■ 野菜・果物と健康 (33)
 
吉田よし子著   PHP研究所発刊
野菜を食べると病気にならない理由』  より その3
 
6、ビタミンB群に富んだ野菜たち
 
ビタミンB1(チアミンあるいはサイアミン)が欠乏すると脚気になります。
脚気は江戸時代から都市の商家で働く人たちの病気であり、明治時代には軍隊でもたくさんの人が脚気になりました。
 
田舎で雑穀や、また糠の残った茶色いご飯を食べている間はよかったのですが、完全に糠を除いた白いご飯だけを、ろくなおかずも添えずに食べていると、たちまち脚気になります。
 
ビタミンB1は、動物では豚肉や、肉の中でも内臓に多いビタミンですが、植物では米糠や小麦胚芽、大麦、蕎麦などの穀類やピーナッツに多く、エンドウ、大豆などの豆類にもかなり多く含まれています。
ただしゆで汁を除いた豆の製品、例えばこし餡や豆腐、納豆などには少ないので気をつけてください。
 
野菜としてはグリーンピース、ソラマメ、枝豆、サヤインゲンやエンドウなどに比較的多く含まれています。
 
ビタミンB1は、体の細胞すべて、とくに神経細胞が正常に機能するために欠かせないビタミンです。
糖質やタンパク質、脂質をエネルギーに変えたり、余分な糖質を脂質に変えて貯蔵するなどといった、基本的な代謝に欠かせない大切なビタミンでもあります。
 
ただ水に溶けるため、余分に取っても尿に出てしまいますから、毎日摂取しなければなりません。
 
最近、若い人で脚気にかかる人が増えて、お医者様を慌てさせているといいます。
何を食べようと自分の勝手という言い分はわかりますが、それなら自分の体を健康に保つための最低の栄養学の知識ぐらいは持っていたいものです。
なお日本の学校給食用の小麦粉には、ビタミンB1が強化してあります。
 
ビタミンB2(リポフラビン)の欠乏は、アルコール中毒患者以外に普通は見られません。
このビタミンが欠乏してくると唇、口内、舌などが炎症を起こしたり割れたりします。
典型的なのが口の端が割れて痛む症状です。
ただし同じような症状がビタミンB6やナイアシン、鉄の欠乏でも起こることがあります。
 
リポフラビンは、ミルクやレバーに多いビタミンですが、緑の濃い葉菜、たとえばカラシナ、コマツナ、シュンギク、ツルムラサキ、トウガラシの葉、フダンソウ、ブロッコリー、ホウレンソウ、メキャベツ、ヨウサイあるいはカンコンなどにも比較的多く含まれます。
ビタミンB1と同様、水に溶けるビタミンで、余分に取れば尿を通して排出されます。
 
ビタミンB2はB1やナイアシン、B6などと一緒に、糖質、タンパク質、脂質などを分解してエネルギーに変えるのに欠かせないビタミンです。
なおB2は鉄の吸収を促進するとも言われています。
 
さらにB2が不足すると、体内でトリプトファンをナイアシンへ変換するときにうまくいきません。
ですからビタミンB2欠乏という時には、ナイアシンやトリプトファン、B6なども不足している場合が多いようです。
 
ナイアシン(ニコチンサン)は、前に述べたようにB2やB6があればトリプトファンから体内で作れますから、ナイアシン欠乏は、B2欠乏と深い関係にあります。
ナイアシンが欠乏すると、新陳代謝の盛んな組織である皮膚、消化器にまず症状が現れます。
とくにトリプトファンの少ないコーンを主食にしている地域によく見られます。
 
ところが何千年もの昔からコーンを主食にしているメキシコでは、伝統的にコーンに石灰を加えてゆでてからパンに加工します。
石灰によってうまくトリプトファンの吸収が促進されているのです。
しかもメキシコではコーンを胚芽ごと食べるので、より良質のアミノ酸が取れます。
 
