山ちゃんの食べもの考

 

 

その120
 
[医食同源]を考える<10>
真弓貞夫先生のお話――A

 日本には薬事審議会というものがあり、主として大学病院や教授など、ほんの少数のひとにぎりの人たちが、毎月1〜2回数時間で審査して、新薬がほとんど素通りのような形で認可されていきます。ほとんどフリーパスです。大学病院はたくさんあるのに、メーカー側が治験を頼む大学病院はごく限られています。メーカー側は、有利なデータを出してくれるような病院を選んで治験を頼んでいるのです。自分で問題を作って自分で答案を書いているようなものです。
 アメリカは違います。アメリカは、薬に対する監視が厳しくなっています。FDA(食品医薬品局)で、9000人もの人々が毎日のように薬のチェックをしています。最近の5年間で日本の薬事審議会を通過した薬を、FDAで調べ直した報告があります。日本で通った薬のうち、FDAを通過したのは、わずか30%です。7割は効かない薬、あるいは副作用のある薬です。これで、私が新薬を使わない理由が分かるはずです。


 大分前に禁止になったピシバニールとクレスチンをセットした抗ガン療法がありました。年商1000億円といわれ、10年間あらゆるガンに使われました。これで1兆円です。私は全ての抗ガン剤を否定するつもりはありません。選択的に乳ガンにはこの抗ガン剤、白血病にはこの抗ガン剤という使い方なら、まだ納得がいきます。それがすべてのガンに同じようにピシバニールとクレスチンが使われました。1兆円分使われてから、日本の審議会で再審査をして、効果なしとなったのです。
 なぜこんな薬を使ったのでしょうか。昔から使っているガンにきく薬があったのですが、収益が格段に違ったのです。皆さんもっと真剣に、経済性をとるのか子どもの健康をとるのかを考えていただきたいと思います。
 今こそ、子どもが自分で病気を治す、癒える環境づくりを、お父さん、お母さん、そして地域の人々が真剣に考え、実行していかなければならない時なのです。


 私たちは人間である前に、ヒトつまりホモサピエンスという動物であるということを忘れてはいけません。これが一番大事なことです。ヒトは動物の中でも、霊長類という猿の仲間です。現在、ほぼ400種類くらいの霊長類がいます。ゴリラ、オランウータン、日本ザル、アイアイ、ツバイ、キツネザルなどです。また霊長類であることの前に、400種類を超える哺乳動物という動物であることを決して忘れてはいけないのです。
 ですから大事なことは、哺乳動物がどういう生活をしているのか、サルの仲間がどういう生活をしているのかを考える事です。ヒトはサルの仲間ですから、まず動物としての生活をきちんと整える必要があります。
 植物にたとえるならば幹や根をしっかり育てていかなければなりません。幹や根をしっかり育ててから、体育や徳育や知育といった人間としての力を育てていくのです。今は、動物としての生活を整えることが欠落してしまっています。ヒトづくりを飛び越して、知育などに走っているのです。
 

 聖路加大学に、日野原重明さんというすばらしい内科のお医者さんがいらっしゃいますが、この方は「知識は健康にしない」と言っておられます。もちろん、知識が悪いということを言っているのではありません。知識の前に、ヒトとしての知恵をしっかり身につけなくてはいけないということです。
 言い換えれば、当たり前のことを身につけなくてはいけないということです。こんな話をアメリカに占領される前に述べたなら、「なんで、当たり前のことを話すんだ」と笑われてしまったでしょう。つまり、今は当たり前のことが当たり前でなくなってしまっているのです。
 私は学校で講演会などを行っています。終わってから府警や小学生に感想を出してもらうようにしているのですが、的確な感想を書いてくれるのは、ほとんど小学生です。つまり彼らはまだヒトとしての知恵が保たれているのです。大人の場合は、知識が邪魔をしてしまいます。テレビやマスコミなどからの、偏った知識によってマインドコントロールされた部分を取り去って、頭の中を空っぽにして読んでいただきたいと思います。


 4000種類を超える哺乳類は、すべてこれらの動物が発生した場所にずっと住み続けて、発生した場所の食べ物をとり続けているということも、しっかり頭に入れておいてほしいと思います。
 パンダは中国の山の中で笹の葉を食べ、コアラはオーストラリア草原部でユーカリの葉を食べています。動物はすべて先祖代々とり続けた食べ物をとっています。人間だけが違うのです。サルの仲間はすべて、温帯から亜熱帯、熱帯にかけて発生し、そこで生活し続けている動物です。ヒトとは温帯、熱帯に住む動物だということを、しっかり頭に入れておいてください。
 その意味で、日本は非常に恵まれています。本州、四国、九州、沖縄の人は、本来の生息地でずっと生活を続けることができたのです。唯一、北海道はヒトが住めない場所です。サルは青森県の下北半島までしか住めませんから、北海道にはいません。サルがいない所には本来ヒトは住めないのです。韓国にも、フランスにも、北イタリアにも、カナダにも、サルはいません。ノルウェーやスウェーデン、デンマークにも当然いません。このようなサルが住めない場所の食べ物と、本来の私たちの食べ物とは、しっかりと分けて考えなければいけないのです。


