食品添加物のトップセールスマンが明かす
食品製造の舞台裏
知れば怖くて食べられない!
安部司著
『食品の裏側』
より その5
 
 
◆「米だけで作った純米酒」VS「米以外も使っている酒」
 
ある日の午後。K氏(31歳)は仕事もそっちのけでインターネットのショッピングサイトを覗き込んでいます。
お世話になった人においしい日本酒を送ろうと、全国の酒をあれこれと探索しているようです。
 
彼の目にとまったのは、ある地方の酒蔵の日本酒。
「米だけで作った純米酒! 飲めば違いがわかります!」 とあります。
「米だけで作った? だって日本酒って、米から作るんじゃなかったっけ?」
米からつくるのが当たり前ならば、わざわざ「米だけで作った純米酒」などと謳う必要もないはずです。
「じゃ、ほかの日本酒はどうやってつくっているのだろう?」
そんな素朴な疑問を抱き、K氏はキーをたたいて検索を始めました。
 
 
K氏が疑問を持つのは至極当然のことでしょう。
最近「純米酒」が、「おいしい酒」だとか「よい酒」であるかのようにいわれるようになりました。
しかしよく考えてみれば、「米だけで作る純米酒」が謳い文句になるということは、「それ以外のものを使ってつくる日本酒」が存在するからにほかなりません。
ここにもしょうゆやみりんと同じく、「本物」と「本物風」が存在するのです。
 
 
◆「米以外も使っているお酒」の作り方
 
日本酒は米に米こうじを仕込み、さらに酵母を使って発酵させて作ります。
このとき、こうじが米のたんぱく質をアミノ酸に変え、うまみ成分を作り出します。
甘味、酸味など、それはそれは多様で複雑な味を作り出すわけです。
これが本来の日本酒の造り方(純米酒)です。
 
しかし、このやり方ではコストも時間もかかり、市場競争に勝てません。
ではどうするか。
甘酒のように溶けたお米を、お酒と酒かすに分けるのですが、その前に「醸造アルコール(種類原料用アルコール)」を加えて増量します。
さらにはアルコールだけでなく、調味料も使います。
調味料として「ブドウ糖」「水あめ」「グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)」「乳酸」「コハク酸」などを加えます。
 
つまり、純米酒をアルコールで増量したものをつくって売るのです。
それが、別名「アルコール添酒」(アルコール添加清酒)と呼ばれるゆえんです。
一部に本醸造で造った純米酒が入っているから、「本醸造」だと名乗っているだけのことです。
それが証拠に、この手の「本醸造」のお酒の「裏」の表示をよく見ると、米、米こうじのほかに、「醸造用アルコール」とちゃんと書いてあるはずです。
 
 
◆一本の純米酒から10本の酒ができる
日本酒の原材料と添加物
純米酒 本醸造酒 普通酒 合成酒
・米
・米こうじ









 
・米
・米こうじ
・醸造用アルコール








 
・米
・米こうじ
・醸造用アルコール
・糖類
・酸味料






 
・醸造用アルコール
・ブトウ糖
・水あめ
・グリセリン
・コハク酸
・グルタミン酸ナトリウム
・グリシン
・アラニン
・酸性リン酸カルシウム
・着色料
・香料
 
勤めていた当時、私も「アル添酒」(アルコール添加清酒)をよく開発したものです。
1本の純米酒から何本もの普通酒を作り、コストを低く抑え安く売っていたのです。
純米酒を薄めるといっても、ただアルコールを入れればいいというものではなく、味を保つためには結構な技術が必要なのです。
 
「本醸造」にはアルコールを添加できる量が決められていますが、一般清酒には決められていません。
逆に言えば、普通酒はいろんなものを添加することで、いかようにも味が調節できるのです。
米と米こうじだけで作る純米酒だと、こういったごまかしはききません。
 
普通酒が純米酒と比べて安いのは当然ですが、さらに安いのが合成酒。
合成酒は、醸造用アルコールにいろんなものを添加して、それらしい味を出したというだけのものです。
酒屋やスーパーで並んでいる一番安いお酒がこれです。
 
「純米酢」「本醸造酒」「普通酒(一般性酒)」「合成酒」
それがお酒の大まかな区分です。
もちろん値段は「純米酒」が一番高く、「本醸造酒」「普通酒(一般性酒)」「合成酒」となるほど安くなります。
 
これとは別に「吟醸」「大吟醸」というお酒の区分がありますが。
これは使う米の精米法の違いでしかありません。
要は米をどれだけ削るかという問題です。
米は外側はたんぱく質、中は糖質が多いので、しっかり削って中心部のほうだけを使えば、その分、糖分が多くなって甘みのあるお酒だできるのです。
ですから「大吟醸の純米酒」というものもあれば、「吟醸の本醸造酒」というのも、当然あります。
 
