故相馬暁博士の玉ねぎの話 |
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■ タマネギの原産地は西アジア・シルクロード 結球タマネギの起源は、イランを中心とする西アジアに発します。もっと広い範囲、地中海東岸、イラン、アフガニスタン、北西インドからタジク、ウズベツク(中央アジア・シルクロードの周辺地域)にかけての地域が、タマネギの古里ともいわれます。 現在でも、これらの地域、中央アジア、インド、エジプト、シリア、トルコなどには、古くから栽培されてきた野生種に近い原始的品種が作られています。 これらの地域で栽培され始めたタマネギは、漸次、西へ西へと進み、まず、エジプトで広く栽培され、ピラミッド建設の労働者にダイコンやエンドウなどと一緒に食べられるようになりました。 実は、ピラミッド建設の様子を記録したレリーフに、人夫たちが腰にタマネギやニンニクをぶら下げている図があります。 重労働に耐えるための、貴重な強壮剤として、ニンニクやタマネギが活用されていたのです。 歴史学の父・ギリシャのヘロドトスによりますと、ピラミッド建設に従事した労働者達が消費したタマネギ、ニンニク、大根の量の記録があったそうです。 それによりますとタマネギの代金として9トンの金が支払われたとのことです。 ■ 神聖な野菜、魔除の野菜としてのタマネギ 古代エジブト人にとって、タマネギは単に強壮剤以上の、神聖な野菜だったようです。 悪魔除けのおまじないとして、家の前に吊したり、埋葬する棺に入れました。 これはタマネギの臭いで、死臭を消す現実的な効果もあったのでしょう。 この風習はヨーロッパ地域に受け継がれ、中世ヨーロッパでコレラが大流行した時、タマネギが魔除に崇められ、家の軒先、戸口に吊されました。 これはタマネギの持つ強い特有の臭いが邪気を払うと思われたためです。 この様に、エジプトを含む地中海地方、ギリシヤやローマでも、紀元前数千年も前からタマネギは栽培され、食用に供され、生活の中に定着していました。 恐らくギリシヤ神話の神々の物語を語った、盲目の吟遊詩人・ホメロスも、きっとタマネギを食べた事でしょう。 ■ 現代風タマネギの誕生の地はヨーロッパ ヨーロッパに広がったタマネギは、南ヨーロッパのスペイン、南フランス、イタリアなどで、生食用の辛みの少ない甘タマネギや短日性の白タマネギ(パールオニオン)が作り出されました。 一方、ルーマニアやユーゴスラビアなど東ヨーロッパでは、刺激が強い辛タマネギが育成されました。 この甘タマネギと辛タマネギがタマネギ世界の二大派閥です。 16世紀以降、これら甘タマネギと辛タマネギは、アメリカ大陸に導入され、品種改良がなされました。 そして今日の多彩な品種群が作りだされ、栽培の分化も進みました。 このアメリカ産タマネギを中心に、西へ西へと伝播してきたタマネギは日本へ伝来してきたのです。 ところで、なぜかタマネギは、原産地・中央アジア、西アジアから東方への伝播は、例えば、中国へは古くから伝えられましたが、あまり普及しませんでした。 また、東南アジアや朝鮮などでもタマネギ栽培は広まりませんでした。 ■ アメリカからやって来た日本のタマネギ コレラ除けに買われた明治のタマネギ 日本への渡来は、まず江戸時代。南蛮船によって長崎に伝えられましたが、実際に土着したのは明治以降です。 開拓使が明治4年に管園(函館、札幌、根室)設置と共に、アメリカから各種作物、例えば、インゲン豆やニンジン、カボチャ、バレイショなどと共に、タマネギ「イエロー・グローブ・ダンバース」を導入し、試作したのが始まりです。 これが土着し、北海道の春蒔きのタマネギ・札幌黄となったのです。 