■ 野菜・果物と健康 (111)
「100歳になるまで
病気にならない
スーパー免疫力」
Dr.ジョエル・ファーマン著 白澤卓二訳
永岡書店日本文芸社刊 より その10
4章 「スーパー免疫力」を作る
■ すばらしい「スーパーフード」たち の2
●「アブラナカ野菜」の効能を
最大限に引き出す法
ITC類の成分がどの程度消化・吸収されるかを左右するのが、野菜の準備法、調理法です。
刻む、かみ砕く、ミキサーやジューサーにかける、といったことでITC類がより多くできるのです。
つまりこうしたITC類の効用は植物の自然な状態から得られないということです。
私たちの口の中でかみ砕くことによって細胞壁が壊れて、始めて前駆体であるグルコシノレートから生成されます。
多くの細胞壁が壊れれば壊れるほどミロンナーゼ(細胞膜に存在する酵素)が放出され、それがグルコシノレート類と細胞内で混ざってITC類の生成を触媒するのです。
ITCの効能の中には、ゆでたり煮たりすると失われてしまうものもあります。
ミロシナーゼ酵素が高熱によって破壊されてしまうことがあるからです。
ですから最大限の効能を得るには、アブラナ科野菜は生で食べるのがよいのです。
しかし、調理したアブラナ科野菜でも、ITCが作られることがあります。
それは、消化器官の菌がミロシナーゼを持っているからです。
腸内菌がミロシナーゼを作る力は、日々あるものを食べることで向上します。
もうおわかりと思いますが、正解は緑色野菜です!
覚えておいていただきたいのは、加熱料理はITC類の活動や機能を破壊するわけではなく、ITC類の生成を触媒する酵素を不活性化するだけです。
ということは、緑色野菜を生のうちにミキサーやジューサーにかけたり、すりつぶしたり、刻んだりすれば、その時点でITCが最大限に作られるわけで、その後、それをシチューやスープに入れて加熱調理しても、ITC類の機能や効能が失われることがないのです。
アブラナカ野菜の免疫機能増強効果を最大化する方法は以下の通りです。
1、アブラナ科の緑色野菜は、細胞の一つひとつをつぶすつもりで、できるだけよくかむ。
2、アブラナ科野菜は、裏ごししたり、ミキサーにかけたり、刻んでから、シチューやスープに入れる。
3、ブロッコリーやキャベツなど、アブラナ科の緑色野菜は、堅めにゆでたり蒸したりし、柔らかくしすぎない。
アブラナカ野菜は、最も強力な抗がん食品であるというだけではありません。
野菜の中で微量栄養素の含有率が最も高いのです。
米国立がん研究所は、がん予防のための果物と野菜の推奨摂取量を1日5〜9単位としていますが、アブラナ科野菜について個別に推奨量を設けてはいけません。
私のお勧めする摂取量は、生の果物6単位、野菜全般8単位です。
そのうち2単位をアブラナ科野菜(最低1単位は生)で摂ってください。
全体的に栄養価の高い食事をする中で、ITC類に富むさまざまなアブラナ科野菜をとれば感染症やがんに対する大きな防衛策となるでしょう。
アブラナ科の野菜
ルッコラ チンゲン菜 ブロッコリー ブロッコリーラーブ ブロッコリーニ
芽キャベツ キャベツ カリフラワー コラード セイヨウワサビ ケール
コールラビ からし菜 カブ 紫キャベツ かぶら菜 くれそん
以上の他、アブラナ科の野菜で日本で親しまれているものに、白菜、大根、小松菜、ワサビなどがあります。
● 命を救う「キノコ」類
強力な免疫システムの維持に重要な役割を果たす驚異のスーパーフードのもう一つがキノコ類です。
キノコ類はまだあまり知られておらず、これから研究が始まろうとしている病気撃退成分がいろいろ含まれているという点で他に類をみません。
キノコ類には人体がウイルスや細菌などの病原体にさらされたとき、すばやく強力に反応できるよう免疫機能を補強する成分が数種類含まれています。
たいていのヒトの場合、病原菌に感染したとしても病気の症状が出る前に菌を打ちのめすことができます。
キノコに含まれるファイトケミカルは抗炎症作用や免疫調節作用もあるので、間接リュウマチや全身性エリテマトーデス(狼瘡)などの自己免疫疾患にも有効なのではと期待されています。
●緑色野菜が「スパー免疫力」の王様なら
キノコは女王
緑色野菜が「スーパー免疫力」の王様なら、キノコは女王です。
第一に、身近なキノコ類にの含まれる成分は、NKT細胞(ナチュラルキラーT細胞。NK細胞とT細胞の両方の細胞の性質を併せ持っている)を増強させることが動物実験や培養細胞でわかっています。
NKT細胞はウイルスに感染したり、何らかの形で傷ついた細胞を検出し、攻撃して排除します。
このNKT細胞は活性化されると、異常細胞に「弾丸」を発射して破壊するのです。
マッシュルーム、クレミニマッシュルーム、ポートベロマッシュルーム、マイタケ、霊芝(れいし)、ヒラタケは、どれも抗がん作用を持つことが確認されています。
遺伝子の損傷を防ぐ、がん細胞や腫瘍の増殖を遅くする、がん細胞の死を誘導する、腫瘍への血液供給を阻止する、といった働きをするのです。
乳がん、前立腺がん、大腸がん、そしてがん細胞に対し、こうした作用が認められています。
一般的に知られているキノコ類には、抗原結合レクチン(略称ADL)と呼ばれるタンパク質が含まれています。
ABLは多くのがん細胞表面分子を認知して、異常細胞だけに結合し、そうした細胞に対する生体防御作用を発動させるのです。
興味深いことに、こうしたABLは標的となった異常細胞に結合すると、その細胞の一部として取り込まれ、中から複写能力を阻害するのです。
こうして正常細胞に毒性や悪影響を及ぼすことなく、がんの増殖を予防します。
◆キノコ類は乳がんとの闘いに勝つ
キノコ類の日常的な摂取は、閉経前後両方の女性における乳がん発症率低下に関わっています。
驚いたことに、キノコ類を頻繁に食べることで乳がん発症率を60〜70%も抑えることができるのです!