コーンの畑に混ぜて植えたインゲン豆もごく少量ですが食べていますから、質素な食事ですが、必須アミノ酸は完全です。
トリプトファン不足によるナイアシン欠乏症は、近年になってコーンを主食にしたような場所で、しかも貧困のため十分な副食物が取れないようなところで起こっています。
 
トリプトファンおよびナイアシンが多く含まれているのは、肉やミルクのほか、豆類やナッツ類です。
 
ジャガイモにも案外多いことを発見した時には、ハハアと思いました。
これはジャガイモからポテトチップスを連想したからなのですが・・・・・・。
 
トリプトファンは、体内で神経伝達物質であるセロトニン物質に変わります。
つまり脳の中のセロトニンの量は、血液中にどれだけトリプトファンがあるかによって決まるのです。
このセロトニンは、じつは人間の気分や態度、特に睡眠のコントロールに大切な働きをしています。
つまり、これから学校や塾に行って勉強しようというときにポテトチップスなどのスナックを食べたら、眠くなるのは当然だということです。
逆にこれから寝ようというときの夜食には、ジャガイモが最適だということになります。
 
なおヘルペス(帯状ホウシン)に悩まされている方は、体の免疫機能を強化するのがいちばん効果があります。
少なくとも出る頻度が減り、出ても軽くすみます。
 
免疫機能を強化するには、まずベータカロチン、ビタミンE、ビタミンCなどとともにビタミンBグループの欠乏を起こさないように気をつけてください。
とくにビタミンBグループは神経機構を強化することで、ヘルペスの予防に効果があるようです。
 
その他の水溶性のビタミンBでは、ホウレンソウから見つかった葉酸があります。
最初は貧血の薬として発見されました。
葉酸は細胞の成長や修理を助けます。
体の中でいちばん消耗の激しいのは、血液の細胞であり、消化器の内壁です。
葉酸欠乏になると、こういった消耗の激しい部分の細胞が変形して前ガン状態に似た形態になることが認められます。
 
葉酸は異常細胞がガン細胞に変化するのを防ぐ作用があるようです。
名前からわかるように濃い緑色をした葉菜に多いビタミンです。
吸収には、ビタミンB12、ナイアシン、ビタミンCなどが必要です。
 
 
7、ミネラル野菜の代表グループ
人間の体は、大部分が炭素、酸素、窒素そしてカルシウムでできているようなものですが、それ以外にも金属非金属を含めて最低20種類ものミネラルでできています。
それらの中で最近話題になっているものをいくつか取り上げて見ましょう。
 
今いちばん問題になっているのはカルシウムです。
人間の体は、大人の男性で大体1100から1400グラムくらいのカルシウムを含んでいます。
そしてそのカルシウムのうち、たった1%だけが血液や細胞などの中でいろいろな役割を果たし、残りは歯や骨になっています。
 
昔から女性は子供を生むとカルシウムが取られて歯が悪くなるといわれましたが、これは嘘です。歯のカルシウムは動きません。
 
それに対して骨のカルシウムは、骨の中のさらに骨格になる部分を除いて、血液中のカルシウムが不足すると溶け出していきます。
そして食べ物から補給されたカルシウムが吸収されて、血液中のカルシウムが増えると骨に入るという風に、骨のカルシウムは年中出たり入ったりしています。
 
つまり骨はカルシウムの貯蔵庫のような働きをしているのです。
ですから、常に溶け出していくぶんだけ新しく補給してやらないと、骨はどんどん痩せてしまいます。
 
ところが困ったことに、カルシウムはとても吸収されにくい成分です。
体内に入っても、普通そのうちの10%から多くても40%ぐらいしか吸収されません。
とくに閉経後の女性ではたった7%しか吸収されないのです。
骨粗しょう症が圧倒的に女性に多いのはこのためです。
 
いったん減ったカルシウムを増やすことは長いこと難しかったのですが、今では骨のカルシウム沈着に関係しているビタミンDの中で、骨のカルシウムを一年に8%ほど増やす作用のある活性型ビタミンDが開発されています。
そのため、早めに発見された骨粗しょう症は、改善できる希望が出てきました。
 
