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あんな話 こんな話 110
幕内秀夫著 PHP新書
『健康食』のうそ
より その4
第2章 危ない「一品健康食ブーム」 の2
● すべての食品にはプラスとマイナスの両面がある
牛乳を過大評価するのは危険だと私は思います。
どうしても飲みたいなら、あまり加工されていない低温殺菌のものを少量、たまに嗜好品として飲むくらいにしましょうと言っています。
「牛乳神話」の崩壊は当然のことだと思いますが、だからといって、牛乳を単品で取り上げて「害だ」というのは、これまたいきすぎです。
なぜなら、私たちは毎日、牛乳だけで過ごしているわけではないのですから。
どんな食べ物でもいえることですが、一つの食品だけで「健康」を語ること自体が間違っています。
なぜなら、すべての食品には、「食べたほうがよいとされる理由」と「食べないほうがよいとされる理由」の両面が必ずあるからです。
ごく一部ですが、下記にその例を挙げました。
この中で、「栄養を考えることが正しい食生活」との錯覚によって、もっとも被害を受けた食品は卵です。
■ 食品には2つの面がある
昭和30年代まで、卵はタンパク質が豊富な「健康食」だと考えられていました。
私が子どもだったころには、風邪を引くと、よく玉子酒を飲まされました。
病院にお見舞いにいくときには、新聞紙に卵を10個ほど包んでもっていき、「これで精をつけてね」と渡していたものです。
お母さんの中には、何かよからぬことを考えたのか、お父さんに生卵を飲ませている人までいました。
ところが昭和40年代後おから、卵にはコレステロールが多いということで、「からだによくない」と言われるようになりました。
ちょうどそのころ、脳や心臓の血管が詰まる病気が増えてきて、コレステロールがその原因として話題になったからです。
けれども、そもそも私たちの血液中に含まれるコレステロールの70〜80%は、おもに肝臓で合成されており、残りの30〜20%が食べ物から取り入れられているの過ぎません。
いまの栄養学では、さすがに「卵がコレステロールを増やす」とは言わなくなりましたが今度は「コレステロールにも善玉と悪玉がある」とくりかえしています。
善玉・悪玉というのは体内の話です。
血液検査をすると、体内のHDLコレステロール(善玉)とLDLコレステロール〈悪玉〉が出てくるという話であって、食べ物にはじめから善玉と悪玉に別れたコレステロールが存在するわけではありません。
卵の場合、黄身と白身で成分はかなり違いますが、「卵の黄身は悪玉コレステロール、白身は善玉コレステロール」というのは誤解です。
悪玉コレステロールはどうして増えるかは、意見の分かれるところですが、運動量に見合わない過食は悪玉コレステロールを増やすと私は考えています。
カロリーがあるものを食べている以上は、何を食べようが、消費カロリーに比べて摂取カロリーが多ければコレステロール値は上がる、ということです。
つまり「何を食べたか」ではなく、「どのようなライフスタイルか」が問題なのです。
本来、一つの食品の良し悪しを科学的に証明することは難しく、有効性や有害性を安易に語れるものではありません。
語れるのは、毒キノコ、フグの毒など、特殊な例だけです。
ところが栄養学者のなかには、食生活やライフスタイルは無視し、ある食品の有効性が科学的に証明されたかのようなニュアンスの情報をまき散らしています。
「果物はビタミンCが豊富で美容に最適」と言っていた学者が、「果糖はとりすぎると太るので気をつけましょう」と、事実上、前言を否定するようなことも少なくありません。
すると、それまでチンパンジーのように果物ばかり食べていた人が、ピタリと果物をやめてしまいます。
食品や栄養素を単品で考えると、こうなってしまうのです。
無責任な情報に踊らされてしまう消費者にも、反省すべき点はあるといえるでしょう。
間違った情報にふりまわされないために、これまでテレビや雑誌で取り上げられた「一品健康食」について、以下で検証していきます。
すべての食品には「食べたほうがよいとされる理由」「食べないほうがよいとされる理由」の両面がある・・・・・・このことを念頭に置いてお読み下さい。
● 『朝バナナダイエット』に効果はあった?