 
◆値段だけ見て買わないで
 
以上、これがお酒の実態です。
少し前まで「三倍増醸造酒」という言葉がありました。
「三増酒」と略していましたが、アルコール15%の水に添加物を駆使して増量する手法では、何本に増量できるかは「調合」次第ということになります。
 
純米酒の持つ性質をひとつひとつ添加物で置き換えて量を増し、コストを下げる――そこにも添加物のすごさがあるのです。
米だけで作る「純米酒」が「よい酒」「おいしい酒」であるならば、他の酒はどうつくっているのか――ここでもそういった「素朴な疑問」を持ってほしいのです。
 
この章で述べたしょうゆもみりんもそうですが、特売品を見て、なぜこれはこんなに安いのかと考える人が少なすぎるのです。
誰も疑問に思わず、「今日は安い!」「節約できてラッキー」と値段だけ見て買っていく。だから私のような「悪い商人」がどんどん安い「ニセモノ」「まがいもの」を開発していく。
それで主婦はもっと喜ぶ。
悪循環とはまさにこのことです。
 
 
◆塩にだまされるな
 
それから塩。この業界も「うそ」「ごまかし」が相当運びっています。
最近はちょっとした「塩ブーム」で、スーパーやデパートにはさまざまな種類の塩が並んでいます。
人によっては台所に何種類も並べて、用途やそのときの気分によって使い分けているくらいです。
塩は、大きくつぎの4つの種類に分かれます。
 
@精製塩
海水から電気と膜を使って塩化ナトリウムだけを取り出したもの。
塩化ナトリウムの純度が高く、それ以外の成分はほとんど除去されています。
いままで一般的に使われていた食塩がこれに当ります。
 
A輸入塩
いわゆる岩塩や天日塩です。一部海塩もあります。
メキシコやオーストラリア、中国製が多いようです。
 
B再生加工塩
メキシコやオーストラリアから輸入された岩塩や天日塩などを、一度海水で溶かし、塩化マグネシウムなどを加えて再生加工したもの。
 
C自然海塩
海から直接くみ上げ、水分を蒸発させた塩。
日本古来の塩の作り方で、成分をまったく調整しない伝統的な塩です。
「自然海塩」と書かれています。
 
 
◆塩のうま味は海のミルク
 
塩のうまみは、しょうゆと同じで雑味から来るもの。
海の成分がどれだけ含まれているかで決まります。
 
ミネラルが十分含まれている塩は、甘いし、おいしい。
よく「塩は血圧を上げるからダメだ」といわれますが(たしかに99%の食塩はそうなのですが)、こういう塩は血圧も上げないし(むしろ下げます)、体にいいのです。
 
この4つのうち、最もミネラルのほうなのが「C自然海塩」です。
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛など、海の複雑なミネラルがそのまま濃縮されています。
「微量元素」と呼ばれる海のミネラルを豊富に含んでいるのです。
 
同じように、「海水からつくったミネラルたっぷりの塩」のイメージで売られているものに「B再生加工塩」があります。
「○○の塩」などの名称で販売されています。
これはまず、メキシコなどの外国から安い岩塩や自然結晶の天日塩を買ってきで、これを海水の中で溶かし、それを煮つめて結晶化するのです。
 
ところが、岩塩にしろ、天日塩にしろ、ミネラルはほとんど入っていません。
塩を自然結晶させると、ミネラルを押し出してしまいますから、純度が高い塩になってしまうのです。
そこでどうするかというと、「塩化マグネシウム」とか「塩化カルシウム」などを、あとから添加するのです。
これで「海のミネラル入り」の自然園が完成。
 
その土地の海でとれた塩でないのに、いかにもその土地の海水からとったミネラルたっぷりの塩であると誤認されているのも問題です。
中にはそれらしく見せるために、鉄さび(鉄アンモニウム塩)で茶色に着色しているものもあります。
わざわざ着色するのは、玄米や三温糖と同じように考えて、「茶色だわ、これが自然の色なのね」などとありがたがって買っていく人がいるからです。
 
 
◆塩の情報公開を求める
 
塩も醤油と同じで、価格差が非常に大きい調味料です。
1キロ60円のものがあるかと思えば、7000円もするものがある。
 
「しょうゆ風調味料」は問題ですが、しかしながら、醤油業界は情報をすべてオープンにしています。
読まない人も多いけれども、「裏」の表示に全部書いてあるから、知識さえあれば、誰でも「しょうゆ」と「しょうゆ風」の見分けがつきます。
 
