山ちゃんの食べもの考

 

 

その102
 

軟らかい良質の肉質の肉牛を産出するために、牛には過重な動きを止めさせ、ひたすら栄養効率の高いトウモロコシや大豆などの飼料穀物、野菜等を大量に食べさせます。先にも述べたように、肉牛を1kg太らせるために、その8倍もの穀物が与えられるのです。
日本では脂肪のたっぷりのった霜降り肉などの高級な銘柄和牛を育てるために、ビールを飲ませるなどの話も聞きますが、そんな肉質を得るためには10倍以上もの穀物飼料が必要だといいます。
 現在、世界の穀物生産量は18億6千400万トンであり、そのうち、飼料用としておよそ50%の8億7千600万トンが使われているといいます。
中村三郎氏の『肉食が地球を滅ぼす』によると、世界の穀物をほぼ独占的に扱っている存在として、「穀物メジャー」と呼ばれる巨大アグリビジネスがある。それらは、アメリカに本拠地を置く10社程度の多国籍食料商社で、カーギル、コンチネンタル、ブンゲ、ドレフェスなどが有名である。
 穀物メジャーは、穀物取引を中心に、穀物種子の開発、農業、肥料、畜産、食肉加工など、あらゆる農業関連部門をもっている。
 穀倉地帯に大規模農地、穀物貯蔵庫、鉄道貨車、加工工場などの施設を配し、世界各国に集荷網、販売網を張りめぐらせて、農場から世界市場までを統合した流通組織を支配している。
 大豆、小麦、トウモロコシなど世界の農作物貿易量の70%を扱い、また、アメリカの全穀物輸出量の80%以上を扱っているという。
 世界の穀物のほとんどは、この一握りの企業によって牛耳られているのである。その支配力は一国の食料政策をも左右するほど強大なものなのである。


 世界の穀物を支配するといわれる穀物メジャー、その強大な力と恐ろしさを示す事例を、中村三郎氏は次のように記しています。
「1972年、ソ連(現ロシア)は異常気象による大旱魃に見舞われ、作物が大被害を受けて史上空前の食糧危機に陥った。そのとき、ソビエト政府の要人がひそかにアメリカを訪れ、穀物を買いつけるためにニューヨークのコンチネンタル社のオーナーと接触した。そしてコンチネンタル社から大量の小麦を買い占めることに成功したのである。さらにコンチネンタル社を介して、他の穀物メジャーとも大豆の購入契約を結んだ。こうして穀物メジャーは、アメリカ政府の知らないうちに、アメリカ年間輸出量の約40%近くに当たる1800万トンもの穀物をソ連に売り渡したのである。
 当時の冷戦状態の中で、ソ連がアメリカから大量の穀物を輸入するなど、とうてい不可能なはずなのだが、それを可能にしてしまうところに穀物メジャーの恐ろしさがある。」と述べている。


 「ソ連による穀物の大量買占めは、世界の穀物相場に大混乱をきたした。シカゴ穀物取引書の穀物相場は驚異的なペースで上昇を続け、72年4月に1トン60ドルほどだった小麦価格は74年2月には230ドルと4倍近くに跳ね上がった。この時の小麦の最高値記録は、今日に至るまで破られていないという。
 この影響は日本を直撃し、穀物の輸入価格は大豆が72年の1.7倍、トウモロコシが1.9倍、小麦が2倍と急騰し、豆腐を始め、パン、うどん、精肉など食料品は軒並み値上がりして国民生活を圧迫した。とりわけ大豆製品はもろに影響を受けた。
アメリカ国内でも、ソ連の買占めに加えて大豆の作柄が不調だったため、大豆製品だけでなくて大豆を飼料にしている牛肉までが値上がりした。牛肉の値上がりは牛肉なしで過ごせないアメリカ国民の不満を飼った。そこでアメリカ政府は、大豆を国内需要にまわして値上がりを防ぐために、大豆の海外輸出をストップした。
 日本は大豆の96%を輸入に依存し、その90%はアメリカに依存している。ショックは甚大で、大豆の国内価格が暴騰し、豆腐、醤油、味噌など、あらゆる大豆製品の値段が2倍から3倍にはね上がるという騒ぎになった。」
 穀物の大半をアメリカからの輸入に依存することの危険性を思い知らされたのである。


 「何故世界の半分が飢えるのか」(スーザン・ジョージ著、朝日新聞社)の中で、著者は、「欧米アグリビジネスの伝統的農村社会への浸入がもたらすものは、社会的破局以外の何ものでもない。アグリビジネスがその手の触れるものすべて――その国の雇用形態、その地方の農作物、消費の嗜好、村落や家族の構造までも――を破壊してしまう」と、手きびしく批判している。
 中村三郎氏は世界の穀物を支配する穀物メジャー、アグリビジネスの台頭が、世界の南北格差を拡大して、飢餓の国をますます飢えに追いやると述べている。
「世界のどのマーケットへ、どの農場から何を運び、いかに利益を上げるかという、それだけが大命題のアグリビジネスは、飢餓をもビジネスの対象とするのだ。途上国の広大な土地資源と低賃金労働力を利用して農場や牧場を経営し、そこで生産された農畜産物は、現地の特権・富裕階級に売られる部分を除き、すべて欧米先進国に向けて輸出される。」
 「生産方法は、機械と化学肥料、ハイブリッド(一代雑種)を利用した大規模単作栽培。畜産物は濃厚飼料と薬剤を使ったフィードロット形式の大規模家畜飼育を特徴とする。そしてこの生産事業は、農業開発・技術援助という目的で途上国政府と結びつき、先進国政府や世界銀行などから融資を受け、あるいはODA(政府開発援助)の事業を通じて行われる。これがアグリビジネスによる途上国支配のメカニズムの概念である。」
 アグリビジネスによる先進国優先の食糧流通システムの論理は、世界の食料配分のアンバランスを拡大し、飢餓の国をますます飢えに追いやり、飽食の国をいっそう飽食させる状況を作り出している。


