■ 野菜・果物と健康 (66)
河名秀郎著 東洋経済新聞社発行
本当に安全でおいしい野菜の選び方
『野菜の裏側』 より抜粋 その6
食とは何か
生命を体に取り入れること
生命を食べることで
自らの命を維持・拡大していくのが
食の本質である。
■ 「頭で考える食べ方」から
「五感で選ぶ食べ方」へ・・・(1)
●食べることは命をいただくこと
食べることは「生命」を体に取り込むことだと私は考えます。
木村さんのリンゴはすごいと思います。
実を切ってビンに入れておいたら、種から芽が生えてきたのです。
すさまじいまでの生命力です。
こうした自然に則した強い生命力、高いエネルギーの食べものを体に取り入れることが、食の本質だと思うのです。
そして自然に反する食べ物は、できるだけ体に取り入れないことです。
それを見分ける方法は、その食べものが「発酵する食べものか、腐る食べ物か」ということです。
本当に力のある食べもの、自分の力で発酵するお米や野菜を食べることこそが、私の基本的な職の理念です。
しかしながら、ここで見逃してはならない大切なことがあります。
それは食べ方です。
自然食といいますが、「食材」だけでなく「食べ方」も自然であって始めて自然食だといえるのです。
逆に食材が自然でも、食べ方が不自然であれば意味がありません。
反対に、食べ方がどんなに自然でも、食材が劣悪ならば意味がないのです。
「自然な食べ方」とは、自然界を模倣した食べ方ということです。
ただし、あらかじめお断りしておきたいのは、ここで書いてあることを「鵜呑み」にはしないでほしいということです。
ここに書いてあることは情報提供であり、私から皆さんへの提案に過ぎません。
後はご自分で考えて答えを出していただきたいと思います。
●栄養分なんて無視していい
34年前、私は自然栽培から「自然と調和する生き方」を学びました。
そのとき決意したことがあります。
それは「今後は栄養分を一切無視する」ということです。
驚かれる方もいるかもしれません。
栄養学の常識からすれば、とんでもないことです。
しかし、私は「頭で考えた食べ方」というのは不自然極まりないことだと思うのです。
「野菜を1日に何グラムとろう」とか「肉や魚のタンパク質は何グラムとろう」といったことは、すべて「頭で考えや食べ方」です。
栄養学では1日に必要なビタミンがこれこれ、ベーターカロテンがこれこれと計算して、1日野菜350gなどと算出するわけです。
しかし、例えば自然栽培のにんじんの場合、普通のにんじんと比べると、ベータカロテンが3倍もあったりします。
ほうれん草だって、ビタミンCの量は全く違います。
それだったら野菜は350gではなく100gで十分ということになり、
話が根本から狂ってきてしまうのです。
そもそも野菜の栄養価もこの何十年かで減少してきているわけです。
ほうれん草のビタミンCは20年前の半分になっているそうです。
だったら昔の倍はとらなければならない、いやそれは無理だからサプリメントで補おうと、そういう流れになってしまうわけです。
これはすべて頭で考えた食べ方です。
食とはそのようなものではない。
人間も自然界に生きる動物なのですから、自ら食べるべきものを自分で選び取る力が備わっているはずです。
では、どうすればいいのかというと、答えは非常にシンプルで、「五感にしたがって食べたいものを食べる」ということです。
「五感」を活用すれば、おのずと自分で食べるべきものは選べるはずなのです。
頭で考えて食べているうちは、自然と順応していないということです。
ただし、ベースが狂ったまま、「五感」が働いていない状態でいきなりはじめても、うまくいきません。
甘いものの食べ過ぎ、加工食品の食べ過ぎ、食品添加物のとりすぎ、そういった食生活では味覚は狂いがちです。
食べ物の味が薄く感じる、何を食べても味がしないという「味覚障害」、なんにでもマヨネーズをかけて食べる「マヨらー」などが問題視されていますが、これもすべて「五感の狂い」から生じているものです。
