栄養がいっぱい詰まった
冬の栄養健康野菜
煮物・汁の実・おひたし・和えもの
漬物・油炒め・小松菜スープ・鍋料理
小松菜
●小松菜の旬は、これから
改良が進んで一年中食べることができますが本来の旬は冬なのです。
小松菜の旬は11〜3月、これからいよいよ美味しくなります。小松菜はアブラナ科の野菜で、寒さに強く、霜がおりる頃になると葉肉が厚くなり、アクが抜けて甘みが増し、美味しくなると言われてます。
小松菜は、冬にとれるのでかつては“冬菜”、“雪菜”とも呼ばれ、また、関東では正月のお雑煮に欠かせない野菜として親しまれ、“正月菜”などと呼ばれていました。
●小松菜の名の由来
しかし、東京・江戸川に近い小松地区でたくさん作られていたため、「小松菜」と名前がついたようです。
また、一説によると、小松菜は江戸時代から作られていて、タカ狩りにやってきた8代将軍徳川吉宗が香取神社(旧西小松川村)に立ち寄られました。そのときの神主、亀井和泉が、これといって差しあげられるものも無かったので、餅の澄まし汁に青菜を少々いろどりにあしらって差し出すと、その菜っぱのおいしさに感激し、吉宗公はたいそう喜ばれて、「この汁の菜をなんと申すか」と訪ねられました。返事にこまったいた神主に、吉宗公は「それではここは小松川だから小松菜と呼べ」と命名したということです。
ちなみに、英名は「Komatsuna」。
むかし昔、江戸の町の胃袋を満たすため、江戸前と呼ばれる東京湾の魚介類の他、江戸野菜と呼ばれる多くの農産物がありました。
例えば、砂村瓜(江東区砂町)谷中生姜(台東区谷中)亀戸大根(江東区)練馬大根(練馬区)千住葱(荒川区・足立区)滝野川牛蒡(北区)・・・
でも今はそのほとんどが絶滅か絶滅寸前です。あったとしても滅多に入手できません特定のルートで取引され、一般の市場へは流れません。
しかし! 小松菜だけは江戸川で元気に栽培されています
●小松菜は冬に欠かせない栄養の宝庫
小松菜はホウレン草とよく似ている野で比較されますが、どちらも冬の緑黄色野菜の代表といえる栄養豊富な野菜です。
「こまつな」の特徴は、アクとなるシュウ酸が少ないので、下ゆでをせずに直接炒めたり、味噌汁に入れたりなどの調理ができます。新鮮でやわらかいものは生でも食べられます。
ビタミンB2の含有量は野菜の中でもトップクラスです。
100g(1/2束)で、ガンに有効だとされているベーターカロテンと1日に必要なビタミンCを摂取できます。小松菜のビタミンCは壊れやすいので、調理するときには短時間ですませましょう。
常食する野菜では最もカルシウムを含み、含有量は100g(1/2束)中290mgと、ほうれんそうの5倍も含まれています。
その他、カリウム、鉄分なども含んでいます。骨や歯を丈夫にしたり、貧血の予防などに効果のある栄養が豊富です。ガンや骨粗しょう症の予防に、ストレス対策に、若さと美しさを保つために、積極的に食べたいいものです。
●小松菜の効能
風邪予防・ガン予防・骨粗しょう症予防・ストレス解消、動脈硬化予防・貧血予防・老化防止・美肌保持
●小松菜の選び方と保存方法
葉の緑色が濃く鮮やかで大きさがそろったもの、根が長く、茎がしっかりとしているものが良品です。
黄色くなってしまったものは鮮度が落ちた証拠です。ほうれんそうよりも鮮度が落ちやすいので早めに食べましょう。
小松菜は、ほうれん草に比べて日持ちが悪いため、購入した日のうちに使い切るのが理想です。
数日間おいて置く場合は、根元を水で湿らせたキッチンペーパーで包み、保存袋に入れて冷蔵庫の野菜室に立てて入れるか、固めに茹でて冷凍保存すると良いです。
●小松菜の料理法
あくが少ないので、下茹でなしで、お浸し、煮浸しにもできます。
煮びたし、炒め物をはじめ、常夜鍋(豚肉と小松菜のしゃぶしゃぶ)など、鍋物にも直接入れることができるので手軽に食べられます。
小松菜を茹でるときには、根元に火が入りにくいので、根元から入れるようにします。しゃきしゃきした歯ざわりを残して茹であげましょう。
ジュースにも最適で、アレルギー体質の人も安心して食べられます。
600℃
