山ちゃんの食べもの考

 

 

その121
 
[医食同源]を考える<11>
真弓貞夫先生のお話――B

 国産の小麦はいい食べものです。アメリカの政策で日本に麦を作らせなくしてしまったので、国産の小麦を手に入れるのは大変ですが、手に入ったら大いに活用してください。ただし、水をいっぱい吸い上げているわけですから、パンヤパスタではなく、うどんやほうとう、きしめん、お焼きを作ってください。
 極端に暑い所の穀類は、とうもろこしになってきます。大雑把に言うと、牧畜地帯の人々には、小麦からできたパンやパスタが合い、草原地帯の人々にはとうもろこしが合うことになります。ですから、日本人もとうもろこしを食べてかまいません。ただし、暑い盛りに限ります。
 9月になって涼風が立ってきたら、もう、とうもろこしは日本の子どものたべものではなくなってくるわけです。1年中コーンポタージュを飲ませたり、ポップコーンなどを食べさせていたら、本来の食律(食の自然の法則)に反することになりますから、アレルギー疾患・生活習慣病などの身体の異常が生じます。と同時に、健康の両輪となる心の偏りが出てくるのも当たり前の話なのです。


 現在、動物性の食品を植物性の食品より多くとっている子どもたちが、たくさんいるようになりました。ご飯も野菜も海草も食べずに牛乳をガプガプ飲み、ヨーグルトを食べ、肉を食べています。長い時間をかけて植物性を中心とするようになった人間の食性が、たった60年で急激に変わってきたのです。
 明治5年(1872年) に、明治天皇が徴兵検査を始めました。兵役に服させるか服させないかを、1日に1000人以上もチェックしなければなりません。どうやったと思いますか? 開け放した入り口の下から150センチのところに、綱を張りました。1200人位いると、男性の場合、そのまますっと綱をくぐつて通れる人は200人位でしたが、この身長140センチ台の男性を兵役免除としたのです。140センチだと日本人の男性として小さいということです。ということは明治5年から、アメリカに占領される前の日本人の身長は、男性が150センチ台、女性は140センチ台が標準だったということです。
 日本人のもともとの体型がアメリカによって、またそれを引き継いだ厚生省(現・厚生労働省)や文部省(現・文部科学省) によって、60年間でいかに崩されてしまったかがわかります。


 学校給食に牛乳が入る前に「骨粗鬆症」という名前を知っているお母さんは、まず1人もいませんでした。医者しか知らない病気だったのです。牛乳をとる必要がない日本人が牛乳をとり始めてから、骨粗鬆症が増えたのです。
 世界中で一番牛乳を飲んでいるのは、北欧の人々です。ノルウェーの骨折率は日本の5倍です。近藤賢さんという内科の先生が「このまま学校給食で牛乳の摂取量が増えてくれば、子どもの骨折がどんどん増えるだろう」と警告していましたが、その通りになりました。
 牛乳にはカルシウムが少ないのです。牛乳100tの中にはカルシウムが110ミリグラム含まれています。これが、大根の葉っぱだと260ミリグラム、約2倍になります。
 小松菜なら1.5倍、大根でも切り干し大根にすれば5倍になります。昆布は6.5倍、わかめは7倍、ひじきは14倍、煮干しは22倍です。日本人の朝食に欠かせなかったみそ汁は、カルシウムが豊富に含まれている煮干しや昆布でだしをとり、野莱や海草も入る非常にすばらしい飲みものです。
 私は70年問みそ汁を欠かしたことがありません。「みそ汁は医者殺し」という言葉を、しっかり頭の中に入れておいてください。
 保育園で、牛乳を飲まれているお子さんがいたとしたら、同じ量のみそ汁に変えてみてください。
 まず最初に、心の面が3週間ぐらいで変わってきます。例えば、気管支喘息やアトピー性皮膚炎の子のお母さんたちに食事の指導をすると、お母さんの方から「先生、そういえば、家の子はこの頃、私の言うことをよく聞くようになりました」とか「友だちと協調性をもって遊べるようになりました」と言ってくれるようになるのです。