この説とは別に、北海道大学の前身・札幌農学校の米人教師ブルックスがアメリカからタマネギ「イエロー・グローブ・ダンバース」を取り寄せ、農学校で試作したのが始めとする意見もあります。 その後、民間の中村磯吉、武井総蔵氏ら先駆者の働きによって、北海道のタマネギ発展の礎が築かれました。 そして、明治末の42年には作付面積は414haに達していました。 しかし、誰も現在の1万haを超える栽培の広がりを予見出来なかったでしょう。 一方、明治18年に、大阪の坂口平三郎氏がアメリカから「イエロー・ダンバーズ」を取り寄せ、試作しました。 これが成功し、広く栽培されるようになり、泉州タマネギ「泉州黄」となりました。 偏円型の札幌黄に対して、泉州黄は偏平型です。 縦長の北海道タマネギに対して、大阪のタマネギは腹が出た金満家タイプと言えるでしょう。 ところでタマネギが導入された頃は、外来野菜と言うことで、馴染みが少なく、なかなか普及しませんでした。 ところが明治初期に関西地方にコレラが発生し、「タマネギはコレラに効き目があるらしい」と言う噂が広がり、タマネギが薬用野菜?として爆発的に売れたのです。 さて、いざ食べてみると、日本人にとって昔から慣れ親しんできた、ネギ(タマネギも同じユリ科)と味わいが似通っていたため、たちまち好まれるようになりました。 加えて、明治以降の食生活の洋風化、肉食の普及もあり、すっかり今では日本土着の野菜になった次第です。 さらに、大正初期にフランスから、「ブラン・アチーフ・ド・パリ」と言う白タマネギが輸入され、愛知白として、愛知県に土着しました。 冬の温暖な地方に早どり用として栽培されています。 しかし肉質が柔らかく、貯蔵性が悪いため、栽培は減少傾向にあります。 ■ タマネギ秘史 タマネギ伝播の正式の歴史と別に、秘史的な話としましては、江戸時代に、既に、長崎でタマネギが栽培されていたとの説があります。 当時、オランダ商館の医師として、日本にやって来ていたツンベリーが書いた、有名な「日本植物誌」と言う本に、安永四年(1775年)、長崎でタマネギが栽培されていたと、記されているのです。 日本側の記録にないこの幻のタマネギがどんなタマネギだったのか、興味の引かれる所です。 しかし、実用的なタマネギ栽培はやはり明治以降と言って良いでしょう ■ 可憐なユリの花とタマネギは姉妹なんです タマネギは、被子植物門・単子葉植物綱・ユリ目・ユリ科・ネギ属に属し、ネギ、リーキ、ニンニク、ニラ、アサツキ、ラッキョウなどと同じ仲間の多年草です。 その地上部は初めはネギとよく似ていますが、葉は生長してもネギの様に太くなりません。 葉は中空で表皮にワックス(蝋物質)を生じ、粉を吹いた様に見えます。 食用になる部分は葉でも茎でも根でもない、植物学上は鱗茎と呼ばれる部位です。 鱗茎の色・形は品種によって異なります。 二〜三年目の初夏、花茎が高さ50〜100センチ程度に伸び、秋に球形の花序(ボンボリ状の花の集まり)を先端につけ、成熟して種子を作ります。 なお、タマネギはイチゴと同様に、冬を越してから、言い換えますと、鱗茎が寒さに遭遇してから、初めて花茎が生じ、花を咲かせ、種子を作ります。 そのため、ニンニクやタマネギの栽培は、冬のある温帯?亜熱帯北部に限定されます。 最も、最近では、イチゴの株やニンニクの鱗茎を冷蔵庫に入れて、寒さに遭遇させ、人口的に冬を経験させて、騙してやる方法が出来ました。 可愛そうなイチゴは、今では一年中、花を咲かせ、実を実らせているのです。 ところで、タマネギは元来、冷涼で乾燥した土地を好み、北海道にピッタリの野菜と言えます。 さて、皆さんもタマネギの種採りにチャレンジしてみませんか。 皆さんが食べているタマネギで、春になって芽が出た物を、プランターか庭の隅に植えておきますと、初夏を迎える頃には、無数の白い花を咲かせ、ボンボリになります。 