山ちゃんの食べもの考

 

 

その47
 

 「早く起きなさい」。目をこすりながら「おはようございます」。寝ぼけ眼で用を足し、ピチャピチャと顔を洗い居間へ。「トントントン」。リズミカルな野菜を刻む音が心地よく耳に響く、芳しい味噌汁の香り漂う、お袋の白いエプロンの後姿。いつもどおり変わることもない一日の始まりだが、子どもたちは、大きく包み込んでくれる心豊かな安心感を覚える。正座をし、手を合わせて「いただきま〜す」。家族がそろって朝食をいただく。そこで家族の体調の善し悪しや心の状態までが確認しあえる。余分なことはしゃべらなくても一日にスタートに当って充分コミュニケーションが取れている。

 温かいご飯、季節の野菜たくさんの味噌汁、季節野菜の自家製ぬか漬けやたくあんに梅干し、そしてお茶。汁の実に豆腐が入ったり揚げやワカメが入ったりすると大変なご馳走だ。たまには和え物や干物や海苔や佃煮があったりもするが、日常の朝食はほとんど変わることがない。誰も食べものに小言など言わない。「ごちそうさまでした」。子どもたちはそれぞれ自分の食器は流し台へ。

 しばらく前までは、日本人の朝食といえばどこの家庭でも大概そんなものであった。そして、それが日本人の命を育み健康を培ってきた知恵の食であった。何の混じり気もない生命力の旺盛な自然なものばかりだし、その地域で取れたり作られたものばかりである。家族の健康を気遣ってつくったお袋の愛情いっぱい料理であったのだ。
 

 食事は、食べればいい、口に旨ければいいというものではない。いろんな都合で家族全員がそろって朝食をとることができない家庭もあろうが、そうでもないのに家族の食事時間がバラバラになり、食べる物も別々なものを食べる。

 幼稚園や学校では、まともに朝食を摂ってこない子どもや、朝食を自分一人か子どもだけで食べる孤食をしている子ども、また登校途中で何か買って食べてくる子どもたちが増えているという。

 夜は家族がいつまでもテレビを見ていたりで夜更かし、子どもたちまでもがだらだら菓子などを食べて夜型人間になっている。朝はギリギリまで寝ていて食欲もない、キチンと座ってよく噛んで、ご飯をしっかり食べる余裕もない。せいぜいがパンややわらかい食べものを牛乳などで押し込むように飲み込むていどである。


 朝食の乱れが食全体の乱れにつながり、食のリズムの乱れが心の乱れとなり、それが生活リズムの乱れとなる。子どもたちにとって食生活の乱れは、心身両面にわたっての混乱を引き起こす基点となります。

 以下に述べることは、現在では多くの人にとってそれは理想論だということになるでしょう。しかし、心身ともに健康な生活を取り戻すには、まず朝食が理想的なものになることこそが大事です。心身ともに生活リズム、生活習慣を培う素となるのです。

 朝食が理想的なものになるための7つのポイントが考えられます。現代の複雑な社会生活を送っていく上ではなかなか理想通りには行かないことはわかります。だからこそ朝食は、単に物を食べるだけのものでなく、家庭の平和や家族間のコミュニケーション、家族の健康、子どもたちの心身共に健康な発育を考える時、家族全員がその重要さを意識して協力し合い、可能な限り理想に近づけられるよう努力すべきだと思います。また、そのことが意識されていれば、理想通りにはいかない場合にあっても、そのことを埋め合わせていく努力が別のところで工夫されるのです。

 たとえ充分でなくても、朝食についてしっかり考えられることは、昼食の摂り方や夕食のあり方についても、トータル的に大きく改善されるものだと考えます。


 その第1は、できるだけ家族がそろって朝食をとる生活スタイルにすることです。家族が同時に食卓に付き、家庭のルールに従って食事をいただくことは大人にも子どもにも協調性が求められます。子どもばかりでなく大人も、就寝時間をコントロールして、朝は元気に挨拶を交わしながら余裕を持って一日のスタートを切るべきです。

