山ちゃんの食べもの考

 

 

その129
 

 ほとんどの人は、タンパク質、特に動物性タンパク質をたくさん食べると筋肉や骨が強くなると思っている。しかし、事実は必ずしもそうではない。と、ワイル博士は以下のように述べています。
 サハラ砂漠以南に住む女性は、穀物を主食にして、一日1500mgが必要量だといわれるカルシウムを、その6分の1の約250mgしかとっていないにもかかわらず、骨が非常に強靭だ。
 一方、動物性脂肪とともに動物性タンパク質を大量にとっている伝統的なイヌイットは、ひどい骨粗しょう症に悩まされている人が多い。(もちろん、遺伝的素因とビタミンDの問題も関与している。体は、カルシウムの吸収と利用に必要なビタミンDを、コレステロールと日光によって合成することができるが、イヌイットは冬季に日光が不足している。にもかかわらず、南と北の両民族のタンパク質摂取量の違いが大きく影響していると考える)
 高タンパク食によって免疫系のバランスが失われるという問題もある。バランスが失われると、花粉や動物の隣屑(体毛・羽毛・皮膚からハガレ落ちるフケ)といった本来無害な物質に反応する(アレルギー)、自分の体を攻撃してしまう(自己免疫)といった異常をきたすようになる。


 また、ワイル博士は次のように述べています。アレルギーも自己免疫も遺伝的素因に大きく左右され、環境中の引き金にも影響を受けやすい。たとえば牛乳のタンパク質(カゼイン)も引き金になり、乳幼児や児童にアレルギーを起こし、自己免疫反応を起こすこともある。
 その際、初めて牛乳を飲ませる時期が大切になる。両親またはそのいずれかにアレルギーがあれば、子どものアレルギーに対するリスクも高くなるが、そんな子どもが2歳以前に牛乳を飲み始めるとアレルギーが生じやすくなり、失神、喘息などを発症して、成人してからも免疫系のアレルギー反応が高くなる。そんな不安定な時期を避けて、つまり2歳を過ぎてから牛乳を与えれば、アレルギーは出現しにくい。
 不安定な乳幼児に牛乳を与えると自己免疫反応の引き金になり、膵臓のインスリン分泌細胞を破壊して、遺伝的に隠れていた若年性の糖尿病を発症させやすくなるという研究もある。
 アレルギーや自己免疫疾患の患者は、特に動物性タンパク質と乳性タンパク質を避けて低タンパクの菜食にすると良い。免疫系が自己と非自己を区別する目安は主にタンパク質分子なので、成長・維持・修復に必要な量以上のタンパク質を摂取せず、余計な混乱を避けるのは理にかなっている。と述べています。
 

 また、動物性のタンパク質の問題点について、ワイル博士は以下のように述べています。
 タンパク質にはわからないことが多い。タンパク質をたくさん食べたほうが調子のいい人と、食べないほうが調子のいい人がいることの理由はまだわかっていない。最適な健康に必要な蛋白源の種類に関しても異説が多く、混乱している。
 動物性タンパク源と非動物性タンパク源の利点と欠点について考えてみる。
 動物性蛋白源には牛・豚・羊、数は少ないが鹿・ヘラ鹿・ムースなど哺乳類の肉、鶏・鴨など鳥類の肉、主として鶏の卵。主として牛のミルク、及びその製品、そして、魚類、貝類がある。
 植物より動物のほうが近縁関係にあるので、動物性タンパク質は人間のそれに近く、必要に応じて新しい分子につくり変えやすい。エネルギー源としては動物性タンパク質も植物性タンパク質も同じだが、普通の動物性タンパク質と非動物性蛋白源には、他の要素を伴っているかいないかという、重要な要素がある。
 たとえば、たいがいは大型草食動物の骨格筋である肉の組織は、霜降り状に飽和脂肪を伴っている。事実、肉は肉食をする人の主要な飽和脂肪摂取源である。肉汁が多く、やわらかいので、多くの人は霜降りの部分の肉を好んで食べる。最上級とされる肉は最も脂肪分の多い部分である。ビーフの脂肪は飽和脂肪酸が52%、単不飽和脂肪酸が44%、多不飽和脂肪酸がごくわずかという、動物性脂肪の中でも最悪のものだ。豚の脂肪(ラード)は飽和脂肪酸が41%、単不飽和脂肪酸が47%、多不飽和脂肪酸が12%である。
 アメリカ人のビーフ好きは、必要量以上のタンパク質ばかりか、不健康な脂肪をも大量に摂取することになります。それに、これは是非知っておいて欲しいことだが、すべての家畜(豚・牛・羊)の肉の多不飽和脂肪酸には多少のリノレン酸が含まれていながら、そこにはオメガ3が欠けていることです。それは現在の飼育法では穀物濃厚飼料で太らされているからです。したがって、草原で自然の草を食んで育っていた時代とは違い、現代では、肉をたくさん食べると、オメガ6対オメガ3の比率がますます大きくなるようにできているのです。


