山ちゃんの食べもの考

 

 

その124
 
[医食同源]を考える<14>


 ワイル博士はその著『医食同源』の中で、<脂肪――それは最高の食品か最低の食品か?>の中で以下のように述べています。
「西洋人のほとんどは体脂肪を余分なものと考え、体脂肪を賛美する文化は急速に消滅しつつあります。しかし、カロリーが高い多量栄養素である脂肪は、飢饉に直面している人たちにとってはこの上ないご馳走です。飢饉の苦しみを知っていた石器時代に人たちが大型動物を葬って料理するとき、動物性脂肪は最高のご馳走であり、来るべき食糧難に耐えるだけのカロリーを保証するものであったのです。」
「実際、私たちは脂肪を美味に感じます。脂肪は食べ物の香味の多くを占めており、現代の食品産業が懸命に努力して止まない“舌触り”のよさ、おいしさに大きく貢献しています。チョコレートの多くの魅力はココアバターのあの官能的な食感にあります。インド人の料理人の多くはほとんどの料理を、乾燥した全粒のスパイスをギー(不純物を除去したバター)で炒め、スパイスの香味を引き出すことからはじめます。スパイスをはじめとする香味食品に含まれる香味成分の多くは脂溶性であり、その香味を人間の舌の味蕾につたえる媒介役を果たすのも脂肪です。あの滑らかな舌触りと濃厚な香味の組み合わせに、私たちは手もなく降参いてしまうのです。味が“リッチ”だと言うとき、それはたいがい脂肪がもたらす快楽に反応しているときです。」


 高級和牛肉、あのとろけるような霜降り肉の美味しさは、まさに脂肪の美味しさです。さしの入った和牛肉、その脂肪の融点がほかの種類に比べて低いため、口の中でとろけるように溶けて味蕾をくすぐり、思わず満面の笑みとなる。
 日本人の大好物、一切れ千円以上もするマグロの大トロの美味しさも脂肪の旨さ。他に脂のよくのった魚、フォアグラ、バター、マヨネーズ、アイスクリーム、チョコレートなど、食品の美味しさその脂肪にあるといっても良い。
 脂肪を含む食品を私たちはとても美味しいと感じる。しかし、だからといってその脂肪を単体で食べてみても決して美味しいとは感じない。上等とされる油脂を舐めてみても決して美味しいと感じることはなく、食べれたものではない。脂肪を含む食べものが美味しいと感じるには、他の味覚のバランスの上に成り立つようである。油脂を含む食品を食べれば大きな満足感が与えられる。


 ワイル博士は「人間が脂肪にうま味を感じるのは進化の自然の選択よるものだと、私は信じています。生存のチャンスを増やす即席エネルギー源としての甘味嗜好と同じく、脂肪嗜好もまた生存につながる高濃度のカロリー源だったのです。
 ほとんどの人間が“甘い物好き”に劣らず“脂肪好き”であるのは、進化の観点から見て十分に理由のあることなのです。人間の脂肪好きは既定の事実であり、脂肪の摂取を減らせというアドバイスは、食の快楽の多くが脂肪に由来すると言う単純な事実に逆らうことになります。低脂肪を心がけている人はしばしば、会食の場で疎外感を味わうことになります。
 脂肪はまた、インド人のギー、地中海沿岸の人たちのオリーブ油、ヨーロッパの人たちのバターのように、食の文化的アイデンティティの決め手になっていることも少なくありません。
 これほど好まれる脂肪が健康によくないということがありうるのだろうか?現代の食生活において、肥満・心臓・ガンの原因もしくは主要増悪因子の主犯は、本当に脂肪なのだろうか? 私にいわせれば、炭水化物と同じように、脂肪そのものが問題なのではありません。問題は現代の食生活に蔓延している脂肪の種類なのだ」といいます。


