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『食は生命なり』 【81】
『究極の食』 より その3
第1章 体の良くできたシステム の2
――本能を呼び覚ませ
● 脂肪の働き
もう一つ、私達の身体にどうしても摂り込まなければならない物質として、脂肪を挙げておきます。
私達の身体には油(脂ではない。室温で液体のものが油、固体のものが脂)が必要なのです。
何のために必要かといいますと、細胞膜を形成するためです。
人間の大人の身体は60兆個もの細胞で成り立っているといわれています。
60兆個の細胞の一つひとつが細胞膜で覆われていて、他の細胞とは一緒にならないようにつくられているわけです。
その細胞膜が、油で作られている。
ここが重要なところです。
どうして細胞が油で作られる必要があったのでしょうか。
それは私達が地球に住んでいるからなのです。
地球というのは水に覆われた星です。
水はある気温以上になると蒸発し、水蒸気として大気中に含まれます。
地球を取り巻く大気圏も水蒸気でいっぱいですから、私達は水の中に生きているといってもいいぐらいのものなのです。
もし、細胞が水に溶けるものだったらその場で消滅していきますので、自己を確立することができない。
地球上では、細胞膜が水に溶ける物質だと生命を維持することが出来ないのです。
だからすべての細胞が水で溶けない物質で囲われる必要がある。
それが油だったのです。
もちろん、油の体内での働きには、免疫力を高めたり、エネルギー源となったり、他にも重要な働きがありますが、ホルモンの材料であることも見逃せません。
私達はさまざまな外界の変化に対応しながら生きているわけで、その変化に対応するために、体内で調整物質を作っています。
調整物質の働きによって恒常性を維持しようとするのです。
調整物質辞退はホルモンと呼ばれたり、エイコサノイドと呼ばれたりします。
エイコノサノイドの中にもロイコトリエンというものや、プロスタグランジンというものなどがありますが、その原材料もまた、代謝の過程で油から作り出される脂肪酸なのです。
どんな理由であれ必要な油を摂らないと、調整作用が行われなくなりますので、ほとんどの場合身体が崩れてしまいます。
ですから、極端なウエイトロスをしようとするときに、脂肪を落としたいから油を摂らないというのは愚の骨頂、絶対やってはいけないことです。
ここまで説明してきましたように、私たちは食べものを体内で消化・分解して違うものに作り変え、それを合成して自分を作り出しているのです。
油を食べたらそれが即皮下脂肪になるというのは単純過ぎる発想で、そんなことは起きません。
皮下脂肪になるのは多くは糖です。
糖が糖としてその場では使えないので、変換して脂肪として蓄えておき、いつでも糖に戻せる状態にしてあるのが皮下脂肪なのです。
油をとったから太るのではありません。
むしろ、必要な量の油は絶対に摂らなければいけない。
細胞膜もホルモンも、主にオメガ3、オメガ6系列の脂肪酸から合成されるリン脂質という物質で作られているのですから。
油は主に脂肪酸という分子で構成されています。
摂った油がそのまま細胞膜やホルモンになるわけではなく、身体は取り込んだ脂肪酸を必要に応じて種類の違う脂肪酸に作り変えながら利用しているのです。
脂肪酸は、大きく不飽和脂肪酸(オメガ3、オメガ6、オメガ9はこれに含まれる)と飽和脂肪酸に分かれます。
飽和脂肪酸で構成される飽和脂肪は動物の肉に含まれている脂肪で、われわれの皮下脂肪も飽和脂肪です。
この飽和・不飽和の区分とは別に、シス型・トランス型という区分もあります。
トランス型脂肪は、後ほど詳しく述べますが、絶対に摂ってはいけない油です。
植物性の脂肪酸は、総称して不飽和脂肪酸としてくくられています。
不飽和とは、目安として室温で液体の志望と考えてください。
飽和脂肪は逆に、室温で固形・はんこ系のものです。
植物油は大半が不飽和脂肪で(一部に植物性の飽和脂肪もある)、その中に、オメガ3、オメガ6、オメガ9という3つの脂肪酸があるのです。
オメガ3脂肪酸は、亜麻仁油、シソ油、エゴマ油、グリーンナッツオイルなどに多く含まれ、アルファリノレン酸とも言います。
アルファリノレン酸が体内でさまざまなものに分解されていく過程で生まれるのがEPAとか、DHAとか呼ばれるものです。
EPAはエイコサぺンタエン酸、DHAはドコサヘキサエンさんの略で、青魚に多く含まれることでよくメディアでも取り上げられる脂肪酸です。
これはアルファリノレン酸が分解して代謝が行われていったときに生まれてくるものですから、アルファリノレン酸を摂り込めば体内で作ることができる。
ただし、EPAとかDHAの形で、つまり魚の油として摂れば、代謝の過程をショートカットできますので、私たちにとっては非常に有効な食材であるといえます。