 また、大量生産用の動物には、短期間で太らせるために発情性のホルモンが、病原菌から守るために抗生物質が使われていることも問題点です。食肉に含まれていては成らないことにはなっていますが。それらの残留物質は、人間の健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。
 女性が必要以上の発情性(エストロゲン系)ホルモンを外部から摂取すると、乳がん、生殖器がんをはじめ、エストロゲンに誘発される諸症状(乳腺症、子宮腺症など)のリスクが高まります。また、余分なホルモンの摂取によって、男性における前立腺がんのリスクも高まります。肉に含まれる抗生物質が抗生物質抵抗菌を増大させていることは明らかであり、現に世界中でその問題が起こっています。
 その上大型動物は、草食動物でさえ、食物連鎖の上位に位置しています。食物連鎖の上位にいけばいくほど、その体内で環境中の有害物質が濃縮されていくわけで、その点から見ても、動物性食品の摂取が少ないほど健康にいいことがわかります。ガンの原因になり、免疫系や神経系を含む多くの器官系を損傷する、ありとあらゆる有害物質の摂取量も少なくなるからです。(大型海洋哺乳類の肉と脂肪を食べている現代のイヌイットの球状を想起していただきたい)。
 医師はよく患者に、コレステロールが多いから内蔵(肝臓・腎臓・胸腺など)を食べるなと警告する。しかし、外から摂取したコレステロールが血中コレステロールに与える影響は、摂取した飽和脂肪の影響よりはるかに小さいものである。それより問題なのは、内蔵には重金属や環境汚染物質、病原菌などが濃縮されている可能性があることだ。したがって、ビタミンB群や各種の微量ミネラルが含まれているとはいえ、内臓はおすすめできません。と、ワイル博士はいう。
 

 健康にいい肉について、ワイル博士の見解です。
 「まだ少数だが、家畜を有機飼料で育て、ホルモンや抗生物質を使わずに、良質の肉を生産している農場もある。その中には、家畜が狭い飼養場ではなく、野原で雑草を食んでいるようなところもある。そんな動物の肉には余分な脂肪もなく、脂肪に良質な脂肪酸が含まれている。ビーフより健康にいいバッファローを食肉にしようとしている農場もある。ヘラ鹿など、野生動物の肉を売る店屋、その肉を使うレストランもできている。もちろん、それらはすべて高価につき、大量生産・大量販売には向かない。しかし、どうしても肉が食べたいという人には、考える価値のあるものである。」
 「鶏肉は、いくつかの重要な点で、大型草食動物とは違っている。その一つは、脂肪が筋肉全体に散在していず、筋肉の外側にあるので、調理の前に除去できるという点である。これは飽和脂肪の摂取を抑える有利な条件になる(また、環境中の有害物質は筋肉よりも脂肪に高濃度で含まれているので、その点でも有利だ)。
 チキンの脂肪の組成は、ビーフ、ポーク、マトンのそれよりも健康に害が少なく、飽和脂肪は30%しか含まれていない。必須脂肪酸も含有しているが、穀物飼料で育った市販のチキンにはオメガ6脂肪酸しか含まれていない。
 大量生産のチキンには抗生物質やホルモン剤も大量に使われ、感染、特に精肉の過程で付着したサルモネラ菌による感染のリスクもある。入手が困難で価格も高いという問題はあるが、エコロジカルな商品はある。放し飼いにされ、雑草をついばんでいる鶏肉はある。
 放し飼いの鶏はオメガ3が豊富な藻類で育った鶏なら、その鶏卵はオメガ3脂肪酸のすぐれた摂取源である。」


 肉食者の多くは、自分の行為が世界の食料や環境にどのような影響を与えているかについて気づいていないか、あるいは無頓着であるようです。
 世界には多くの飢餓人口や栄養不足人口がいるにもかかわらず、限られた豊かな人々のために、現代の食肉用動物の飼育には、多くの食料や水や天然資源が浪費されているのです。
 貴重な栄養源である穀物を動物の飼料にしているわけですが、これを人間にまわしたら、世界の飢餓は大幅に減少するといわれています。食糧(穀物)を家畜が食べるか、人間が食べるかという問題です。先進国では、大量の肉を食べていますが、肉食は、穀物を直接消費するのに較べて非常に効率が悪いのです。
 牛肉1kgの生産には約16kg、豚肉1kgの生産には約7kg、鶏肉1kgの生産には約3kgの飼料穀物が必要とされています。先進国では穀物生産の60%は家畜の飼料につかわれ、トウモロコシを例に取れば、世界年間生産量6億トンのうち4億トンが飼料となっているということです。
 また、発展途上国の土地は先進国によって次々と切り開かれていき、大量の穀物を畜産動物に与え、その大量の肉を自分たちのために生産させ食しています。中南米では日本の面積の半分に匹敵するほどの土地が農地開発され、動物の糞尿は汚染物となり、農地も短い期間で使い物にならない土地になるということです。そして、途上国は自分の口にするものを生産するのではなく、搾取されるままに飢餓状態が続くという現実です
 現代飼育法による過剰な畜産は、土壌や地下水や空気の汚染を急速に悪化させており、世界的な環境問題になっています。飼育場から出る膨大な廃棄物の多くは、地表に浸透し、湖沼や河川に流れ込んで、農薬や薬品、ホルモン剤などを拡散させ、深刻な汚染をもたらしているのです。