小松菜の成長は600℃ってわかりますか?この数字はおおよその目安ですがその日の最高気温の累計が600℃になる頃に収穫されます。ですから夏場ですと20日程度、冬場で2か月ほどかかることもあります。
■ 相馬暁先生のお話 冬の青菜の効能・機能
● 緑の青菜を食べて、真っ赤な鮮血を
冬の青菜はすぐれた健康野菜です。
冬は、やれクリスマスだ、正月だと言って、ご馳走(肉類)を食べ、お酒を飲む機会が多くなります。
また、寒さを防ぐため、脂肪など高カロリー食をとります。
そんな時に、葉緑素の宝庫とも言うべき青菜を摂取しますと、肉食性老廃物やタバコのニコチン、酒(アルコール)のアルデヒドなど、各種の細胞阻害物質に対して、中和解毒効力を発揮します。
これは葉緑素の速効性浄血作用によります。
葉緑素は血液中で色々な毒素と結び着いて、解毒するのです。
その様な意味では、冬の青菜は二日酔い、悪酔いによく効きますし、血液自身の浄化にも役立ちます。
実は、赤いサラサラした血液は、肉食すると粘りを帯びた黒ずんだ血液に変わります。
これをリフレッシュするのが、葉緑素の解毒作用です。
口臭を消すのに葉緑素入りのガムや歯磨きを利用しますが、これも葉緑素の吸着力・消臭力などを活用したものです。
同じ様なことが体内でも起こっているのです。
所で、植物の葉緑素と人の血液の主成分・血色素(ヘモグロビン)は、非常に似た構造をしています。
葉緑素は四つのピロール核のまん中にマグネシウムの一分子を持つ化学構造式です。
それに対して血色素は四つのピロール核の中心に鉄が一分子入っています。
中心の元素がMg(マグネシュウ)か、Fe(鉄)かの違いなのです。
緑の葉緑素と赤い血色素は兄弟分で、植物の青い血と動物の赤い血は元を質せば同じ構造なのです。
だから赤い血液を作るのに、青い葉緑素が必要なのです。
また、冬のホウレンソウや山東菜、小松菜、京菜など、いわゆる冬の青菜は、カロチン、ビタミン、ミネラルなどに富み、栄養的には優等生といってもよいほどです。
周年出回っていますが、霜に当たって甘味の載った旬の栄養価、味はまた格別です。
お浸しばかりでなく、油揚げと一緒に煮たり、水炊きし、ポン酢で食べたり、鍋物に入れて楽しみたいですね。
この様な冬の青菜を沢山食べますと、風邪をひき難く、シモヤケ、ヒビ、アカギレなどの予防にもよいとされています。
これは青菜に含まれるビタミン類の効能と言えます。
野菜に含まれるカロチンやビタミン類が癌抑制作用を有することがダンダン解ってきましたが、小松菜やホウレンソウに、肉や魚の加熱に伴い生成される発癌物質、アミノ酸の一種トリフトファンの加熱分解物の害作用を抑える効能があることが分かりました。
■ 小松菜のおひたし
【材料】(4人分)
・小松菜・・・1わ ・すし用あげ・・・1枚 ・だし汁・・・大さじ4
・うす口しょうゆ・・・大さじ2 ・さとう・・・小さじ1 ・ごま・・・少々
【作り方】
1、小松菜は塩ゆでし、3cm程の大きさに切って、水気をしぼります。
2、あげは、網で両面を軽く焼き、細かく切ります。
3、だし汁としょうゆ・さとうを混ぜ[1]の小松菜と[2]のあげをあえます。
4、器に盛り、ゴマをちらしてでき上がりです。
■ 小松菜の浅漬け
1、3時間ほど天日で干ししんなりさせる(天日で干す事が美味しさのポイント)。
2、洗って根っこを揃える。
3、3センチくらいに切る。 株元がついている場合揃えて切る。
4、お好みにより塩をしてもむ。
5、重石をして3―4時間して出来上がり。
6、浅漬けした小松菜にお好みでかぼすや醤油をかけお召し上がりください。
■ 小松菜ジュース
【材料】
・小松菜・・・1束 ・水・・・1回200cc〜400cc ・水・・・1回200cc〜400cc
・レモン (お好みで)・・・半分 ・オリーブしそ油 (お好みで)・・・10cc〜15cc
【準備】
・ミキサー ・空きビン 5〜6本
【作り方】
1、小松菜をよく洗い、5cmくらいの長さに切る。
2、ざく切りにした小松菜と水200ccを、ミキサーにかける。
(水の量は好みに合わせて調整 )