2つ目のオメガ6脂肪酸は、ごま油とか、なたね油、コーン油、大豆油、ひまわり油、紅花油、こういうものに多く含まれ、リノール酸とも呼ばれます。
3つ目のオメガ9は、オリーブオイル、椿油、それからアボガドオイルなどに多く含まれる脂肪酸で、オレイン酸と呼ばれるものです。
■ 不飽和脂肪酸と油の特徴
● オメガ3があなたを救う
私達の身体には脂肪酸が必要なのだということがわかってきた段階で、植物油が有効な働きをするのでリノール酸をたくさんとりましょうといわれた時期が10年ほど前にありました。
リノール酸たっぷりだと健康によいという言われ方です。
たしかにリノール酸は必要なのですが、リノール酸をたくさんとると、身体の中で血液の粘度をあげてしまったり、アレルギーを激化する方向に作用してしまうなど困ったことも起きます。
ですので、リノール酸ばかりを摂るのはいけないことだと今ではいわれていますが、絶対的に必要なものなので、ある程度は摂らなければならない。
しかし、とりすぎてはいけない。
どこまで摂れば摂り過ぎかというのは、オメガ3との比率の問題で考えなくてはなりません。
オメガ6をたっぷり摂るのだったら、オメガ3もたっぷり摂る。
両方をバランスよく摂ることに意味があります。
では、どういうバランスで摂ればよいのか。
比率でいうと、オメガ6対オメガ3が、2対一から4対一ぐらいまで、といわれています。
以前私が出した本では、10対1以内の比率という書き方をしたのですが、最近の栄養学では、この比率はもっと近くていいのだといわれるようになってきています。
ちなみに、必須脂肪酸といわれるのはオメガ3とオメガ6。
オメガ9は、オメガ3とオメガ6が十分にあれば体内で合成できるので必須脂肪酸ではありませんが、血管系のトラブルを予防する効果もありますので積極的に摂取する価値があります。
細かいレベルで言うと、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6は、全身のさまざまな生理機能を調節する「プロスタグランジン」「ロイコトリエン」「トロンポキサン」などのエイコサノイドと呼ばれる局所ホルモンの原料になります。
通常のホルモンは特定の内分泌腺で作られ、全身に巡りますが、局所ホルモンは個々の細胞で作られ、細胞レベルでの調節に関与しています。
極めて重要な働きをし、身体全体の機能調整に役立っているのです。
知っておいていただきたいのは、「オメガ3系列のエイコサノイド」と「オメガ6系列のエイコサノイド」は、相反する働きをするということです。
現代の食生活では摂取量において圧倒的にオメガ6偏重であるため「オメガ6系列のエイコサノイド」だけが過剰に生成され、細胞機能のバランスを欠く傾向にあるのです。
それはつまり、アレルギー反応を激化させたり、血液の粘度を上げる方向に働きが傾くことになります。
ところで皆さんは、「オメガ3系列のエイコサノイド」源になるようなものを日常的にどのくらい食べているでしょうか。
亜麻仁油、シソ油、えごま油、アルガンオイル、グリーンナッツオイル、アジ、イワシ、サバなどの青魚・・・・・・よく考えてみると、ほとんど食べていないのではないかと思うのです。
ごま油、なたね油、コーン油などとしてリノール酸を摂ることはそれほど難しくはありませんが、アルファリノレン酸は意識しないとなかなか摂れない脂肪酸です。
ですので、オメガ3オイルを日常的にたっぷり摂るよう心掛けてもらいたいのです。
補足しておくと、オメガ3脂肪酸を摂ることによって、心臓のトラブルがかなり防げるというデータが出てきています。
欧米でもさまざまな実験が繰り返し行われていますが、一度不整脈を起こしてしまった人がオメガ3脂肪酸を積極的に摂ると、不整脈が消えていくというデータが出ています。
それから、話題になっているメタボリックシンドロームの要因の一つに中性脂肪というのがありますけれども、オメガ3脂肪酸は血中の中性脂肪酸を確実に下げます。
どんな科学的な薬よりもオメガ3脂肪酸の効果が顕著であるということがわかっています。
また、このごろ増えているハイバーアクティビティへの効果も報告されています。
多動性障害ともいわれ、落ち着きがなく、授業中に先生の話を聞いていられなくなって動き回ってしまったり、奇声を発してしまったりというような、子どもたちに増えている症状ですが、オメガ3を処方することによって正常な状態に戻していくことが出来るそうで、精神面に及ぼす作用も確認されています。
それからもう一つ、オメガ3脂肪酸を摂取することによって関節炎の痛みが緩和されることもわかっています。
ニューヨークにあるアルバニー医科大学のドクター、ジョエル・クレマーという人の研究です。
お年寄りの症状として、関節の痛みというのが結構あって、外科的な処置をされるケースが多いのですけれども、あまり効を奏していない。