 良質なタンパク質源として信じられ、多くの食生活に取り入れられている乳製品ですが、これも決して問題ないわけではありません。
 まず、家系的にアレルギー体質のある免疫系の人たちには、牛乳の中に含まれるタンパク質はアレルゲンとして負担をかけやすいので注意が必要です。
 また、牛乳には多量の動物性タンパク質が含まれていますが、この乳糖の消化には乳糖分解酵素であるラクターゼが必要です。誕生とともに授乳期には誰もがもっている酵素ですが、離乳期をむかえると同時に減少し、多くの成人には欠乏してきます。北欧の人々には生涯にわたってラクターゼが欠乏するということは少ないのですが、それ以外の地域の人々、特にアジア系やアフリカ系の人の大多数は、乳幼児期を過ぎるとラクターゼの欠乏を呈することが多く、乳糖不耐症による消化不良に悩まされることになります。
 そうした人々にとっては無理に摂取する必要もなく、歴史の中に見るように、ミルク以外にカルシウム源やタンパク源として選択肢はいくらでもあるわけです。
 クリームやアイスクリーム、チーズ、バターといった乳製品に含まれている乳脂肪は、飽和脂肪が54%と、動物性脂肪の中ではもっとも飽和度の高い脂肪です。西洋型の食事における乳脂肪は、心血管疾患蔓延の原動力である飽和脂肪の主犯ではないかと考えられているとのことです。


 魚や貝は、牛や豚、羊などより人間から遠い動物であります。青魚などにはオメガ3脂肪酸、特にEPAやDHAが含まれています。疫学的データでは一貫して、魚を食べる文化圏の人たちの健康と長寿の優位性、魚を食べる人ほど健康かつ長寿であることを証明しています。
 しかし、魚にも問題がないわけではありません。西洋社会では長い間、魚は「貧者の獣肉」などとされてきましたが、魚食の優位性が言われるや先進国の乱獲によって、無尽蔵にあると思われていた漁業資源が枯渇の危機にあります。
 また、人間の活動によって、魚が汚染されるという大きな問題も起こっています。
 さまざまな、かつ膨大な産業廃棄物、農業廃棄物、生活廃棄物のせいで、世界中の河川、湖沼、海に棲む魚が、食物連鎖を通じて多くの化学物質に汚染されています。その汚染は肉食魚や大型の魚になればなるほど濃縮され、毒性が強くなります。
 養殖魚も多くなってきましたが、これにも問題があります。限られた狭い水槽で大量に変われる魚は病気になりやすいため、抗生物質が使われます。その汚水は河川や海に流れ出し、天然の魚にも感染する恐れがあります。


 動物性タンパク質には人体に必要なビタミンやミネラルが多く含まれており、獣肉には良質の鉄分も含まれています。ミルクや乳製品については、多くの人々にとって優れたカルシウム分であり、ビタミンB分も多く含まれます。
 タンパク質は20数種のアミノ酸から構成されていますが、食肉には、人間の体内では合成されない必須アミノ酸をバランス良く、豊富に含んでいます。
 20世紀の初頭、欧米の肉食をする人々の平均寿命が50歳を超えました。当時の日本人の平均寿命は40歳以下であったといいます。日本人の平均寿命が50歳を超えたのは昭和22年ですが、伝統的な和食に動物性タンパク質を適度に取り入れた日本人の平均寿命は昭和60年、ついに世界のトップに立ちました。
 桜美林大学教授・柴田博先生は、「肉食が日本人の長寿に果たした役割大きい。昭和35年、日本人の1日あたりの肉の摂取量は平均で18.7g、現在、1日あたり平均で80g弱、今の4分の1も摂っていない。戦後、日本人の食生活は、特に昭和40年あたりから大きな変化をみせ始めた。魚だけで世界一の平均寿命は実現しなかったであろう」とに述べています。
 京都大学大学院教授・家森幸男先生は、日本食の長所と短所についてつぎのように述べています。
 「短所は食塩が多い。良質の動物性タンパク質が少ない。沖縄は豚肉をたくさん食べていますが、日本人の大部分は肉をそれほど食べません。また、乳製品が少ない。野菜や果物も未だに少なく、あと2倍は食べてほしい。ということがあげられます。
 長所は50%以上のカロリーを米、複合炭水化物で摂っている。魚、海藻、豆類を食べている。ということです。日本の伝統食はすばらしく、この欠点をなるべく少なくして活かしていけば、日本人は長生きできます。日本食が世界一の長寿食になります」と。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

◎ ご意見、ご教示はこちらまで    掲示板も御座います。是非ご利用下さい。→ 掲示板

最新号へ戻る