゆ風調味料」に他なりません。
「しょうゆ風調味料」とはなんでしょう。
それは、本物の醤油とは違う製造法で作られた「醤油の代替品」のことです。
「ニセモノ」といっては少し語弊があるかもしれませんが、それでも本物のしょうゆとは全く別物です。
 
こうした添加物を駆使して作られた「ニセモノ」が、現在、調味料の世界にはびこっています。
私たちの食卓の調味料は、知らないうちに「本物」から「ニセモノ」にすり替わりつつあるのです。
 
調味料は、料理の味を決定付ける基本です。
和食はいまや世界に誇るすばらしい食文化。
その和食が調味料から崩れようとしている。
これは大変なことではないでしょうか。
 
 
昔ながらのしょうゆの原料は、大豆と小麦、塩とこうじです。
こうじから作られた酵素が、大豆や小麦のタンパク質をアミノ酸に、でんぷんを糖分に変えます。
これがしょうゆのうまみの素です。
 
この「うまみ」は実に多様で、甘みもあれば酸味もある。
こうばしい香りも出る。
化学では解析できないぐらいの複雑な味が醸し出されるのです。
また、しょうゆの色はアミノ酸が糖の一部と結びついてできます。
 
すべてが麹の力だけでしょうゆを作り出すのです。
手間もかかれば時間もかかる。
出来上がるまでには1年以上かかります。
これが昔ながらのほんもののしょうゆです。
 
 
◆「しょうゆ風調味料のつくり方」
 
これをもっと早く、コストをかけないでできないか――そこからしょうゆの代替品の開発が始まりました。
 
しょうゆのうまみの素はアミノ酸です。
このアミノ酸。
時間をかけて発酵させなくても、大豆などのタンパク質を塩酸で分解すれば、簡単につくることができます。
このとき使う大豆は、油を絞った絞りかすである脱脂加工大豆で十分。
 
「大豆からアミノ酸」という図式で、「鳥の羽からアミノ酸を開発しているメーカーもあったほどです。
こうして出来たアミノ酸液が特売しょうゆのベースとなりますが、これにはしょゆらしい味も香りも色もありません。
 
ところが、これをいかにも本物らしく仕立て上げるのが添加物の力です。
まず「グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)」でうまみを出し、「甘味料」で甘みをつける。
酸味を出すために「酸味料」を入れます。
「増粘多糖類」を数種入れてコクととろみを出します。
色は「カラメル色素」で着色します。
香りづけのためには本物しょゆを少々足します。
日持ちが悪いために「保存料」も加えます。
これで「しょうゆ風調味料」の完成です。
 
本物しょうゆと見かけはそっくりではありますが、製法は全く違う。
本物しょうゆは1年以上かけてつくられると述べましたが、「しょうゆ風潮魅了」なら1ヶ月もかからずにできます。
混ぜ合わせるだけですから簡単です。
味だって、本物しょうゆが持つ複雑なうまみにはとても及びません。
煮物を作れば違いは明らかです。
 
 
◆「1リットル198円」と1リットル1000円の違いは?
 
昔ながらの本物しょうゆを「丸大豆しょうゆ」と呼ぶのに対し、こうした「しょうゆ風調味料」は「新式醸造しょうゆ」などと称して売られています。
 
「丸大豆しょうゆ」と「新式醸造しょうゆ」の違いは、ラベルを見ればすぐわかります。
「丸大豆しょうゆ」の原料は「大豆、小麦、塩」のみで、添加物は一切ありません。
それに引き換え、「新式醸造しょうゆ」のほうは添加物がいっぱい並んでいます。
しょうゆの原材料と添加物
丸大豆しょうゆ 新式醸造しょうゆ
・丸大豆
・小麦
・塩






 
・脱脂加工大豆  ・アミノ酸液
・ブドウ糖果糖液糖
・グルタミン酸ナトリウム
・5‐リボヌクレオチドナトリウム
・グリシン  ・甘草  ・ステビア
・サッカリンナトリウム
・CMC‐Na(増粘多糖類)
・カラメル色素  ・乳酸
・コハク酸  ・安息香散プチル
 
たとえば夕食のメニューが「手作りの)煮物」と「刺身」だったとします。
添加物など一切使っていない献立のはずなのに、特売しょうゆを使うだけで、7種類も8種類も添加物を摂取してしまうことになります。
 