さらに劇的な予防作用を得たのは、キノコ類10グラムと緑茶の葉緑素を毎日併せて摂っていた女性で、閉経前の女性は89%、閉経後の女性は82%、乳がんのリスクが低かったのです。
同様の相関関係が、胃がんと大腸がんの調査でも認められています。
信じられないでしょうか。
なぜ女性のすべてがキノコ類の乳がん予防効果のことを知らないのでしょう。
キノコ類と緑色野菜の組み合わせは、がんに対する強力なカクテル療法なのです。
キノコ類は、さまざまな形で乳がんと闘います。
その一つ「アロマターゼ阻害剤」はからだのエストロゲン量を減らしエストロゲンが乳房組織を刺激するのを防ぎます。
アロマターゼ(エストロゲン合成酵素と呼ばれることもある)はエストロゲンを作り、からだのエストロゲン量を調整する酵素です。
エストロゲンは乳がんの発生に深く関わるので、アロマターゼの活性を阻害することが予防につながります。
乳房の腫瘍にアロマターゼが過剰に発現するとその周辺のエストロゲンが増え、乳がんに進行すると考えられています。
現在、アロマターゼ活性を阻害するがん治療薬が数種使われています。
しかし、アロマラーゼ阻害剤を食事によって摂れば一生を通してエストロゲン量を抑え、乳がんのリスクを減らすことができます。
数種類のキノコについて、アロマターゼ阻害作用がどれほどあるかが調べられました。
程度別に分けると以下のようになります。
◆アロマターゼ阻害作用:強
ホワイトボタン、ホワイト大型種、クレミニ(ブラウンマッシュ)、
ポータペロ(直径10cmほどの大型マッシュルーム、
霊芝、マイタケ
◆アロマターゼ阻害作用:中
シイタケ、アンズタケ、ホワイトボタン小型
◆アロマターゼ阻害作用:弱または無
ヒラタケ、きくらげ
アロマターゼ阻害作用がどの程度であれ、その他の乳がん予防効果が対象となったすべてのキノコ類に認められました。
その効能は熱安定性といって、加熱調理をしても効果が損なわれません。
最も一般的で、廉価なホワイトボタン種に高い効果が認められました。
キノコ類についての耳寄りな話はそれだけではありません。
◆キノコ類の驚くべき「連携プレー」
キノコ類は生体内での樹枝上細胞の産生と成熟を促進し、抗原提示機能を向上させます。
どういうウことか詳しく説明しましょう。
樹枝状細胞は木の枝のような形をした免疫細胞で、からだの至るところの散在しています。
通常は未熟又は不活性の状態です。
樹枝状細胞が活性化されると、敵とみなした物質をとらえて処理します。
生体を脅かすものを他の免疫細胞の目の前に提示し、除去させたり殺させたりするのです。
つまり、他の細胞が破壊できるよう、樹枝状細胞が病原菌や異常細胞を捕まえるというわけです
樹枝状細胞は、皮膚や鼻の粘膜、肺、胃腸など、外界の触れる組織に存在します。
それから血液の中にも未熟の状態で存在します。
いったん活性化されて働き出すと、リンパ節に移動し、そこでT細胞やB細胞と作用し合って免疫攻撃を発動させるのです。
年齢とともに樹枝状細胞の機能は低下し、免疫機能が損なわれてきます。
こうして樹枝状細胞の機能が徐々に失われることで、私たちは年とともに感染症や、がんにかかりやすくなっていくのです。
しかし、キノコや緑色野菜から免疫強化成分を摂取することで、老化に伴う免疫機能の低下を防ぐことができます。
キノコ類には、多様な免疫強化作用を持った多様なファイトケミカル成分が含まれていますが、キノコ類、タマネギ、緑色野菜を同時に摂取すると、その作用がさらに増強するのです。
キノコ類のほか、カラフルな果物やタマネギ、ベリー類に含まれる「フラボノイド」、そして緑色野菜に含まれるITC類(イソチアネート)も、樹枝状細胞を活性化させる抗がん物質であることが確認されています。
キノコ類にはまた、異常細胞や腫瘍、がんの増殖を抑える血管新生阻害物質も含まれています。
前にもお話しましたが、血管新生とは新しい血管ができることです。
