山ちゃんの食べもの考

 

 

その33
 

 観光地などへ出かけたときなど、その地方の特産物としての農産物加工食品や畜肉・魚貝・水産加工食品をお土産品として買ってくるケースがよくある。
私は家内と出かけるとお土産品店など見て歩くのが好きで、なるほどその地方の特産物であり使用する原材料や加工方法、添加物などを見て納得すると嬉しくなりついつい買ってしまう。ところがそうした良質のものに出会うことは滅多になく、家内が買いたいという物をすべて否定して、結局何も買わず家内と衝突することが多い。
 3つの理由がある。1つは、明らかに原材料が外国産の物である。2つには、どうしてこれがこの土地の特産品?というもの。3つは、せっかくの特産品が加工方法や使用添加物で粗悪な物になっていることなどである。
 この夏に岐阜県の名所に出かけた折、赤カブの漬物、長いもの味噌漬け、山菜漬け、その他地方色豊かな漬物や菓子類があったが、惜しいかな折角の特産品を加工方法や添加物で殺してしまっている。先人の知恵で創り上げてきたはずの良質の名産品はなぜ消えてしまったのか?
 先日軽井沢へ誘われて遊びに行った時、漬物大好きの友人と共に大きな漬物専門店に入った。さすがに軽井沢で、店内は賑わっている。何か軽井沢ならではのものが買いたくて隅々まで物色したが二人とも何も買わずに店を出た。
 私は友人の彼が漬けた宮崎産・有機栽培のラッキョ漬けを、毎日事務所での昼ごはんに2〜3粒食べているが、カリッ!カリッ!歯ざわりもよくたまらなく美味しい。
 

 私は商品という売り物の食品は増えたが、まともな食べものと呼べるものがだんだん少なくなってきたように思う。科学の進歩、その応用も結構だが、自然の摂理からあまりにも乖離したものの考え方や作り方や食べ方に、危機的な問題としての意識を持たないと、子どもたちの未来が危ないと思うのです。
ついこの間まで、どこの家庭でも作っていた手軽な漬物でさえ外部の専門業者に依存する今日です。その専門業者の手によるものが素人の主婦(失礼)が、家庭で作るものより安全でまともなものであるというならまだよい。不確かな原材料がいろいろな添加物を使用することで均一の美味しさや美しさを保ち、家庭で作るより美味で安く提供されるのです。お母さんの作った漬物は食べないがスーパーで買ってきた甘い漬物なら子どもも喜んで食べるという現象です。
家族が満足する専門業者の漬物は家庭では絶対に作れない。人工的に計算され尽くし工夫を重ねて作られた不自然なものだからです。またそんな物を作ってはいけないのです。家庭で作る漬物がまずいには3つの理由が考えられます。 
 1つは、母親や祖母から受け継いだ伝統の知恵が活かされていないから本当にまずいのです。近所のお年寄りからでも教わることがいちばんです。
 2つは、原材料が確かな物なのかどうかです。無添加で美味しい漬物を作るには、素材がおいしい本物野菜かどうか。それに塩は天然塩でないとダメ。酢やしょうゆ、味噌、砂糖など使うものだったら吟味して本物を使うこと。少々腕が悪くてもかなり美味しくなることは私の経験から請け合います。買ってくる漬物より高く作って?冗談ではない。相手は原材料費に加工賃、包装販売費用に利益、それに販売店の利益がプラスされての価格ですよ。それでもあなたが自分で作るより安いことに疑問を持って欲しいのです。
 3つは、家族の舌がもう狂っているのです。化学調味料や砂糖など添加物の味に馴染んでしまって本物素材の持つ自然な美味しさが味わえないようになってしまっているのです。これがもっとも怖いことで、普段の食べもの全体を見直し、少しずつでも変えていかないと……。
 市販されている漬物が全ていけないというわけではありません。見栄えや価格、好き嫌いだけではなく、よく確かめて良心的なものを選んでください。

 
 JAS法の改正で、青果物や海産物など生鮮品の販売に当っては原産地表示が義務付けられており、かなり浸透してきているようですが、まだ徹底していないところが見受けられます。生鮮食品の販売の多くは販売店で加工や調理、包装などの商品化作業と表示がされます。原産地や生産者、栽培方法などの表示は安心な良い食べもの選ぶための一つの目安になります。販売店が自信のもてる良い食べものあれば大概の場合は、氏素性のわかるきちんとした表示がされているものです。お惣菜など形が変わって出されるものでも、使っている原材料を確かめることが懸命です。もとの形が見えなくなるものほど危なっかしい物が使われている可能性があります。
 わが国の食糧自給率40%で私たちが普段食べている物の6割が外国産ですが、スーパーマーケットの売場で買物する時、そんなに外国のものを買っているなどと感じることはありませんね。我が家の冷蔵庫の中身も食卓も、私たちの肉体も半分以上が外国産だとは意識されることはないし、したくないです。わざわざ行った観光地の土産品が外国産なんて思いたくないですね。


以下、9月30日『日本農業新聞』より転載します。
 農水省は10月1日から、市販加工食品を対象にした原料原産地表示制度を始める。第一弾は、ラッキョウ漬けと梅干し。JAS(日本農林規格)法で、原料の梅とラッキョウの原産地名を、商品の包装や容器に表示することをメーカーに義務づける。来年2月にはウナギかばやきやアジの干物など水産4品、4月には全漬物が対象になる。
 輸入が増えているための措置で、昨夏の生鮮品の原産地表示義務化に続く食品表示の強化策。消費者の商品選択に役立てるのが狙い。
 梅干しの原料は、半数が中国など海外産。ラッキョウ漬けは9割以上が輸入ものとされている。
 加工食品の原産地表示は、国際ルールでは原料の産地は問わず「加工した場所」だ。原料原産地表示制度は、韓国が一部品目で採用する程度で、世界的にも先進的なケース」(同省品質課)という。


