■ 野菜・果物と健康 (32)
 
吉田よし子著   PHP研究所発刊
『野菜を食べると病気にならない理由』  より その2
 
3、緑黄色野菜はベータカロチンの宝庫
 
野菜を煮たスープだけ飲む野菜スープや野菜ジュースでは不十分だという理由は、他にもあります。
 
野菜の中には、食物繊維のほかにも油にしか溶けない成分があります。
しかもそれには大切なビタミン類が多く含まれているのです。
アメリカ人がダイエットで完全に油抜きの食事をすると、一番先にビタミンA欠乏になります。これはアメリカ人が、ビタミンAを主としてチーズやバターなどのような乳製品から取っているからです。
しかし野菜、いわゆる緑黄色野菜にも、体内でビタミンAに変わることのできるカロチンがたくさん含まれています。
ところがカロチンは油にしか溶けないので、いくらカロチンをたっぷり含んでいる野菜をダイエットと称して生で食べても、カロチンを吸収することができないわけです。
 
ビタミンAは、最初に発見されたビタミンです。1913年のことでした。
それまでの実験で、ある種の食品、つまり現在ビタミンAが豊富に含まれているとわかっている食品が不足したとき、動物が目の炎症を起こすことがわかったのですが、それらの食品の中に豊富に含まれていた物質が、ビタミンAと命名されたのです。
続いて1932年には、植物に含まれているベーターカロチンと呼ばれている物質が、体内でビタミンAに変わることが発見されました。
 
ところで、日本では野菜の摂取量を、緑黄色野菜と淡色野菜で分けています。
これは世界でも珍しい例です。
たいていの国では、野菜は一まとめで摂取量を決めているからです。
これは、つい先ごろまで日本人の食事には乳製品がほとんど含まれていなかったため、ビタミンAを緑黄色野菜から補わなければならなかったことによっています。
 
ビタミンAグループには、レチノール、レチナールそしてカロチノイドが含まれます。
レチノールやレチナールは動物、特に卵や肝臓にたくさん含まれていて、直ちにビタミンAと作用します。
それに対して、カロチノイドの中でも量的に一番多いベータカロチンは、体内に入ったときしかビタミンAに変わりません。
しかし体内ではビタミンAとまったく同じ生理作用を示すので、普通、食品中のビタミンAという時にはベーターカロチンを含みます。
 
以前、アメリカ人はカロチンには無関心でした。
それが近年、カロチンにいろいろな生理作用、特にガンの予防効果があることがわかってから、たくさんのアメリカ人がベータカロチンを飲むようになりました。
最近の研究では、がん予防に関してはアルファカロチンがベータカロチンよりもいいという結果が、動物実験で証明されました。
日本人がよく食べる海藻に含まれているカロチンであるフコキリサンチンは、さらに効果があるそうです。
カロチンの仲間は、植物の世界には500種類以上あります。
例えばトマト、イチゴ、スイカなどを赤くしている色素のリコピンもカロチンの仲間ですし、海藻のほかに淡水産の藻の仲間や、ヒトデなどの動物に含まれているカロチンの仲間などについても、現在その効果が調べられています。
ただし、ベータカロチンについては、長期間飲んでも安心なことはわかっていますし、どの食品にどのくらい含まれているかもわかっているのに対し、他のカロチンの仲間については、まだ動物実験がすんだだけで詳しいことがわかっていません。
ですからやたらと特定のものを追いかけるより、緑黄色野菜も海藻も淡水産の藻も、というように、いろいろな食品をとるのが賢い食べ方だと思います。
 
ベータカロチンを多く含む野菜は、ニンジン、サツマイモ、ホウレンソウ、フダンソウ、カボチャ、ブロッコリーなどです。
ピーマンも赤くなるとカロチン顔料が10倍以上に増え、緑黄色野菜になります。
トウガラシにいたっては赤くなると緑のときの30倍、野菜の中でカロチンが一番多いニンジンの倍にもなるものさえあります。
 
なお、よく品成分表によってはレチノール(マイクログラム)、ベータカロチン(マイクログラム)、ビタミンA(IU)などと書いてあって単位がばらばらでわかりにくいので、換算値を次に示しました。
基準になっている値は、現在アメリカで1日に摂取することが望ましいとされているベータカロチン6ミリグラムにしてあります(マイクログラムはミリグラムの1000分の1)。
 
ベータカロチン(6ミリグラム)=レチノール(1ミリグラム)
=ビタミンA国際単位(3333IU)=カロチン国際単位(10000IU)
 
