山ちゃんの食べもの考

 

 

その48
 
 今回は『日本農業新聞』の『農業は生命産業』“次代につなぐ”の欄に、感動的ないい話が続いて載っていたのでご紹介します。私は『日本農業新聞』の愛読者です。現在の日本人に“食べること、生きること”の大切さを教えてくれる素晴らしい情報紙です。
近未来において世界的な食糧危機が叫ばれる中にありながら、わが国の食料自給率40%というお粗末な状況が一向に改善される見通しもない。食べものを作り生命を育む農業は、一人農業者の問題ではありません。
生きることは食べることであり、食べものの命を育んでいく農の世界は、世界の人々と共に手を携え、大自然と共生(ともいき)していく総合的な知恵と心を培う生命教育の場であります。
安全な食べものを安心して食べられる未来を築いていくことと同時に、自然や農と触れ合うことによって、命を大切に思う心豊かな子どもたちを育てていくことは、日本人全体の問題である。
この『日本農業新聞』は農業関係者のみならず、都会に住む人にも、教育や工業に携わる人、あらゆる人に読んで欲しいと願う“生命新聞”だ。


 2001年12月25日[日本農業新聞]掲載。
住宅設備・建材メーカのINAX本社の広報担当課長、藤田邦高さんの話です。藤田さんは人材開発、福利厚生などを担当し、社員の食生活に目を向けてきました。

(記者)
社員食堂に日本型食生活の[新健康メニュー]を導入し、家族ぐるみの食生活改善を提案している狙いは――

(藤田さん)
 社員の食生活と健康状態を調べて驚いた。健康状態が良い人ほどご飯を食べる量が多く、体調不良やストレスを訴える人ほどご飯を食べる量が少ないことがわかった。日本型食生活や伝統食を見直す契機と思い、4年前から社員食堂の献立に「新健康メニュー」を取り入れた。
 5分づき米のご飯をメーンに、味噌汁、漬物、季節の野菜、魚貝類などだ。今では全国17事業所の食堂で導入し、献立の2〜3割がこのメニューだ。中高年や若い女性に人気がある。社内報で食と健康の問題などを取り上げ、アンケートも行っている。これらのデータを積み重ねて社員の健康管理に生かせば、元気な社員を増やし、在職死亡や長期休暇を防ぐ手段にもなると思っている。

(記者)
 ガンや心臓病、糖尿病といった生活習慣病が増え、食生活の見直しの動きが高まっているが。

(藤田さん)
 日本人の食生活は、昭和30年代後半から始まる高度成長期から急激な欧米化が進んだ。ご飯や芋類が減り、牛乳、乳製品、肉などの摂取が奨励された。結果、生活習慣病といった健康を損ねる人たちが増えた。
 これらの畜産物を食べるために大量の穀物が輸入され、国内農業にも大きな影響を与えている。
 昨春、国が発表した「食生活指針」は国民の健康増進、生活習慣病防止に「ご飯などの穀類をしっかりとろう」「食塩や脂肪は控えめに」などと呼びかけているが、従来の反省に立ったものという意味では意義がある。ただし実行してどういう効果が出るのか、心身の健康に何がどう悪かったのか、と理由を示すことが普及のかなめと思う。

(記者)
企業が“健康づくり”に取り組む意義は。

(藤田さん)
 従業員が病気になれば戦力が低下し、経営にも響く。医療費の負担もばかにはならない。従業員の健康対策は、企業の重要な仕事の一つであり、責任だ。
 INAXでは国の食生活指針が出る前に、独自の“望ましい食生活指針”を打ち出し、ご飯を中心とした伝統食という、これまであたり前に食べてきた日常食の献立を示したのだが、他企業からの反響は大きかった。
 社員食堂は業者に委託しているが、「新健康メニュー」を導入して、食材を除く委託料は一食あたり約300円下がっている。健康面を高めることをしてなおかつ費用が下がるとなれば、他企業も関心のあるところだろう。
 従業員の家族を含めて食生活の見直しを呼びかけているが、子どものころからの食生活改善も重要だ。学校給食にももっとご飯を増やすべきだし、その後の大人の食生活にもつなげていくことが大事になる。


 2001年12月26日[日本農業新聞]掲載。
 文部科学省・大臣官房審議官、寺脇研さんの話。寺脇さんは福岡県生まれで、東京大学法学部卒。1992年、文部省初等中等教育局職業教育課長となり在職中に、中学校での業者テストと偏差値による進路指導を追放した。著書に「21世紀の学校はこうなる」「どうする学力低下」などがある。

(記者)
 子どもが変調を来たしていると言われているが、今の子どもをどう見ているか。

(寺脇さん)
 いたずらに子どもが変だというのは問題だ。子どもが変だというのは、大人の思うようにならないから、大人が一方的にいっているに過ぎない。私の認識では大人も子どもも変調を来たしている。大人が変なのは自分の責任だが、子どもが変なのは大人のせいでもある。大人が変わらない限り、子どもは変わらない。
 いじめが日常的になったり、カブトムシが電池で動くと思ったり、確かに子どもたちは変質している。しかし、電車での迷惑行為は大人のほうが多いなど、大人の世界が規律を失っている。社会全体が管理されるのを嫌がっているのに、子どもに規律を押し付けても無理だ。大人は「子どもが変だ」と逃げずに、きちんと向き合うべきだ。