?答え? どちらともいえない
バナナは、果物のなかでも食物繊維とでんぷんが多い食品です。
でんぷんは、私たちがおもにエネルギー源としている糖質の一種で、米や芋などに多く含まれています。
ゴルフやテニスの選手が試合中にバナナを食べることがあるのは、皮を剥げばすぐに食べられるので、エネルギーの補給に便利だからです。
中央アフリカや東アフリカでは、普通のバナナよりでんぷんを多く含む緑色の大きなバナナが主食とされています。
このように、バナナは米や芋に近い食べ物なので、三度の食事をきちんととっていなかった人が「朝バナナ」にしたら多少便通がよくなったということは、可能性としてはありえます。
その結果、体重が少し減った人がいても、おかしくありません。
もちろん、「朝バナナ」にすれば誰でも便通がよくなるわけではありません。
それなら、今でもみんながやっているはずです。
「朝ババナ」で便通がよくなるのは、それまで朝食抜きだった人、サラダとヨーグルトだけだった人、〈カロリー○イト〉をかじっていた人などだと思います。
おそらくは、ほとんどは女性でしょう。
どんぶり飯を食べているおじさんは、バナナなど食べなくても、しっかりと便通があります。
同じ食物繊維でも、明らかに穀類、イモ類、豆類の食物繊維のほうが影響が大きいからです。
ここまで読んで、「ごはんとバナナをくらべたら、やっぱりご飯のほうが優れた食品なんだな」と思った人がいるかもしれません。
でも、それはピンとはずれな考え方です。
たとえば、目の前にごはんとバナナを並べられて、「どちらを食べたいですか?」と聞かれたら、私はババナを選びます。
バナナは甘いのでそれだけで完結しますが、ご飯だけ出されても塩もふれないのでは、とても食べられないからです。
でも、おかずのことまで考えれば、ごはんのほうがはるかに優れています。
「バナナにはどんなおかずが合うのか?」と考えても、何も思い浮かびません。
どんな食品に関しても、単品で比較する癖は改めましょう。
● 野菜をたくさん食べれば便秘は治る?
?答え? どちらともいえない
野菜を食べることはいいことですが、「野菜さえ食べれば便秘にならない」とはいえません。
便秘薬を飲んでいるのは男性と女性のどちらが多いかといえば、圧倒的に女性です。
なぜ女性に便秘が多いかといえば、ほとんどがご飯を食べないからです。
男性の場合、朝は牛丼、昼はラーメン、夜はとんかつ定食という人はいくらでもいます。
とんかつに添えられたキャベツはいつも残し、みそ汁に入っている野菜も箸で抑えて汁だけ飲んでいる人も珍しくありません。
もし「野菜をたくさん食べれば便秘にならない、便秘が治る」との説が正しければ、男性のほうがはるかに便秘が多いはずですが、こうした人たちが便秘で悩んでいるといった話は、あまり聞いたことがありません。
一方、若い女性の中には、ごはん代わりにサラダを馬のように食べているのに、便秘薬を手放せなくなっている人がかなりいます。
このような女性たちが入院すると、6割から7割の人は病院食によって便秘が治ります。
それはなぜでしょうか。
生野菜中心の食事をしている人を見ると、サラダにはドレッシングやマヨネーズがたっぷりかかっています。
「天ぷらと同じ」といっていいくらい、油まみれです。
それに、サラダは嵩があるので野菜をたくさん食べた気になりますが、火を通したら小鉢1つに収まるくらいの量になってしまいます。
これでは食べているうちに入りません。
しかも、サラダに使える野菜は、レタス、トマト、キュウリなど、ごく限られています。
病院食は、予算の関係でおかずが少なく、ごはん(多くの場合はどんぶり飯)でカロリーをとるようにできています。
日ごろから、油と化学調味料まみれの生野菜ばかり食べ、空腹を埋めるためにケーキやスナック菓子を口にしてきた人たちが、入院してどんぶり飯を朝・昼・晩と食べるようになれば、便秘が治って当然なのです。
「論より証拠」のこうした事実が意味することに気づき、食生活を改めてほしいものだと思うのですが、残念ながら、実践してくれる人は多くありません。
● 青魚を食べると頭がよくなる?