そして、秋になると一つ一つの花が各々、種子となるのです。 その種を蒔くと間違いなくタマネギの苗が出来ます。 これを葉タマネギとして食べると美味しいですよ。 ■ タマネギの種類とその特性 タマネギには甘タマネギと辛タマネギがありますが、日本で栽培されているタマネギは、殆どが辛タマネギで、その色から大雑把に言って、黄種、白種、赤種の三種に分けられます。 最近はサラダ用タマネギとして赤種に人気が高まり、密植栽培した小タマネギ(プテイ・オニオン)もシチュー、バター煮などに丸のまま使えるので好まれています。 (1) 黄玉ねぎ 日本のタマネギはほとんど黄玉です。生産地は全国各地、季節を問わず通年出廻っています。黄タマネギの中でも、伝統品種・札幌黄は辛みが強く、締りのよいのが特徴です。F1品種・OL黄はかなりの大玉で、貯蔵性に優れています。 (2) 紫玉ねぎ 黄タマネギに比べ、辛みも刺激臭も弱いためサラダ向きで、最近の人気ものです。300グラム程度のかなりの大玉のものが目立ちます。甘みが強く、肉質も柔らかで瑞々しいのが魅力。 (3) 白玉ねぎ 早春から初夏のわずかな期間に店先に並びます。もし、貴女の目に触れたなら、その好運をぜひ、生かして下さい。水分が少なく甘みが強いのが特徴で、春の風物詩の一つとして、味合って下さい。日本では愛知白の一品種だけです。 (4) 小玉ねぎ ペコロスとも呼ばれています。大きさは直径四センチくらい。実は、特別な品種でなく、黄タマネギを密植して短期間で育てたものです。 ■ 府県の秋蒔き、北海道の春蒔き 日本では、タマネギは一年中食べることが出来ます。 なぜなら、南北に長い日本の地理的特色を活かし、栽培法が多様化し、一年を通してタマネギ栽培が可能になったからです。 また、品種開発が多いに進んだことも大きな理由です。 具体的に見ますと、府県においては、タマネギの種子は秋に蒔き、春から初夏に収穫します。 例えば、 (1)八月下旬?九月上旬に種を蒔き、四月上旬?下旬に収穫する早出し栽培から始まって、 (2)九月上旬?中旬に種を蒔き、五月に収穫する普通栽培、 (3)九月下旬に種を蒔き、六月に収穫する貯蔵栽培があります。 なお、貯蔵方法はタマネギの葉がまだ青い内に収穫し、風通しのよい小屋に吊して保管する吊り玉方式と、冷蔵庫で貯蔵する方法があります。 一方、北海道のタマネギは、逆に、春に種子を蒔き、秋に収穫します。 この組合せで、一年中タマネギが食べられるのです。 また、海外からも、例えばニージランド、アメリカ・オレゴン州や台湾などから、輸入されています。 なお、タマネギの栽培面積、収穫量は、1992年には、全国で30,200ha、1,397,000tで、その内、北海道が占める割合は、面積で45%(13,700ha)、収穫量で48%(670,200t)と、全国最大の産地です。 北海道に次ぐ産地としては、兵庫、大坂、愛知、静岡、九州などがあります。 ■ 秋蒔きタマネギ 早出し栽培用品種の代表選手を幾つか挙げますと、「愛知白」は早生の白タマネギで、15度ぐらいの低温で球が太ります。 秋に種を蒔いて、まだ肌寒い早春に球の肥大が始まり、四月には収穫出来ます。 タマネギ(球)の形は偏平で、尻(球底部)のくぼみが深いのが特色です。 肉質は柔らかく、口当りが良く、辛み、苦み、刺激臭が比較的少ないので、水で晒して、サラダなど生食にすると美味しいです。 残念ながら、貯蔵性がいたって悪く、日持ちしません。 「貝塚早生」は偏円球で、球底はフラット、しかし、収穫が遅れるとくぼみ始めます。 「愛知白」より、貯蔵性、輸送性が優れています。 