ビタミンAは、視力を正常に保つために欠かせません。
欠乏すると、特に夜間の視力が落ちます。
また、ビタミンAは皮膚の表面の組織に、適度の湿気を与えて、健康に保ちます。
それは体の内側の粘膜に対しても同じで、目や鼻は勿論、呼吸器官から消化器官など、すべての組織を正常に働かせるのに欠かせません。
喉や鼻の粘膜が正常なら、風邪ウイルスの侵入を防ぐ働きをしますから、ビタミンAが不足すると風邪を引きやすいということになります。
ビタミンA、感染症の病気に対して、体が本当に持っている免疫機能を強化する力もあるので、風に限らず感染症の病気にたいする体の抵抗力も強くします。
 
血液中のビタミンAおよびベータカロチンが正常もしくはやや高めの人は、乳ガン、胃ガン、子宮ガン、肺ガンなどにかかる比率が低くなることもわかっています。
その作用の具体的なところはわかっていませんが、たぶん表皮組織を健康に保つことでがんの発生を抑え、抗酸化作用で異常な細胞が発生するチャンスを与えないためではないかといわれています。
さらにビタミンAは有害な化学物質、例えば環境汚染物質や食品添加物、残留農薬などにより肝臓が障害を受けるのを防ぐ作用もあるようです。
ただし、そのためには1日6ミリグラムではやりません。
 
ところで、ビタミンAは量を過ごすと危険です。
動物に関してはそれこそ内臓から骨の髄まできれいに食べるイヌイットたちも、白熊の肝臓だけは決して食べません。
ビタミンAの濃度が極端に高いので、食べると命にかかわるからです。
 
一方カロチンは、いくら食べても心配ありません。
カロチンはそのまま身体の各所の細胞に蓄えられて、必要に応じてビタミンAに変えられるからです。
たくさん食べると皮膚が一時的に黄色くなることはあります。
これは余分なカロチンが皮膚にたまったためです。
この皮膚にたまったカロチンは、無害なだけでなく、植物に含まれていたときと同じように有害な紫外線を吸収してくれるので、日焼けを防ぎ、ひいては皮膚ガンを予防する働きもしてきます。
 
 
4、ホウレンソウはビタミンEが豊富
 
ビタミンEも、ビタミンA同様、油に溶けるビタミンで、トコフェロールともいいます。
カロチンと同じようにいろいろなトコフェロールがありますが、普通にあってまたいちばん効果があるのは、アルファトコフェロールです。
ビタミンEは、不足すると妊娠障害が起きることで知られていますが、現在では抗酸化作用があるビタミンとして注目されています。
特に有名なのは、不飽和脂肪酸に対する効果です。
不飽和脂肪酸は酸化すると、過酸化資質となって有害物質になるのですが、ビタミンEはこの不飽和脂肪酸が酸化するのを防いでくれるのです。
従って不飽和脂肪酸を大量にとったときはビタミンEも多めに取るほうが安全です。
ビタミンAやCも酸化すると効力がなくなりますから、ビタミンEが一緒のほうが効果が確実ということになります。
 
ここでビタミンEの効果をよりよく理解していただくために、抗酸化作用のしくみについてもう少し詳しく説明しましょう。
 
いろいろな物質は、常に酸化しますが、このとき私たちにとって迷惑ないたずらをするものができます。それは、フリーラジカル戸呼ばれる非常に活性と高い物質で、活性酸素に代表されます。
酸素は2本の手を持っていて、いつも何かと手をつないでいないと落ち着きません。空気中の酸素は、2個の酸素がお互いに手をつないでいるのでいたずらをしません
また水の場合も、酸素の二つのてにそれぞれ水素がくっついているのでおとなしいのです。
ところが酸素が一つきりのときは、二つの空いた手でいろいろなものにくっついてしまいます。しかもいちどこの酸素のいたずらが始まると、連鎖反応といって、柚木次とフリーラジカルができて酸化作用が激しく進み、組織に大きな害を与えます。
今では、老化や発ガンの原因が、このフリーラジカルであることがわかってきました。
このとき最初の活性酸素を捕まえることができるのがビタミンEで、この活性酸素をすばやく取り除くことが、抗がん作用や老化防止子かにつながるのです。
また水銀、鉛、銀などの金属が体に大量に入ったようなとき、ビタミンEはその害作用を弱める働きもします。
 
