■ 野菜・果物と健康 (64)
 
河名秀郎著 東洋経済新聞社発行
本当に安全でおいしい野菜の選び方
『野菜の裏側』 より抜粋 その4
 
 
食とは何か
生命を体に取り入れること
生命を食べることで
自らの命を維持・拡大していくのが
食の本質である。
 
 
 
■ 野菜を食べるとガンになる?
「硝酸態窒素」は大問題
 
●虫が来るのは硝酸性窒素のせい
 
よく有機農家の人たちが「虫が食うほどオレの野菜はうまい」といいます。
しかし一般栽培の大根だって、農薬を使わないと虫だらけになってしまうのです。
 
実際うまい、まずいは味覚・感性の問題であって、虫が来る来ないとは関係ないのです。
 
今の野菜は、もし農薬を使わなければ発芽したときにすぐに虫に食われてしまう、ひ弱な野菜です。
いや、発芽の前に、種の段階から虫にやられてしまうでしょう。
それを何とか農薬の力で虫を退治して、延命させているのです。
農薬の力が切れたらそれまでです。
 
では、虫が来るのはなぜか。
虫が来るのにはきちんとした意味があります。
その理由こそが「硝酸性窒素」にあるのです。
野菜の緑は、硝酸性窒素によって濃くなると述べました。
 
肥料として大量の窒素を使うと、野菜には硝酸性窒素が多量に含まれます。
これをめがけてやってくるのが虫なのです。
極端に言えば、虫は硝酸性窒素を食べにくるのです。
硝酸性窒素こそが彼らのエサです。
 
私たちは野菜を食べに来る虫を「害虫」と呼びますが、本当にそうでしょうか。
虫は多すぎる硝酸性窒素を食べにくるのです。
 
つまり、自然界のバランスを崩す過剰な硝酸性窒素は存在してはいけないものとして、これを退治してくれているのです。
 
そう考えると、害虫どころか必殺掃除人です。
虫は私たちにとって、ありがたい存在でさえあるのです。
 
 
●種のつくられ方にも問題がある
 
では、肥料と農薬を作れば、それでいい野菜ができるのかというと、それだけではまだ不十分です。
なぜなら種に問題があるからです。種は、いまほとんどが輸入品です。
たまに国産もありますが、いずれにしてもほとんどの農家が外国産の種を買っているのが現状です。
 
あまり農業とかかわりのない人は、種のことなど考えたこともないかもしれません。
農家なのだから、その前の年に作った作物から種をとっておいて、翌年使う・・・・・・、などと思うかもしれませんが、実際にはそうではなく、ほとんどの農家は毎年新しく種を購入して撒くのです。
 
自分で種を作ることを「自家採取」といいますが、自家採取しようにも、いまの種は翌年植えても同じ形の作物が出来ない仕組みになっているのです。
 
海外においては、種を買ってきて1年目は作物が出来るが、その作物からとった種を植えると、芽の出た瞬間に毒が出て、絶対発芽させないように操作されているものもあります。
 
それは、農家が種を自家採取できないよう、種苗メーカーが自社の権利を守るために行っているわけです。
種には、他にも鳥に食べられたり、病虫害にやられないように、あらかじめ、殺虫・殺菌処理もされています。
 
種の世界には「F1」という技術があります。
F1というのは「第一世代」という意味で、「ハイブレッド種」とも呼ばれます。
 
これは自然界ではありえない、縁の遠い品種同士を掛け合わせて作る種です。
ところが第二世代以降、つまりその作物から取れた種は、メンデルの法則が適用され、品質がバラけて前年のような思い通りの作物が出来ません。
 