まずはそこをリセットするところからはじめなければいけません。
●「食べるべきでないものを食べない」
「食べるべきものを食べる」
では、どうしたらリセットできるのかというと、まず「食べるべきでないものを食べない」、次に「食べるべきものを食べる」という2つの面から考えたほうがいいと思います。
まず、なるべく加工食品、食品添加物の多い食品を控えてみることです。
これらは間違いなく味覚を麻痺させます。
例えばコンビニ弁当をしょっちゅう食べている人ならば、まずこれをやめてみる。
加工食品や冷凍食品に頼りがちな主婦は、なるべく手づくりを心がける。
それから白砂糖も味覚を麻痺させるもののひとつなので、なるべく控えてください。
甘いものを食べてはいけないというわけではありません。
ブラウンシュガー、黒砂糖など、精製されていない砂糖を使う分にはかまいません。
もちろん大量に食べていいわけではなく、ほどほどをわきまえましょう。
これを1ヶ月やってみてください。
1ヶ月というと長いと思われるかもしれませんが、だんだん体が慣れてきます。
自分の嗜好がどう変化するのか、自分の体で確認してみてほしいのです。
そうやってしばらく続けてみると、執着が取れてきます。
だんだん「甘いものが食べたい」「肉が食べたい」「カップめんが食べたい」と思わなくなってくるのです。
ただし年齢的なこなとは考慮しなければなりません。
20歳の若者が肉を食べたいと思うのは、それは自然なことですから、食べていいのです。
その場合は、できるだけいい肉を食べてほしいと思います。
それも食べ過ぎないことです。
いい肉を少々いただくというのがいいと思います。
そうやって自分の体をリセットしていくと、今度はだんだんセンサーが働き始めるのがわかるはずです。
作物でいうと「肥毒」が抜けてきた状態です。
すると、だんだん自分の判断に自信がついてきます。
●食材の「幹」となるものは米と味噌
次にすべきは「自然の摂理にかなった食べ物を食べる」ということです。
毎日はできなくとも、少しずつでも生活の中に取り入れてほしいのです。
何から何まですべてこだわるのはたしかに理想的ですが、現実的には難しいことです。
自然の摂理にかなった食べものといっても、いまの日本では限られていますし、経済的な事情があると思います。
私だって地方出張のときなどには、市販の弁当を口にするときはあります。
あまり完全を求めると、その先にあるのはストレスと挫折です。
そこで私が提案しているのは、食生活の「幹」となる部分だけは、しっかりといいものを確保してほしいということです。
それは何かというと「米」と「味噌」です。
まず米は、いうまでもなく日本人の主食。
他の食べものとは食べる量が違います。
米は私たちは活動の源となるものですから、他の何をさておいても質のいいものを食べてください。
米についてだけは投資を惜しまないでほしいと思います。
味噌は味噌汁として毎日のように取るものですから、本物の発酵食品をとってほしいと思います。
この幹の部分さえしっかり押さえれば、後は「枝葉」の部分なので、できるかぎり気をつけるというスタンスからはじめればいいと思います。
たまの外食や嗜好品、お菓子なども適度に楽しんでいいと思います。
●どんな米を選ぶべきか
では、いい米とはどんな米でしょう。
いまいちばん売れているのはコシヒカリです。
コシヒカリは、甘みやモチモチ感といった食味を向上させることを目的に、もち米の要素を取り入れた米です。
お赤飯やおこわなど、日本人はもち米を長年、特別の日、晴れの日のご馳走として食べてきました。
ということはこれを常食するのは私たちの体にとって無理があるということではないでしょうか。
コシヒカリはもち米と交配しているわけですから、非常に糖度が高く、糖尿病の原因になっていると指摘する医者もいます。
お米アレルギーという方で、「コシヒカリは食べられないけれど、もち米系ではないササニシキは食べられる」という人は結構多いのです。
