|
|
|
||||||||||||||||||
|
『食は生命なり』 【117】
生田 哲 著 PHP新書
『食べ物を変えれば脳が変わる』
その6
第3章 脳に悪い食べ物 の1
脳の働きは、何を食べるかだけでは決まらない。
何を食べないか、何をのまないかないかということも、何を食べるかと同じくらい大切なのである。
脳の神経細胞は主にタンパク質と必須脂肪酸でできているが、どちらも活性酸素という有毒な酸素によってダメージを受ける。
活性酸素はタバコの喫煙によった大量に発生する。
また、タバコの煙に含まれているカドミウムは、亜鉛の働きを妨げる。
さらに喫煙はIQを5ポイントも低下させる。
百薬の長と知られているアルコールだが、飲みすぎると脳を萎縮させる。
これが認知症の原因となると理解されている。
なおショッキングなことに、ヘビードリンキングとヘビースモーキングがアルツハイマー病の発症を早めることも報告されている。
マーガリンやマヨネーズに大量に含まれるトランス脂肪酸は、DHAのはたらきを妨げる。
こうした例をもとに、本章では、どんな食べ物や飲み物が脳に悪いのか、なぜ悪いのかを見ていくことにする。
● DHAのはたらきを妨げるトランス脂肪酸
これまでの多くの研究から、高脂肪食や高コレステロール食が学習障害や記憶障害を引き起こすことが明らかとなっている。
だが、脳にとって最悪なのは、トランス脂肪酸である。
トランス脂肪酸は、リノール酸など常温で液体の不飽和脂肪酸に水素を添加して固形にしたときにできてくる副産物である。
要するに、トランス脂肪酸は「狂った脂肪酸」である。
この狂った脂肪酸がどんな食品に含まれているかというと、マーガリン、ショートニング、マヨネーズ、ケーキ、クラッカー、ポテトチップス、トルティーヤチップス〈メキシコ料理の「タコス」などに用いられる小麦粉の丸い薄焼き)、サラダドレッシング(オリーブ油を除く)、フレンチフライ、チキンナゲッツ、シュークリームなど。
これらの食品の摂取はできるだけ控えるのがよい。
パンに塗るのなら、人口のマーガリンではなく、天然のバター、バターよりもオリーブ油にしたい。
なぜトランス脂肪酸がいけないのだろう。
それは、食事から摂取されたトランス脂肪酸は、脳に運ばれ、しかもDHAのすぐそばに入り込み、脳の思考プロセスを混乱させるからである。
しかもトランス脂肪酸は酵素の働きも邪魔するので、必須脂肪酸のγーリノレン酸、DHA、プロスタグランジンといった脳に欠かせない物質へのモデルチェンジも妨げてしまう。
ちなみにオメガ3が不足した人は、血液中のトランス脂肪酸レベルが2倍になっている。
オメガ3が不足する一方でトランス脂肪酸レベルが増えるのは、ケーキ、ポテトチップス、ピザなどをたくさん食べる現代人の特徴となっている。
脳と心の健康には、好ましくない状況である。
これはネズミを使っての実験であるが、サウスカロライナ医科大学のアン・グランホーム教授は、迷路実験を用い、トランス脂肪酸が脳にダメージを与えるという結果を発表した。
同教授は、人の60歳に相当する年齢の、同体重のネズミを2グループに分け、総摂取カロリーの10%のトランス脂肪酸と2%のコレステロール、もう一方に12%の大豆油を食べさせ、水の上に浮かぶ隠されたプラスチック製の避難場所を発見するのに両グループが要する時間を比べた。
すると、トランス脂肪酸を食べたネズミは、12%大豆油を摂取したネズミの5倍も時間がかかったのである。
他にも、トランス脂肪酸の身体への悪影響を示す研究データは山積している。
そのうち2例だけ紹介しよう。
オランダの研究では、トランス脂肪酸を摂ると悪玉コレステロール(LDL)が飽和脂肪酸を吸収したケースと同じくらい増えるだけでなく、善玉コレステロール(HGL)がかなり減ることが判明した。
また、アメリカのハーバード大学が多くの看護婦を対象に1970年代から行ってきた「ナース健康調査」でも、もっともトランス脂肪酸を摂る(毎日の総摂取エネルギーの3%で6g)女性は、最も摂らない女性(毎日そう摂取エネルギーの1%で2g)に比べて、14年間で50%以上も心臓病になりやすかったことが確認された。
● トランス脂肪酸の表示義務を
トランス脂肪酸はこれほど脳と身体に悪影響を及ぼすのだから、食品中からできるだけ排除すべきである。
デンマークでは、マーガリンなど油脂中のトランス脂肪酸の含有率を2%以下に制限している。
WHO(世界保健機構)とFTO(国際食料農業機構)は、食事からのトランス脂肪酸の摂取量を1日の総摂取エネルギーの1%〈日本人の場合、約2g〉以下に抑えるべきであると勧告している。
アメリカ人は、総摂取エネルギーの2.6%(5.8g)ものトランス脂肪酸を摂っている。
これが、アメリカで心臓病とアルツハイマー病の発生率を押し上げている要因のひとつと指摘されはじめている。
食品業者は消費者の動きに敏感に対応した。
アメリカのマクドナルドは、トランス脂肪酸をまったく含まない揚げ物油に切り替えていくことを発表した。
クラフトフーズも、トランス脂肪酸を含まないオレオビスケット、ペプシコもトランス脂肪酸フリードリド (コーンチップ)の生産を開始している。