 脂肪の過剰摂取については、アメリカばかりでなく、最近日本でも大変神経質になっています。ワイル博士は、脂肪そのものが問題なのではなく、食生活に蔓延している脂肪の種類が問題なのだという。
 そして最適な食事に必要な脂肪の種類と量を知っていただくために、まず脂質(油脂と脂肪酸、およびそれから派生した化合物)と言うものに関する基礎知識――脂質はどのような形で体内に存在しているのか、体内でどんな活動をしているのか、どんな特別な機能があるのか――を提供しておきたい。と以下のように述べています。
 「体内にはごく少量だが、フリー脂肪酸と言う形の脂肪が存在している。ほとんどの脂肪酸は一度に三つずつ担体分子であるグリセリンと結合している。グリセリンは炭素・水素・酸素から成る単純な化合物で、グルコースの代謝産物から誘導されてできる。その炭素原子の三つが脂肪酸の鎖と結合する中軸となり、その結合物はトリグリセリド(中性脂肪)と呼ばれる。脂肪はトリセリグリドの形で脂肪細胞に貯蔵され、血液に乗って全身をめぐる。体脂肪の大半はその脂肪細胞である。トリセリグリドはまた食物中に含まれる脂肪の主なタイプでもあり、人間が食べる食物の95%がトリグリセリドとして存在している。」
  食物として取る脂肪の大部分が中性脂肪(トリグリセリド)です。中性脂肪は皮下脂肪の大部分を占めるものであり、エネルギー源としても重要です。エネルギー源として使われ、余分なものは肝臓や脂肪組織に蓄えられます。ガソリンが切れたのでは自動車は動きません。つねに予備のガソリンを蓄えておけるよう、人間の体も予備のエネルギーを中性脂肪(トリグリセリド)として脂肪細胞や肝臓に蓄えています。しかし、蓄えが多くなりすぎると、肥満や脂肪肝の原因になります。
 脂肪や炭水化物、アルコールなどの摂取過剰で血清トリグリセリド値は増加します。また、肝臓でも合成されています。
 エネルギー源として重要な役割を持つ中性脂肪ですが、豊かな現代の食生活がもたらす中性脂肪の増加がもたらす動脈硬化や糖尿病の心配、さらに糖尿病は高脂血症を誘発し、肝臓に増えた中性脂肪が脂肪肝も誘発するなど、中性脂肪の増加は現代人のさまざまな生活習慣病の起因になっています。
 

 私たちが油脂を摂取すると、体は必要に応じて新しいトリグリセリドに作り変えます。体の脂肪組織に貯蔵されているトリグリセリドは主にカロリーの備蓄用であり、そこからカロリーを取り出すとき、体は燃焼させてエネルギーを得ます。人間が生きていくうえでの必要不可欠な中性脂肪です。
 人類の歴史は、常に寒さや暑さ、飢餓との闘いであった昔には、体中にしっかりエネルギーを温存させておかなければならなかった。しかし、現代のような豊かな生活環境下で「中性脂肪」は多くの現代人に「肥満」をもたらし邪魔者扱いです。
 勿体ない話ですが、現代人は食べ過ぎです。それによって中性脂肪が増え過ぎ、体にさまざまな悪影響を及ぼしています。その第一歩が恐ろしい動脈硬化です。中性脂肪の増え過ぎは、善玉コレステロール(HDL)を減らしてし悪玉コレステロール(LDL)が増やすといいます。
 また、中性脂肪の溜まりすぎは、見た目ではわからない事が多く、「かくれ肥満」などといわれ、本人も周りも気づかぬところでさまざまな病気の原因となっていると多くの人を悩ませています。
 