?答え? いいえ
この説は、青魚に多い不飽和脂肪酸の一種DHA(ドコサヘキサエン酸)が、脳に含まれている脂肪酸のおもな成分である、というところから出てきたようです。
脳を形成する一つの成分に過ぎない物質が、なぜ「頭の良さ」と結びつくのか、理解に苦しみます。
これまでに、DHA配合の(頭脳パン)という菓子パンや、豆腐などが売り出されましたが、タチの悪い冗談としか思えません。
青魚を食べて頭がよくなるのなら、この世でいちばん頭のいいのはネコになってしまいます。
「頭をよくするために青魚を食べる」とは「貧血の人はレバーを食べる」と同様の大いなる錯覚です。
私たちのからだは、さまざまなものを消化して作られています。
食べたレバーがそのまま血管に入っていくわけではありません
ちなみに、似たような話に「大豆レシチンをとると頭がよくなる」というのもあります。
私は茨城県生まれで、子供のころはほぼ365日、納豆を食べていました。
周囲の人もそうでした。
けれども近所のおじさんやおばさんを見ても、もちろん私自身を見ても、特別頭がいいとは思えません。
ほかにも魚に関しては、いろいろとややこしいことが言われています。
以前、ある講演会で、「魚をよく食べるエスキモーには脳血栓が少ない。
ゆえに、魚の油をたくさんとれば脳の血管が詰まるのを予防できる」と発言した学者がいました。
その場にいた私は、いくらなんでも聞き捨てならないと思い、「冗談はやめてください」といいました。
「あなた、エスキモーが何歳まで生きるのか考えていっているのですか?」と。
たしかに、極寒の地に暮らすエスキモーは、アザラシやクジラなどの海獣や魚を主食にしています。
が、平均寿命はとても短く、以前は30歳くらいで亡くなる人がたくさんいました。
現在では寿命が少し伸びているようですが、それでも、世界でもっとも短命な人々だといわれています。
そんな彼らに、脳血栓が多いわけがありません。
端的に言えば、脳血栓になる前に死んでしまうのです。
そうした事実も考えず、表面的なことだけを捉えて、マグロの目玉だの、DHAだの、EPAだのを取り上げ、難しいことを並べ立てる人はあとを絶ちません。
私はこのような人たちを「話を難しくする会」と名づけています。
魚を食べることはいいことですが、わざわざ話をややこしくする必要はありません。
私は、魚の中では青魚をすすめることは多いのですが、その理由は魚の目玉でもなければ不飽和脂肪酸でもなく、養殖比率です。
ヒラメ、フグ、ブリ、タイなどは、値段が高いため養殖がさかんです。
イワシ、サンマ、アジ、サバなどの大衆魚を養殖する人はいません。
養殖しても儲からないからです。
ですから、安い魚を食べていれば、抗生物質などで薬漬けになった魚を食べる心配がない。
「どちらかといえば青魚がいいですね」と私が言うのは、安全性と経済的という理由だけです
● ヨーグルトを食べると
善玉菌が増えて腸がきれいになる?
