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![]() さて、ワイル博士の「最適な食事という観点からの炭水化物」について学びます。 とうもろこしは人間の発明品ともいえ、何世代も前のとうもろこしとの複雑な人工交配を繰り返して作られた、人工的な産物です。ほかの穀物と同じく、とうもろこしも種子に炭水化物・タンパク質・脂肪を含んでいます。 総カロリーに占める割合が最大の栄養素は澱粉であり、種子は発芽するときに澱粉をグルコースに変えて燃焼させ、若葉ができ、自力で光合成ができるようになるまで、成長の初期段階のエネルギーとしてそれを利用します。 先住アメリカ人がとうもろこしを神格化したのは、いうまでもなく、それが非常に重要な植物だったからです。南北アメリカの全歴史を通じて、とうもろこしの豊作は、健康、幸福、冬の食糧確保を意味し、その凶作は飢えと死を意味しました。 世界の他の地域でも、人々はそれぞれの穀物に特別な敬意を払ってきました。穀物に依存して、健康やいのちを維持してきたからです。日本では、田植えそのものが宗教的な行為でした。田植えをする人たちは「田の神」の加護を祈り、豊作を祈願するのです。チベット人は、夏が短い地域に育つ大麦の耕作に、敬虔な気持ちで取り組んでいます。 ![]() 穀物は普通必需食糧と呼ばれています。それは人間が必要とする栄養の一番基本的な要素であり、大部分のカロリーを澱粉という形で保存している穀物食品は地域の文化的なアイデンティティの形成に一役買っているからです。アジアのにぎりめし、メキシコのトルティーヤ、北ヨーロッパのライ麦パン、それ以外のヨーロッパと北アメリカの小麦パンがそれです。 アメリカでは現在、毎食のように精製した小麦粉から作ったパンを食べるのが普通ですが、初期のアメリカ人は、大型のパンを大胆にちぎっては、ソースや肉汁、ジュースなどに浸して食べたであろうし、食糧不足の時にはソース類もなく、パンと水だけという日が続いたはずです。長く欧米の人たちの命を支えてきたので、パンは「いのちの素」という称号が与えられました。パンさえあれば飢えることはなかったのです。 しかし、人間は太古からパンを食べてきたわけではありません。人類史においてパンは比較的最近の発明品であって、9000年ほど前、中東の肥沃な三日月地帯で小麦が栽培植物化されてからのものだといいます。 ![]() 世界で食されている3大穀物は小麦・米・とうもろこしですが、とうもろこしは、紀元前5000年頃、昔の南米で、米は、紀元前5000〜8000年頃、インドのアッサム地方から中国・湖南省の山あいの地域で、栽培がはじまったと言われています。 そして、小麦は紀元前10000年頃メソポタミアのあたり、チグリス、ユーフラテス川流域で栽培がはじまったと言われています。 最初の頃は、麦をそのまま生で食したり、お粥のようにして食べていたりしたようですが、6000年前頃から古代中央アジア・メソポタミア地方で、小麦を石ですり潰して粉にして水でこね、焼いて食べていたのが、パンの原点ではないかと考えられています。 これらのパンは、現在もインドやパキスタンなどで広まっている“チャパティー”などのようには、薄く平たい無発酵のパンだったと考えられています。 その後、古代エジプトで発酵パンが誕生。 きっと、あまった生地にたまたま空気中の今で言う野生酵母菌がついて、ふっくらとした、それまでにはない口当たりの美味しいパンが焼き上がったのでしょう。このころから、生地を寝かせて、パンを発酵させる製法が次第に定着し、ギリシャなどのヨーロッパに伝わり世界中に広まったとされています。 ![]() では、農業がおこり、穀物が栽培されるようになるまで、人間は何を主要なカロリー源にしていたのでしょうか。 研究者によると、旧石器時代の人たちは、現代人よりもすぐれた食習慣をもっていたことがわかるといいます。文化人類学者は一貫して、狩猟採集社会は現代よりも余暇時間が長く、栄養状態もいいと報告しています。 彼らの栄養源は主に動物、鳥類、魚類であり、たまに野生の果物、木の実、澱粉質の根茎がそれに加わるもので、おそらく、現代の食事といちばん大きく相違する点は、精製や加工を施した食物が一つもないということ。もう一つの相違点は、相対的に炭水化物が少ないということです。 文化人類学者や一部の医学者による旧石器時代食へ似熱狂的な賛辞は、低炭水化物食を唱導する人たちへの頼もしい味方になっています。