(記者)
 「総合的な学習の時間」は転機になるのか。

(寺脇さん)
 「総合的な学習時間」の目的は二つある。一つは体験活動を重視し、体験的知識を得ること、二つ目は、子どもの教育を学校だけでなく、地域や家庭も担うようにすることだ。大人も教育現場にかかわることで、自分たちの問題としてとらえるようになる。
 今のこどもたちは「生きる力」が足りない。今まで先生が一方的に教える授業で、自分が考える授業がなかったからだ。これからは自ら考える授業も必要だ。
 「生きる力」とは、自分の考えを持つこと、自分の考えを他人に伝えるコミュニケーション能力を持つことだ。そして今までの授業と違い、みんなが違う考えを持つ。その違いを認め、同調する能力を持つことだ。
 「生きる力」というと大げさだが、9月11日の米国のテロ事件以来、争いはなくならないと分った。しかしみんなが違う意見を認め合い、尊重して、けんかにならないようにしていくことはできる。その力を身に着けなくてはならない。

(記者)
「生きる力」をはぐくむために、学校や地域、農家がすべきことは何か。

(寺脇さん)
 農業は工業と違い全く同じものができない。違いがあっていいと分る。しかもいろんなことと結び付いている。個人的にはすべての子どもに農業は必要で、必修にすべきだと思っている。
 食農教育はどこでもできるし、食べなければ生きていけないから、だれも関係ないと言えないので、取り組みやすい。地域を巻き込める。
 先生も一緒に学ぶことが大切だ。偉そうにしちゃいけない。農家はどんどん教壇に立つべきだ。学歴は関係ない。私自身、農業をやっている叔父に、生きていくための知恵を教わった。特別なことをしなくても十分。あらゆる農業者は教育者だ。


 2001年12月27日[日本農業新聞]掲載。
 レィチェル・カーソン日本協会(1988年設立、会員数450人)の理事長・上遠恵子さんの話。上遠さんは米国の科学者カーソンの考え方を語り継ぎ、環境教育の必要性を唱える。

(記者)
 化学物質による環境汚染が問題となっている。どこに原因があったのか。

(上遠さん)
 人類はそれぞれの地域に根付いた知識をもち、その循環システムをうまく生かしてきた。しかし、20世紀に入ると科学技術が暮らしを良くすると信じて疑わず、便利さ、豊かさだけを追い求めた。自然の循環を無視したつけがいま、環境を脅かしている。内分泌撹乱物質(環境ホルモン)もそのひとつといえる。
 「川三尺流るれば水清し」という言葉があるが、今いくら水に流しても、汚染は広がってしまう。自然の浄化、復元力を超えているからではないか。
レィチェル・カーソンは40年も前にそのことに気づき、著書「沈黙の春」の中で農薬汚染の危険性を警告した。そこには、さまざまな生き物が自然と共生しているとの理念が掲げられている。

(記者)
 自然の循環機能を取り戻すために、何が求められるのか。

(上遠さん)
化学物質の恩恵は確かにものすごい。しかし、もろ刃の剣であることを忘れてはならない。使い方次第で薬にも毒にもなる。その境界の線引きがなかなか難しい。
 農薬は使い続ければ害虫に抵抗力をつけ、さらに強力な農薬が必要になる。化学肥料だって土壌の成分バランスを考えないと地力を衰退させる。
 農薬や化学肥料が絶対いけないとは思っていない。しかし、できるだけ減らす努力をして欲しい。それには消費者の理解が必要であると共に、農家自身は環境に負荷を与えていると自覚することだ。これが気候や生き物など、地域にしかない条件を見つめ直し、自然の循環を取り戻すことにつながる。

(記者)
 カーソンの考え方から何を学び、自然とどう向き合っていくべきなのか。

(上遠さん)
 自然界の生き物はすべて、かかわり合いながら生きている。人類もその自然界の一部にすぎない。だから自然と折り合いをつけて暮らす。そんな生き方をカーソンは提案している。
 これからはもっと質素でよい。人類は足るを知らなければいけない。何も「原始的な暮らしに戻れ」とは言っていない。ちょっとしたぜいたくをやめる。シンプルなライフスタイルに切り替えるだけで、ずいぶん変わると思う。
 子や孫の代に環境汚染の責任を押しつけていいのか。私たちはいま、その選択を迫られている。猛スピードで突っ走ってきた科学万能の道をこのまま進めば、行き着く先は破滅しかない。しかし、別の道を歩めば地球、生命を守ることができる。決して難しいわけではない。そこは私たちがかって通ってきた道なのだから。


 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


  

生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 

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