 健康診断の検査に、血液中の脂肪とコレステロールのレベルを測定するための血清脂質像(中性脂肪などの)検査があります。その中には血清トリグリセリドのデータも含まれています。
 過食、特に高グリセミック指数の精製炭水化物を過剰に摂取すると、血清トリグリセリドのレベルが高くなります。高レベルの血清トリグリセリドが心臓病のリスクを上昇させるといいます。食事中の脂肪の摂取量が少なくなると、必要なエネルギーを吸収するために当然糖質の摂取量が多くなるわけです。そうすると体内での脂肪合成が盛んとなって、血清中のトリグリセリド濃度が高くなるというわけです。
 血清脂質とは血液中の脂質(脂肪分)のことで、コレステロールやトリグリセリド(中性脂肪)をまとめた言い方です。採血した血液をしばらく置いておくと赤く濁った部分と透き通った部分に分かれます。透き通った部分を「血清」といい、さまざまな栄養素や、コレステロールやトリグリセリドなどが溶け込んでいます。
 血液検査では、この血清の中の脂肪成分がどれくらいあるかを調べます。血液の中に溶けている脂質(血清脂質)が異常に多い状態のことを「高脂血症」といいます。特に自覚症状もなく、日常生活に不都合なこともないため見過ごされがちで、健康診断などの血液検査で発見されることが多いそうです。高脂血症を放っておくと、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞などの心臓病、脳血栓・脳梗塞などの原因になっていくのというから恐い。


 コレステロールは多くの動物性食品(特に肉・全乳・卵黄・魚卵)に含まれる、ドロッとした物質で、われわれの肝臓でも作られています。悪玉と思われるコレステロール、実は体の中ではとても重要なはたらきをしています。
 コレステロールの決定的に重要な役割のひとつは、細胞膜の構造を変える作用にあります。細胞膜の大部分が脂質でできています。不飽和必須脂肪酸は細胞膜を柔軟にし、飽和度が高くなるほど細胞膜を硬質にするという作用があります。したがって、日々摂取する脂肪酸の種類や量がめまぐるしく変化すると、細胞膜の柔軟性を、最適な健康に必要な一定の範囲に維持することが難しくなります。そこで、体はコレステロールを利用して、膜の柔軟性の調整をおこなっています。つまり、やわらかすぎる膜にはコレステロールを多く分泌して硬度をたもち、固すぎる膜からはコレステロールを奪ってやわらかくしているのです
 また、コレステロールは副腎皮質ホルモンや性ホルモンの重要な原材料となっています。さらに、体はコレステロールからカルシウムの利用に必要なビタミンDを取り出し、また胆汁酸もつくっています。胆汁酸は摂取した脂肪を細かい粒子に分解して摂取脂肪の消化を助け、消化のプロセスで小腸に分泌される胆汁によって、過剰なコレステロールの害から自身を守っています。コレステロールはまた乾燥や環境中の刺激因子から皮膚を守る皮脂腺分泌物の成分にも使われています。
 本来コレステロール自体には善も悪もないわけですが、善玉コレステロール(HDL)は体の中の余ったコレステロールを回収し肝臓へ戻す「回収屋」であり、悪玉コレステロール(LDL)は肝臓からコレステロールを運んで各組織の細胞に届ける「配達屋」です。


 コレステロールはもともと体内にある脂質で、ギリシア語で「固形の胆汁」の意。胆汁をつくる原料になったり、細胞膜や筋肉を作り出すのに欠かせないものです。このようなさまざまな仕組みで重要な働きをしているコレステロールが、なぜかくも悪評をこうむっているのでしょうか?
 本来はワルじゃないのです。しかし、その量が増えると余剰分のコレステロールがワルに変身。コレステロールが、動脈壁の肥厚や硬化部分の主成分にもなっていて、LDLコレステロールおおくなると、血管の内壁にカスのようなものがたまって血液の通りを悪くし心筋梗塞や脳卒中など深刻な循環障害につながる動脈硬化の原因になる特徴にあるからです。
 動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどの脂肪がたまり血管が狭くなって血液の流れが悪くなったり、動脈の壁が堅く脆くなったりする状態をいいます。従って血液中のコレステロール値が高いと動脈硬化を起こす原因となり、実際にコレステロールが高いほど、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞になる危険率が高いといわれています。
 コレステロールの産生と輸送の障害となる動脈硬化は重大な病気であり、その動脈硬化が現代の食生活に大いに左右される文明病であるというわけです。
 そこで、コレステロールの産生や輸送を狂わせているのはどんな食べものの過剰または欠乏なのか? ということになります。


