山ちゃんの食べもの考

 

 

その123
 
[医食同源]を考える<13>

 
 一万年前、農業が常に澱粉食品を供給するようになって、人間の食生活はどのように変ったのでしょう。人間はすぐに穀物の食べ方を身につけました。はじめは種子をそのまま煎って食べ、やがて粥やパンにすることを覚えました。グルコースが容易にできて、脳や筋肉にエネルギーを送ることができる穀物に、人間の体はたちまち適応していったことでしょう。おかげで人口が増え、人間社会は大いに繁栄しました。
 穀物の栽培に続く1000年間の人間の食生活における炭水化物源について、良く考えていただきたい。それは全粒穀物そのもの、全粒または粉砕・荒挽き穀物から作るオートミールなど粥状食品、粉砕・荒挽き穀物を含んだ固いパン、豆類、野菜類(根茎・根を含む)。果物類――すべてグリセミック指数が低い食物ばかりであったのです。
 調理は単純そのものでありました。石で粉砕して、火を通すだけのことです。こうして調理されたものはいずれも消化吸収に時間がかかり、血糖値の上昇はゆるやかで、持続時間も長かった。体に関する限り、この食事は理想的なものだったのです。なぜなら、エネルギーの放出が緩慢で、空腹のつらさがなかなかおとずれず、食事からずっとあとまで筋肉労働をしても疲れなかったからです。膵臓にもやさしい食事だったといえます。

 
 現代の食生活における炭水化物源について見てみましょう。ハーヴァード大学公衆衛生学教室のまとめた「アメリカ人の食事ベスト20」は次のようになっています。

1, ポテト 11, フルーツポンチ
2, 白パン 12, コカコーラ
3, 冷たい朝食用シリアル 13, リンゴ
4, 黒パン 14, スキムミルク
5, オレンジジュース 15, パンケーキ
6, バナナ 16, 佐藤
7, 白米 17, ジャム
8, ピザ 18, クランベリージュース
9, パスタ 19, フレンチフライポテト
10, マフィン 20, キャンディ
 人々が穀物を主な食料源とし始めた頃と、何がどのように変ったのでしょう。彼らがコカコーラやフルーツポンチでピザやフレンチフライを流し込んでいたわけではありません。
 現代人は炭水化物のほとんどを、持続性のあるエネルギーにもならず、膵臓にも優しくないグリセミック指数の高い食品から摂取しているのです。しかもこのような大きな変化を生じたのは、わずかこの200年足らずの間のことであるというのです。


 人間の食生活で炭水化物が問題になったのは、現代の食品加工テクノロジー、特に低グリセミック指数食品を高グリセミック指数食品に変える精製加工技術によってであり、このことで、炭水化物食品の質が極端に劣化したからであります。
 現代の小麦粉は、1800年初期まで使われていた伝統的な石臼に変って登場した高速回転ミルで製粉されます。この効率のいいミルは高熱を発し、粉が損傷されます。その損傷はまず、種子の胚に含まれる油脂の酸化・腐敗からはじまります。この腐敗を防ぐために胚芽を除去します。また、製粉の工程で邪魔になる種皮(ふすま)も除去します。その結果があの白い粉――つまり巨大な表面積をもち、グリセミック指数がきわめて高い、超微粒子の純粋な澱粉になるというわけです
 製粉業者は石臼時代よりもはるかに安く小麦粉を作れるようになり、粉の貯蔵期間も長くなり、販売もずっと楽になりました。白い粉は軽くてフワフワしたパンや菓子になり、それが現代の嗜好にピッタリ合ったわけです。人々はすぐにそれに飛びつき、それまでの粗くて固い黒パンは農民や無知な田舎者の食べものとして忌み嫌ようになってしまいました。
 現代のパンなどは、形がどうあれ、ビタミンやミネラルを添加し、また、他の穀物の粉と混ぜたものであれ、白い小麦粉製品のすべてが食品加工テクノロジーによる最悪の創造物であることには変りはありません。精製粉で作った食品はあらゆる場面で登場して、血糖値を病的なまでに上昇させ、インスリンの分泌を異常に高めるレベルにまでグリセミック指数を引き上げる原因になっているのです。


