高度成長下にあって、経済効率優先の現代農業がもたらした罪禍は大きい。私たちは化学肥料や農薬を多投する今日の農業が、農産物の質的な劣化のみならず、恐るべき環境破壊をもひき起こしていることを認識して、持続可能な生命産業としての農業を早急に構築していかなければなりません。これは農業者だけの責任でもなければ、生産者のみで実現可能となるものではありません。繰り返し申し上げているように、その農産物や加工品を食べ物として利用する消費者の意識と行動にかかっており、国民一人ひとりの問題なのです。
「地下水が汚染されている。水道水は安全か?」。今回も河野武平著『野菜が糖尿病をひきおこす!?』が指摘する問題を中心に話をすすめます。

まず、河野氏の著書から抜粋要約して記します。
「硝酸塩に汚染されているのは野菜ばかりではない。野菜が吸収しきれない窒素成分は地下水に流れ込み、河川や湖沼にも及び水道水にも移行する。人間は野菜と飲料水から硝酸塩の90%を摂取している。日本の地下水の硝酸塩濃度は高くなっている。その原因の多くは、窒素肥料の過剰使用であり、また家畜の糞尿や生活排水も硝酸濃度を高めている。
水道水の硝酸塩濃度の基準は、硝酸性窒素で水道水1リットル中10mg以下となっています。埼玉県や千葉県で地下水を利用している水道水の計測値の平均が基準の2倍に相当する20mgであった。WHO(国連保険機関)とFOA(国連食糧農業機関)の専門委員会は、「硝酸イオン22mg以上の水道水を乳幼児に飲ませるべきでない」と警告しているが、こうした危険な水は他にもたくさんある。
環境庁は、平成6年度から3年間にわたり、5,548ヶ所の地下水を調査した結果、4.7%に当る259箇所で「硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素」の指針値(1リットル中10mg)を超えていることが判明した。平成9年度には、2,654ヶ所の調査のうち6.5%の173ヶ所で指針値を超えていた。
施設園芸用地の地下水からは77.4mgもの硝酸態窒素が検出されている。
湖沼の水質低下の原因も窒素成分の増加と見られており、河川や海岸も同様に年々汚染が進行し、日本中の水源で窒素成分が急速に増加しています。
最近まで地下水の多くは、土壌に存在するバクテリアが窒素成分を分解し,清浄な水質に保たれていましたが、日本全国、もはや自然の浄化力に期待できない状況にまで来ている現実を直視しなければならない。
このように、水の汚染は着実に進行しており、深刻なのは現在市販されている家庭用の浄水器では硝酸塩の除去は難しいところに問題がある」

私の事務所が在る地域は、「白山」の伏流水が湧き出るところで、子供の頃には街道のあちこちで、コンコンと湧き出て流れる水飲み場があったものです。
道端にあるこれら溢れ流れ出す冷涼な水は、往来を行き来する人々や牛馬の渇きを潤し、豊かな農産物を育み、多くの動植物の生命を育んできたのです。「竹竿などを地中深く差し込むと水が湧き出してきたものだ」などという嘘のような本当の話があったくらい水脈があちこちにあったのです。その証拠に少し下った海岸近くには、この白山の伏流水を使った古くからの有名な醤油メーカーなどが現存しています。この地域ではまだおいしい水が豊富にありまことにありがたいことですが、冬場にはこの豊かな地下水を汲み上げて道路の融雪に流すなどの他、地下水利用の農業や工業なども盛んになり、水位が下っていると聞くから心配です。
世界一安全で美味しいともいわれてきた日本の水。わずか数十年前までは「空気と水はタダ」のよう思われてきました。その水が、いまやスーパーやコンビニ、自動販売機などで、下手な醤油などより高価に販売されており、諸外国から輸入されてまで飲まれるようになったのです。日本の水道水が信用できない、美味しくない、だから買ってきて飲む。当人にとって、当面はそれでよいかもしれない。しかし、命の水がこれ以上汚染されることがあってはなりません。
私の息子は京都に住んでいるのですが、「水が不味くて臭くて飲めない」とこぼしています。琵琶湖の水だと聞きますが。
あの美味しい命の水は、天から落ちてくるものではありません。水道局で作るものでもありません。長い長い時間をかけて山林や農山村、田畑で、土壌や微生物の力で生み出されるものです。
再び美味しい清浄な水をとり戻すには、健全な農林業を復活し、工業のあり方や経済の仕組みも洗い直し、さらに私たち自身の生活スタイルの見直しなども行って、積極的にきれいな自然環境作りを推し進めていかなければならないのです。健康に良い農産物作りときれいな美味しい水を守ることは一体なのです。広い意味でのグリーン・コンシュマーになりましょう。

水の汚染や枯渇は世界的な重要問題でもあります。水の実体を知るために、ワールドウオッチ研究所理事長・レスターブラウン編著による『地球白書2001―2』(家の光協会)の中の「しのびよる地下水汚染を防ぐ」の要点を拾い出してご紹介します。
「ロンドンに住む一人の若者が水道の蛇口をひねる。流れ出る水の一部が数千年も前、マンモスがのし歩いていたころに降った雨かもしれないということを知ったら、彼は驚くに違いない。ロンドンは水需要の大部分を、市の地下数百メートルに横たわる巨大な地下の貯水池ともいえる「チョーク帯水層」からの取水に頼っている。この帯水層に貯えられた水の一部は、はるか昔の最終氷期に地中にしみ込んだものである。
【地下の大貯水池】
ふつう、水は流れたり蒸発するものと考えられている。われわれが目にする水は空から降ってくる雨や河川の流水である。しかし、地球上の淡水の大部分はそう簡単には観察できない。それは深い地下の帯水層――砂や礫(砂利)のような浸透性の物質や、地下の岩の間の空間で構成される地層――の中に存在するからだ。これらの地層は膨大な量の水を保持することができる。帯水層は降雨、河川の流出水、氷河の溶融などによって涵養されるが、ほとんど涵養されない帯水層もある。このように、人間の生存に不可欠な水の大部分は目に見えない地下にある。地球上に液体として存在する淡水の推定97%が帯水層に貯えられているのだ。