伝統的な「丸大豆しょうゆ」は1リットル1000円。
「新式醸造しょうゆ」は1リットル198円。
M子さんが買っていたように、特売ならもっと安くなります。
作り方の違いを考えれば、値段が大きく違うのは当然のことです。
 
 
同じしょうゆといっても、アミノ酸液を無理やり添加物でしょうゆ風に仕立てたこんな「しょうゆ風調味料」が、「丸大豆しょうゆ」と同列に扱われていいのでしょうか。
 
しょうゆ職人が熟練の技で1年以上かけて作る「丸大豆しょうゆ」に、そもそも失礼な話ではないでしょうか。
しょうゆではなく、「しょうゆ風調味料」または「しょうゆ風塩水」ときちんと明示して、本物しょうゆとは区別しなくてはいけないものです。
 
女性はダイヤモンドが好きですが、ほんもののダイヤモンドは非常に高価です。
一方、人口ダイヤというものがあって、値段は本物よりかなり安い。
この2つは、見た目は似ているけれど、全く別物です。
同じ土俵で比べられるものではない。
 
「丸大豆しょうゆ」と「新式醸造しょうゆ」――その2つにもそれぐらいの違いがある。
そしてそれが、1000円と198円の違いなのです。
 
 
◆みりんにも「純米みりん」と『みりん風調味料』がある
 
しょうゆだけでなく、お酒もみりんも同じです。
「みりん風」「酒風」が、あたかも「本物であるかのような顔をして売られています。
 
とくに多くの人が誤解しているのが、みりん。
みりんは本来、焼酎ともち米、米こうじで作ります。
もち米と米こうじを、焼酎の中で半年から1年ほど熟成させて作ります。
この間にこうじの働きで、もち米のでんぷんがブドウ糖やオリゴ糖などに糖化され、さまざまな甘みが醸し出されます。
アミノ酸や酸味や香りも作られ、みりんの独特の風味が生まれます。
 
このみりんは、そのまま飲んでもおいしい。
昔は台所仕事をする女中さんのひそかな楽しみだったくらいです。
正月のおとそとしても飲まれていました。
 
しかし、今のみりんはとても飲める代物ではありません。
昔のみりんとは製造法も味も全く異なるものだからです。
昔ながらのみりんを「純米みりん」とすれば、今スーパーで売られているものは「みりんタイプ調味料に過ぎません。
みりんの原材料と添加物
純米みりん みりん風調味料
・もち米
・米こうじ
・米焼酎

 
・糖類(水あめ、ブドウ糖果糖液糖)
・調味料(アミノ酸等)
・酸味料(乳酸等)
・カラメル色素
 
この「みりんタイプの調味料」にも、実は「発酵調味料」と「みりん風調味料」の2種類があります。
 
「発酵調味料」のほうは、米やとうもろこしなどを原料にアルコールを発酵させ、「ブドウ糖」や「グルタミン酸ナトリウム(化学調味長)」「酸味料」で味を調えて作ります。
甘みを強くしたものが「みりんタイプ」、日本酒のように調整したものが「料理酒」です。
 
「発酵調味料」は15%程度のアルコールを含みますが、製造の工程で塩を加えるので、分類上では酒類になりません。
つまり酒税がかからず、安いということで、「本みりん」などに変わって人気を集めるようになりました。
 
一方、「みりん風調味料」はシロップを原料に、同じく「グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)」や酸味料などで味をつけ「カラメル色素」で色をつけたもの。
要するに、ただのシロップを添加物でみりん風に仕立てた「色つきシロップ」です。
 
味も調理効果も、本物のみりんとは比較になりません。
アルコール分は1%以下で、酒の免許が取れなかった時代にスーパーなどによくおいてありました。
だからといって、この「みりん風調味料」は「純米みりん」ではありません。
この点をみんな勘違いしているのです。
 
この2つは製造法が違うし、味も全く違います。
たとえばサバの煮つけなどをつくれば、違いはすぐにわかります。
「みりん風調味料」で煮つけを朝つくったとすると、夜には色が飛んで、生臭くなってしまいます。
 
一方、「純みりん」ではどうか。
2〜3日経ってもピカピカ光っておいしそうです。
生臭さもないし、煮崩れもしません。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001