わりと濃いめに出来上がりますので、薄めをお好みの方は水を400ccに増やしてみてください。
3、最後に塩 小さじ1/2を入れ、もう一度フラッシュする。
? 水の量の目安 (保存する時は濃い方が容器がたくさん要らなくて済みます)
200cc---ドロ×ドロ×ドロで濃い。 飲むときは倍に薄めてもOK
300cc---ドロ×ドロ でまぁまぁ濃い 400cc---ドロ これくらいで飲むのがちょうどいい感じ。 ? 小松菜1束で、ミキサーに2回分位です。
4、空き瓶に詰めて、冷凍庫で保存する。
? 間口の広いビンがおすすめです。 【ワンポイント】
● 水200ccで作ると濃いめにできるので、飲むときは好みに合わせて水や氷を足してください。
● 冷凍庫で凍らせた後は、翌朝飲む分を、前の晩に冷凍庫から出し、自然解凍しておくと便利です。
■ 薬膳が教える伝統食のススメ その2
食養研究家 1937年鹿児島県生まれ。有限会社東京薬膳研究所代表。
スローネットより
3.腎を助けて老化を防ぐ
● 中国語を猛勉強
薬膳について勉強していたころ、中国大使館の近くに住んでいたこともあり、大使館近くの有栖川公園で大使館員の方々ともお友だちになりましたので、薬膳の本について質問したことがありました。
そうすると、日本には薬膳の本は日中友好会館に1冊だけあることがわかり、見つけました。
でも、書かれているのはもちろん中国語の原文です。
中国語はまったくわかりませんでしたから、さてどうしようかと途方に暮れていました。
中国語を勉強しようと思ってもどこでできるかわかりません。
でも、調べていたら新聞社がやっている朝日中日文化学院という学校があることがわかりました。
早速中国語の講座を受講することにしました。
=すごいですね。すぐに行動に移すのですね。
朝7時から授業に通うこと1年半経て、その年の夏には中国に短期語学留学できることになりました。
夏涼しい大蓮を選んで行きました(笑)。
中国語勉強ではほんとうに苦労しました。
中日辞典、日中辞典、薬膳料理事典の3冊をいつも手元に置き、それこそ死ぬ思いで勉強しました。
中国に行けば、薬膳に関する本はすべて買いこんで、勉強しました。
● 日本料理に流れる陰陽五行思想
薬膳を勉強してわかったのは、私たちがこれまで食べてきた伝統の日本料理には、薬膳理論の陰陽五行(いんようごぎょう)思想が流れているということでした。
私は懐石料理「辻留」の2代目辻嘉一さんの食に対する考え方が好きで、あの方の本はほとんど読みましたが、読み進んでいくうちに、本の行間に陰陽五行学説が隠されていることに気づきました。
陰陽五行説では、食べ物を五つの味(酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味(かんみ))に分類し、この五味は五臓の働きを補うという考え方が基本になっています。
「酸味は肝・胆に入り、苦味は心・小腸に入り、甘味は脾・胃に入り、辛味は肺・大腸に入り、鹹味は腎・膀胱に入る」というように、それぞれの味と内臓とは密接な関係を持っています。
日本の文化を遡ると、中国の五行説がすべて入ってきていました。
五色の御旗にしても、中国の五行説に基づいています。
韓国にしてもそうです。
日本の食文化も、中国から韓国を経て入ってきたか、あるいは中国から直接日本へ入ってきたものです。
それほど食を含む日本文化には陰陽五行説が浸透しています。
![]() 表1 武鈴子著『旬を食べる 和食薬膳のすすめ』より ● 五味調和で構成された薬膳理論
柳沢先生のもとで公害問題が体にどういう影響を与えるかを学んでいましたし、また古来の食べ物こそ体が一番喜ぶことも知っていました。
そういう素地がありましたので、薬膳の勉強をしてみると、今まで学んできたことは薬膳の裏づけなのだということがわかりかけてきました。
ですから、勉強をすればするほど、どんどん吸収されました。
=薬膳はどんな理論で構成されているのですか。
薬膳は、中国医学(中医学)がベースになっています。
薬膳というと日本人は漢方薬が入った料理と思っている人が多いようですが、特別に漢方薬が入らなくても中医学の理論に基づいて作られていれば日常食べている食事も立派な薬膳なのです。