 ショウガ漬けといえば土佐の高知、ウメボシといえば紀州和歌山、ラッキョウといえば鳥取砂丘などを連想します。しかし上記のように普段私たちが製造販売されている土地のものだとばかり信じ込んでいた加工食品には多くの外国産の輸入品が使われていたのです。法改正でその原材料の産地表示が義務づけられたというわけです。
 真崎正三郎著『日本の輸入食品』(幸書房)には漬物・漬物用原材野菜について以下のように記されている。
 漬物・漬物用原材野菜の主なものに、塩漬けされたキュウリ、ナス、ラッキョウ、ワラビ、ショウガ、ウメなどがあり、酢などに漬けられたものでは、キュウリ、ショウガ、ピクルスなどがあります。国内で消費されている漬物の原料は中国を始めとした輸入品に大部分を依存しています。

イ、塩漬け品
 キュウリは特に輸入量も多く、近年非常に増加し年間6〜7万トン程度が輸入されている。輸入きゅうりの大部分は漬物の原料として使われる塩漬け品で、主な輸入先は中国で全体の8割以上を占め、他にはベトナム、タイなど。近年になって値段が安いベトナムからの輸入が増加している。今後も次々と東南アジア諸国からの輸入が増えそうです。
輸入キュウリは、国内のキュウリの全流通に対しては1割程度ですが、漬物原料としては大半を占めていると推定されます。国内で生産されるキュウリは主に生鮮品として消費されるのを目的とした見栄えの良い白いいぼの品種で、漬物用原料には向いていません。漬物用原料に適したキュウリの主体は、中国などに品種改良が進む前からあった黒いいぼの品種です。値段も安く、また漬物にしたとき緑色が美しく残ることなどから、日本で製造される漬物用原料は中国などからの輸入品が多く占めるようになりました。
 これらの漬物用原料用のキュウリは現地で塩漬けにすれば、植物防除法上も輸入ができます。この塩漬けキュウリは輸入後、国内の漬物工場で本格的な漬物にするのが普通です。
 塩漬け(塩蔵)で輸入されるナス、ラッキョウ、その他もキュウリの場合とほぼ同様な加工過程を経て漬物にされます。ナスの塩蔵品は、年間約1万5000トン輸入され(1997年、以下同じ)、そのうち中国産が9割以上を占め、他にはタイ、台湾、ベトナムなどから輸入されています。
 ラッキョウの塩蔵品は約1万4000トン輸入されましたが、これはラッキョウの国内供給量の半分を大きく上回っているものと見られます。主な輸入先は中国です。
 ワラビの塩蔵品も7000トン程度が輸入されています。国内で消費されるワラビの大部分は輸入品と見られます。主な輸入先としては中国が全体の8割を占め、残りはロシアから輸入されました。近年ロシア産ワラビの輸入が増える傾向が見られます。
 梅干用原料に使われる梅は、塩蔵などにされて輸入されています。輸入量は年間約3万トンで、国内で使用されるウメボシの原料の4割弱に相当します。主な輸入先は中国で輸入量の約7割を占め、他には台湾など計6ヶ国から輸入されています。
ロ、酢漬け品
 食酢などに漬け込んだ状態で輸入されるものにショウガなどがあります。ショウガの浅漬けは約2万7000トン輸入されました。輸入量のうちタイが5割弱、中国が3割弱を占め、他にはベトナム、台湾をはじめ東南アジアから輸入されました。このショウガの浅漬けは、梅酢などに漬けたものが多く、輸入された後国内で薄く切って用途ごとにパックされます。また、酢漬け製品も1万トン以上輸入されています。


 私たちの便利で豊かな食生活は多くの輸入食料品によって成り立っているのです。政府は21世紀に予測される世界的な食糧危機や、わが国の食糧需給予測に基づき食糧安保の考えから、当面自給率を45%まで引き上げたいとしています。その一環として原料原産地の表示を義務づけることで、消費者に国内産を選択し消費することを促そうというものです。
 しかし一方で、世界各国からは一層の食料輸入についての規制緩和が求められています。新しく始まっているウルグアイラウンド(関税貿易一般協定の多角的貿易交渉)では、食料の自由化の方向はますます拡大され避けることが困難と言われています。外国資本による販売攻勢、国内企業の海外開発輸入などが強力に進められております。
 こうした中で日本国内の農業をはじめとする第一次産業は、外国産の物量と低価格に圧されて経営が成り立たなくなリ、就業人口の減少と就業者の高齢化を余儀なくされています。このままでは自給率向上どころか、日本の国産食料は壊滅の恐れと、予測できない世界的な天候異変や一事有った時の食糧安全保障、さらに予測される食糧危機時における日本総国民を急襲するであろう飢餓への防備などは皆無と言ってもいいでしょう。
国民はこうした切実な事実が、良識あるであろう政府や指導者によって知らされないまま、世界には8億人とも10億人ともいわれる飢餓や栄養不足の人々がいるというのに、外国の食べものを買い集め、あれがうまいこれが安いと言って欲望のおもむくまま、目先の不健全な食生活に明け暮れ、一人当り世界の人々の2倍もの食べものを浪費しているのです。「備えあれば憂いなし」というが日本の食糧には全く備えがないのです。

 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

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池田 優

 

 

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