若杉友子の
「一汁一菜」
病気知らずの
食養生活法
若杉友子 著 主婦と生活社
その6
第6章 食養は一生の勉強
いろいろ言ってきたけど、みんな理由があるのです。
食養のこと、陰陽のこと。
これをしっかり覚えておけば、
一汁一菜献立や元気になる方法がわかります。
私の伝えたいことは、
ここが基本だからしっかり読んで。
●陰陽ライフをはじめよう
これまで私の話の中で「陽性」「陰性」って言葉がたくさん出てきたと思います。
この陰陽が、食養の基本なので、ぜひ、陰陽の基本や考え方、陰性・陽性の食べ物について、きちんと学んでください。
これがわからないと、いくら自己流で料理をつくったって、元気になれませんよ。
私が食養や陰陽について知ったのは、マクロビオティックの始祖といわれる桜沢如一氏の『新食養療法』という本を読んだからです。
今では世界中で実践されているマクロビオティック。
語源は、ギリシア語の『大いなる生命』だそうです。
肉食中心の食生活を見直して、古代中国から伝えられてきた「陰陽思想」「五行説」を取り入れ、自然食を実践し、健康と長寿を目指すものです。
そもそも桜沢氏自身、病気がちで健康について深く勉強していました。
そして明治時代の軍医で「食養」の祖であり、古代中国に源流のある陰陽調和を提唱していた石塚左玄の教えにたどりつき、左玄の食養を実践することで、健康を取り戻したのです。
私は桜沢氏の自然食を勉強したことから石塚左玄をしり、自分なりの研究も重ね、陰陽の調和を保つ食事のあり方がいかに大切かを痛感しました。
そして、自分自身も、陰陽の調和を軸にした食養をたくさんの人にわかっていただきたいと思い、料理教室を実施し、自然食の店を開いてきました。
だから、私の食養の基礎は、陰陽の調和。
その調和を考えたときに、一番ふさわしいのが、日本の伝統食。
そこで、添加物のない、無農薬の食品を使ったり販売したりしていたのですが、それだけでは真の食用とはいえない、自分で野菜や米を作り、天からいただいた恵みを基礎にした生活を始めようと、京都の綾部に移り住んだ、というわけです。
食養は難しく、奥が深いので、コツコツ勉強してください。
●すべてのものに陰陽がある
古代中国では、すべてのものに陰陽があると考えます。
石塚差玄も桜沢如一氏も同じ考えを持っていました。
太陽は陽、月は陰、男は陽、女は陰。
エネルギーに満ちた熱いものは陽で、冷たくて寒いものは陰。
石塚差玄は、栄養の分野でナトリウムとカリウムを陰陽に結びつけた。
ナトリウムは陽性の元素、カリウムは陰性の元素。
そして、その陰陽のバランスこそが大事だと説きました。
当時の西洋医学では盲点だったところに着目した石塚差玄は、すごいですよね。
もちろん、食べ物ひとつひとつ、陰性・陽性の別があります。
たとえば、男性の多くは、肉や酒がすき、このような極陽性の食品ばかりをとると、体のバランスが悪くなります。
子どもも陽性体質のため、陰性の甘いものをほしがる。
けれど、このような陰陽バランスは極端すぎる。
穀物、野菜や野草を中心にした、穏やかな陰陽バランスのほうがいいのです。
陰陽のバランスを適切にとるには、やはり、ごはん中心の一汁一菜が適しています。
●色でも陰陽が見分けられる
陰陽は、色でも見分けることができます。
色の陰陽の度合いは七色の虹と同じだから、簡単だよ。
虹は、赤・橙、黄色、緑、青、藍、紫の順で並んでいるでしょ。
陰陽もこれと同じ順番。
赤がいちばん陽性が強くて、極陽。
だんだん陽性が弱くなってきて、紫がいちばん陰性が強いということになります。
ナスは極陰性なの。
わかりやすいから覚えてよ。
色は、太陽の動きにも連動しています。
朝は赤外線の陽性のエネルギーが強く、昼から夕方にかけては紫外線の陰性のエネルギーが強くなる。
要請のエネルギーは体を温めて物を作る。
だから、朝の光を浴びるのはすごくいいことです。
けれど、陰性のエネルギーは体を冷やしてものを破壊する、
散歩をするなら、午後より午前中のほうがいいんです。
ただし、赤が極陽といってもトマトは別。
確かにトマトは赤いけれど、切ってみると中はゆるい。だから、陰性。
ピーマンも緑だけど、中が空洞なので陰性というわけです。
例外も頭に入れておいてください。
その他、茶色や黒は陽性、白は陰性。