 食事を欧米風なものから日本本来のものに変えていくことによって、まず心の部分が変わってくるのです。その後で、喘息やアトピー性皮膚炎が治ってくるというように、身体の病気が治ってきます。それほど食べものと心は、かかわりが深いのです。
 仮に牛乳を500t飲んだことにしましょう。たった550mg入のカルシウムが入っていくのに対して、体を大きくするのにいい飲みものですから、250kcalものカロリーが体に入ってきてしまいます。この分だけ、他のカルシウムの多い食べものをとれなくなってしまうのです。だから、骨が折れやすくなるのです。
 鉄になってくるともっと深刻です。妊婦さんが多量の牛乳を飲んだとすると、その分だけ体に熱量が入ってくるので、鉄の多い食べものがとれなくなってしまいます。
 例えば白米には、牛乳の40倍の鉄分が含まれています。妊婦さんが鉄欠乏性貧血になりたくないと思うのであれば、牛乳を飲むよりも白米を食べた方が40倍もましだということです。玄米なら105倍です。ほうれんそうは100倍です。豆や胡麻は475倍です。ひじきは2750倍です。
 昔の妊婦さんは鉄剤など飲む必要がありませんでした。日本人本来の食事をとっていれば、鉄剤は必要ないのです。


 さらに、牛乳を飲み始めたことで恐ろしいことが起こりました。噛まないで多くのカロリーがとれることから、子どもたちに噛む習慣がつかなくなってしまったのです。噛む時には下顎の方を使いますから、噛まないでいるとどうしても下顎が小さくなってきます。おじいちゃんやおばあちゃんと孫を比べた場合、おじいちゃんやおばあちゃんの顎はしっかりとはっているのに、孫は細い顎をしています。歯はなかなか退化をしない縦織です。1000年単位で1%しか小さくなりません。
 一方、顎は噛まないでいると一代で30%も小さくなってしまいます。永久歯にはえ変わる時、小さくなった顎に小さくならない歯が生えてきたら、噛み合わせや歯並びはどうなるでしょうか。昔は歯列矯正などの必要はめったにありませんでしたが、今、矯正専門の歯医者さんがどんどん出ています。これは噛まなくなっているからなのです。
 3歳児検診などをしていると、精神的に何の遅れもないのに言葉だけが出ない子どもを見かけます。これは、ほとんど噛んでいない子どもたちです。ものを飲み込む時には、顎だけではダメで、舌をうまく使わないといけません。外国語の勉強をした人はよくわかると思いますが、言葉を出す上で舌がとても大事な役割を果たしています。
 ですから、やわらかい食べものばかりとっている子ども、あるいはジュースや牛乳などの熱量のある水分を多くとっている子どもたちは、舌を使っていませんから、言葉に遅れが出るのです。特にカタカナ食品は、ほとんど舌を使う必要がない食べものです。
 代表的なものに「オカーサンハヤスメ」があります。オムレツ、カレーライス、サンドイッチ、ハンバーグ、焼そば、スパゲッティ、目玉焼き、みごとなまでに噛む必要がない食べもので、ほとんどが、私が子どもの頃にはなかった食べものです。食事の内容を日本人本来の食べものに変えていくと、おもしろいように言葉が出てきます。噛む時には顔面筋を使わなくてはなりませんが、顔面筋は、表情に関わってくるものです。噛む習慣がついていない子どもは表情に乏しく、無気力、無感動、無関心、あるいは自閉症の傾向にあるといえるのではないかと思っています。


 「ルナ子ども研究所」の岩佐京子さんが 『自閉症の謎に挑む』(ルナ子ども研究所)という本の中で、自閉症の子どもたちがいかに多くの牛乳を飲んでいるかということに気づいたと述べています。保育園の方にはぜひ、この本を読んでいただきたいと思います。
 顔面筋ではないのですが、目の毛様帯筋という水晶体を調節している非常に大切な筋肉も、噛まないと育ちません。今、東京都の大学4年の男性の場合、正常視力の男性は20%といわれています。80%もの人の目が悪いのです。驚くべきことに、半数以上が0.1以下です。 牛乳を飲むことによって、今までなかったような問題が続々と起きてきているのです。
 1927年に、ジョン・ホプキンス大学のすぐれた栄養学者であるE・V・マッカコラムとニナ・サイモンスという人が『栄養新知識』という本を書きました。この本では、国家的規模で昔の人がとっていなかったような食べものをとらされた結果、体や心を乱し、いろいろな弊害をきたしたと指摘しています。この2人が70年前にアメリカ国民に指摘した食品こそ、牛乳と乳製品、精製糖(白砂糖)です。
 この本を読んだ犯罪学者のアレキサンダー・シャウスという人が、1977年に経過観察中の犯罪者のグループで、ある実験をしています。まず、これを2つのグループに分け、まったく同じような生活環境におきます。そして、一つのグループは、マッカコラムとサイモンスの指示に従って、牛乳・乳製品と白砂糖を減らした食事をさせて2年間観察しました。特に制限を設けなかつたグループの再犯率は、33.8%でした。一方、牛乳・乳製砂糖を減らしただけで、再犯率が11.7%に減っているのです。