薬膳の基本になっているのが「陰陽五行説」ですが、先に述べたように五行説では、食物は五味に配当されていて、その味は五臓と密接に関連している。
そして五味、五臓はお互い、酸味=肝・胆⇒苦味=心・小腸⇒甘味=脾・胃⇒辛味=肺・大腸⇒鹹味=腎・膀胱⇒酸味=肝・胆……へと循環しつつ体を育んでいるのです。
ですから五味の調和が五臓の調和ということになるわけで、五つの味が偏らずにバランスを保っていることが大事なのです。
● 次は中国医学に挑戦
薬膳を知るには、中国医学も知らなければいけません。
「ちょっと待てよ、こうなると、中国医学や漢方についても勉強しなければいけない」と思いました。
ところが、日本ではそれを教えてくれる学校はありません。
困ってしまいました。
ちょうどそのとき、新宿のカルチャーセンターの案内に「わかりやすい漢方入門」というのがあるのを見つけました。
早速申しこんで受講することにしました。
=いつも即断即決ですね(笑)。
はい(笑)。
講座を担当しているのは、渡辺武先生でした。
じつは渡辺先生は以前図書館で目にした『漢方健康料理』を監修された方として知っていました。
その本の中に、「化学塩が日本人の腎臓を犠牲にしている」という一文があり、とても印象に残っていました。
その一文に惹かれていましたから、それを書いた渡辺武先生にいつかお会いしたいとは思っていたのです。
それがなんとカルチャーセンター講座の講師がその渡辺先生だったのですね。
● 「石の上にも三年」
講義が終わったあと講師室まで行って、「このカルチャーセンター以外に教えているところがあれば教えてください」と尋ねました。
先生は「それでは、自分が会長をしている日中医薬研究会に遊びにお出で」と言ってくださいました。
ところが参加してみると、その研究会ではすべて原文での読み合わせです。
びっくりしました。
多少中国語を勉強していたものの、原文の内容がさっぱりわかりません。
それでもとにかく通い続けました。
しかし3年を過ぎるころから、少しずつわかるようになってきました。
不思議ですね。
何もわからなくても3年その場にいれば、体から入ってくるものがあるのですね。
まさに「石の上にも三年」です。
こうして、漢方医学も学ぶことができました。
しかし、なんとか理解できるようになるにはやはり10年はかかりますね。
10年やっていればいくらか応用がきくようになります。
応用できるようになってはじめて基本がわかったということです。
これは私の実体験です(笑)。
こうして、気がついてみたらただひたすら食べ物のレールの上を45年歩いてきました。
● 中国医学がすべて日本に当てはまるわけではない
私が薬膳をやっていてよかったと思うのは、最初に出会った孫先生が教えてくれたのが五味調和の考え方でしたが、その次に師事した渡辺先生も五味調和、そして薬膳について本を著している富山医科薬科大の難波恒雄先生も五味調和が基本だと教えてくださったことです。
薬膳には中医学の特徴である「八綱弁証」理論、「五味調和」理論があります。
八綱弁証は、弁証法の一つ。
陰・陽・虚・実・表・裏・寒・熱の八綱領を用いて、病変を分析・帰納し、治療を施す基本を提供するものです。
表裏は病位の深浅を、寒熱は病変の性質を、虚実は病邪の盛衰を弁別する基本方針で、陰陽はこの六綱を統括します。
表・熱・実は陽に属し、裏・寒・虚は陰に属します。
薬膳の多くはこの八綱弁証の考え方に基づいていますが、日本と中国の気候風土の違いを考慮したとき、中国の風土で構築された理論をそのままを日本に当てはめることには無理があります。
=それはなぜですか。
一例を挙げると、中国は大陸で空気が乾燥しています。
人間の体の余分な水分はどんどん気化して出ていきます。
ところが、日本は海に囲まれて浮かぶ孤島ですから、湿気が多い。
高温多湿ですから、体から水分が発散しにくい。
ですから、中国人と日本人は皮膚感覚が違います。
日本人には肩凝りが多いですが、日本独特の症状といわれます。