キャベツは白で陰性。とはいえ、硬くぎゅージューに締まっているのは陽性。
巻きがゆるく、ふわふわで軽いのが陰性です。
また、米、みそ、しょうゆ、塩は発熱現象を起こし、赤系の色をイメージすることになります。
●人間のからだにも陰陽がある
すべてに陰陽があるのだから、人間の体にも陰陽があります。
やわらかいものが陰で硬いものが陽。体の「前」にはやわらかい内臓があるので陰性、「後」は硬い背骨があるので陽。
からだの右側が陽、からだの左側が陰。
じっと考える頭は陰性、足は移動するから陽性です。
からだを垂直にして横についている目や眉毛、口は陽、縦についている鼻や耳や歯は陰。
肝臓・心臓・肺・脾臓・腎臓は陽、大腸・小腸・丹・胃・膀胱は陰。
こんな風に体の各部分も陰陽に分かれています。
体質そのものも、陰陽にわけて考えます。
よく漢方薬局に、からだの陰陽のことが書いてあるでしょ。
ずんぐり型で筋肉質、固太りでいかり肩なのが陽。
ひょろ長くてやせ型で、水太り、また、やせて体が柔らかくて、なで肩な人が陰性体質。
陽性の人はからだが温かく、体温が高く、血圧が高め。
陰性の人は手足が冷たく、貧血症、低血圧、低体温、低血糖で、からだがだるいでしょう。
童謡で陰陽のおもしろいたとえが2つあります。『むすんで開いて』という歌があるでしょ。
この歌は、結ぶ力(握る・収縮)と広がる力(ひらく・拡散)をくり返す、すなわち陰陽をうたっか歌なのです。
呼吸を吐いたりすったり、肺も膨らんだり縮んだりするし、心臓のポンプも縮む力と広がる力で全身に血を送っている。
腸も縮んだり伸びたりして蠕動運動をしているわけよね。
また。『とうりゃんせ』も、まるで血液の流れを歌っているようなものです。
行きは動脈を通り、帰りは静脈という細道を通る。
血液がきれいであれば行きも帰りもいいけれど、血液が流れにくく高血圧になると、「行きはよいよい帰りは怖い」になってしまう。
陰陽をこう考えると、面白いでしょう。
●陰陽の調和をとって健康に
でも、陰陽を分けることが問題なのではありません。
自分のからだの陰陽を知って、病気の原因を探ったり、治療法を考えたりすることが大切なの。
陰陽の相反する2つの「気」のエネルギーが万物を作り出していると考えてください。
陰陽は対立のようでいて、調和なんです。
陰に体が傾いているのは悪いけれど、極陽のかたまりでも、病気になる。
自分のからだを知って、陰陽のバランスがとれるように自分から仕向けないとね。
この世は陰陽の流れだから、朝がきて昼がきて夜がきてって巡っている。
月曜日から日曜日になってまた月曜日になって巡っている。
月初めがあって月末があって、1月があって12月があって、また一巡する。
一年は春夏秋冬で巡っているわけです。
光と闇を繰り返しながら季節がめぐります。
その循環に、人間は沿っていかなければいけない。
昔、中国には、上医、中医、下医のお医者さんがいました。
下医っていうのは、薬だけ与えて治す医者。
中医は漢方薬と食べ物で治す医者。
そして一番の上医は国が大事にしているお医者さん。
この人たちは、陰陽をもとに、食べ物だけで病気を治したの。
食べ物は薬、薬は食べ物。
医食同源とはまさにこのことで、これらの基礎になっているものも、陰陽の考え方です。
たとえば、目が悪い人は、肝臓を治さないといけない。
それには白い野菜より、青い野菜をなるべく食べる。
かんきつ類や酢の物を食べると肝臓がらくになるから、目がよくなってくる。
腎臓が悪い人は、黒いものを食べなきゃダメ。
昆布とか黒ごまだとか黒豆だとかを食べて塩気をきかすといいのに、今の医療は塩気を取らさないよね。
残念なことです。
そんなふうに、食べ物だけでからだを立て直すことは、できるんです。
私たちも自分のからだにとって、「上医」になりたいですね。
●「身土不二」が食べ物を求める基本
人間のからだは、住む土地の風土や環境と密接なつながりを持ちながら順応していきます。
食べるものも同じで、生まれ育った土地の食べ物は、体に順応してくれる。
「身土不二」という言葉があります。
これは「身体とからだは二つならず」ということで、まさにこの「土地のものを食べなさい」ということを説いています。
食養の大事な教えにのひとつです。
では「土地」とはどれくらいの範囲なのか?