がんや腫瘍、脂質は、血管新生を促す物質を分泌して自らの増殖を促します。
それに待ったをかけるのがキノコ類です。
●血管新生を阻止することが
がんの予防・治療に有効
血管新生は、既存の血管から新しい血管が作られるための複雑な生理的現象です。
血管新生が促されると、もとの血管から内皮細胞が芽生えて分裂し筒状の構造を形成して、やがて新しい血管へと成長します。
血管新生は、胎児が発達したり子供が成長する際に起こります。
成人の体内で血管新生が起こるのは、創傷治癒など特別な場合に限ります。
ところが過剰(つまり異常)な血管新生は、肥満、がん、黄斑変性症、慢性炎症に関与しています。
がんの進展において腫瘍が大きくなり、専用の血液供給が必要になると、血管新生が誘導されます。
腫瘍が周辺の血管に枝分かれをして、酵素や栄養素を送り込むようシグナルを送るのです。
こうして微小の良性腫瘍が危険な浸潤症(周囲の組織を犯す)へと成長してしまうのです。
がんの特性は細胞が早く、とめどなく増殖・複製していく点にあります。
そのため命を奪うに至るのです。
血管新生は健康な成人にはめったに起きず、それを必要とするのは腫瘍が成長するときだけですから、血管新生を阻害することが、がんの予防・治療法として有効なのです。
血管新生の各過程を阻害する薬が数種類開発され、そのうちFDA(食品医薬品局)の許可を受けたものは、現在がんの治療に使われています。
血管新生阻害
◆ 腫瘍の成長を防ぐ
◆ 脂肪細胞の増大を防ぐ
◆ 炎症を防ぐ
◆ がんの進展を防ぐ
血管新生促進
◆ 腫瘍・がんを促進する
◆ 体細胞の蓄積を促進する
◆ 炎症を促進する
◆ 食欲が増進する
多くの植物性食品が血管新生阻害物質を含んでいますが、特にキノコ類には豊富です。
食品からとる血管新生阻害物質は、がんがまだ小さく無害なうちに「栄養源を断つ」予防療法として現在研究が進んでいます。
血管新生阻害物質が、もし日々の食事に含まれていれば、小さな腫瘍が血液供給源を確保するのを防いで大きくなって悪性度を増したり、がん化するのを防げるのです。
それが、キノコ類、タマネギ、緑色野菜、べルー類――できれば食べ合わせが望ましい――の、もう一つの抗がん作用です。
安全対策として念のためにいいますが、生のキノコ類は、いくつかの研究の動物実験において毒作用が報告されていますので、必ず加熱調理して食べましょう。
◆「脂肪細胞」の増大をくい止める
同様に脂肪組織の増大も血管新生に左右されるので、血管新生阻害物質の含まれた食品を摂ることで脂肪の蓄積と増大を防げます。
キノコ類を中心としたス−パー食品を食べれば、おまけの効果として健康的に減量できるというわけです。
こうした食事はカロリーが低めだということも理由のひとつですが、それだけではなく、血管阻害物質のような有益な栄養素を摂れることにも起因しています。
血管新生、転じて肥満やがんを促進する食品や栄養素は、インスリン値を上げる精白小麦粉で作られたパンや甘菓子、そして高脂肪・高コレステロールの典型的欧米食です。
こうした現代の不健康な食品は、質量当たりのカロリーが高いだけでなく、脂肪がたまりやすくなります。
二重のマイナスです。
その一方、緑色野菜やキノコ類、タマネギ、ベリー類、その他、次に挙げた食材は、二重のプラス効果をもたらしてくれるのです。
● 血管新生を阻害する食品及び栄養素
ねぎ科の野菜(タマネギ類) ベリー類(すべての種) 黒米 シナモン
柑橘系果物 アブラナ科の野菜 フラックス種子(エジプトハーブ)
ショウガ ブドウ 緑茶 キノコ類 オメガ3脂肪 ピーマン
ザクロ マルメロ(カリン) レスペラトロール(ブドウや赤ワインに含まれる)
大豆 ホウレン草 トマト ターメリック
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