お米アレルギーというのは米そのものよりも、こうしたことに反応している可能性もあるのです。
ササニシキに代表されるうるち米ならば、糖度もさほど高くなく、あっさりしているのでたくさん食べることができます。
たくさん食べても体に負担がかからないから「主食」というのです。
モチモチして甘みがあり、味の濃いものは毎日食べるものには向きません。
「冷めてもモチモチ」というのは、明らかに不自然なことです。
またコシヒカリの遺伝子を操作して作られたお米「ミルキークイーン」を、いくら「無農薬で作りました」「有機栽培だよ」といわれても、片方のタイヤがパンクした車のような気がします。
遺伝子操作したお米が、知らぬ間に私たちの口に入ってしまっている、その可能性を誰もが拭い切れない状況にあるのです。
そもそも日常にはうるち米を常食し、晴の日にはもち米やご馳走を食べるというのが、私たちが祖先から引き継いできた食べ方だったはずです。
それが日本人にとって最も自然な食べ方だったのでしょう。
過度においしさを追求したような品種は、なるべくさけるべきだと思うのです。
このことから、私たちはササニシキに代表されるようなうるち米をおすすめしています。
ただし自然栽培を行うと、コシヒカリであっても、どうもうるち米の性質を現す傾向にあるようで、自然栽培のコシヒカリはモチモチ感が薄れ、適度にあっさりした食味になっていくようです。
●味噌こそ最強のサプリメント
味噌はどんなものを選べばいいのでしょう。
味噌は発酵食品ですから、米味噌の場合、作るのには最低でも10ヶ月という時間(醸造期間)がかかります。
ところがいまスーパーで売られている味噌は、促成でできる菌を使って数週間から1ヶ月ほどで速醸させたインスタント味噌です。
こうした味噌は熟成が足りないため、味噌本来の風味がありません。
だから、化学調味料を添加してごまかしているのです。
使われる大豆も安い輸入品で、大豆の皮だけかもしれません。
当然、微生物の働きは乏しく、「発酵食品」と呼ぶにはあまりにもお粗末なものです。
味が味噌に似ているだけの、「味噌もどき」といっても過言ではありません。
本当の味噌はじっくり時間をかけて醸成させ、この間に素材の中にカビや微生物が入り込み、「生理活性物質」が生み出されます。
生理活性物質とは、私たちが生きるうえで大切な栄養である、酵素、糖分、ホルモン、ビタミン、アミノ酸、さまざまな有機酸などを指します。
今の科学では分析できていない物質もいろいろあることでしょう。
つまり発酵食品とは、これらの生理活性物質の宝庫なのです。
味噌をはじめとした発酵食品は「素材」「微生物」「時間」が育みます。
この3つの要素のつながりとバランスから作られる、すばらしい大地からの恵みなのです。
本当の発酵食品には「活性酸素の除去能力」があります。
活性酸素は、体内に入ってくる異物などを攻撃してくれるありがたい存在ですが、増えすぎてしまうと今度は体内の細胞を破壊してしまいます。
この性質があるために、活性酸素は諸悪の根源、万病の元などといわれます。
そしてこの活性酸素の除去をうたう食品やサプリメントがたくさん発売されています。
しかしそんなものにわざわざ頼らなくても、日本人には古来から受け継がれたほんものの健康食品・味噌汁があるのです。
私が農業修行に行っているとき、生産者の方に「とにかく朝いっぱいの味噌汁を飲め」といわれたものです。
味噌汁は朝の活力を生んでくれます。
最近は味噌離れが進んでいるようですが、ぜひほんものの味噌で作った味噌汁をしっかり飲んでほしいと思います。
そうやって毎日「美味しいね」といって食べていく中で、いつの間にか体ができていくのが本当の「健康」ということではないでしょうか。
●化学物質化敏症の人が教えてくれること
「もうここにしか食べられるものがないから」と、うちにお問い合わせをいただくことがあります。
化学物質過敏症の方々です。
化学物質過敏症とは、非常に微量な薬物や化学物質の摂取によってアレルギーが起こる健康被害のことです。