 コーンシロップは、やや近年の発明品で、市場を圧倒的に席巻しています。食品加工業者は20世紀のはじめに、コーンスターチを高圧で酸と煮詰めれば甘いシロップができることを発見しました。
 この方法で、澱粉から最大42%の糖分が得られ、しかもその糖分のほとんどがグルコースです。酵素を利用した新しい方法ではさらに大量の糖分が得られますが、それは大半が果糖です。
 この高果糖のコーンシロップの甘味は蔗糖に匹敵し、サトウキビやビートから作る砂糖よりもはるかに安価にできるので製造業者に大歓迎され、ソフトドリンク、ジュース、サラダドレッシング、ケチャップ、ジャム、ゼリー、アイスクリームなど、実に多くの食品に膨大な量が使われています。
 人間の歴史で前例のないほど大量の果糖が消費されている今、その代謝への影響が心配されています。
 アメリカの食品医薬局(FDA)は、体が蔗糖を分解してグルコースと果糖をつくっている以上、高果糖のコーンシロップは無害であると考えています。しかし、実際には、体は大量の果糖の処理を苦手としています。
 生命を維持しているのは血液中のグルコースであって、血液にいくら果糖があっても肝機能に異常をきたすだけで、生命を維持することはできません。果糖の大量摂取によって血中脂肪のレベルが上昇して、心臓や動脈の病気のリスクを高めるということも裏付けられています。
 

 精製加工した炭水化物食品の導入で短期間に破滅的な結果を招いた人たちがいます。その有名な例はハワイ人とアメリカ南西部の砂漠に住む先住アメリカ人です。
 西洋文明と接触する以前にハワイ諸島に移住したポリネシア人はきわめて活動的で、現代の彼らを悩ませている変性疾患もほとんど見られませんでした。
 当時の主食はタロイモの澱粉から作った半発酵の練りものであるポイ、繊維質と多量栄養素に富むパンの木の実、サツマイモなどで、すべて低グリセミック食品ばかりでした。副食には肉(とくにポーク)、魚、貝、果物、野菜を食べていました。ところが今では、アメリカ式のファーストフード、とりわけ白いパン、白米、ソーダ、スナック菓子、キャンディなどに偏り、肥満の度合いは信じられないものになってしまいました。当然のことながら、高血圧、成人型糖尿病、心臓病の罹患率は急上昇しています。
 アメリカ南西部の砂漠に住むピマ族やオダーム族も同じような憂き身にあっています。彼らは伝統的に物静かな農耕民族で、豆、コーン、カボチャ、クリ、ドングリ、澱粉質の根菜などを食べていましたが、今ではもっぱら最悪のファーストフードや加工食品になじむようになってしまいました。
 それらはグリセミック指数がきわめて高いものばかりです。スリムだった人たちは極端に肥満し、なんと人口の80%が成人型糖尿病に罹っている。のみならず、子どもたちにも糖尿病が発生しはじめ、異常に肥満した小学生が増えているというのです。


 山岳ビマ族はメキシコのソラノ州とチワノ州の山奥に暮らし、いまだに現代の加工食品と接触していない。彼らは痩せ型できわめて活動的であり、文明病にかかっている人はいない。一方、同じ遺伝子プールを持つアリゾナ南部やメキシコ北部の砂漠ピマ族は風船のように肥満し、高血圧、糖尿病に悩んでいる人が数知れないのです。
 ところが興味深いことに、研究者のすすめで伝統食に戻った人たちは肥満、糖尿病、高血圧の症状が好転するという結果が出たのです。
 食生活が健康状態を左右する重要な因子であり、未精製・未加工の伝統的な澱粉食が健康に寄与していることを、はからずも裏づけたのです。同じような事件はハワイ人に対しても行われ、同様な結果を得ているのです。