 朝はわずかの時間であっても家族としての触れ合いや温もりを感じ合い、信頼感を高めあうことが大事なのです。


 第2のポイントは、朝食が美味しくいただけることです。朝食が美味しくいただけるための意識的コントロールが必要です。夜更かしや夜食の取り過ぎは、朝の食欲を妨げ一日中の食のリズムを乱してしまいます。朝食が美味しくいただけるための生活コントロールは、わがままな甘えや惰性に流れる気持ちを抑えることで心を鍛え、けじめのある健康な生活のための良い習慣につながります。
 朝食が美味しことは、昼食が美味しく、夕食が美味しいことにつながります。食べなかったり、どか食いしたり、食べる時がまちまちであったりする食の乱れは、殊に育ち盛りにある子どもたちの健康を損うもとになります。良い朝食のあり方は食のリズムを作る上で大切です。

 我が家の朝食のあり方を意識的に習慣化していくことです。


 第3のポイントは、お米のご飯と味噌汁をベースにした和風の朝食にすることです。家族それぞれの昼食は学校給食や社員食堂、外食など様々でしょう。少なくとも1日のスタートに元気の素のご飯と新鮮な具の入った味噌汁を食べましょう。
 毎日きちんと朝食を取り、朝食にご飯を食べている人が健康であることは多くの研究で証明されています。ご飯を中心とした朝食をきちんと姿勢でいただく、その家庭なりのしまりのある週間を作り上げましょう。
 だらしのない朝食のあり方が習慣化することは、その一日をだらしないものとし、けじめなく食べることを疎かにすることは、何事をもいい加減にするだらけた生活習慣を作ることになります。


 第4のポイントは、良質の食材です。お米はできれば有機栽培か減農薬栽培のもので五分搗きまたは小麦胚芽入りあるいは雑穀を少し入れたものを。お味噌汁には旬の新鮮な野菜をたっぷり取れるようにし、これも有機栽培や農薬をあまり使っていないものを。お漬物も安心な材料を選んで自家漬けした発酵菌の生きたものを。防腐剤や化学調味料、色素など使ったものはさけたほうが良いでしょう。その他の材料も確かめて選んでください。

 生きた良い食べものをいただいているのだという意識は、まず、食べものを決して粗末にしないという事につながります。もったいないという心を養います。そしてその食べものに、それを作って下さった方々に、それを食卓に用意してくれた両親に、感謝する心と、物を大切にし、自分のいのち、人のいのちを大切に思う心を養い、このいのちを人のお役に立つために生かすという崇高な心にまで高めます。


 第5のポイントは調味料です。せっかく良い食材を用意しても調味料が粗悪なものでは台無しです。本物の食材と生きた調味料があれば美味しくいただけるものになるはずです。塩はミネラルたっぷりの自然塩を。味噌、醤油、酢は無添加でじっくり時間をかけて作り上げた天然醸造のものを。

 生命のある良い食べものを大事にし、いただいてしっかり食べる。腹八分目に。良いものを規律正しくしっかりいただいているということが、心身両面にとって良い自信につながります。


 第6のポイントは、一番大事な調味料“たっぷりの愛情”です。家族の健康を願って作る朝食の味が“我が家の味”であり、子どもにとっては“おふくろの味”となり、培われた味覚感覚は生涯にわたってに健康な食生活の基本となります。お母さんの愛情たっぷり朝食を家族全員がそろっていただくことで、美味しい食べものが体の栄養になるばかりでなく、家族同士の思いやり、信頼・安心の温もりが、ゆたかな心を養うの大きな栄養となり、強い絆とます。


 第7のポイントは、食事のマナーです。日常生活における基本的な躾を行い、マナーを身につけていくうえで大事な時間帯です。家族がそろって食べる。「いただきます」と感謝して食べる。少しずつよそって残さず食べる。「ごちそうさまでした」手を合わす。

 人は生きていくためには食べなければならない。食べることは命をいただくことであり、いまいただく食べものの一つひとつに感謝したいただく事を確認しあう。この食べものを作って下さった方々のご苦労や心に思いを馳せる。無農薬や無添加で作られたものであったり生産者の分るものであれば、そのことへの労苦に思いも深め感謝していただく。家族のために毎日早く起きて温かい食事を作ってくれるお母さんへの感謝の気持ちも当然芽生える。

 家庭における食事マナーは、知らず知らずのうちに人や物の命を大切に思い、まわりの人や社会の人たちと強調する心豊かなその人の品性を養い、規律のある社会生活の土台となりでしょう。

 朝食を美味しくきちんといただくが起点となって、1日3度の食事が美味しくいただける食事のリズムが出来上がっていく。食事のリズムが健康な生活のリズム、メリハリのある健康な生体のリズムに結びついていく。




 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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