■ 野菜・果物と健康 (38)
吉田よし子著 PHP研究所発刊
『野菜を食べると病気にならない理由』 より その 8
20、葉も栄養満点のハヤトウリ
夏も盛りを過ぎようかというころ、白っぽい握りこぶしみたいな、あまりみたことのない野菜が現れます。
これがハヤトウウリです。
最初に作った場所が鹿児島だったため、薩摩隼人にちなんでハヤトウリになったようです。
日本で見るものはクリーム色ですが、熱帯では緑色のものが多いようです。
中にはパラパラとヒゲのようなトゲの生えたものもあります。
ところが原産地のメキシコに行ったら、一面にモジャモジャという感じでトゲの生えたハヤトウリがスーパーに並んでいて、びっくりしました。
大きいから重いし、トゲが痛くて直接手ではつかめないほどです。
何でこんなの作るのかと聞いたら、このヒゲモジャのがいちばん美味しいのだそうです。
日本に入ってきていないのは、日本では野菜に関してはどうも見た目優先で、味が二の次になる傾向があるからです。
野菜を栽培する農家は大きさが揃っていて箱に収まりやすいとか、見栄えがいい、扱いやすいなどということにいちばん関心を持ちます。
もっとも農家だけを攻められません。
農家は消費者の好むもの、つまり売れるものをつくりますから、買うほうの責任でもあるわけです。
さて、ハヤトウリ、どうやって召し上がっていますか。
糠付け、味噌漬け、汁の実、薄く切って炒めものといったところでしょうか。
メキシコでは腎臓の薬だといいますが、とくに美味しい野菜ではありません。
栄養価もキュウリと似たりよったりです。
そんなこんなで食べずにおいたハヤトウリが、春になったら下のしわしわのところが開いて瓜のような目が出てきて、あわてて丸ごと植えた、という方も多いようです。
ところでこれが正解。
ハヤトウリはウリよりも新芽や若葉のほうに栄養があっておいしい野菜なのです。
芽が出たら、西日の当るところへ植えてください。
大き目の発泡スチロールの空き箱でけっこうです。
カボチャを小さくしたような艶のある葉をつけ、どんどん大きくなって脇芽を出すのです。
日よけには最高です。
そして夏の盛りに、葉菜が1束数百円などという馬鹿値をつけたら、つる先の柔らかいところを、葉を2〜3枚つけて折り取ってください。
巻きひげは除き、つるを折ってフキのように皮をむいたら、葉といっしょに炒めます。
味噌汁によし、ゆでておひたしにもなるし、マヨネーズを添えても美味しくいただけます。
また、デンプンの多い根は、ゆでて皮をむくとサラダなどにして食べられます。
秋の終わりにはお試しください。
ハヤトウリのつるは、癖がなくてやわらかく、適当な歯ごたえがあるので、熱帯ではアスパラガスにたとえられているほどなのです。
熱帯の市場ではウリより葉のほうが高いのに、日本では誰も食べずに枯らしているのをみると、知らないのは損だなとつくづく思います。
ただし、温かいところでは、一度植えると毎年出てきますが、ちょっと寒いところでは冬に根が駄目になります。
ところでハヤトウリのメキシコ名は「チャヨテ」です。
それがミャンマーでは「グルカウリ」。
グルカといえば、ネパール出身の勇猛で聞こえた兵士です。
きっとグルカ兵がミャンマーに持ち込んだのでしょう。
タイの呼び名は「ミャオウリ」。
たぶんミャンマーからきたの山岳民族を経由してミャオ族経由で入ったのでしょう。
インドネシアやマレーシアでは「シャムウリ」といいますから、タイ経由です。
ハヤトウリは熱帯では涼しい高地によく育つため、山岳民族などを通して広がったためでしょう。
でもハヤトウリにグルカウリ、なんだか強そうな名前です。
21、健康食 モロヘイヤのトロロ
そこら辺りの木の葉のようなモロヘイヤは、まだ日本ではなじみの薄い野菜です。
私はフィリピンで30年近く前に出会いました。
フィリピンでは「サルヨッ」と言います。
市場に行くたびに、わからないものは全部買ってくる私に、うちのメイドはあきれていましたが、サルヨッのときは、「イロコスの野菜を買ってきた」といって笑っていました。
イロコスというのはルソン島の北部の西海岸の人たちで、フィリピンでいちばん多様な食品を食べているため、ゲテモノ食い扱いされている人たちです。
イロコスの人はスープに入れて煮て食べるというので、さっそく豆腐と一緒に味噌汁に入れました。
ジュンサイとまでいきませんが、トロミが出てなかなかの味でした。
次には味をしめてたくさん買ってきました。何しろ安いのです。
後で知ったのですが、その辺にいくらでも生えているのでした。
葉をちぎってゆでて水を切ったら、下にトロトロのゆで汁が落ちます。
おひたしのつもりでゆでたのですが、気が変わってマナイタの上で叩きに叩いてみじん切りにしてみました。
これを鉢に入れてかき回すと、色こそ緑ですが、まさにトロロか納豆です。