だからF1種は一代かぎりの種なのです。
なぜバラけるかというと、種自身がなんとは自らの生命をより自然な状態にもどそうとしているわけです。
 
その生命力には感動しますが、農家にとってはそれは困ることなので、毎年新たに種を買うことになるのです。
 
 
●自家採取が作るすばらしい野菜
 
かつて農家は、自分で種をとること、すなわち「自家採種」をしていました。
種を買うようになったのは比較的最近、1960年のころからです。
 
私たちは自然栽培の農家には、とくに自家採種をおすすめしています。
自家採種は簡単なことではありません。
そのための場所も必要となりますし、手間もかかります。
 
苦労して採種したはいいが、それで作った作物が売り物にならないこともあります。
自家採種を始めた当初は、どうしても短かったり太かったりと、ばらつきがあるからです。
 
成田生産組合では、自家採種を始めてから、質も安定し、形が揃った作物を取れるようになるまでには8年かかっています。
しかし土と種と人がいったとなったとき、本当にすばらしい作物が出来るのです。
三位一体となったとき、本当にすばらしい作物ができるのです。
 
自家採種を続け、種と土がなじんでくるとすばらしい相乗効果が起きて、種も土も進化し、その農家のオリジナル野菜ができることを、今まで何度も目の当たりにしてきました。
 
肥料を使わないで、自家採種したら、もう二度と農薬なんかお世話にならなくていい。そして作物のクオリティがどんどん上がっていくわけです。
 
一方、農薬としてかかるコストがどんどん減っていく。
自然採種は大変ではあるけれど、最終的には農家にとってもいいことなわけです。
種子と土の療法を浄化し、そして人も、お互いに少しずつ自然という感覚を取り戻しつつ、ハーモニーを奏でていくことが自然栽培なのです。
 
 
●つぎの命が生まれない「種なし果物」
 
「種なし果物」というものがあります。
種なしぶどう、種なしスイカといったあたりが一般的でしょう。
 
デラウェアに代表されるぶどうの種なしは、通常「ジベレリン」という植物ホルモン剤を使っております。
 
本来であれば、受粉するめしべの中で植物ホルモンが盛んに作られますが、ジベレリン処理をすることによって、受粉と受精が終わったとぶどうに錯覚を起こさせ、種なしにするわけです。
 
これに対して、ミカン(温州ミカン)は人為的な処理をしません。
温州ミカンは花粉の発達が悪いため、受粉しても受精できず、種が出来ないのです。
 
温州ミカンは、中国からやってきた小ミカンが突然変異を起こしてできた日本独特の種なのです。
同じように突然変異で種がなくなった果実に、バナナがあります。
 
ぶどうに使われる植物ホルモン剤は、一般的には人体には無害とされていますが、自然栽培においては自然の摂理に反しているという考えから、これを使用とはしていません。
植物を成長ホルモン剤で抑えたり促したりすることは、自然栽培の考えとは相容れないものです。
 
では、自然栽培では人的な改良は全く認めないかというと、そうではありません。
例えば自然のままだからといって、苦くておいしくない作物は食べられません。
それを人間の愛情と知恵でおいしくしていくのはいいと思うのです。
 
人間の都合だけで植物をいじるというのではなく、植物のことも考えて、植物のよさを引き出していくという方向ならいいと私は思います。
いってみれば、節度あるお付き合いということです。
 
 
●遺伝子操作して、冷めてもモチモチの米に
 
「種がない」ということは「次の命が生まれない」ということです。
環境ホルモンとか、さまざまな汚染物質も怖いですが、私にとって見れば、種なし果実も同じくらい怖いものです。
 
種無し果実を有機栽培で作っている生産者がいます。
一方でそれを販売する自然食品店があります。
いくら無農薬、有機栽培だからといって、このように自然から遠く離れたものを作って売ってもいいものか、疑問を感じざるを得ません。
「安さ至上」のスーパーなどが、種なしを売るのとは話が違うのです。
 
同様の理由で「無農薬米のミルキークイーン」にも私は疑問を抱いています。
ミルキークイーンは冷めてもモチモチしているように遺伝子操作をしっかりして作り出された品種です。
 
これはコシヒカリに「メチルニトロソウレア」という化学物質を施し、遺伝子に突然変異を起こさせて品種改良しているものなのです。
 
冷めてもモチモチ、甘くておいしいというのは明らかに不自然です。
それを無農薬でつくって売るという人が私には理解できないのです。
その米の、その野菜の、どこを見て作っているのか、販売しているのか。
 
そして消費者である私たちは、こうした不自然さを見抜く目を養っていかなければならないと思います。
 
種の放射線照射も遺伝子組み換えもそうですが、今の品種改良のすさまじさは許容レベルを超えていると感じています。
 
まずは「あまりにも不自然なものは買わない」という意識を私たちはもつべきなのです。
 
 
●有機野菜は「本当」に安全か?
 