 ハワイ人やオダーム人のようなインスリン抵抗症候群の人たちは高グリセミック指数食品の代謝阻害作用に非常に敏感に反応して、きわめて容易にU型糖尿病を発症します。ただし、その発症を遺伝的に抑制してきた伝統的な生活様式、特に伝統的な食生活に切りかえれば、発症を防ぐことができます。
 見てきたように炭水化物には消化吸収されてエネルギー源となるもの(グリセミック指数)) と消化吸収されないもの (食物繊維) とがあります。炭水化物は、その種類や状態、調理法等によって消化吸収されやすさが異なります。したがって、それぞれの炭水化物がぶどう糖として血液中に入り、血糖値に及ぼす影響も異なってきますこれらのことを踏まえて、食品中に含まれる炭水化物の性質を示す新たな指標としてGI(グリミック指数:血糖指数) が提唱されています。血糖値に及ぼす影響は砂糖よりもむしろパンの方が大きいといえます。
 グリセミック指数の低い炭水化物には難消化性の食物繊維を多く含むことが多く、食物繊維は、食物の消化吸収を妨げるとともに、腸内の環境を改善する等の利点が認められており、この点からも低グリセミック指数食の有用性が示唆されています。砂糖のグリセミック指数は先に見たように、炭水化物の中では決して高くなく、食品中の炭水化物に占める砂糖の割合が高くなるほど、食品の グリセミック指数は低下することがわかってきました。ヨーロッパの糖尿病学会の勧告では、糖尿病患者であっても食品中に占める炭水化物の量は55%程度、砂糖摂取量は1日あたり30g程度が望ましいとされています。
 炭水化物感受性を持つ人は、人口のどれくらいの割合でいるのでしょう? 専門家によると、人口の25〜30%は非常に感受性が強く、70%以上がその体質をもっていないといいます。


 ワイル博士は炭水化物の正しい接種法について、以下のように述べています。
 炭水化物を過剰な脂肪とタンパク質で置きかえることの害作用については後に述べますが、その他にも、体から炭水化物という最良の燃料を奪ってしまう消化と代謝の効率が低下して、グリコーゲンの貯蔵を困難にし、筋肉組織の衰弱を招く恐れがあります。しかもそのような偏った食事は食卓から、文化的なアイデンティティの基盤となり、社会的な絆を形成し、滋養と満足感をもたらす食べものを排除することになります。
栄養学者の大半は、摂取カロリーの最低50%、最高60%を炭水化物から摂ることをすすめています。50〜60%が適量ということは、1日の摂取カロリー1000キロカロリーについて炭水化物食品を125から150gという計算になります。
中程度の活動をしている18歳から54歳までの女性なら、一日に1800キロカロリーというのが適当な総摂取量です。となると、そのうち900から1080キロカロリーを炭水化物からとればよく、重量に換算すれば、1日当たり225から270gの炭水化物食品に相当します。同年齢の男性であれば、1日に約2300キロカロリーを必要とするので、1150から1380キロカロリー、つまり288から345gの炭水化物食品が適当ということになります。


炭水化物を正しく摂取するために、摂取量以外にも、次のことを強調したい。

@摂取する炭水化物食品の半分以上は、精製加工の程度が少なく、グリセミック指数の低いものでなければならない。精製加工食品の問題点は主に、繊維質をはじめとする保護的な微量栄養素が少なく、ナトリウムと有害な脂肪が多いというところにあります。したがって、精製加工食品の摂取量を減らせば健康全般ばかりか、炭水化物の代謝に有利に条件が確保できます。

Aほとんど毎食、全粒穀物、豆類、野菜などの低グリセミック指数炭水化物食品と低グリセミック指数果物(マンゴー、パパイヤ、パイナップルなどの熱帯産のものではなく、リンゴ、さくらんぼ、イチゴ類などの温帯さんのもの)をとることが望ましい。

B高グリセミック指数食品を食べるときは摂取量を減らし、そのつど、何らかの低グリセミック指数食品を加えてバランスをとる。

Cあるいは、繊維質の食品と酸っぱい食品(レモンジュースや酢)と一緒に食べて、高グリセミック指数食品の害をやわらげる。

D高果糖シロップを使った飲食物の摂取を最小限にとどめる。それらはたいがい低品質の食品であり、できるだけ避けたほうがいい。また、砂糖の代わりにグラニュー糖を使うのもやめていただきたい。

Eできるかぎり白パンとやわらかい全粒紛パンをやめて、硬く歯ごたえのある、粒子の粗いパンを食べる。

F固ゆでのパスタ(アルデンテ)の味に慣れる。

G大型で粉っぽいポテトでなく、小型で粘っこい、新種のポテトにする。

H餅っぽい米ではなく、さらさらしたバズマティ米にする。

Iもっと豆類を食べる。豆類は低グリセミック指数炭水化物を始め、良質な栄養素を含んだ高品質食品である。
以上の条件は誰にでも当てはまるものだが、特にインスリン抵抗性、成人型糖尿病、肥満、心血管疾患、中性脂肪が多い人、および家系的にその傾向がある人には重要な条件である。


 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

 

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