山ちゃんの食べもの考

 

 

その93
 

 恐れられていたBSE(狂牛病)が2001年秋、日本でも発生し、それまで不人気だった輸入牛肉が脚光を浴びました。すでに日本で消費される牛肉の約65%は輸入牛肉で、そのうち95%近くをオーストラリア産とアメリカ産が、ほぼ半分ずつ占めています。
 BSE問題で騒がれた時、供給の追いつかない輸入牛があった。オーストラリア・タスマニア島の直営牧場で育てる「タスマニアビーフ」です。肉骨紛や遺伝子操作した飼料を使用しないだけでなく、成長ホルモン剤や抗生物質を使わずに飼育する安全性が評価されたのでした。
 日本子孫基金の『食べるな危険!』では、「アメリカの場合は、すでにBSEの病原体が国内に入り込んでいて、しかも対策が十分でないことが露見している。死亡牛の検査が不十分なので、見つかっていないだけの可能性もある。しかも、鹿やヘラジカにBSEと同じ病気が広がっているのに、対策はあまり進んでいない。」
 先日の新聞報道によると、カナダで発生したBSE牛はアメリカから輸入されたものであるとかないとか論議を巻き起こしました。
 「アメリカ産牛肉の問題点は他にもある。牛の肥育用に女性ホルモンが使われているのだ。これを投与するとよく食べるようになり、しかも効率よく太るのだ。ホルモン剤を、小さなペレット状にして若い牛の外耳の皮下に埋め込み、2〜3ヶ月にわたって吸収させる。」
 「ホルモン剤には天然型と合成型があり、日本では天然型のみ使われている。だがアメリカでは合成型も使用しているので残留性が高い。ヨーロッパではホルモン剤使用の危険性を盾に、アメリカ産牛肉の輸入禁止措置をとっている。たとえごく微量でも、ホルモンを体外から摂取することは危険である。特に妊娠中の女性は気をつけないと、胎児に影響がでる可能性もある。化学物質や体外からはいったホルモンが、胎児の体内ホルモンのバランスを崩す、“環境ホルモン”作用が心配だ。」と述べています。


 また、脂のたっぷり入った霜降り肉について、日本子孫基金の『食べるな危険!』では、以下のように述べています。
 脂たっぷりの霜降り牛は不自然であり、食べ過ぎれば、大腸内に発ガン促進物質ができる。私たちが食肉として利用しているのは筋肉の部分で、この赤身の筋肉に霜降り状に脂肪が入っているのが「サシ」です。サシがどれだけ緻密に入っているか、その脂肪の色や肉の色や光沢などで評価されます。サシが緻密に入っているものが高級品となります。
 もちろん、自然にこういう肉ができるわけではありません。「黒毛和種」は、サシの入りやすい和牛で、有名な松坂牛、前沢牛をはじめ、銘柄牛のほとんどはこの種です。
 サシがうまく入るようにするのが飼育技術で、トウモロコシや大麦、大豆カスを与えますが、緑色の草は脂肪に黄色味をつけるので与えないとか、ビタミンなど栄養素を微調整します。
 また、日本人はやわらかい肉が好きなので、オス牛を3〜5ヶ月で去勢し、ホルモン剤を使って、やわらかいサシ入りの肉に仕上げます。筋肉に入った脂肪を大事にするのは日本人だけです。
 不自然な飼育によってつくられた霜降り肉だけでなく、工場やスーパーで作った「成型肉」という、価格の安いサシ入り肉があります。肉と脂身に、接着剤として食品添加物を加えて混ぜ、これを冷凍して固めて切れば、霜降り牛肉のステーキやサイコロステーキ状になります。成型肉は、生鮮食品ではなく「加工品」になりますから、表示をよく見ると、原材料表示で添加物名も記載されていますから見分けがつきます。