建物に使われる建材、塗料、接着剤から放出される「ホルムアルデヒド」などに反応して体調不良を起こす「シックハウス症候群」も化学物質過敏症の一種です。
症状はめまい、肩こり、倦怠感、不眠、呼吸困難などで、重症になると仕事や家事さえできない、学校にも会社にも行けないといった深刻な事態となります。
食べるものも食品添加物や残留農薬などに反応してしまう場合があるのです。
しかし、本当はこういう人たちはものすごくピュアで、「異物」が侵入してくることに対しても、ものすごく防御力が高いということだと思うのです。
だから、化学物質過敏症の人たちが食べられるものこそが、人として本来の食べものではないかと思うのです。
以前、化学物質過敏症の人からお手紙をいただきました。
この方(女性)は身のまわりの化学物質に反応してしまい、ほとんど何も食べられなくなり、ついには水も飲めないほどの重い症状に陥ってしまったそうです。
そんなとき、「木村さんのリンゴ」に出会ったそうです。
農薬を多く使うリンゴは、それまで食べることができなかったのですが、木村さんのリンゴと、そのりんごで作ったジュースだけは大丈夫だったというのです。
その人は、リンゴそのものではなく、りんごの農薬や肥毒に反応して食べられなかっただけなのです。
彼女はその後、自然栽培の野菜をいろいろ試し、サツマイモや玉ねぎなど少しずつ食べられるものを増やしていきました。
彼女は自然栽培に出会うまでは、「自分の体が弱いから何も食べられない」と思い込んでいたそうです。
ところが自然栽培に出会ってからは、世の中の食べもののほうにも問題があるのだと気づいたのです。
化学物質過敏症の方々には、本来人間が食べるべきでないものを感知する、非常に高度なセンサーが働いているのだと思います。
それは、もともと私たち人類がもっていたものであるはずです。
何を食べ、何を食べるべきでないか、自分の「五感」を働かせれば、私たちは必ず「本物」を見極めることができるはずなのです。
●「正しい食べ方」なんてない
健康のために、ある特定の食品を食べている人は多いものです。
しかし、しんどさや我慢を覚えるなら、それは「不自然な食べ方」ゆえの自然な反応、欲求です。
こんな食べ方で、果たして健康になれるのでしょうか。
世の中には実にさまざまな食べ方があります。
まず「よくかんで食べよう」「三色しっかり食べよう」は常識化していますが、一方で「朝食は不要」という説もあります。
かむ回数を意識している人もよく見かけますが、かむ行為はものを砕いてのどを通すためのもので、人はなにも考えずにそれを日々やっている、それが自然だと私は思うのです。
食事の方法としては、玄米食に雑穀食、菜食主義、マクロビオティック、生の食材を食べるローフード、薬膳料理に精進料理。
食品では「肉料理や脂肪分を控えよう」に始まって、「牛乳を飲んではいけない」という人もいれば、「卵を食べてはいけない」という人もいます。
米やお菓子などの糖質がいけないからと糖質除去を主張する人もいます。
「野菜や果物ではビタミンが足りないからサプリメントをとろう」という説も根強いし、一方では単品健康法も流行ってはすたれていきます。
ココア健康法、キャベツ健康法、黒まめダイエット、バナナダイエットなどなど・・・。
それから「水をよく飲もう」という人もいれば、「水は体を冷やすからいけない」という人もいます。
数え上げればきりがないほどの「食べ方」があり、何がいいのか悪いのか、調べれば調べるほど迷宮に迷い込んだようなもので、答えが見つかりません
本来、そんな情報に踊らされる必要はないのです。
わたしたちの体は自然そのものです。
何を食べればいいかは、体という「自然」が教えてくれるはずです。
体の声に素直になることこそが、究極の健康法に他ならないと私は思っています。
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