過去半世紀の間に、世界人口と食料需要は2倍以上に増え、河川の汚染が急速に進んだため、人間は飲料水と灌漑用水の供給をますます帯水層に依存するようになった。そして、われわれは恐ろしいことに気づきはじめた。地下水は汚染物質から隔離されているようなイメージが一般に存在するが、科学者たちはあらゆる大陸で農場、工場、都市の近くの帯水層が汚染されているのを次々に発見している。地下に貯えられた水が単に汚染されるだけでなく、多くの点で地表水よりも汚染に対して脆弱であることが、今判明し始めている。
【1400年も滞留する地下水】
このことは重大な意味を持つ、帯水層内の水は非常にゆっくりと地下を移動するので、帯水層は数十年の間には汚染物質の貯留場になってしまう。川の水が平均わずか16日で入れ替わるのに対し、地下水の平均的な滞留時間は1400年である。したがって、帯水層内の汚染物質は、海に流れ出されることも、新たな淡水が絶えず補給されて薄められることもなく、着実に蓄積していく。河川と違って、これらの地下水源で起こる汚染は一般に取り返しがつかない。
【急増する水需要】
今日では、あらゆる大陸で主要な帯水層から大量の水が汲み上げられており、世界全体で15億〜20億人が地下水を飲料水の主要供給源にしている。上水道が整備されていない農村部では、地下水が飲料水の唯一の供給源であることが多く、アメリカでは地方在住者のほぼ99%、インドでは地方在住者の80%が飲料水を地下水に依存している。
1950年以来、地下水の使用量が急激に増加したことの主要な理由は、灌漑農業の急激な拡大である。実際、世界全体で河川と井戸から毎年取水される淡水のおよそ3分の2が灌漑用水に使われている。
【農業用水から工業用水への転用】
世界中で工業化が進むにつれ、農場よりも収益性の高い工場へと水供給の急速なシフトが起き、水の総使用量に占める工業の割合は22%に達しており、今後も急速に拡大し続けると予測される。飲料水として利用可能な水の量は、他の水利用の分野との競争によっても制約を受けることになる。
河川と湖沼は限界まで酷使されており、その多くはダムでせき止められ、干上がり、あるいは汚染されている。その結果、人々はあらゆる用途の水供給をますます地下水に依存するようになっている。豊かな国々では、ビン詰の湧水(地下水源の水といっているが)の売上高が急速に伸びていて、アメリカでは78年から98年の間に9倍に増加した。
【減少する使用可能量】
地下水への依存は急増しているが、その使用可能量は減少し始めている。ほぼすべての大陸で、多くの主要な帯水層が自然の涵養率をはるかに上回る速度で取水されている。帯水層から大量の水が取水されると、残された地下水の中の汚染物質が一層濃縮される恐れがある。場合によっては、汚染された地表水や塩分を含む海水が帯水層に流入して、涸れゆく地下水に取って代わることもある。こうした現象も結果的に地下水供給を一層減少させる。
さらに厳しい問題がある。特定の地質条件の下では、地下水の過剰揚水によって帯水層の堆積物が圧縮され、その帯水層の貯水量が永久的に減少してしまうことがある。この損失は膨大な規模にのぼるおそれがあり、しかも二度と修復できない。帯水層の圧縮による地盤沈下が起きている。
雨が降ると一部は土壌に注ぎ、地下の帯水層にしみ込んでいく。数世紀もかけて帯水層は徐々に水を地表に放出し、それがやがて海に流入する。降雨だけでなく湧出する地下水も、河川や湖沼に水を補給する役割を果たす。全米54河川の調査によると、平均して総流量の半分以上が地下水を水源としている。河川のいくつかは、地下水がなければ年間を通じて流れを保つことはできない。鳥類、魚介類、その他の野生生物の重要な生息地である湿地の多くは、地下水が絶えず地表に湧出している場所に形成されて、地下水だけを水源としている。
帯水層は地表水系を安定させるのに充分な水を供給するのみならず、地表の氾濫を防ぐ役目も果たしている。
【不可能に近い帯水層の浄化】
人間のさまざまな活動は知らず知らずのうちに危険な汚染物質を地下水に流し込んでいる。20世紀に入り、科学者は100年前には地球上に存在しなかった数千種類もの化学物質を作り出した。これらは環境中に長く残留し、しかも多くの場合強い毒性をもつ。例えば今日利用可能な農薬は、1975年に売られていた農薬よりも10〜100倍も強力である。
汚染が水供給のどの局面に現れるか、また汚染物質が堆積してからどれだけの時間を経て再び現れるかは、必ずしも予測しえない。化学物質が地表から地下に浸入するまでに数ヶ月ないし数年かかることもあり、帯水層の汚染は何十年も見えてこないかもしれない。世界の多くの場所で、30〜40年も前のさまざまな活動による汚染が最近ようやく発見され始めている。
ひとたび地下水に進入した汚染物質は長く残留する。土壌に比べ帯水層は溶存酵素、鉱物、微生物、有機物をあまり含まず、化学物質が分解されにくい条件にある。帯水層の浄化は事実上不可能と考えられる。
【地表の汚染源の潜在的脅威】
目に見えない危機が次第に姿を現わすにつれ、ようやくその重大性が理解されはじめている。化学物質に依存し、大量の廃棄物を生み出す今日の経済が最終的にどんな結果をもたらすかは、向こう30年ほどの経過ではまだわからないかもしれない。しかし、今日の大量消費と廃棄という行動パターンをこのまま続けた場合にどれほど重大な結果を招くことであろうか。
【しのびよる窒素の脅威】
耕地に使用される化学肥料と農薬が地下水にしみこんでいる。1950年代以来、農業は収穫量を増やすため窒素肥料の使用量を20倍にした。しかし植物はそれを完全には利用できない。中国北部の調査では、作物は投入された窒素の40%しか利用していないことがわかった。またアメリカでは作物栽培に使用された窒素肥料の3分の1ないし2分の1が無駄になっていると推定されている。窒素肥料は、植物が利用しやすい硝酸塩に変換されますが、利用されなかった硝酸塩は雨水や灌漑用水に溶けて土壌にしみ込み、地下の帯水層に浸入するのです。