カルシウムは、魚の骨や貝殻の主成分です。
牛乳は優れたカルシウムの供給源ですが、最近流行の濃厚牛乳など脂肪分の多いものは、一日に飲む量が多いと大量のバターを取ってしまいます。
普通の3.5牛乳でも、6リットル飲めばバターを210グラム食べたことのなります。
なるべく低脂肪牛乳を飲みましょう。
 
なおクリームやクリームチーズ、コッテージチーズなどは、乳製品でもカルシウムがとても少ないのでおすすめできません。
パルメザンやエメンタールはカルシウム含有量の高いチーズですが、同時に脂質も多いことを承知しておいてください。
 
その点、カブの葉、コマツナ、シュンギク、ダイコンの葉、ツルムラサキ、トウガラシの葉などはかなりカルシウムが多く、しかも脂質の心配も要りません。
野菜は漬物にすると水分が減る分、カルシウム含有量は増えますから、青菜の漬物もおすすめです。
 
次に話題になっているミネラルは鉄です。
鉄骨飲料などがはやったのも、現在の私たちが普通の食事では、十分な鉄を取れなくなったせいかもしれません。
人間の体に含まれている鉄のうち、半分くらいは血液の中にあって、赤血球の構成成分になっています。
ですから、鉄の第一機能は、酸素を運ぶ役割といってよいでしょう。
それ以外には酵素などの成分としても働いています。
 
鉄が不足すると、貧血になりますが、食品の中の鉄分は10%ぐらいしか体内に吸収されません。
そこで鉄分がたくさん必要な人、とくに妊娠中や赤ちゃんにお乳を与えているお母さんには、栄養補給食品が必要になります。
 
鉄の多い食品はレバーやカキ貝、赤みの肉などですが、コマツナ、ダイコン葉、カブ葉、タカナ、サラダナ、ツルナ、パセリ、フダンソウ、ブロッコリー、ホウレンソウなどの緑の濃い葉菜、さらに枝豆、グリーンピース、ソラマメなども鉄の多い食品です。
なおナズナ、ヨメナ、ヨモギなどの野草にもとても多いので、春には摘み草に行きたいものです。
分析値はありませんが、一年中新芽の利用できるアカザは、ホウレンソウやフダンソウに近い植物ですから、これもいい鉄の供給源だと思います。
 
最後に取り上げるミネラルは、亜鉛です。
亜鉛などというと「毒ではないのか」と思う人のほうが多いと思います。
確かに体が必要とする亜鉛の量はごく僅かです。
そして取りすぎたら毒になります。自己診断で勝手に亜鉛を飲むのは危険です。
しかし亜鉛が人間の体にとって必要な成分であることには間違いありません。
 
亜鉛が話題になったのは、不足すると味覚がおかしくなるためでしたが、
亜鉛は味覚だけに関係しているのではありません。
人間の体が正常に働くために必要な無数の酵素の構成要素として、絶対必要な成分なのです。
 
これらの酵素は、食べ物を分解してエネルギーを取り出す、傷の治療、肝臓におけるアルコールの解毒作用、骨の強化など、いたるところで働いています。
血液中のビタミンAのレベルを正常に保つ働きもしています。
また、成長盛りの子供が亜鉛欠乏になると、背が低くなり、ひどい場合には精神的な障害さえ現れることがわかっています。
 
亜鉛含有量の多いのは、赤身の肉やカキ貝ですが、雑穀や精製する前の穀物にもかなり含まれています。
オートミールや粟、小麦には2.5ミリグラムもあるのに、精製した小麦粉には0.3ミリグラム前後しかありません。
ただしこういった繊維の多い食品には、ミネラルが多く含まれているのと同時に、ミネラルの吸収を阻害する物質も含まれています。
菜食主義の人は注意してください。
 
そもそも、人間の体にとってほとんどのミネラルは、ごく少量あればいいのです。
ミネラルの欠乏が問題になるのは、やはり私たちが土から遠ざかり、精製度の高い食品や、さまざまに加工した食品に頼るようになったせいなのです。