腎臓病が多いといわれるのも、皮膚からの発散が難しいので、そのぶん尿で排出しなければなりません。
結局腎臓に負荷がかかります。
中国と日本では、そういう気候風土の違いがあります。
ですから中国の医学をそのまま日本に移しても無理があります。
日本なりに咀嚼することが必要で、それが私のいう和食薬膳の考えにつながりますが、それはまたあとでお話しましょう。
● 宇宙は陰陽五行で貫かれている
五味は、ただ味覚だけに留まらず、五臓の調和をもたらすものです。
食べ方によって臓器が改善されたり、症状が改善されたりします。
これが薬膳の考え方です。
中医学は数千年という長い年月の中で、人間の体をフルイにかけてできあがった経験医学です。
中医学では、宇宙のすべてを、陰陽五行説にあてはめています。
五臓五腑もそう、季節も四季ではなく五季に配当されています。
食べ物も五つの味(五味)に配当します。
そして、それぞれの臓器とのつながりも明らかにしています。
たとえば、酸味は肝臓、胆のう・眼の働きを補う。
鹹味は腎臓・膀胱・耳などの臓器に関係しています。
● 内臓が感動して喜ぶスローフード
五行説では、首から上にある七つの穴は五臓の窓です。
目は肝臓、鼻が肺、耳は腎臓で、口は胃の窓です。
例えば、肝臓の窓は目ですから、目が疲れているのは肝臓が疲れていることでもあります。
![]() =ということは、それぞれの窓の状態で臓器のことがだいたいわかるわけですね。
そうです。
それがわかれば、自分の内臓がどうなっているか、おおよそ判断できます。
酸っぱいものを欲しているときは、「ああ肝臓さんが欲しがっているんだな」ということです。
食べ物を食べて美味しい!と感動するとき、それは口ではなく内臓が感動しているのだと受けとめています。
内臓が欲しがっているものに出会った喜びなんですね。
食べ物は内臓に感動を与えます。
ですから味わって食べていただきたいですね。
ただ与えられて無感覚で食べているのでは、餌と変わりないですね。
=なるほど。食べ物はたんなる餌やガソリンではないというスローフードの考えとつながりますね。
まさにその通りです。
● 化学塩と塩田製法の塩
料理はその人の体質に合ったものであることが大切です。
体は一人一人微妙に違うからです。
私は、皆が同じように画一的なものを食べることには反対です。
全員が同じものを食べる給食には疑問を感じています。
それから、赤ちゃんがお腹にいるときの羊水の成分と、海水の成分は同じだといわれていますね。
ところが、その塩が1970年代から30年間、化学的につくられた塩(イオン交換樹脂膜製塩法)に切り替えられてきました。
海水汚染や低コスト化によって従来の塩田製法は廃止されていました。
これはおそらく日本だけです。
そうして作られた化学塩は99%がナトリウムで、ミネラル成分がないんです。
ミネラル=苦汁(にがり)がないのです。
つまり化学塩は料理をしてもうま味がない。
最近ようやく従来の塩田製法の塩が解禁され、苦汁ブームが起こりましたが、私からみると、おかしなことです。
禁止してきたこと自体が間違えていたのです。
● エネルギーを司る腎には天然塩を
人間の命の大本は塩なのです。
中医学の考えでは、腎はエネルギーである精を司ります。
そして精の中には、先天の精と後天の精があります。
先天の精は親からいただいた生命エネルギーで寿命なようなものです。
後天の精は、先天の精を支えるもの。
つまり、オギャーと生まれてから口から飲食するものです。
離乳食から始まり毎日口から入ってくるものです。
先天の精(生命エネルギー)を支えられるかどうかは、後天の精にかかっているといえます。
精そのものを司る腎にいいものは、「塩から味」(鹹味)です。
その代表が塩なんです。
しかも人間は、先ほどいいましたように、海水と同じ成分の羊水から生まれていますから、あらゆる塩の中でも海水でできた塩こそ人体には一番適しているのです。
かつて政府が化学塩をつくるといい始めたとき、私たちは日本人の食構成を研究している科学者たちと一緒になって、人間の命の根源である塩を化学塩にすることに反対しました。