「静岡早生」はこの「貝塚早生」から分かれた品種で、球は腰高の偏円球で、比較的大玉、肉質は柔らかく、生食に向きます。 なお、一代雑種(F1)品種としては、長岡交配OA黄等があります。 秋蒔き普通栽培用品種としては、「今井系」、「泉州中生」、「ターボ」「湘南レッド」等があります。 「今井系」の球は大玉で腰高の偏円形です。 玉締りはは比較的良く、貯蔵性もあります。 「湘南レッド」は辛み、刺激臭の少ない生食用の赤タマネギです。 貯蔵栽培用品種としては、「大阪丸」、「泉南甲高」、「もみじ」などがあります。 「大阪丸」は丸型で玉締りのよい、貯蔵用品種です。 「平安球型黄」はこれら貯蔵用品種の中でも、最も肉質が硬く、貯蔵性に富む品種です。 収穫直後では、本当の美味しさが味わえない嫌いがあります。 ■ 春蒔きタマネギ 「レオ、アーク、フラヌイ、ひぐま、北もみじ、コタン」て何の名前か分かりますか。 ラーメン店の看板ではありません。 これは北海道で今、作られている春蒔きタマネギの種類なのです。 春蒔きタマネギは北海道の独断場ですが、在来種の「札幌黄」、「空知黄」など従来の品種が減り、「フラヌイ」、「ひぐま」、「春ひぐま」、「アーク」、「レオ」、「コタン」、「北もみじ」など雑種一代品種に変わってきました。 在来種の「札幌黄」は球形の大玉で、肉質は比較的硬く、貯蔵性も比較的富みましたが、「北もみじ」、「アーク」、「レオ」、「ひぐま」などは、「札幌黄」より肉質硬く、玉締りがよく、貯蔵性が優ります。 これらより、さらに貯蔵性を高めたのが「フラヌイ」、「コタン」、「春ひぐま」等です。 こんなにタマネギに種類があることをご存じでしたか、あなたが昨日食べたタマネギは、何処産の何と言う品種だったのでしょうね。 ■ 知ってますか、タマネギにも旬があることを タマネギは一年中食べれます。 ですから、旬など関係ないと言う人もいます。 しかし、奥さん達が気づかないでしょうが、季節と共に、タマネギの品種は変わり、供給している産地も移っているのです。 例えば、早春、風がまだ寒い頃は、早出し栽培の、静岡や西南暖地の早生種タマネギが、まず食卓に登場します。 白(パールオニオン、愛知白)、黄色(貝塚早生、静岡早生)の偏平型のタマネギです。 肉質が柔らかく、甘味も強く、美味しいのですが、日持ちが悪いので、早めに使い切ることがポィントです。 生食には、こんな早生の辛味、苦味、刺激臭の少ない、柔らかいタマネギが最適です。 水に晒して、サラダとして食べると、美味しいですよ。 そんな時、湘南レッドのような紫色のタマネギを色添えに使ってみてはいかがてすか、 次に、普通栽培の大阪・兵庫のタマネギが出てきます。 追いかけて、貯蔵栽培の淡路のタマネギが市場に出回ります。 オニオンスープはタマネギの薄切りを茶褐色に炒めたものが主材料です。 タマネギの質によって、その美味しさ、香味、口当りが違ってきます。 このオニオンスープには、肉質が柔らかくて、刺激臭、辛味、苦味のバランスが良い関西の腰高のタマネギ(泉南中高系)が適しています。 八月末からは、北海道産タマネギの登場です。 貯蔵性の良い品種が開発されたことと、貯蔵技術・施設の発達で、5月頃まで供給が可能になりました。 この北海道産タマネギも、旬の使い分けをしたい物ですね。 まず、最近はメッキリ少なくなりましたが、在来種の「札幌黄」・「空知黄」です。 柔らかく、甘味があって、辛味とのバランスも良い、このタマネギをまずは食べて欲しいものです。 貯蔵性が余りよくありませんので、年内に使い切ることがポィントです。 年を越すと、芽や根を出し、柔らかくなり、味も劣ります。 年末から正月・二月は「ひぐま」です。 次いで、「こたん」そして「春ひぐま」です。「 春ひぐま」や「こたん」は収穫直後は肉質が非常に堅く、甘味も余り在りません。 