 それでは、牛や牛乳が、私たちのおいしい食材になるまでを、伊藤宏著『食べものとしての動物たち』より要約抜粋して学んでみます。
 1998年現在における世界の牛の飼育頭数は13億3000万頭で、うち、インドが2億1000万頭、ブラジル1億6000万頭、中国1億2000万頭、アメリカ1億頭、エチオピア3000万頭、コロンビア2800万頭、オーストラリア2,600万頭、メキシコ2500万頭、フランス2000万頭、そして、日本470万頭となっています。
 日本での飼用頭数470万頭のうち、肉用牛が284万等で、そのうち和牛などの肉専用種が180万頭、乳用種の雄や乳を絞り終えた後の雌牛が105万頭です。また乳用牛は182万頭となっています。
 世界の牛肉生産量は(1997年)5400万トンで、アメリカがだんとつの1150万トンで、以下ブラジル、中国、アルゼンチン、オーストラリア、フランスと続きます。日本は54万トンです。
 日本における自給率は牛肉が39%、牛乳及び乳製品は72%となっています。牛肉の輸入量は63万トンで、金額として27億ドル。アメリカから31万トン、オーストラリアから29万トンを輸入しています。


 牛が家畜化されたのは、約1万年前の新石器時代で、食肉を得ることが目的であったが、次第に乳を絞ったり、農耕作業などへの利用が進んだのであろうと考えられています。
 戦後間もなくの昭和25年(1950年)の日本では、驚くことに約210万頭もの牛が買われていたといいます。そのうちのほとんど、193万頭が農耕作業など兼用の役肉用牛で、残りのわずか17万頭が乳牛で、牛乳はまだ乳幼児と病人の飲物であったといいます。
 平成2年(2000年)現在、牛の総数は470万等に達し、うち和牛などの肉用種は180万頭、乳用種の雄が110万頭、乳用牛は180万頭と、著しく増加しています。しかし、もはや役用の牛はいません。
 日本人の一人当り年間牛肉消費量は、アメリカ人の5分の1程度ですが、それでも、この10年間で2倍になっています。
 牛肉は肉類全体の総需給量のうち28%に当たる151万トンを占めますが、そのうちの97万トンが輸入品であり、国産牛肉はわずかに36%の54万トンです。
 国民一人当たりが年間に食べる牛肉は8.2kgです。そのうち国産の牛肉を食べるのはわずか3kgばかりです。多くはアメリカ産とオーストラリア産の肉に依存しています。尚、国産の牛肉も、その飼料の多くが外国からの輸入で成り立っているのです。
 言い換えれば、たとえ国産の牛肉といえども私たちの食する畜肉品はほとんどが外国依存だということができます。


 やはり、国産の牛肉は柔らかくておいしいと喜ばれます。伊藤宏著『食べものとしての動物たち』では続いて以下のように述べています。
 霜降り肉を作る代表品種が「黒毛和牛」です。和牛にはその他、「褐毛和牛」、「日本短角牛」、「無角和牛」の三種があります。
 店頭では、「国産牛」とか「和牛」などと表示されていますが、和牛と国産牛とは全く違うものなのです。
 「和牛」とあれば、先に上げた4品種ですが、ほとんどは黒毛和種です。これらには、松坂牛とか米沢牛、神戸牛、前沢牛、飛騨牛などという産地の地名がつけられていますが、多くの場合、その牛が肥育された場所を示していて、それぞれ独自の飼い方をし、霜降りの入った肉が生産できるよう工夫を凝らしています。
 さて、「肥育」とはどのようなことをいうのでしょう。牛が、たとえば500kg程度に成育したとしても、すぐに屠畜して肉にするということはありません。その時点から少なくとも2〜3ヶ月、場合によっては2年間もかけて、特別な飼料を与えて肉をつけ、良質な脂肪を体に蓄えさせます。この肉をつけ脂肪を入れる最後の過程を「肥育」といい、美味しい肉をつけさせるための仕上げなのです。
 では、「国産牛」とは、なんであり、「和牛」とはどう違うのでしょう。「国産牛」も日本で育った牛に違いがありませんが、次のような品種の牛が食肉用に供される場合をいいます。それは、ホルスタイン種などの乳用種で、乳の出なくなった老齢牛や、雄の子牛を去勢した後に肥育したもの、そして乳用種と肉用種を交配してできた交雑種を「国産牛」と呼称します。又外国産生れで生体で輸入され、日本で3ヶ月以上肥育された牛も「国産牛」として扱われます。
 