?答え? いいえ
「ビフィズス菌がお腹をきれいにすると聞いたから」と言う理由で、毎日かなりの量のヨーグルトを食べている人がいます。
便秘に悩む若い女性に、特に多く見られる傾向です。
けれども、ヨーグルトを食べたからといって、すぐに腸内のビフィズス菌(善玉菌)が増えるわけではありません。
大事なことは、善玉菌をいかに多くとるかではなく、善玉菌がお腹に棲みつきやすい腸内環境をつくることです。
そうでなければ、いくら善玉菌をお腹に入れたところで追い出されてしまうのです。
人間の便の状態は、腸内細菌によって大きく異なってきます。
たとえば、母乳だけで育った育った赤ちゃんの便は山吹色で、あまりにおいがありません。
それは、腸内にビフィズス菌がたくさんあるからです。
ところが、年齢とともにいろいろなものを食べようになると、便の色は褐色になり、におうようになります。
これは、腸内のビフィズス菌が減って、逆に病原性の最近であるウェルシュ菌などの悪玉菌が増えるからです。
このとき、腸内の細菌と大きくかかわるのが食物最近です。
食物繊維は、大腸内で腸内細菌によって分解されます。
その結果、メタンガス、炭酸ガス、水素ガスなどが発生します。
これらのガスは、便の成分になったり、オナラとなって排泄されたりしますが、悪臭ではありません。
また、食物繊維が分解されると、酪酸ヤ乳酸などの有機酸も排泄され、体内に吸収されてエネルギー源になったり、大腸の動きを活発化させて排便を促したりします。
それだけでなく、有機酸の働きによって大腸内の酸性度が高まると、酸に弱い悪玉菌の増殖が抑えられて腸内がきれいになり、ビフィズス菌などの善玉菌が増殖します。
つまり、食物繊維をきちんととれば、腸内環境は整えられるのです。
そうして、こういうわけでオナラが臭くない。
それを確認するユニークな実験を、かつてNHKの『ウルトラアイ』という番組で行ったことがありました。
2人の人に、サツマイモだけの食生活を3日間続けさせ、オナラの出そうになるたびに風呂に入ってもらい、お湯の表面に浮いてくる泡をビニール袋で集めさせ、それを分析したのです。
結論から言えば、そのおならはにおいませんでした。
悪玉のもとになる成分が少なかったのです。
一方、肉ばかり食べていると、便やオナラは強烈ににおいます。
私も自分で実験したことがあります。
肉はあまり好きではないのですが、わざと肉ばかり食べて穀類を食べないようにしました。
すると、オナラはあまり出ない。ブスッとしかしません。
ただ、硫黄臭というのでしょうか、ものすごく臭いのです。
出が悪いときのおならは臭い、出がいいときにはあまりにおわない――この経験は、皆さんもあるでしょう。
便やオナラは、腸内細菌の様相を表すものなのです。
ここから導き出されるのは、ごはん、芋、豆類などから食物繊維をしっかりとって腸内環境を整えれば、ビフィズス菌などの善玉菌が棲みついて増える、ということです。
逆に、肉ばかり食べて食物繊維が不足すると、腸内環境が悪くなり、ウェルシュ菌などの悪玉菌が増えてしまいます。
ですからヨーグルトを食べても食べなくても、ほとんど関係ないのです。
● ヨーグルトには老化防止のはたらきがある?
?答え? いいえ
「乳酸菌が老化を防ぐ」と信じ、酸っぱいのを我慢してヨーグルトを食べている人もいます。
けれども、これにも明確な根拠はありません。
「ヨーグルト老化防止説」は、グルジアやブルガリアなど長寿の人が多い国でヨーグルトがよく食べられているところから出てきました。
ならば同じ理由で言えば、「沖縄県は長寿県といわれてきた。沖縄の人はよく焼酎を飲む。ゆえに焼酎が老化を防ぐ」という三段論法も成り立つことになります。
それまでの日本のヨーグルトは、寒天で固めたようにプルプルして甘い「お菓子」でしたが、ヨーロッパの長寿国に注目したメーカーは、そこで食べられているものに近いヨーグルト、つまり現在の酸っぱいヨーグルトを売り出しました。
それが折からの健康ブームに乗って、大ヒット商品になったのです。
そのブームが結構長く続いたのは、業界の規模が大きいからです。
これは赤ワインブームにもいえます。
乳酸品のおいしさは脂肪のおいしさです。
バターは「油の塊」をイメージするので避ける人は多いですが、ヨーグルトは酸味があってさっぱりしている分食べ過ぎてしまいがちで、結果として脂質のとりすぎになることもあります。
そこで各メーカーは、「低脂肪」「低カロリー」「無糖」を謳ったヨーグルトを次々と出しています。
そういうものはどうかと聞かれれば、「嗜好品ですから、大量に食べなければいいのではないですか」と答えるしかありません。
ただ、「健康オタク」と呼ばれる人たちは、極端なまでにたくさん食べてしまうことがあります。
そのような人にはぜひ、先に上げた『乳がんと牛乳』を読むことをおすすめします。
酸っぱいのを我慢してまでヨーグルトを食べなくても、日本には、漬物、納豆、みそといった優れた発酵食品があります。
毎日の食事でこれらを普通にとれば充分なのです。
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