世界的なオーガニックブームです。
健康によく、安全な野菜の権化とされている「有機野菜」。
では本当に有機野菜が、体にも自然にも負担をかけない最良の解決なのでしょうか。
 
そもそも、「オーガニック=安全」という認識は消費者の思い込みだということをご存知でしょうか?
実際、農林水産省に問い合わせてみても、安全な野菜とは明言していないといいます。
 
フランスでもアメリカでもオーガニック野菜はありますが、お役所の認識では、オーガニックというのは安全基準ではないのです。
 
ところで、有機野菜とは、有機肥料を使い、農薬を一切使わないで作る野菜・・・・・・、と誰もが思っていると思います。
ところが有機のJAS規格では、場合によっては、有機農産物の農林規格が認可する31種類の農薬を使ってもよいことになっているのです。
 
事実、私たちのところで扱っている有機野菜も、その4分の1ほどは農薬を使っています。
果物では、ほとんど使われているといっても間違いないでしょう。
 
それはなぜか。
問題はやはり「虫」と「病気」です。
化学肥料であれ、程度こそ違え、肥料を使えば病害虫はやってくるのです。
そして病虫害の繁殖を抑えるためには、どうしても農薬を少し使わざるを得ないという事情があります。
 
化学肥料を使う場合は「この面積に何キログラム入れるといった基準を農協などが指導しています。
ところが有機肥料にはそれがない。
どうするかというと、「勘」が頼りの世界なのです。
それも化学肥料と同様の効果を狙うと、つい肥料が多くなりがちな傾向にあります。
 
「有機肥料だから少しぐらい多くても安心」という思いもあるのでしょう。
中には300坪に対して10t、20tと大量の有機肥料が入れられることもあります。
これだけの量を使えばその分、硝酸性窒素、そして虫が増えることにほかなりません。
 
ただ、念にために申し上げておきますが、有機栽培でも一切農薬を使わずに野菜を育てることが出来る人もいます。
そういう人は、肥料の「質」と「量」を考えている人だと思います。
有機肥料の場合は、表示されているとおりに使えばいい肥料と違って、熟練の腕が必要となるのです。
 
 
●有機肥料がいちばん危ない!?
 
有機肥料は量の問題もさることながら、「質」の問題も見逃せません。
有機肥料は、大きく分けて2つあります。
ひとつは家畜の糞尿を発酵させて作る「動物性肥料」(厩肥)、もうひとつは刈り草を発酵させた堆肥や、米糠、米糠を発酵させてつくったぼかし、おからなどの「植物性肥料」です。
普通はこの2つを組み合わせて使用します。
 
私が実際に全国の生産者に会ってわかったのは、病虫害に悩んでいる方のほとんどが、動物性肥料を大量に使っているという事実でした。
 
動物性肥料が少ないほど虫が減り、農薬の使用量も少なくなる傾向があります。
一方、植物性肥料を中心に使っている方は、病虫害もめっきり少なくなるのです。
 
有機肥料に使われるのは、窒素成分の多い主に家畜の糞尿で、これを発酵させてつくります。
その糞尿の窒素の問題とともに、家畜が何を食べているのかという問題もあります。
 
いま飼われている家畜のエサには、抗生物質などの薬剤が非常に多く使われています。
「薬漬け」といってもいいぐらいに大量の薬剤が混ぜられています。
 
日本は世界にも例を見ない「抗生物質大国」なのをご存知でしょうか。
抗生物質の輸入量は世界一で、年間500トンを超えます。
しかし家畜には、その倍以上の1000トン以上が使われているといいます。
ということは、糞尿にも相当量の抗生物質が排泄されているということです。
 