ビタミンEは、穀物とくに小麦胚芽、豆などの種子やナッツ類、そしてそれから絞った植物油に含まれています。
ビタミンE含有量が一番多いのは小麦胚芽油です。
その次は紅花油で、しかもそのビタミンEの90%が一番効果のあるアルファトコフェロールです。不飽和脂肪酸の多い紅花油に、その酸化を防ぐアルファトコフェロールが多いのは、やはり自然の配慮でしょうか。
ただしどの油も精製してしまうとビタミンEが失われます。
市販されている油は、透明で無臭に近くなるまで精製してありますから、アルファトコフェロールはほとんど失われているわけです。
油を精製する会社では、こうして油から取れたアルファトコフェロールを回収してビタミンEとして販売しています。
アメリカのデータによると、野菜や果物の中でビタミンEを含んでいるのはホウレンソウ、桃、アスパラガス、アボガド、ブロッコリーなどです。
 
ここでついでにビタミンKの話もしておきましょう。
ビタミンKは合成品を含めて3種類あり、少量の油があれば小腸で吸収されます。
このビタミンは、怪我をしたときなどに血液を凝固させる働きを助けます。
抗がん作用についてはまだ実験中ですが、さまざまなガン細胞の成長を阻害するという結果が出ています。
ビタミンKは緑黄色野菜に含まれていると同時に、必要量の半分は腸内細菌によって合成されます。そこで抗生物質などを長期間使って腸内細菌の成長が阻害されていると、欠乏することがあります。
やはりアメリカのデータですが、ビタミンKが多いのがカブの葉で、ついでブロッコリー、レタス、キャベツ、ホウレンソウなどです。
取りすぎはビタミンA同様有害ですが、それは錠剤などを多く呑んだときで、野菜を食べることでビタミンKのとりすぎになることは絶対にありません。
 
 
5、赤いトウガラシにはビタミンCがいっぱい
 
ビタミンCあるいはアスコルビン酸は、栄養失調症の病気であるスカービイ、つまり壊血病を治す成分として、古くから知られています。
アスコルビックという言葉自体、「ア」(−のない)+「スコルブテック」(スカービイ=壊血病の)という意味のラテン語に由来する言葉なのです。
実際ビタミンCが発見される前は、長期の航海に出ると、船員の半分から多い時には3分の2もの人が、壊血病で命を落としていました。
1497年に喜望峰を回ったバスコ・ダ・ガマは、160人の船員のうち100人を失っています。
 
この悲劇に科学的な終止符が打たれたのは、何とそれから2世紀を経た1753年。
スコットランドの海軍軍医だったジェームス・リントが、オレンジやレモン、ライムなどに、壊血病を治したり防いだりする効果のある物質が含まれていることを、ようやく明らかにしました。
以後イギリス海軍の船はライムを満載して航海に出るようになったため、イギリスの水兵を「ライミイ」、つまりライム野郎と呼ぶようになったのです。
 
ビタミンCは、1928年、ハンガリーのセント・ジョルジ博士が特定のパプリカから分離しました。このことを含めてセント・ショルジ博士は1937年ノーベル賞を受賞しました。
 
パプリカは鮮やかな赤い色をしていますが、辛さのない、香りのよいトウガラシです。
トウガラシはカロチンが大変多い野菜ですが、ビタミンCの含有量も大変多いのです。
アメリカのデータでは、緑色の未熟のときが235ミリ、完全に熟したときが369ミリ、乾燥したものでも254ミリグラムも含んでいます。
ただし乾燥したトウガラシはまるごと乾燥しないとビタミンCが壊れます。
トウガラシは天然のビタミンCのカプセルなのです。
 
ところでトウガラシはアメリカ大陸原産で、1492年にアメリカ大陸に到着した到着したコロンブスは、このときすでにヨーロッパに持ち帰っていました。
この後、何百年もの間、ヨーロッパの船乗りたちはビタミンC不足で苦しんでいたわけですから、トウガラシが生きたビタミンCカプセルであることを知っていたら、世界の歴史は変わっていたかもしれません。
 
ビタミンCは体のいたるところにあるコラーゲンを作り、維持するのに欠かせないビタミンです。
コラーゲンは細胞の成分であり、また細胞を作るセメントのような働きもしているタンパク質です。骨にも含まれています。
血管などの柔軟性を維持するのにも欠かせない物質です。
傷や折れた骨が治る時には、とくに大量に必要です。
また一部の皮膚や組織が細菌などに感染したりすると、その部分と健康な組織の間にできる防壁にもコラーゲンが必要です。
 