しかし、塩業界は全く情報をオープンにしていません。
「裏」を見ても、情報がすべて書かれているとは限らないのです。
いつも買っている「○○の塩」が、○○でとれた塩ではなく、輸入塩に手を加えただけのものだという事実――それを私たちは知りようがない。
つまり、ミネラルが入っているものと入っていないものの違いを見分けられないのです。
 
誤解しないでほしいのは、「ミネラルが豊富に入っている自然海塩だけが本物で、あとはニセモノだから買ってはいけない」と言っているわけではないということです。
値段の違いもり、その人の好みや考え方によって使い分ければいいと思います。
ただ現状では製法はもちろん、ミネラルの種類や量がわからないのです。
見分けがつかなければ、使い分けることもできない――それが問題だと私は言っているのです。
 
塩は製造・販売・輸入が自由化されたのがつい最近のことですから、まだ製造メーカーによって表示がまちまちです。
表記を統一し、情報を公開しようという動きも出てきてはいますが、まだまだ十分とはいえないのが現状です。
 
 
◆酢も砂糖も「ニセモノ」がはこびっている
 
このほか、酢も砂糖も昔ながらの製造法に変わり、添加物を使って「ニセモノ」を作る製造法が主流となってきています。
同じような話になるので詳しくは書きませんが、砂糖について一言だけ書いておきたいと思います。
 
砂糖にも、もちろん添加物が使われています。
三温糖と上白糖の栄養価の差は、黒砂糖に比べれば微々たるものですが、「上白糖は体に悪く、三温糖は体にいい」と言われはじめてから、三温糖が売れるようになりました。
 
そこでメーカーはどうしたか。
上白糖をカラメル色素で染めて「三温糖」として売り出すようになったのです。
ザラメも同じようにカラメルで染めています。
それが証拠に、着色したザラメは水をかけると茶色の液が溶け出して、透明のザラメになります。
まわりを染めているだけだからです。
 
もちろんすべての三温糖、ザラメが染められているわけではありません。
染めていない本物もあるので誤解しないで下さい。
スーパーなどで「裏」の表示を見比べてみればすぐにわかります。
染めてあるものには「カラメル色素」と表示されていますから、確認してみてください。
「砂糖なんかに添加物が使われているわけがない」そういう前に、一度「裏」の表示を見てみてください。
 
 
◆日本の食文化が崩壊していく
 
以上、基本調味料の話をしてきました。
あなたの家にある調味料は、本当に大丈夫でしょうか?
台所に行って「裏」の表示を見てみてください。
 
いつの間にか日本の食卓は「○○風」調味料に占拠されてしまっています。
台所にあるしょうゆやみりんだけの話ではありません。
スーパーで売っているパックのおすしや納豆についている小パックのしょうゆ。
コンビニで買ったそうめん弁当についているそうめんつゆ――それらも当然「しょうゆ風調味料」です。
 
カップめん、冷凍食品、出来合いのお惣菜もみな同じ。
知らず知らずのうちに、こうした添加物でつくりあげた「ニセモノ」「まがいもの」を、私たちは口にしてしまっているのです。
あなたの台所の調味料を見てみてください。
料理酒、さとう、塩、しょうゆ、味噌。
それから、みりん、だしの素、○○の素、○○のタレ・・・・・・。
 
どうでしょう。「裏」のラベルにあなたの知らないものがたくさん書いてありませんか?
あとで詳しく述べますが、それこそが「食品添加物」なのです。
台所にないもの――それこそが食品添加物にほかならないのです。
 
 
◆子どもたちは「まがいもの」の味を
「本物」と思い込んでいる
 
調味料がいつの間にか「ニセモノ」にすりかわっているという事実。
そして子供たちは、そんな「まがいもの」の味を「本物」だと覚えていく現実。
恐ろしいことではないでしょうか。
 
人気主婦雑誌では、いかに食品を安く購入するかの知恵や小技がこまごまと紹介されています。
「しょうゆ138円、砂糖98円」などと底値表まで紹介されており、いかに安く買うかという記事ばかりが目に付きます。
「安く買うこと=賢い主婦」そう言わんばかりです。
 
しかし、肝心の「なぜ安いのか」についてはちっとも触れられていません。
1000円のしょうゆが存在する一方で、198円のしょうゆが特売で売り出されているのはなぜか。
5倍もの価格差が存在する理由は何か。
繰り返しになりますが、そういう「素朴な疑問」が大切なのです。
 
その理由は、私たちは普段目もくれませんが、ちゃんと「裏」に書いてあります。
それを比べようともしないで特売しょうゆに飛びつくことが、果たして本当に「賢い奥さん」「賢い消費者」なのでしょうか。
それを煽る目であの責任も重大だと思います。
 
基本調味料は食の要(かなめ)です。
日本が世界に誇る和食がいま、基本調味料から崩れようとしているのです。
 

石川県認定
有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001