 最後は「肉」として処分される運命を持っているのが、牛という家畜です。生まれる子牛の半分は雄ですが、種雄の候補牛として残されるには200頭に1頭もいないだろうといいます。たいがいの雄牛は、生まれて2〜3ヶ月の間に去勢され、第2次性徴が現れないようにされます。それには、外科的な手術によって精巣を切り取る方法と、ゴムリングなどで輸精管を押しつぶして精巣を退化する方法などが取られます。
 去勢された雄子牛は、性質が穏やかになり、肉質を改善し、精肉の歩留まりがよくなります。
 乳用牛の去勢された雄子牛は、4ヶ月ごろに離乳させ、7ヶ月までの間に生産農家の手を離れて、肥育専門農家で約13ヶ月間肥育された後、約20ヶ月齢、680kgほどになったところで、肉用に出荷されます。約20ヶ月の短い生涯なのですね。
 和牛去勢牛の場合は、10ヶ月ごろから肥育にかけられ約19ヵ月後の30ヶ月齢、約650kgになった時点で出荷されます。
 霜降りが多く着きそうだと思われる雌牛の場合、お産をさせずに、いわゆる処女牛のまま肥育するのが最高の肉を生産することにつながるといいます。


 脂肪交雑、つまり「さし」が入りやすい和牛去勢牛を肥育する際には、その脂肪交雑を疎外する成長ホルモンの分泌を抑えなければならない。運動は成長ホルモンの分泌を促すので、牛は穏やかに取り扱い、ストレスを与えないよう、常に安静を保っておく必要がある。光もホルモン分泌に影響を与えるので、とくに肥育の末期には薄暗い部屋で飼い、夜間の点灯はしない。寒さや暑さも脂肪交雑には良い結果をもたらさないので、風速や気温についても十分な管理が必要である。
 穀類を大量に混ぜた飼料を長期間与えて肥育が進む。出荷直前の牛の四肢は700kgを超える体重を支えるのがやっとだという。


 牛は出荷目に1日絶食させ、消化管の内容物を少なくする。屠場ではボルトピストルで失神させ、眉間に開いた穴から棒を脊髄にまで差し込んで、解体時に筋肉が痙攣するのを防ぐ。両後肢の下端のアキレス筋に切込みを入れ、そこにフックをかけて吊るす。頚動脈を切って放血し、頭部を切り取り、皮を剥ぐ。四肢端と尾を除き、内臓を摘出する。電気ノコギリで背割にして半丸の枝肉にする。
 十分に洗浄した枝肉は、−2℃から+2℃の間の温度帯で、湿度約90%の冷蔵庫で、24時間から48時間冷却された後、肉質の検査が行なわれます。
 枝肉の格付は、歩留り等級A、B、Cの3段階と、肉質等級1〜5段階を組み合わせて行なわれます。すなわちA5、B3、C1などの15段階の評価がされます。歩留り等級というのは枝肉のうち可食肉部分の割合を示します。肉質等級は、脂肪の交雑度、肉の締まりやキメの細かさ、肉の色沢、脂肪の色沢と質などの評価を示します。霜降りはキメ細かく入って肉質が柔らかく、脂肪には甘味のある、有名な松坂牛はA5かB5のランク物の限られるといいます。


 食べてうまい牛肉は、何といっても最高級の黒毛和牛「霜降り肉」である。店頭の冷却ショーケースの中に白い布などに包まれて、その切り口が見せられている。真紅の肉の中に白い脂肪が霜降り状に入っている。これが「さし」と称され、正式には「脂肪交雑」と呼ばれるものです。
 この霜降り肉は、ロースと呼ばれている部分で、ここに、脂肪が網の目状に肉の全面に広がって沈着しているのです。このロースの部分によい脂肪交雑の評価を受けた牛の肉は、他の部位の肉でも必ずよい霜降りが入っているとのことです。
この霜降り肉の脂肪の融点(溶ける温度は)約25℃で、乳用牛の体脂肪の融点31℃よりも6℃も低いので、私たちの口の中で穏やかに溶け出し、ほんのりとした香りを高くして肉の美味しさを引き立ててくれるのだという。
検査を受けた枝肉は、細分化されて各部分肉となり、流通の段階に入りますが、微生物などで汚染されないよう約1℃で保存され、肉は次第に熟成されていく。肉の硬直が解けて行き、肉の中のタンパク質分解酵素が肉に作用して、肉は柔らかくなり、旨味が出てくるわけです。
普通、牛肉の熟成に要する日数は屠畜後1〜2週間ほどですが、高級な霜降り肉の場合は、その美味しさを増すために、1〜2ヶ月間にも及ぶ長期間をかけてゆっくり熟成をさせる場合もあるそうです。