 国連開発計画のリポート(1999年)によれば、世界人口の5分の1の最富裕国が世界の国内総生産の86%を占めるのに対して、同じ人口比率の5分の1を占める最貧国はわずか1%を得ているに過ぎなかった。最富裕国と最貧国の所得比は、73年の44対1から97年には74対1に広がっている。
また、世界で上位200人の富裕層の資産の合計額が、下位20億の人たちの合計資産を上回っている。また世界の億万長者上位3人の資産が、6億人の人口を抱える最貧国の経済を合わせたものよりも大きいという。
こうした経済格差の拡大は、先進国と発展途上国といった地理的に分割された世界を超えて引き起こされており、悲惨な状況におかれている多数の人たちがいる中で、ごく少数の者だけが富みを一人占めしているのである。
 「グローバリゼーションの最もよりどころとする名目は、「国際競争力」である。これは詰まるところ、途上国の貧しい人たちの生存にとって欠かせない資源の支配をめぐって、巨大資本が競争しているという図式になる。この競争は、貧しい人々には非常に不公平である。それは強大な財力をもつ企業が、貧しい国やその人々を容易に負かしてしまうという理由からだけではない。人々から資源の利用やその所有権を奪おうとする巨大資本の活動に、IMFやWTO(世界貿易機関)などの国際機構が同調して協力さえする。それが自由貿易のルールとして認められているからである。」


 世界に資本主義、自由主義が拡大し、経済力の論理が弱者を食いものにする。強い者はますます強力となって富みを独占し、弱者は巨大な圧力に屈していよいよ力を失い困窮する。貧富の差は地球規模的で拡大する。
グローバリゼーションは一方的に極く限られた小数の先進国の利害得失を優先する手によって強引に推し進められるものである。その他の多数を占める後発国が先進国の暴挙に飲み込まれていく。力の論理は「貧しき国からの搾取」であり、「人類平等の破壊」を拡大する。
中村三郎氏はいう。「グローバリゼーションという自由化された市場経済は、世界各国の、とりわけ貧しい国の人々の生活環境を破壊することによって成長するということである。彼等の資源は巨大資本の活動のために食いものにされ、グローバル化された経済が環境に与えた負荷を本当に重く負わされているのだ。従って、貧困は解消されるどころか、かえってますます作り出されるのである。」
「今日、世界経済の70%は巨大資本の支配下にあり、世界の生産物の40%を扱っている。世界のすべての特許の90%を握っており、食品分野ではアグリビジネスが70%を支配している。そして穀物からコーヒー、バナナ、さらに鉱物資源に至るまで、その貿易の80%が数社の大企業によって取引されている。グローバル経済の利益を得ているのは、ルールを設定し、市場を形成する少数の国と企業である。貿易と投資のほとんどは先進国間で行われ、それを支配・管理しているのが巨大資本であり、グローバリゼーションの姿なのです。」


世界では13億人が1日1ドルの生活をし、8億人が飢えている、という。
「グローバル経済は途上国の伝統的な経済を混乱させ、多くの国民は貧困、飢餓、病気の中に取り残されている。生き抜くために不当な低賃金の労働を余儀なくされたり、自然環境を売り渡して自らの首を締める状況にさいなまされている。国は多額の債務を背負わされ、借金返済のために教育や医療の予算を削り、子供たちが学校に行けなくなっている。」
 「70年代までフィリピンには、ストリート・チルドレンはいなかった。ましてや子供による売春などもなかった。今。世界の途上国では、1分間に13人の子供が“債務死”しているという。多くのエイズ患者を抱えるアフリカ諸国では、安価な薬品を製造して国内で使おうにも、特許権に阻まれてできないといった例もある。家族の断絶、地域共同体の崩壊が進み、社会不安による犯罪率も高まっている。」
現在のグローバリゼーションの進展は、決して貧しい人々にその恩恵をもたらすことは出来ないでしょう。グローバリゼーションが拡大されるにつれ不平等が拡大します。極端に一部の国に偏った経済成長が、貧しい人々を富ましめることはないのです。
 「こうした現象は。グローバリゼーションの推進者達が示した解放と自由の世界とは正反対のものである。グローバリゼーションがもたらしているのは、危険に満ちた不安な世界と拡大する不平等である。権利を行使できる者とできない者、勝者と敗者が明確に線引きされ、少数のものに繁栄をもたらす一方で、あまりにも多くの人々を苦痛に追い込んでいる「経済暴力」なのである。」と中村氏はいう。



 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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