2月3月になっても、芽も根も殆ど出ません。 確かに、貯蔵性はバッグンに良いのですが、すぐに食べるタマネギではないのです。 低温で貯蔵している内に、貯蔵炭水化物(フラクタンと言う)が分解し、糖分が増えて来るのです。その頃が食べ頃なのです。 この様に見ると、同じ様に見えるタマネギも、一年を通して、次々と変わっていることが分かりますね。 さて、奥さん達には、こんなタマネギの品種を、旬として使い分けて欲しいものです。 そんな努力・取り組みが、本当の意味での豊かな食を奥さん達の手に取り戻す、キッカケになるのではないでしょうか。 ■ タマネギ選びのポイントと葉タマネギの味 美人選びの目で、タマネギを タマネギ選びのポイントは、黄タマネギの場合は、まず外皮(鬼皮)がよく乾燥し、艶のある茶色のものがよく、玉の全体的な締りがよく、美人のように、首は細く、締まっているタマネギがよいタマネギです。 そして、タマネギ嬢の肩は、おしとやかな大和撫子の撫で肩より、自己主張タイプの近代美人、怒り肩の方が望ましいです。 また、先端から芽が出ているものや、既に、根が伸びているものは、香りも味も悪いので避けた方が良いでしょう。 皮が浮きあがっている感じのものは、皮の下にカビが生えている恐れがあります。ご用心。 紫タマネギや白タマネギを選ぶ時は、皮の美しさを第一に見ましょう。 紫タマネギなら赤紫がくっきりと鮮明なもの、白タマネギも、できるだけ白いものを選びましょう。 緑がかったものは繊維が堅いので要注意です。 また、形でみるならば、球形のものを選ぶこと。 そり返ったものは、収穫のタイミングが悪く、やや過熟気味です。 傷み易いので、長期間保存は出来ません。 タマネギの保存で大切なのは風通し、東京でも夏以外は冷蔵庫と別居をお勧めします。 日陰の風通しのよい所に。湿気が多いと根が出ます。 根や芽が出てると水分や養分を消耗して味が低下します。 都会の人の口には入らないでしょうが、葉タマネギは下手なアサツキよりもよっぽど旨いです。 甘く柔らかな香りと口当りは、和風の酢味噌和えやサラダに、もってこいの逸品です。 また、規格外の小玉、チビタマネギはペコロスと呼び、そのままシチューやスパゲティのソースに利用できます。 これまた、大きなタマネギとは異なった味わいがあります。 ■ タマネギ・ニンニクと匂い ネギ属の匂いは薬の働き ユリ科ネギ属のタマネギ、ニラ、長ネギ、ニンニクなどには、特有の匂いがあります。 アサツキやラッキョウ、ワケギもこのグループに属し、新野菜のエシャロット、リーキなども同じ仲間です。 これらの作物に共通する匂い。 ネギ臭は、硫化アリル(ジアリル・ジスルフィド)と呼ばれる化合物に由来します。 硫化アリルは、胃の消化液の分泌を促進し、食欲増進効果があります。 一方、この物質には涙腺刺激性があり、日本中の奥さん達を泣かせています。 また、制菌作用、殺菌作用を有するものもあり、ネギ属の植物には、健胃、整腸,発汗,強壮などを目的に、薬用に利用されている物もあります。 タマネギには、量は少ないですが、カルシュウム、リン、鉄、ビタミンB1、B2、C等が含まれ、低カロリーのダイェツト食品の仲間に入る資格が在りそうです。 漢方や民間療法では、消化を助け、発汗を促進し、炎症を抑えるのに効果があるとされています。 また、便秘や虫下しにも効くと言われています。 また,タマネギは、風邪の初期症状をとる台所の薬草とも言えます。 刻んだタマネギに削り鰹節をかけ、それに醤油を少々垂らして、その上から熱いお湯をかけると、タマネギのすまし汁が出来上ります。 これを飲んで、布団に大人しく入っていると、汗がドンドン出て、熱がスッキリと下がり、気分も楽になります。 