かれらは農業の出現と穀物食が肥満、糖尿病、心臓疾患など、ありとあらゆる文明病の第一歩だと主張します。 農業が文明病を招いたとする主張は次のようなものです。穀物の栽培、根茎植物や根性植物の栽培は、人間の食事に炭水化物を大量にもたらすことになった。それ以前の時代は、糖分を野生の果物やミツバチの巣から、澱粉を野生の木の実や根茎から時折とるだけだった。農業の出現によって、膵臓は重労働を強いられることになった。高炭水化物をとるたびに血中に氾濫するグルコースに対処すべく、大量のインスリンを必要とするようになったからだ。血中グルコースの上昇(高血糖)は有害であり、速やかに是正されなければならない。その是正作業の過程でグルコースとタンパク質分子との異常な反応(グリケーション)という問題が生じ、酵素や組織が損傷を受ける。そのグリケーションが、たとえば糖尿病に見られるような、血管や網膜に変性をもたらすというストーリーである。 ![]() 澱粉が豊富な植物の栽培化によって文明病がもたらされ、いのちの素ともいわれた炭水化物食が諸悪の根源であるという説は、正しいのだろうか。 各種の澱粉が血中コレステロールに及ぼす影響の度合いを表す道具にグリセミック指数(GI)があります。グリセミック指数(GI)が高ければ、それだけ血中コレステロール値の上昇が早くインスリン反応が高く、高血糖の毒性やインスリンの害作用にさらされる可能性が高いことがわかります。 GI(グリセミック指数)の数値はグルコースを100として決められます。グルコース以外の炭水化物は100以下(二糖類のマルトースは例外)になり、GIが55以下のものは低グリセミック指数食品、70以上のものは高グリセミック指数食品、55から70の間は中間だと考えられています。 【食品のグリミック指数】
![]() 一般的に、グリセミック指数の高い食品は強いインスリン反応を誘発し、体をインスリンホルモンの害作用にさらす頻度を高め、グリセミック指数の低い食品にはその心配がありません。低グリセミック指数の食品はじんわりと着実にエネルギーを供給して空腹感をなだめ、貯蔵カロリーの円滑な利用を促進します。一方、高グリセミック指数の食品は爆発的にエネルギーを供給しますが、すぐに枯渇して空腹になります。 しかし、だからといって、一律に高グリセミック指数食品が悪く、低グリセミック指数食品がいいというわけではありません。ただ、炭水化物を主食とする食生活の健康リスクにおいては、摂取食物における高グリセミック指数食品の比率が重要な鍵になるということです。 質素で、いかにも「ダイエット食」という印象のもの、たとえばクリスプブレッド(全粒紛で作ったカリカリのうすいビスケット)や餅などのGI(グリセミック指数)は非常に高く、甘いものの多くが低い。餅の澱粉はよく搗かれているために表面積が極めて広く、消化酵素が活発になって血糖値を上昇させますが、砂糖の分子の半分が代謝しにくい果糖だから、GIも低くなるのです。 ![]() グリセミック指数に差を生じる因子の一つに、繊維質の有無があります。豆や種子などをおおっている繊維質の外皮や植物の細胞壁のセルロースは、内部の澱粉に消化酵素を接近させにくくする役割を果たしています。豆類やオート麦など一部の穀物の繊維は水溶性で、消化管の内容物に粘着性を与え、澱粉の消化速度にブレーキをかけているのです。 一方全粒小麦の繊維は不溶性で、そのまま調理するか砕いて調理すれば物理的に消化を妨げ、血糖値の上昇時間を遅らせます。しかし、これを細かく挽いて調理すれば、その効果は薄れてしまいます。全粒粉と白パンのグリセミック指数がそれほど変わらないのは、そこに理由があるわけです。ビタミンやミネラルが多く、不溶性の食物繊維が消化管を掃除するなどの点で、全粒粉パンは白パンよりもすぐれていますが、小麦粉の血糖値に与える影響をやわらげる効果についてはほとんど変らないということです。 ![]() 食物中の脂肪は澱粉の消化を遅らせ、同時に胃を空にする時間を遅らせるので、グリセミック指数を低下させる働きをします。したがって、砂糖の作用も手伝って、オートミールクッキーはオートミールよりもグリセミック指数が低くなります。 しかし、これはオートミールクッキーのほうがオートミールよりもいいというわけではありません。むしろこの場合の脂肪は、実は曲者だといってもいいわけで、高血糖やインスリンの過剰分泌という害を避けるために炭水化物の摂取を抑制すべく澱粉に脂肪を加えることは最良の方法とはいえません。 