 では、なぜサルが住めない場所にヒトが住めるようになったのかというと、50万年前からヒトは火を使い出したからです。火を使うということは、明らかに自然に反します。火を燃やせばダイオキシンが出ます。ダイオキシン問題を今頃騒ぐのはおかしいのです。50万年前からヒトはダイオキシンを生み出してきました。ただ最近になって、電気を含めて火の使い方が激増してきたために、ダイオキシンの問題が深刻なものになってきたのです。
 さて、火を使ったり住居に入ることによって、ヨーロッパなどにも住めるヒトたちが出てきました。サルが住めないところでは、ヒトが本来とり続けてきた食べ物は得られません。水が少なく気候の寒いところに住む彼らは、パンやパスタを食べたり、牛乳を飲んだり、肉をたくさん食べなければならない環境下に置かれたのです。
 これらは本来、ヒトの体に合わない食べ物ですから、調味料でいろいろ工夫しなくてはなりません。だから、フランス料理には600種類を超えるソースがあるのです。日本の場合、塩、みそ、しょうゆ、酢だけでいいのです。極端な場合はそういう調味料すらいりません。この差をしっかりと理解しておくと、子供たちには特に心の面でもよく育っていきます。


 食品を考えるとき一番大事なのは、動物性食品と植物性食品のバランスをとるということです。このバランスを考える際とても参考になるのが、哺乳動物の中でもっとも高くランクされる霊長類の食べ物です。サルがどんなものを食べ続けてきたかが参考になるのです。
 霊長類にも進化の過程に伴い、いろいろなランクづけがあります。もっとも原始的な霊長類を原猿類といい、アイアイ、ツパイ、メガネザル、キツネザルなどです。その上にサル、サルの上に類人猿がいます。おなじみのゴリラやオランウータン、チンパンジー、テナガザルなどのことです。そして、その上にヒトがきます。
 原猿類は植物性のものと動物性のものをほぼ半々に口にしています。サルになると、動物性の割合が明らかに減ってきます。類人猿では、チンパンジーだけがヒトほどではありませんが、少しは動物性のものを口にします。他のゴリラやオランウータン、テナガザルは植物性のものしか口にしていません。ゴリラは植物性のものだけで、あれだけ立派な体を作り上げています。


 ということは、進化の過程に伴って霊長類の食性が植物性の物に変わっていくわけですから、人が400万年前とも500万年前ともいわれるアフリカの森の中に発生した時には、植物性のものしか口にしていなかっただろうと考えられます。森の中にいた時には、身を隠す場所も多く、果物、木の実などを植物性のものがふんだんにありますから、これでよかったのです。
 しかし、ヒトは森から草原に降り立ち、二足直立歩行をするようになりました。草原は森のように身を隠す場所も少なく、またヒトは武器を持っていなければそんなに強い動物ではありませんから、草原に出てみると森の中にいた頃のように、植物性のものだけを選り好みして食べることができなくなってきました。そうして、ゴリラなどとは違って少しは動物性のものも口にせざるを得なくなったのです。


 それでは、ヒトはどのくらいの割合で動物性の食品を食べ続けてきたのでしょうか。これは爪と歯を見れば一目瞭然なのです。
 植物性の食べ物を集めている動物は、動かない植物をそのまま摘み取ればいいので、爪は必要ありません。だから、ずっと植物性の食品を食べ続けたきた動物は、爪が平爪になっています。動物性の食品の場合、相手は動いていますから平爪では捕まえられません。そのために動物性の食品を取り続けてきた動物の爪は、トラやライオンのように、鉤爪になっているのです。
 では、ヒトの爪はどうでしょうか。どちらかといえば、限りなく植物性の食品を主体とする動物の爪の形になっています。人間にとって基本となる食品は、あくまでも植物性の食べ物なのです。
 植物性と動物性の食べ物の割合がどのくらいかということは、歯を見ればわかります。歯は全体で32本あります。わかりやすくするために、左上の4分の1である8本の歯で見てみます。


 赤ちゃんに最初に生えてくるかわいらしい歯は切歯(門歯)です。ウサギなどに代表される植物を食いちぎるための歯が2本並んでいます。植物のための歯は8分の2で、つまり4分の1ということです。その隣りに少しとがった犬歯が1本あります。ライオンやトラ、ネズミと同じ歯です。動物性食品のための歯は、8分の1です。その隣に臼歯があります。牛や馬と同じ歯で、穀類をすりつぶす歯です。米や麦を食べるための歯として、小臼歯が2本、大臼歯が3本あります。穀類のための歯は8分の5です。
 森から草原に降り立ったヒトは、この割合でも食べ物をとり続けてきたわけですから、この割合で食べ物をとっていれば病気にはなりません。


 私たち日本人にとって一番大事な食べものは、8分の5を占める穀類、縄文時代でいえば、ヒエ、アワ、キビなどです。弥生時代以降は稲作文化が定着しましたから、日本人の本来の生息地の食べ物はご飯であるといえます。ところが、ヨーロッパなどでは、気候が寒く水が少ないので米はとれません。やむを得ず小麦になります。
 しかし、ヨーロッパなど寒帯でとれる小麦と、日本など温帯でとれる小麦はまったく違うものだということをしっかり知っておかなければなりません。麦には、葉に気孔という水を吸い上げる穴があいています。ヨーロッパの麦は、寒い所のものなのでそんなにたくさん気孔があいていません。日本の麦に比べてヨーロッパの麦の気孔の数は20分の1から30分の1なのです。だからパサパサで、パンやパスタに合うわけです。ご飯、うどんには水分が約60から70%含まれていますが、パンやパスタの水分は約30%と少なくなります。このため、ヨーロッパなどの人は牛乳やジュースなどの水分を足さないと、パンやパスタが喉に詰まってしまいます。一方、ご飯やうどんの水分は約60から70%ですから、私たちは食事中に水はいりません。食事が終わってからお茶を飲めばいいのです。


 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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