昔は三里四方のものを食べていました。一里は4キロぐらいだから、大体12平方キロぐらいです。
しかし今の食生活ではどうでしょう。
スーパーに行けば、遠い地方から来るものがずらり。
それだけではなく、中国産だのノルウェー産だのアメリカ産だの、外国からくるものもたくさんあります。
フードマイレージといって、食べ物を運ぶために、どれくらいの輸送コストや資源を使っているのか思い知らされます。
無駄なことだし、地球環境も汚れっぱなしですよ。
それだけではなく、バイオテクノロジーで、旬でない時期に、いろんなものが作られている。
真冬にトマト、真夏に大根なんて当たり前。
季節に関係なく、一年中買えてしまう。
これっておかしいと思いませんか。
本当に怖いですね。
家の近くでできたものなら、作り手の顔が見えます。
知っている人が求めるものなら、そうそうひどいものは作らないでしょう。
求める方だって、作り手が育んだ命を、できるだけおいしいうちに食べようとする。
旬の食べ物をおいしく、栄養を食べるコツって、そこじゃない?
●一物全体、皮もすべていただく
陰陽は、ひとつの野菜の中にもあります。
たとえば、大根やニンジンの場合、葉の部分は陰で、根の部分は陽。
その両方を食べて陰陽の調和をとるわけです。
また葉と根、陰陽の合体したところは、エネルギーを持っています。
カットして捨ててしまうことはせず、汚れた黒い部分だけを取り除くこと。
皮もむいちゃダメよ。
野菜の皮には、ビタミン、ミネラル、カルシウムがあり、からだの皮膚をつくったり、保護したり丈夫にしたりしますから、皮はむかずにいただきましょう。
ただし、むかずに食べるわけですから、できるだけ無農薬の安全な野菜を食べてください。
もちろん農薬や化学肥料を使ったものは、皮をむかないとダメですよ。
食養では、一切れの野菜でも陰性や陽性に偏らないような、バランスのいい切り方をします。
たとえば、大根、ニンジン、ゴボウなどの野菜を斜めに切るのは、野菜の下の部分(陽性)と上の部分(陰性)を同時に食べ、一物の調和を図れるから。
また、タマネギやカボチャなど、丸い形のものは放射状に切ります。
このようにすると、野菜が陰性や陽性に偏らないよう、バランスがとれるようになるでしょう。
●陰性の食品をどう食べる?
前にも言ったように、陰性体質の人と陽性体質の人がいる。
だるくて貧血気味、というような陰性体質の人は、できるだけ陽性の食べ物をとって、陰陽のバランスをとらなきゃね。
それを無視して陰性の食べ物を食べ続けると、便秘、低血圧、冷え性になりやすいし、子どもも生まれにくくなりかねません。
一方、陽性体質の人は、陰性の食べ物を上手に取り入れることが大切。
陽性に陽性を重ねれば、高血圧や高脂血症や脳梗塞という病気が心配になる。
健康に暮らすには、陰陽のバランスが何より大事なんです。
特に今の時代は陰性体質の人が多いからね。
陰性の食べ物を食べるときは、注意が必要。
たとえば、春先になると、筍が出てきて、食べたくなるじゃない。
筍は陰性の食べ物なので、海藻を取り合わせて食べてください。
ナスも流産になりやすいので、妊婦さんは注意してね。
食べたいなら、旬の時期だけね。
大量に食べ過ぎないこと。
調理法で言えば、焼きつけるなど、しっかり中まで加熱すると、陽性の調理法で少し陰性が緩和する。
カンカンに熱したフライパンでしっかり炒めてちょうだいね。
それと、陽性の調味料であるみそやしょうゆで調理する。
焼きつけたあとにみそをからめるとかね。
味噌汁にするのもいい。
天然醸造のみそは、血液を浄血・造血し、発熱現象をつくって、基礎体温を上げる。
2年以上のものは薬になる。
いいみそで調理すれば、陰性の食品でも食べられるようになるんです。
また、豆腐や豆は陰性が強いからね。
マクロビの人は、大豆製品や、ナス科のピーマン、ナス、トマトをよく使うけれど、陰性が強いので、要注意です。
こういう陰性の食べ物を食べるときは、しょうゆやみそなど、陽性の調味料で調理する。
酢はそのまま使うと陰性で溶血食品。
だから、病人にはすごくよくない。
酢をとるなら、ちょっと火を入れて、少量使うか、梅酢を水で割って使うといいですよ。
忘れないでよ。
●日本人の腸は穀物菜食に合う。伝統食の見直しを
私は、日本人の食事を一汁一菜の伝統食に戻しなさい、とずっと言い続けてきました。
これは、内臓の陰陽とも関係があります。