そして伊豆大島へ渡って海水を汲み上げバケツリレーをしながら天日で乾燥して塩作りを始めました。
当時、柳澤先生たちが20万円ずつ出資して製造を続けてきました。
健康は食べ物によって作られる。
食べ物を左右するのは塩でしょう。
“うまいまずいは塩次第”といわれます。
塩を疎かにしては無農薬も有機農法もありません。
● 五味を理解して老化防止に
塩がとても大事なのは、老化とも関係があるからです。
老化とは、中医学では腎機能の低下を指します。
人間が歳を重ねるのは、当然のなりゆきです。
しかし、老いには個人差があります。
老化を少しでも遅らせるには、腎臓を助けることが大切です。
それには、天然の塩を使うこと。それが一番の近道です。
塩がなければ、人間はゲンキが起きません。
繰り返しますが、精力はエネルギーであり、それを司るのが腎です。
腎臓を助けるのは、塩から味のものです。
それは天然塩であり、海藻であり、小魚などです。
また、意外かもしれませんが、大麦と栗も鹹味(塩から味)に配当されています。
大麦と栗が腎臓の働きをしっかり助ける効能があるからなのです。
=そうですか。五味を理解しておくと、老化を遅らせることにも役立つのですね。勉強になりました。
4.倒れるまで定年はない
● 40代から開き直りの人生
=武さんの人生を振り返ってみますと、いい出会いがあったり、必要と思うことが生じると、すぐに決断しすぐに行動を起こしてきましたね。
即断即決でした。
若かったからできたのですね。
今はとてもとても……(笑)。
でも、とにかくやってみないと、皆わからないから、そうしてきたのですね。
原因はどこにあるのか、元を辿りたくなるんですね 。
若いときは、他人からなにかいわれるとこだわるところがありました。
でも、あるときから異論反論を言われても、いいやと思うようになりました。
煩わしくなってきたのですね。
そこで考え方を変えたのです。
=ほう、どういうことでしょうか。
コップの中に割り箸を一本立てて、自分に喩えてみましょう。
コップの周辺は360度あるわけですが、私を一つの角度からしか見られない人には、他の角度から見てほしいと思ってもその人にはできない。
ですから私が望む角度から見てくださる人とお付き合いすればいいんだと思うことにしたのです(笑)。
40代ころからでしょうかねえ。
● 倒れるまで定年はない
今年で72歳になりますが、私にとっては定年というものはないと思っています。
これは私の空想ですが、人はきっと生まれたときに神様か何かに背中をぽんと押されて、宿題を与えられてこの世に送りだされたのだと思うのです。
誰でもそうではないでしょうか。
私の場合、それは食べ物の仕事をすることだったのかと、これまでを振り返ってみてそう思うのですね。
その食べ物は人が命を終えるまで必要なものだとすると動ける間は定年はないと……。
● 毎朝、毎晩自分に語りかけ
=70代にはとてもみえないほどお若いですね。
じつは両親は血圧が高かったし、兄弟もそうです。
私も高値安定です。
仕事で各地へ出かけることが多いのですが、速い乗り物ほど疲れますね。
遠くから帰ってきて休む間もなくまた出かけるときなど、朝道を歩いていて、めまいを感じることがありますが、そんなときは下だけをじっと見つめながら地面を踏みしめてながら歩きます。
そして、「KGG! KGG!」と自分に言い聞かせるように歩くようにしています。
KGGは、今日も元気に頑張ろう〜のローマ字の頭文字のこと(笑)。
そしてなんとか無事に一日の仕事を終えて帰るときは、「KIA! KIA!」と安堵感と感謝をこめてつぶやきながら家路につきます。
「今日も一日ありがとう!の略です(笑)。
=1年中全国を講演されていますから、たいへんですね。
講演の前には甘草(かんぞう)を少し水に溶かして飲みます。
甘いモノは緊張を緩める働きがありますから。
カルチャーセンターでも講演をたくさんしてきましたが、どうしてもストレスがたまります。
講義中におかしくなることもありました。
そんなときには、足を上げて手や足のツボを押しながら、講演することもありました
● 伝統食は理に適っていた!