咳にはタマネギの絞り汁を5から6倍に温湯で薄めて、うがいをすると治まります。 もっとも、最近はこんな家庭の中の知恵、おばあちゃんの知恵は、ほこりをかぶり、見向きする人もいなくなりました。 風邪を引くと、医師に走るか、売薬に頼る。 自分で直す努力はもう忘れさられています。 ■ タマネギのアリシンは ビタミンB1の吸収を助ける タマネギやニンニクの臭気、辛味成分も、硫化アリルの一種であるアリインで、これが酵素アリナーゼによって加水分解されアリシンになります。 アリイン自身は無臭なのですが、その変化したアリシンは強いニンニク臭(ネギ臭)を発散します。 ニンニクの抗菌作用、駆虫作用はこのアリシンに起因します。 アリインとアリナーゼは、ニンニクやタマネギの中では、別々のポケット(細胞)にしまわれており、アリシンが出来ません。 虫や病原菌にかじられたりし、細胞が破壊され、両者が出会った時に、反応が起こります。 だから、タマネギもニンニクも切ると、匂いが激しく出て来るのです。 このアリシンはビタミンB1、と結びつくと安定で吸収性のよいアリナミンになります。 某製薬会社のアリナミンなる宣伝が、一時期テレビで盛んに流されたましたが、今は、もう多くの人々が忘却のかなたへ、押し流している事でしよう。 ところで、ビタミンB1は、炭水化物の分解や筋肉への神経伝達の手助けをするビタミンで、不足しますと、疲労、不眠、精力減退、イライラなどが生じます。 なお、疲労回復、精力増強の目的で食べる場合は、生食か、タマネギのシャリシャリした噛みごごちを残すような料理法が効果的です。 一方、神経のイライラを鎮め、不眠対策には、タマネギをみじん切りにして、枕元におくことです。 心が落ち着き、自然な眠気に誘われ、安眠できます。 ■ 匂いの強いタマネギほど腐らない タマネギの甘味はノンカロリー? 実際、匂いの強いタマネギほど腐敗しづらく、病害虫に強いのも、この硫化アリルに起因します。 また、タマネギや長ネギを、肉や魚の下ごしらえに使うのも、この硫化アリルが、生臭みの主成分であるアミンと反応し、生臭みが緩和されるためです。 焼鳥の串にタマネギやネギが肉と交互に刺して在るのも、このためなのです。 一方、タマネギやニンニクを焼いたり、煮たりすると、非常に甘くなります。 これはタマネギに含まれるアリインと言う無臭の物質から出来たアリシンが、さらに臭いの素・硫化アリルに変わり、その硫化アリルが加熱で変性して、プロピルメルカプタンと言う、舌を噛みそうな物質に変わるからです。 実は、このプロピルメルカプタンは砂糖の50倍も甘さを示す物質なのです。 なお、最近、この話に異議が出されました。 プロピルメルカプタンはそんな甘味を感じさせないと言うのです。 むしろ、タマネギに豊富に含まれる糖質・フラクタンの分解で甘味が生ずると言うのです。 もっとも、生じたフラクト・オリゴ糖も人は吸収利用出来ません。 ですから、タマネギを炒めたルーの甘さは、ダイェツト中のあなたも、安心して召し上がれます。 ■ 本物のタマネギって、何 タマネギに含まれるアリシンが、空気中の酸素によって酸化を受けますと、硫化アリルに変わります。 特に、タマネギの場合、メロドラマよろしく涙腺刺激性の強い、チオプロピオンアルデヒドと言う硫化アリルが大量に生成されます。 そのため、お涙だ頂戴作物の代表になり、日本国中の奥様達を泣かせ、目にしみないタマネギに人気が集まります。 ところで、「有機栽培のタマネギは目にしみない。タマネギの匂い・目に対する刺激成分は、かけた農薬に由来する。本当のタマネギは目にしみないし、匂いがない」、と言う人がいます。 しかし、タマネギは神代の昔から、刺激の強弱は有るものの、どれもが目にしみました。 