それよりはオメガ3をきちんと食事の中に取り入れてみたらどうですかという提案も、もしかしたら医者からされる時代が来るかもしれません。
そのくらい効果的だということです。
ついでみたいになってしまいますけれども、グルコミサンという栄養物質を摂り込むことで関節炎の痛みがかなり和らぐこともわかっています。
オメガ3とグルコミサンの併用によってまったく身体に害がなく痛みから逃れることが出来る。
グルコミサンというのはアミノ酸と糖が結合したもので、サプリメントでもありますが、魚の目玉とかフカのヒレなどにムコ多糖類という形で多く含まれています。
干しエビ、山芋、オクラにも含まれていますし、うなぎや鶏ガラのスープからも摂ることが出来ます。
カニ、エビなどの甲殻類の外皮を形成するキチン質にも含まれているのですが、これはなかなか吸収しにくい形なので、やはり魚を切り身でなく丸ごと食べるか、山芋やオクラなどネバネバしたものを日常的に食べるのが良いでしょう。
オメガ3が良いとなると、亜麻仁油をボドル一本飲んでしまうような人も出てくるかもしれませんが、摂りすぎの害はもちろん考えるべきです。
オメガ3を過剰にとると血液がサラサラになり過ぎて、出血が止まらなくなります。
ただこれは、相当の量を継続的に摂取した場合に起こることで、亜麻仁油はそんなに分解できないですから、先に下痢してしまってとうてい一本は飲めません。
● なぜ脂っこいものを欲するのか
油をとるなら揚げ物がよいと思われる方もあるかもしれませんので付け加えておきますと、揚げ物には問題が多いです。
揚げ物に使われる油は、サラダ油と書いてあるものや、コーン油、大豆油などがポピュラーですが、どれもオメガ6オイルですので、オメガ6ばかりを摂り込んでしまうことになります。
しかも揚げ油は180度ぐらいに加熱しますので、油が熱によって酸化する可能性が高い。
酸化した油は身体にとっては猛烈な負担になります。
もしも揚げ物を作るのでしたら、オリーブオイルとか椿油などのオメガ9オイルを使うとよいと思います。
油が酸化してできるか酸化脂質という意味での揚げ物の害はかなり防げます。
オリーブオイルが熱によって分解し始めるのは、190度以上だからです。
オリーブオイルの中にもオメガ3やオメガ6が若干入っていますので、そこは酸化し始めますが、その程度の過酸化脂質でしたら、分解して無害にする働きは私達に備わっています。
他の栄養素、特に植物栄養素をたっぷり摂っていれば、そこに含まれる抗酸化物質が、過酸化脂質になった油も少量なら無害なものにしてくれます。
ですが、揚げ物はほんの時たま食べるくらいでいいのではないでしょうか。
もし油に対する欲求があるのでしたら、オメガ3が足りていないのではないですか、というのが私の問い掛けです。
日本で揚げ物料理をするようになったのは江戸時代以降です。
しかも、揚げ物がこんなに我々の生活の中に浸透し始めたのはここ数十年のことなのです。
いわゆる現代的な食事をしていますと、揚げ物はものすごくポピュラーなので食べ過ぎるほど食べることになっていますが、揚げ物はもう必要ない、そんなに身体が欲しているはずがないというのが私の基本的な見方です。
必要な油が身体に満ち足りていれば、おそらく揚げ物を食べたいと思わないはずです。
では、どうしてこんなに揚げ物が売れるのか。
たしかに身体は油を欲している、ただ揚げ物に使われているのではない油を欲している、というのが答えなのです。
それが、オメガ3脂肪酸。
私たちの身体はオメガ3が足りないという信号は発しないで、油が足りないという信号しか出さないのです。
脳はオメガ3不足だとは察知できず、油という大括りのものが不足しているという信号を出すので、それが鶏のから揚げ、天ぷら食べたいという欲求につながってしまう。
そういう人は、亜麻仁油を使ってサラダを作ってみたり、豆腐に亜麻仁油をかけてみたり、亜麻仁油と塩とビネガーを少し加えて蒸した野菜に付けてみたり、工夫してオメガ3をたっぷり取ると、揚げ物に対する欲求はほとんどの場合消え去ります。
それでもどうしても食べたいようなら、それは別の要因があって油を欲しているのですから、食べてください。
ちなみにマクロビオティックの料理には、レンコンを揚げたものとか、パン粉を付けて揚げたものなど、揚げ物料理が結構あります。
オメガ3は特に推奨されておりませんので、マクロビオティックを厳密に実践していくと困ったことが起こる可能性があります。
健康によいと信じてやっていることが健康を冒すこともあるというところに注意が必要だと思っています。
マクロビオティックに限らず、料理書の中には栄養学的には間違いを犯しているものが多数あります。
では、どんなものを作ればいいのか、と迷ってしまったり、わからなくなってしまった場合には、シンプルな料理を作ってください。
料理はシンプルなほうがよいのです。
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