今、私の課題は和食薬膳の勧めだと思っています。
現代は年中なんでも出回っていますが、夏のスイカ、ウリなどは体を冷やす食べ物ですから、夏に出る。
冬の食べ物、たとえば根菜類は、体を温める食べ物です。
ですから、旬のものを食べていれば間違いはありません。
近年、地産地消、身土不二などの言葉を見たり聞いたりしますが、日本の郷土料理はイコール薬膳だと思います。
山間部と海辺では気候が違います。
北海道と沖縄でも違います。
日本海側と太平洋側でも違います。
地域の気候風土に合った料理がその土地にちゃんと昔から伝えられているのです。
昔から伝えられ、培われたものを大事にしたい。
日本の伝統料理は日本人に合うからこそ残っているからです。
私の今の仕事は、日本の季節ごとの伝統食が、どういう組み合わせになっているか、どういう意味をもっているか、なぜ今日まで残っているのか、それらを薬膳の理論ですべて裏付けすることです。
2007年に『和食薬膳のすすめ』を上梓したのもそのためです。
● 和食で薬膳がモットー
和食薬膳というと、中国薬膳をやっている人からみると、邪道と思うかも知れません。
でも私は日本人の健康づくりをするということが目的ですから、あえて和食薬膳にこだわります。
和食なら誰でも作ることができます。
伝統食は、先人の知恵の結晶、先人の遺産です。
日本人の健康維持のために先人が生活の中から生み出し、遺してくれた大切な宝です。
ですから、先人への感謝の気持ちをもって、次の世代へ継承するように努めたいのです。
たとえば小豆には利尿作用があります。
腎臓を大事にしてくれる食べ物だからこそ、日本で小豆が大事にされてきました。
先人たちは小豆をお手玉や枕の中に入れて非常食にしていたといいます。
日本人の健康にとって大事な小豆をお祝いごとのお赤飯にしたり、和菓子のあんこにして美味しく食べる習慣を残してくれています。
それもこれも生活の知恵です。
昔、日本の住宅は土の壁に竹の障子……というように風通しの良いものでした。
その土塀には稲藁が練りこめられていたといいます。
飢饉の折などのときは土塀を崩して中の稲藁に含まれているたんぱく質を救荒食に利用するための工夫だったといいます。
梅干しにしても、そこには生活の知恵が詰まっています。
こうしてみると、私の仕事は、先祖が遺してくれた食べ物の素晴らしさを薬膳理論を通じて解き明かし後世に残すことで、そういう仕事ができることがうれしいですね。
● 「そろそろいいか」と思い始めて
出版について、以前から本を出しませんか、というお話はたくさんいただいていましたが、私自身が十分理解し咀嚼しきれていないのに本を出すというのには抵抗がありました。
ところが古希を迎えるようになって、「そろそろいいかな」とふうっと思い始めました。
=なるほど。それで近年から著書を次々出版されるようになったのですね。
そうです、2007年に『旬を食べる 和食薬膳のすすめ』を出版しましたが、続いて2008年には江戸時代の食育ともいえる「食物和歌本草」の中から身近な食材をピックアップして『いろはに食養生』という本を、そして今年5月には、講談社から『五味でマスター かんたん薬膳』という本を出しました。
さらにこの7月には家の光協会から、『和食薬膳レシピ』が出版されます。
=70歳になられての出版、大いに励まされます。
● 「たかが」ではなく「されど」
今月(2009年7月)出版予定の『和食薬膳レシピ』は、一つの食材を陰陽に分けた料理です。
つまり、冷え性の人、のぼせ症の人の食べ方を教えた本です。
=楽しみですね。
カラーで、誰でもできるレシピを紹介しています。
たとえば肝機能数値が高いとか、血圧が高いとか糖尿病があるとか、循環器の数値でチェックされた人は体に熱をもっていますので、外食する場合は、トンカツ定食や炒め物定食など高熱を使ったものを食べないで、刺身定食や煮物定食など、高熱を使わず油もあまり使わないものを食べたほうがいいのです。
もし病気になったら、食べ物がよければ薬もよく効きます。
食べ物と薬、この二つは車の両輪ですね。
薬だけでは治りません。
薬を吸収する土壌は体なのです。
その土壌を作るのは食べ物です。
食は「たかが」ではありません。
「されど」とこだわっていただきたい。
「たかがこれくらい……」が積み重なれば、健康が害されてしまいます。
体に合った、旬の和食薬膳で元気な毎日を送ってください。
=お話を伺い、食の大切さを改めて痛感しました。伝えられた食と食材を大切にしてじっくり美味しくいただきたいものですね。素晴らしいお話をありがとうございます。
(終わり)
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![]() 石川県認定 有機農産物小分け業者石川県認定番号 No.1001 |