耕地からの余分な化学肥料に加えて、硝酸塩を大量に含んでいる家畜糞尿と都市下水が、さらに窒素の脅威を大きくしている。家畜糞尿は膨大な量であり、環境に放出される過剰な養分の流れの大きな要因になっている。アメリカでは家畜の排泄物が全国民の排泄物の130倍にのぼり、牛や豚の糞尿の一部が河川に流入したり、硝酸塩として地下水にしみ込んでいる。さらには都市下水からの漏水や流出水、郊外の芝生、ゴルフ場、植物栽培からの肥料の流亡、ゴミ埋立て地からの硝酸塩(および各種汚染物質)の侵出が加わります。
《地下水への主要な脅威》
脅威物質
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汚染源
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高濃度で汚染された場合の人体と生態系への影響
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硝酸塩
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化学肥料の流失;
畜産糞尿;
汚水処理システム
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脳への酸素供給を阻害し、乳幼児を死亡させる恐れがある
消化器系その他の器官のガンに関連する
水域における藻類の異常増殖と富栄養化
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農 薬
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農場、庭、ゴルフ場からの流失;埋立地からの漏出
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有機塩素系化合物は野生生物の生殖機能と内分泌機能の障害に関連する
有機リン酸化合物とカルバミン酸化合物は神経系の障害と各種ガンに関連
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石油化学物質
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地下石油貯蔵タンク
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ベンゼンその他の石油化学物質にさらされると、それが低濃度であってもガンの原因となる
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塩素系溶剤
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金属とプラスチックの脱脂洗浄;
衣料クリーニング;
エレクトロニクス製品と航空機製造
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生殖機能障害と一部のガンに関連する
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ヒ 素
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自然界に存在
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神経系と肝臓障害;皮膚ガン
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その他の重金属
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採鉱滓;埋立地;有害廃棄物処分場
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神経系と腎臓の障害;代謝異常
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放射性物質
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核実験と医療廃棄物
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一部のガンのリスクを高める
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フッ化物
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自然界に存在
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歯への影響
脊髄と骨の損傷
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塩 類
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海水の浸入
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淡水が飲料用や灌漑用に使用できなくなる
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以上、見てきたように世界的規模で「安心な水は瓶詰めを買って飲まなければならない」というように、地下水汚染の進行は深刻であります。しかも、これまで垂れ流してきた化学肥料や農薬、化学物質その他の毒物が複合され、この先10年、20年、30年と強まって現れてくる可能性があるのです。
私たちは遠い先祖以来何千年もの間継承され、守り育ててきた美しい日本の自然と四季折々の豊かな農産物や食文化そして世界一といわれた水を、わずか数十年の間に崩壊しようとしているのです。
食べ物を劣悪化し、水を汚染し、自然生態系を崩壊に導くような危険のある現代農法は、一日も早く転換されなければなりません。
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