糞尿に含まれる抗生物質は菌[微生物]を殺してしまうので、十分な発酵を妨げます。
未熟なまま肥料にされることになります。
未熟な肥料は、病原菌の繁殖につながります。
 
肥料のつくられ方自体も問題です。
糞尿を堆肥にするには、本来は3年から5年という歳月をかけて熟成させなければなりません。
この間に糞尿に含まれている窒素分が、空気中や地中に放散されます。
 
しかし、今の生産者にそこまで時間をかける人はまれです。
ほとんどの人はインスタントの発酵菌を使い、3〜6ヶ月という短い期間で熟成させてしまいます。
早ければ1週間ということもあります。
こうした未熟な有機肥料は、土を病原菌の温床にしてしまうのです。
 
 
●エサの安全性も見逃せない
 
飼料(エサ)の抗生物質の問題は、これだけではありません。
抗生物質を使えば、必ず「耐性菌」といって、その抗生物質が効かない菌が出現します。
 
さまざまなクスリが同時に効かない多剤耐性菌が出ることもあります。
事実、糞尿肥料の使われた土で、多剤耐性菌が多数発見された報告もあります。
新型インフルエンザ、鳥インフルエンザ、MRSAなど、近年、全世界を騒がせている病気は、すべて耐性菌によるものです。
 
また飼料自体の「質」も無視できない問題です。
いま家畜の飼料は海外から輸入されるものが多いのですが、それらには遺伝子組み換え農作物が使われている可能性もあります。
また家畜飼料をつくる際には、通常の作物と同じように農薬や肥料が使われています。
 
つまり飼料の問題は、飼料を育てる際に使われる農薬や肥料、それから飼料に混ぜられた薬品、飼料の質そのものと3つあるわけです。
 
飼料に含まれた化学物質などはすべて「糞尿」に排出され、「肥料」という名前になって田畑に持ち込まれることになります。
これらが作物に影響しないとは誰にもいえません。
しかも家畜のえさの質や薬剤の使用状況にまでチェックして使っている生産者は、非常に少ないのが現実です。
 
こうなると名目は「有機野菜」ではありますが、実際にはどんな化学薬品が含まれているのかはわかりません。
有機栽培をしている現場を回って気づいたことですが、「有機肥料」という概念が非常にあいまいになっています。
 
有機肥料には、糞尿以外にもさまざまな有機物が含まれています。
お茶ガラ、菜種の搾りカス、ビールカスなど。
これらの原料を栽培するときの農薬や肥料、種の汚染も考えなければいけないことです。
さらには、出所のよくわからない食品廃棄物、下水処理の汚泥なども「自然のものだから」ということで安易に使われているのが現実なのです。
 
 
●有機野菜の味がグンと落ちた理由
 
有機栽培でも、私が野菜の販売に携わり始めた25年前は、糞尿肥料が主体ではなく植物の堆肥が主に使われていました。
しかし、有機野菜がブームになってからというもの、糞如肥料が一般化してしまいました。
 
するとどうなったか。
野菜の質と味がどんどん落ちていったのです。
25年前といまの有機野菜は、味が全然違います。
また虫が出たり、病気が出たりと問題も起こりやすくなっています。
これらすべての根源が「肥料」にあるのです。
 
ここまで来ると、「化学肥料が危険で、有機肥料が安全」とは一概には言い切れません。
「有機野菜だから安心、無農薬だから安心」
私たちは無条件に信じきってしまいがちです。
でもそれは表面的なものです。
 
「子供のために有機野菜にしている」というご家庭も多いでしょうが、ただ単に有機野菜だからと信じ込んでいては、大切な問題を見逃します。
その野菜にどんな野菜や農薬がどれだけ使われているのか、きちんとチェックしてから買うべきだと思います。
 
今の売り場は、実態を見ずして「有機」「オーガニック」「特別農産物」などという名前だけで販売していることがほとんどです。