 肝臓は胆汁の成分としてコレステロールをつくっています。副腎や性腺もそれぞれのホルモンをつくる成分としてコレステロールをつくっていますし、事実上、すべての細胞が膜の必要に応じて微量のコレステロールをつくっています。
 脂肪を構成する脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がありますが。肉の油やバターなど動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれており、摂取が過剰になると肝臓でコレステロールの合成を促進し、血中コレステロール値を上げてしまいます。
 一方、イワシ、サバなど青身魚や、オリーブ油、サラダ油などの植物性脂肪に多く含まれている不飽和脂肪酸には、コレステロールの胆汁への排出を促進して、血中のコレステロールを下げる働きがあります。
 飽和脂肪酸や高グリセミック指数の炭水化物が多い食生活を続けるとコレステロールの過剰生産を促すことになります。私たちはまた多かれ少なかれ、食べ物からもコレステロールを得ていますが、その量は摂取する動物性食品の量によって変わります。また、摂取コレステロールの血清脂質増に及ぼす影響は、飽和脂肪や精製糖質、精製澱粉の影響が極めて大きいといえます。
 鶏卵の生産者は卵がコレステロールのカタマリのようにいわれることに対して不満を表明していますが、それは無理もないことで、卵黄にはたしかにコレステロールが含まれていますが、普通に食べるほどの量であれば血清コレステロールに及ぼす影響はさほど問題にはならず、むしろ貴重な必須脂肪酸の摂取源にもなりうるものであります。


 トリグリセリド(中性脂肪)とコレステロールはともに、タンパク質の皮膜でおおわれた小滴(リポタンパク質)となって血管の中をめぐっています。肝臓でつくられたリポタンパク質は、食事によって摂取された脂質成分を体内に吸収運搬するはたらきをしています。細胞に脂質を運び入れ、また細胞から脂質を運び出すための乗り物であります。
 このリポタンパク質の代表的な2種類が、低比重リポタンパク(LDL)と高比重リポタンパク(HDL)です。摂取された脂肪は小さな油滴となって腸管から血流に入り、高密度リポタンパク質(HDL)のリポタンパク質に乗りこみます。するとHDLはトリグリセリドとコレステロールを肝臓まで運んでいく。そこで肝臓はそれらをさらに代謝して、体内の他の部位まで送り出すか、または一部のコレステロールを胆汁の産生に利用します。送り出すときは、低密度リポタンパク質(LDL)という別の乗り物になります。
 体内のコレステロールの約70パーセントを運ぶLDLの粒子は、動脈の壁にはりついて、梗塞、卒中、心臓病を引き起こすため、「悪玉」コレステロールとよばれます。HDLが「善玉」コレステロールといわれるのは、体全体をめぐって、死んだ細胞などからコレステロールを拾い集めてくるからです。
 すべての細胞には膜に特殊なLDL受容器があり、LDLという乗り物がそこにドッキングして、細胞内にコレステロールやトリグリセリドという荷物を降ろす仕組みになっているのです。
 細胞はそのようにして、必要な脂肪やコレステロールを受け取っているのです。必要な量を受け取ると、細胞膜の受容器はふたを閉じ、余った脂肪とコレステロールはLDLに乗ったまま体内をめぐり続け、脂肪細胞に取り入れられて貯蔵されるか、HDLに転換されて肝臓に戻っていくことになります。
 血中におけるLDLレベルの上昇、HDLレベルの低下、HDL対LDLの比率の低下はすべて動脈硬化に関連していて、心筋梗塞のリスクを高めます。
 質の悪い脂肪や炭水化物を大量に食べると血清トリグリセリドと血清コレステロールが上昇し、LDLによる組織への脂肪およびコレステロール輸送量が増大して余剰分を肝臓に戻すHDLの許容量を超えることになります。LDLに乗ったコレステロールは動脈壁を損傷する危険性をひめています。


 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

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