そして、先にも述べました様に、匂いの強いタマネギほど、病気にも強く(抵抗性が強く)、貯蔵性がよいことも明かです。 匂わないタマネギは別な意味・価値は在るのでしょうが、本当のタマネギ云々とは、話が違う様な気がします。 何が本物か、わからなくなりだした昨今ですね。 ところで、タマネギは可食部の鱗茎ばかりでなく、捨てている皮の部分にも薬効があります。 茶色の皮の部分には、ケルセチンと言う成分が含まれており、1回5グラムを煎じて飲めば、血圧を下げ、毛細血管を丈夫にしてくれます。 ■ タマネギ料理 台所の常備野菜の双璧と言えば、バレイショ、タマネギ。 一年を通じて出廻っており、価格も安定していて、高い貯蔵性を誇っています。 まさに庶民派野菜の代表選手です。 タマネギの有用性には、その利用範囲の広さもあげられます。 和、洋、中華どの料理にも欠かせない素材です。 生はピリッと辛くて香味野菜としての効果もあり、熱を加えるとほんのりと甘く柔らかい味わいに変化して、どちらも捨てがたい美味しさです。 そして、タマネギには素材としての役割の他に、調味料的効果があることも見逃せません。 料理を風味よく仕上げ、ことに肉料理には欠かせない名脇役です。 特に、洋食では料理のベースを作る野菜として、まさに西洋野菜の王様的存在です。 と言っても、世の中、アンチ巨人の人が何処にも居るように、タマネギ嫌いの人も山ほど居ます。 原因は、あの臭い。タマネギ独特の刺激性香味・硫化アリルです。 既に述べました様に、この硫化アリルは体内でビタミンB1の吸収をよくし、新陳代謝を盛んにしてくれます。 ビタミンB1というのは、米食中心の日本人にとって、とかく不足しがちなビタミンですから、硫化アリルの効果は重要なのです。 そして、この刺激性香味は加熱によって分解したり、揮発してしまいますが、そのプロセスでたまねぎ特有の甘味成分が出来上がるのです。 ■ 色(色素)が取り持つタマネギと小麦粉の関係 鉄包丁を嫌うタマネギ娘 タマネギの皮(鬼皮)の色はケルセチンと呼ばれるフラボノイド系色素で、古代ペルシヤ人は織物を染める染料に使っていました。 今でも、草木染めでは多いに利用されています。 フラボノイドとは元々、白色ないし淡黄色の色素で、配糖体(糖と結び付いた有機化合物)の形で野菜の白い部分(タマネギでは鱗葉:果肉)にも含まれています。 微酸性で白色を呈し、アルカリ性で黄色を示します。 鉄イオンと反応して褐色または緑色に変わります。 そのため、白いタマネギを鉄包丁で刻んで放置しておくと、茶色に変色します。これは鉄と反応した結果です。 この変化を上手に利用しているのが、蒸しパンや饅頭です。 お母さん達が原料の白い小麦粉にベーキングパウダー(重曹:アルカリ性)を加えて、パンや饅頭を作りますと、黄色くフックラと出来上がります。 フラボノイド色素がアルカリ性で美味しそうな黄色に変化したのです。 一見、無関係な小麦粉とタマネギが、フラボノイド系色素と言う共通の友人(成分)を持っているのです。 ■ エシャロット タマネギから変化したといわれているユリ科の植物です。 シャロット、またヒメラッキョウとも言われ、ラッキョウによく似ています。 ヨーロッパではガーデンハーブと呼び、スパイスとして欠かせない重要な存在です。 カロチン、ビタミンC、鉄分が豊富で、さっぱりとした香味が特徴。 生のまま食べたり、薬味的に使います。 日本で出廻っているものの中には、ラッキョウを軟白化したものや、若いラッキョウを葉つきのまま生食用に売り出したものが、よく見かけます。 本物は直径三センチほどあって、辛みもぐんと強く、スープや煮込み向きです。 |
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