 伊藤氏によると「黒毛和種(Japanese Black)は、霜降り肉を多くつくることで、いまや世界中にその名が知れ渡っているという。日本では古くから中国地方を中心に、役用として黒毛の牛が多く飼育されていた。明治に入って、この黒毛の在来種の牛に、外国産の肉用種の牛のすぐれた資質、とくに早熟性、飼料の利用性、肉を大量につけるなどの形質が取り入れられ、より優れた肉質の改善が進められたのです。長い年月を経て、計画的に交配が繰り返され、次第に質の高い牛に改良されてきました。
 その後登録制度が導入されて、役用牛から役肉用牛という兼用種に変わり、さらに時代の変遷によって、牛の役畜としての用途はなくなり、肉質に重点を置いた現在の「黒毛和種」としての最高肉用牛が誕生しました。
 

 『食べものとしての動物たち』では、質のよい牛を生産するためには、当然のことながら優れた資質を持った種付け用の雄牛が必要である。平成10年(1998年)には、黒毛和種の種雄牛は約2000頭飼われており、単純平均で、それらに1頭平均で約1000頭の子牛が生まれていることのなるという。中でも、霜降り肉を多く作り出す黒毛和種の有名な種雄牛で、屈指の名牛と呼ばれ一世を風靡した「紋次郎」という名の種牛の子は、14万頭にも上るという。
彼らは繁殖のために雌牛と直接交尾することはない。周期的に当番し、ただただひたすらに人工授精用の精液を採取されるだけなのである。
 精液の採取には、筒型で3重の壁からなる人工膣が用いられ、内側の筒が38℃くらいになるように温め、それを発情した雄牛の陰茎に合わせてあてがう。
 採取した精液は濃すぎて勿体ないので、希釈し、0.25〜0.5mlのプラスチックストローに入れ、凍結保存される。紋次郎のストローは約40万本作られたという。そして黒毛和種のストロー1本が1000〜1300円であるが、紋次郎の精液は品薄になるにしたがって高騰し、1本が10万円にもなったというのです。


 牛も例外にもれず、家畜には伝染病に罹患する不安がつきまとう。いまさらいうまでもなく、最も恐れられているのは「狂牛病」と「口蹄疫」である。狂牛病は、牛の脳にプリオンというタンパク質が異常化して蓄積され、脳がスポンジ状になって狂い死ぬ「牛海綿状脳症(BSE)」という恐ろしい病気で、1986年にイギリスで確認され世界各国に汚染が拡大した。わが国においても5頭の発症が確認されたが、その後は幸いにも終息している。
 牛や豚や羊などの早期成長と育成のために、本来の草類の粗飼料に加え、穀類や大豆粕などの濃厚飼料を給与しているのであるが、より高濃度のタンパク質等を多給して成長を促進しようとする。そこで、アミノ酸組成が優れている動物性の濃厚飼料を与えようとして、牛や羊の脳や脊髄などを含んだ屠体の屑を乾燥して飼料として用いたのです。そこに狂牛病を発症させる原因が隠れていたものと考えられています。
 口蹄疫もウイルス性の恐ろしい家畜伝染病で、牛や豚、羊など偶蹄類が感染し、高熱、食欲不振、ヨダレ、水泡などの症状を示す。ウイルスが着いた飼料や動物、衣服や車両などから伝染し、またたく間に拡大するといわれます
 できるだけ自然に近い形で、安全に健康に育てて欲しいものである。




 

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生命の農と食を考える
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池田 優

 

 

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