 かつて日本人がどのくらいご飯を食べていたのか、動物性食品をどのくらいとっていたのか。ご飯の食べ方が激減し、動物性食品がどんどん増えています。
 昭和、大正、明治、江戸時代、戦国時代と、日本人は今よりずっとご飯を食べていました。動物性の食品は魚介類、小鳥、小動物だったでしょう。みごとに、アメリカにとっては有利な方向、日本にとっては非常に憂うべき方向に向かってしまったのです。
 昭和27年(1952年)に占領が解けた時、心ある栄養学者や保健所や行政の人が、「これではダメだ」と昔の方向に戻そうとしました。戦前の日本文化に戻そうという提言をした人がいたのですが、彼らはすべて、経済性を優先させた指導をした厚生省や文部省の官僚たちに左遷させられたり辞めさせられたりしてしまいました。それが、今でも保健所の指導や大病院の指導という形となってつづいているのが現状なのです。
 つまり、今の行政や大企業、大病院は、子どもの健康と経済的利潤を考えた場合、ほとんど例外なく子どもの健康を切り捨てて、利潤を選んでいるのです。
 日本人は今、アメリカが意図したところを超え、あきれるほどの動物性食品を過剰摂取しています。今の子どもたちは、ご飯よりも牛乳、乳製品、肉類の方を多くとっています。
 米よりも、動物性食品の方を多くとっている子どもたちの行く先は、限りなく早死の方向に向かいます。私が診察した最初のお子さんは、今すでに50歳を超えていますが、その人たちが40歳代、50歳代で脳梗塞や心筋梗塞、ガンで亡くなっています。いろいろな理由がありますが、もっとも大きな理由の一つに、米の摂取量が減り動物性食品のそれが激増しているということが挙げられるのです。


 莫大な量の牛乳を飲まされ、肉類を食べさせられて、どんどん日本人の体は大きくなりました。昭和20年代の小学6年生と比べて1990年時の小学6年生は、平均で身長が17.6センチも大きくなり、体重は14.5キログラム増えています。大きくなることを決して悪いとはいいませんが、これだけ大きくなるためには、何百年、何千年というスパンがないと内臓がついていけません。
 今の小学6年生は50年前に比べて、ずっとたくさんのものを肝臓が解毒して出していかなければいけませんから、肝臓の負担が増えてきます。肝炎や肝硬変、肝臓ガンが増えるのは当たり前です。腎臓も、昔よりずっと多くのものをおしっことして出していかなければならないのです。昭和30年代に、腎臓透析をしている人はごく稀でした。今、大きな駅の周辺では必ずといっていいくらい透析病院があり、順番待ちの状態です。それだけ動物性食品のとり過ぎにより体が大きくなって、腎臓が痛めつけられているのです。


 もっとわかりやすい例に、心臓があります。平均で14.5キログラム体重が増えると、その分だけ余分に血液を流していかなければなりません。体重1キログラム分余分に血液を送りだすためには、毛細血管まで入れたら非常な長さになりますが、主要血管だけでもほぼ30メートルを要します。そうするとその14.5倍ですから、今の小学6年生は50年前に比べて、1回脈をうつ毎に約500メートル余分に血液を送り出しつづけていかなければならないのです。
 そう考えると、昔なかったような突然死やスポーツ中の急死が増えてくるのは、当たり前ではないでしょうか。その延長線上に過労死の増加ということも考えられます。


 すべての動物は、寒さをしのぐために体表面積を広げます。つまり、体をふっくらとさせて大きくするのです。熊でいうと、本州はツキノワグマ、北海道にいけばヒグマ、北極にいけばホッキョクグマと、どんどん大きくなります。日本近海で見られるイルカは、北極へいくとシロナガスクジラになります。動物は食性によって体型が決まってくるわけですから、日本人よりはフランス人の方が、フランス人よりはノルウェー人の方が大きいのは当たり前です。
 しかしこれらの人たちは、何千年もかけてだんだん大きくなった歴史をもっています。それなのに、日本人は間違った食の指導により、たった60年で急激に大きくなりました。その結果、アレルギーや生活習慣病を生み出し、心の偏りを生み出し、その延長線上に早死を生み出しました。私たちは、親が子どもの葬式を出す時代を作り出してきたということです。この状態に歯止めをかけるためには、いったいどうすればよいのでしょうか。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

 

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