むしろいいのは、脂肪の代わりに酢やレモンジュース、酸っぱい果物の酸を加味することです。胃の中に酸が増えても消化速度をゆるめ、胃を空にする時間を遅らせる効果がありますし、又その方がはるかに体にいいわけです。 ![]() では、グリセミック指数という概念を使って、炭水化物の本質を理解し、最適な食事に必要な炭水化物の種類と量を決める方法についてである。 そもそも人は日常生活で、炭水化物を単体で、軽量された分量だけ食べているわけではありません。タンパク質、脂肪、繊維質などの多量栄養素と一緒に、さまざまな種類の炭水化物を複雑な混合比で食べています。 1回の食事にグリセミック指数の高い1種類の炭水化物食品しかとらなければ、その食事はグリセミック指数は高くなるでしょう。しかし、豆や果実のような低グリセミック指数食品をいっしょに摂ればグリセミック指数は相対的に低くなります。また普通の全粒パンや白パンでは血糖値を急上昇させますが、小麦をすべて挽かず、全粒のまま、あるいは砕いた小麦を混ぜた、歯ごたえのある田舎風パンにするとグリセミック指数はかなり低くなります。 またニンジンにはグリセミック指数が高く(95にもなるという研究がある)、ニンジンを食べるなと主張しますが、ニンジンの炭水化物含有量はわずかに7%であり、50g分の炭水化物をニンジンだけからとろうとすれば、700gも食べなければなりません。1回の食事でそんなに食べるわけがありませんから、ニンジンで血糖値の心配をする必要はなく、むしろニンジンのもつ有効成分を活かすべきでしょう。 ![]() 砂糖の害を説く多くの指導者がいますが、それは砂糖自体の問題ではなく、現代社会に氾濫する悪質な甘味食品やその節度のない消費にこそ問題があるのです。甘味食品以外の加工食品にも、味を良くするために大量の砂糖が添加されています。 それらの食品の多くは健康にはけっして良くない脂肪やグリセミック指数の高い澱粉がたっぷりと使われ、多量栄養素が少なく、とても推奨できるものではありません。しかし、この場合も、砂糖そのものが悪いわけではありません。容易に大量の砂糖をつくりだし、人間の嗜好にあわせて無数の食品に添加することを可能にしたテクノロジーのほうに問題があるのです。 人間の赤ん坊は生まれつき甘みを特に好み、苦味を嫌うものです。甘味と苦味以外の味は、社会的・文化的な条件付けというプロセスを得て学習されていきます。 中国医学では、万物を構成する五行(木、火、土、金、水の五大要素)に配当して、酸、苦、甘、辛、鹹(塩辛い)の五味を規定しています。そして栄養バランスを保つためには、食物の中にこの五味のすべてが入っていなければならないと説いています。 しかし、ほとんどの西洋人と同じく、アメリカ人は苦味を避けます。中国人に言わせると、苦味を避けていると栄養のバランスが失われ、甘みを取り過ぎるようになるといいます。 ![]() ともあれ、人間はなぜかくも甘味を好むだろうか。「スイート」という言葉は事実上、なぜ「グッド」と同義語になったのでしょうか。その答えは糖分が即席のエネルギーになり、脳や筋肉にグルコースを供給し、グリコーゲン貯蔵を維持するのが容易だから、ということになります。 甘味嗜好は自然選択の産物であると考えてもおかしくありません。なぜなら、熟した果物や蜂の巣を求める祖先たちの中で、忍耐力と知性があり、捕食者から逃げる早足を持ち、闘争に勝って目的を遂げるだけの甘味への強い欲求をもっていたものの遺伝子がわれわれに受け継がれているからです。 粗野な食べものではなく宇宙エネルギーを食べて生きるような存在に進化したいと願う人は、おそらく原始にいちばん近い食料である砂糖をもっと多く食べることからはじめるでしょう。 ![]() グリセミック指数で見れば各種の天然の糖分は本質的に同じなのであります。蜂蜜もいいが、白砂糖より良いわけではありません。蜂蜜には白砂糖にはない微量栄養素がありますが、血糖値に与える影響はほとんど変りません。「天然」「未処理」の砂糖も、細かく挽いた全粒粉と白い小麦粉の関係と同じように、白砂糖と変わるものではありません。 率直なところ、砂糖に気づかう人は、それに劣らず小麦粉について気づかう必要があります。微粉状の澱粉は砂糖よりもグリセミック指数が高く、パンや焼き菓子を含む実に多くの小麦粉食品が、現代社会における肥満や心血管疾患の主要原因になっていると、私は考えています。
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