これを小鉢に盛り、青ねぎともみ海苔をのせ、しょうゆをかけて出したら大好評。
何しろ子供が何の抵抗もなく食べてくれるのです。
そこでサルヨッにはトロロナという名前を献上しました。
ご飯のおかずによし、うどんに乗せてよし、ぶつ切りのマグロに乗せて緑の山掛けを作ると、お酒のおつまみにも最高です。
たちまちマニラの日本人に広がりました。
私が日本に帰っても、マニラではずっと作り続けられています。
先日マニラに行ったときなど、マニラでしか食べられない栄養たっぷりの野菜をご馳走しますよといって、この緑トロロが出てきたほどです。
出した方は、まさか私がトロロナの命名者で、この料理を発明した本人とは知らなかったのでしょう。
サルヨッは、ベータカロチンをはじめとして、ビタミンが大変多い上、タンパク質も6%近く含んでいるというスグレモノです。
ネバネバの正体は知りませんが、水に溶けるタンパク質か植物繊維でしょう。
どちらにしても体にいいものです。
このサルヨッとモロヘイヤが、実は同じものであることは、案外知られていません。
ある人が、エジプトでこの野菜を食べて気に入って、日本に持ち帰って普及したので、エジプトの呼び名モロヘイヤと、エジプトの食べ方であるモロヘイヤスープが日本で有名になったのです。
でも日本人の食卓にはスープよりもトロロ、あるいは納豆風のほうがピッタリです。
トロロと違って口がかゆくならないし、緑黄色野菜100グラムあっという間に食べられるのですから。
最近モロヘイヤの粉ができて、モロヘイヤ入りのパンやうどんが出回っています。
でも私に言わせれば、ゆでて刻んでとろろ状にしたのを50グラムぐらいずつレトルトパックにするか、パックを冷凍にして売ってくれたら便利だなと思っています。
なお、種は毒なので絶対に食べないでください。
22、ベランダ栽培でズッキーニを
濃い緑、太目のキュウリといった風情のズッキーニは、カボチャの仲間ですといわれても、なかなか信じられません。
アメリカには、色も形もさまざまな野菜カボチャがあり、ズッキーニはその野菜カボチャのひとつなのです。
鮮やかに黄色いゴールデン、淡い緑で空飛ぶ円盤みたいなズッキーニ、スイカみたいな縞模様の入った丸いズッキーニもあり、アメリカでは夏はいちばん安い野菜ですからよく食べます。
考えてみたらカボチャもスイカもメロンも全部キュウリの親戚です。
スイカもごく小さいものは、丸ごと粕漬けや味噌漬けにします。
ですから普通のカボチャだって、ごく若いうちに摘めば、ズッキーニと同じように食べることができるのです。
ズッキーニはつるなしカボチャです。
花が咲いて数日後に収穫するため、普通のカボチャみたいに、あちこちに這いずり回っていたら集めるのは大変です。
その点、つるなしは便利です。
タチアオイみたいに立っていて、根元に次々と花が咲いて実がなるのです。
もちろんカボチャですから、放っておけば、トウガンかカンピョウのような大きさのカボチャになります。
でも大きなズッキーニは美味しくないし、後の実が取れないので不経済です。
つるがないので、小さな庭でも、高層住宅のベランダでも作れます。
大鉢かプランターに植えてください。
ズッキーニの仲間は暑さには強いのですが、雨が嫌いなので、梅雨のころは屋根の下に移動してください。
ズッキーニは、雄花が咲きに咲きます。
これは摘んで味噌汁に入れても、縦二つに切っててんぷらにしてもいいものです。
やがて雌花が咲きます。
花の下に、長いズッキーニなら長いのが、丸いズッキーニなら丸い形の”赤ん坊”の実がついているのですぐにわかります。
朝のうちに雄花を摘んで、雌花に花粉をつけてやりましょう。
暑い季節なら数日で収穫です。
毎日見て、果実や雄花を摘んだり、花粉をつけたりと忙しそうですが、時間としては1分か2分あればいいし、お子さんのいる家では、お子さんに任せてもいいでしょう。
子供は物を育て、観察するのが好きです。
ましてや食べられるものが収穫できるとなると、不思議に早起きします。
夏休みなら絵日記や観察記録も作れます。
食べ方は、普通は生のままスティックに切ったり輪切りにしたりして食卓に出し、マヨネーズやピーナッツバター、さらに凝るならマヨネーズやクリームチーズにタマネギ、ハーブスープの素などを混ぜたディップを作って添えれば、洒落たおつまみになります。
もちろん味噌漬けや糠漬けにもできるし、朝鮮風なら粉をつけ、卵をくぐらせて炒め焼きにします。
塩でも焼肉のタレをつけてもいいものです。
フランス料理では、雌花を花が咲いたら収穫して使います。
さっとゆでて、ベビースッキニーにはコリコリの歯ざわりを、花の部分には詰め物をし、ソースをかけて楽しみます。
カロリーはキュウリと煮たものですが、ビタミン類が多く、キュウリの倍から、物によっては5倍近くもあります。
|
||