ビタミンCのもう一つの大切な働きは、抗酸化剤としての働きです。
ビタミンE同様、抗ガン作用や老化防止の働きをしているのです。
さらにビタミンCは、肉や魚、とくにソーセージやハムに含まれている亜硝酸が、強い発ガン性のあるニトロソミアンに変わるのを防ぐ作用をします。
日本でよく問題になるのは、魚と野菜を一緒に食べると、魚に含まれるアミン類と野菜に含まれる亜硝酸塩が、発ガン性の強いニトロソミアンを含む有害なニトロソ化合物に変わることでした。しかしこれもビタミンCがあれば完全に防げることがわかりました。
統計的にも、魚だけ食べた人より、魚と緑黄色野菜を一緒に食べた人のほうが胃ガンの発生率がはっきりと低くなっています。
キノコ類にもニトロソ化合物の合成を防ぐ作用があるそうですから、肉や魚を食べるときは、いろいろな野菜を食べたほうがいいようです。
それでも心配なら、焼き魚やバーベキューなどには、柚子やレモンをちょっと絞りましょう。魚に大根おろしを添えたときにも、醤油だけでなくレモンや柚子を絞るとよいのです。
 
アメリカでは、ビタミンCは肝臓でのコレステロールの合成をコントロールし、善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす可能性があるともいわれています。
血管壁に付着した余分なコレステロールを取り除く作用や、白内障の進行を遅らせる作用もあるのでは、とまでいわれています。
 
ビタミンCが体の免疫力を高めるというはっきりした証拠は出ていませんし、ビタミンCには病気に感染するのを防ぐ力をありませんが、たとえば風邪を引いたようなとき、適量のビタミンCを取っている人のほうが軽く済むという報告もあります。
 
ストレスが強いときもビタミンCが必要です。
ストレスによりビタミンCが尿に排出されてしまうからです。
ビタミンCは鉄の吸収にも関係しています。
さらにトリプトファンをセロトニンという神経伝達物質に変えるのを促進します。
セロトニンは睡眠や痛み、精神的な抑圧に関係しますし、副腎皮質から出るホルモンであるアドレナリンの合成にも関係している大切な物質です。
 
ビタミンCは水に溶けるため、余分に摂取しても尿に排出されますから、普通は過剰の心配はありません。
大量に摂取していると、やめたときにビタミンC欠乏症が出るとか、妊娠中に大量のビタミンCをとると、生まれた赤ちゃんが欠乏症にかかりやすくなる、腎臓の悪い人の場合、腎臓に結石ができるのを促進するといった情報は、どうやら根拠があやふやだったことがわかっています。
 
実際、壊血病を防ぐには1日10ミリ間に合うのです。
でも人間の体は100ミリちょっとしかビタミンCを蓄積できませんから、毎日食べる必要があります。また抗酸化剤としての機能を期待するなら、1日150ミリ以上摂取しないと効果がありません。
精神的なストレスがあるときや激しい運動をした時には少し多めに取ることがよく、気温の高い季節や熱で汗をかくとき、さらに病気の回復期にも多めに取るとよいのです。
また、ガン患者やお酒やタバコを飲む人も摂取量を増やすとよいようです。
アメリカでは避妊薬を飲んでいる人にも、ビタミンCを多く飲むことを勧めています。
 
私は風邪をひきかけたかなと思うとき、また時差の大きい旅行をしたとき、さらによく眠れなかったときなどには1000ミリ程度飲みます。
普段はなるべく野菜や果物から取るほうがいいのですが、都会で手に入る野菜や果物はどうしても鮮度が落ちていますし、当然ビタミンCも減っています。
野菜なども切って袋につめたものなどは、切ってから洗うのでかなりのビタミンCが失われています。
缶詰、レトルトなどの加熱した食品もビタミンCが少ないので、思い当たられる方は、毎日100から500ミリ程度を栄養補助食品からとる必要があります。
ただし野菜には、ビタミンCの働きを助け、抗酸化剤としては補助食品より何十倍も強い効果を持つフラボノイドなどが含まれているので、補助食品からビタミンCをとっても、必ず野菜は食べてください。
 
ジャガイモやサツマイモなどデンプンの多い食品は、ビタミンCがデンプンに包まれているため加熱しても壊れにくくなっています。
ニュージランドの人は野菜といったらジャガイモ以外あまり食べませんが、ビタミンAを乳製品から取り、ジャガイモからビタミンCを取っているので心配ないのです。
 
野菜は新鮮なものに越したことはありませんが、保存するときはなるべく冷蔵庫に入れたほうがビタミンCが壊れません。
それも育っていたときの姿、アスパラガスもホウレンソウも根を下にして立てる形で保存してください。野菜は冷蔵庫に中でも生きていますから、横にされると起き上がろうとして余分なエネルギーやビタミンを使い、早く弱ってしまうのです。
 
なお葉菜の中でもキャベツは、一週間ぐらい保存しても、あまりビタミンCが減らないことがわかっています。新聞紙で包み、根を下にして冷蔵庫に入れ、外側の葉から順にに食べていくと鮮度が保てます。
縦に切ったり刻んだものは、なるべく早く食べてください。