腸は陰陽でいうと、陰性の器官であると先にも述べました。
腸とか胃とか血管とか、中が空洞になっている器官はみんな陰性です。
だから、陽性の食品を入れて消化することが大事なわけです。
陽性食品にはいろいろあって、肉も陽性なわけだけれど、日本人は古来から穀物菜食をしてきたから、これに腸も合っていて、腸が長いんです。
9メートルくらいある。
すると、肉が消化しづらい。
これにくらべて、西洋人は6メートルくらいしかないそうです。
この長さが肉の消化に適している。
日本人だと残りかすがなかなか排出できず、ちようの中で腐敗する。
腐敗の「腐」という字を見ると、腑(府)の中に肉が入っているでしょ。
この腐敗したカスが宿便になって、便秘を起こします。
日本人の腸はやはり、穀物菜食が合っているんです。
それも、腸が陰性だから、陽性の野菜や穀物を食べるのが合っているわけです。
要請の野菜、穀物といえば、ゴボウやニンジン、レンコンなどの根菜やカボチャなどのウリ科の植物。
穀物では玄米が陽性です。
玄米が食べにくければ、分つき米でもいいの。
中庸で陽性でも陰性でもないけれど、アワ、キビ、ヒエなどの雑穀も取り入れていい。
また、主食と副食の割合も大事なの。
小笠原流では、穀物を7分食べて、あと3分を副食にしなさいといっている。
これが、本来の日本人の腸にあっている食べ方だと思います。
今の食事はごはんがほんのちょっとで、おかずばかり食べている。
これだと健康を害するばかりです。
もっと米や雑穀をしっかり食べて、陽性な基礎体温をつくって、貧血を改善してください。
●娘・典加からも陰陽ライフのおすすめを
私が、自分の娘とその子ども3人をつれて、この綾部にやってきたのが17年前。
今では、私のやっていることを綾部市や京都府も注目してくれて、料理教室や講演をやらせてもらっている。
ありがたいことです。
時々、興味本位で家まで訪ねてくる人がいて、とても困ります。
近隣の人たちにも迷惑だから、ぜったいにやめてください。
そして娘も、この綾部に腰を据えて、私の手伝いをするほか、独自に活動を始め、「きらり上林」という組織を立ち上げて7年に。
娘はとても積極的なもんだから、この高齢化に悩む里に、若い人たちをたくさん呼んできた。
そして、無農薬の米作りを推進し、しょうゆ作りをし、ゴマを作ってゴマ油を搾ったり。
私が推奨している黒焼き玄米茶や黒焼きの梅干しに販売なんかもしているよ。
料理教室をやったり、ワークショップを開催したり。
この里のよさを発信しているのです。
その娘、斉藤典加も、陰陽ライフの大切さをぜひ伝えたいというので話を聞いてあげてください。
*******
「私が小さい頃の母はまだ、食養を勉強する前だったから、クリームパンやらハンバーグやカレーを手作りして、ふつうに作っていました。
それが、食養を学んでからは、食卓が一変。
兄たちは怒りましたよ、「なんでカレーに肉が入ってないんだ!」って(笑)。
でも、そのうち、私たちも食養がだんだんわかってきました。
何より、菜食で生まれてきた子どもたちは病気になることなくみんな元気で健康です。
短大で栄養学を専攻し、寮に入っていたんだけれど、その頃の食事のほうが乱れていました(笑)。
外食なんかすると気持ち悪くなって、ずいぶん吐いたりしました。
私にとって、短大で学んだことより、母から学んだことのほうがずっと正しく思えるし、わかりやすい。
西洋栄養学は、どうにも頭に入らないことが多かったんです。
だから、母とともに、この綾部に来ることを、自ら選びました。
来てみてからわかったのだけれど、ここは高齢化・少子化問題が深刻な里でした。
でも、だからこそ、若い人たちを呼びたいと思いました。
母が実践していることに賛同する人は、全国にたくさんいます。
その人たちの中で、農業を志す人がやってきて定着し、生産にかかわってくれえる。
それがうれしいですね。
若い子たち、ここに来る前は「体が冷える、生理痛がひどい」なんてよく言っていたのです。
でも食事を素直に正していくと”典加さん、なんかからだがポカポカしてきた!って。
1回目の生理痛はひどかったけれど、2回目はぜんぜん感じなかったって。
それほど、食が健康を左右するということですね。
皆さんも食養を学んで、ここに住み始めた人同様、健康になってほしいと思います。
毎日の食事作りに、母の料理を絶対に役立ててほしいです」
|
||||