日本人のトランス脂肪酸の摂取は、総摂取エネルギーの0.6%(1.6g)と、今のところまだ低い。
だが、これはあくまでも平均値であるから、安心はできない。
たとえば、ファストフード店の魚フライ、フライドポテト、ミルクビスケット、ドーナツには1個当たり約4gものトランス脂肪酸が含まれているというデータもあり、ファストフード好きの人は基準を容易に超え、摂りすぎてしまう。
このことから、ファストフードを食べるのは、できるだけ控えるのがよい。
アメリカ政府は、2006年1月を持って食品会社にトランス脂肪酸の含有量を表示することを義務付けた。
一方、日本政府が「日本人の平均摂取量は比較的少ない」といって、トランス脂肪酸の含有量を示すことを義務づけていないのは、消費者無視もはなはだしい。
日本の食品会社は、自主的に公表すべきである。
そうしないかぎり、隠ぺいととられても仕方ない。
消費者は、自衛のためにトランス脂肪酸を含んだ上記の食品をできるだけ摂取しない心がけが肝心だ。
● タバコはIQを下げる
タバコが、肺がん、心臓病、慢性の肺病などの原因になっていることはよく知られている。
アメリカの毎年の死者300万人のうち10%に相当する30万人は、タバコ喫煙によるものと推定されている。
タバコ喫煙は健康の大敵だ。
タバコを1本吸うと頭が冴えて、よいアイデアが浮かぶと主張する人もいる。
確かに、少量のニコチンの摂取には脳を刺激し、快感、覚醒、疲労回復、集中力や注意力の増大などのよい効果が認められている。
だがこの効果は一時的なもので、長時間には脳に悪影響を及ぼすことが知られている。
すなわち、タバコ喫煙のもう一つの害悪は、頭の働きを悪くすることである。
愛知県の国立長寿医療センター研究所の疫学研究部は、40歳から79歳の愛知県に住む1824人(男性901人、女性929人)を対象に、喫煙とIQとの関係を調べた。
それによると、IQの平均値は、現在タバコを喫煙している人の102.5、以前から喫煙していない人の106.8、喫煙をやめた人の107.9であった。
すなわち、喫煙者は非喫煙者に比べてIQが5ポイント低下していること、低下したIQは喫煙をやめることで回復することが明らかとなった。
女性のケースは、調査対象となった喫煙者数が67人と小人数であったため、明確な比較はできないという。
男性を対象に喫煙者と非喫煙者で知能を構成する能力を比べたところ、注意力には差がなかったが、知識量、洞察力、瞬時の判断力において、喫煙者は非喫煙者よりも明らかに劣っていた。
喫煙者のIQが低下する原因は2つ考えられる。
一つめは、喫煙で発生した一酸化炭素が血液中のヘモグロビンにくっつくことによって、脳が酸欠状態に陥り、脳に一過性の障害が起こるためである。
2つめは、喫煙によって発生するアセトアルデヒドが脳内の伝道物質と化学反応を起こしてできる毒物が、神経細胞にダメージを与えるためである。
● タバコに含まれる活性酸素やカドミウム
1本のタバコに火をつけてすうと、3000以上の化学物質と大量の活性酸素が発生する、
したがって、タバコを一服して数秒後には、活性酸素が脳に侵入し、神経細胞の膜の成分であるDHAが少しずつ酸化していくことになる。
これは、古い輪ゴムを引っ張ると千切れてしまうのに似ている。
神経細胞もゴムも酸化されると、劣化するのである。
DHAが酸化されれば、神経細胞の膜は柔軟性を失い、伝達物質の受け渡しが円滑にいかなくなる。
こうして頭の回転が鈍くなる。
また、活性酸素はコレステロールを酸化し、破裂しやすい不安定な酸化コレステロールに変えてしまう。
もしこの不安定な酸化コレステロールが心臓で破裂すれば、酸素がその先の組織に届かなくなる。
こうして心筋梗塞が起こる。
活性酸素の発生を抑えるには、タバコを吸わなければいい。
だが、個人の努力でなかなか解決しにくいのが、排気ガス、とりわけ、ディーゼルから発生する活性酸素である。
排気ガスは脳と身体にじわじわと悪影響を及ぼす。
アメリカやイギリスでは、アルツハイマー病が喫煙者とフレンチフライやポテトチップスなどの揚げ物を多く食べる人に多いことも判明している。
このことから、活性酸素とトランス脂肪酸のコンビがアルツハイマー病の危険因子になっていることがわかる。
さて、タバコの害悪はこれで終わらない。
WHOが1992年に発行した「環境保護クライテリアー134」によると、1本のタバコには約1〜2マイクログラムのカドミウムが身体に蓄積することになる。
カドミウムは亜鉛と似て非ミネラルであり、互いにライバル関係にある。
だから、カドミウムが体内に蓄積すると、亜鉛が排泄されてしまう。
これが大変な悪影響を及ぼす。
亜鉛はすべての細胞に存在し、全酵素2200のうち100種類以上の酵素を助けている。
亜鉛は活性酸素を除去する酵素を助けるばかりか、神経細胞の増殖や成長、それから、セロトニンやメラトニンの合成にも欠かせない。
その大切な亜鉛を、タバコは不足させてしまうのだ。
統合失調症患者は亜鉛レベルが低いこと、健常者に比べ喫煙率が非常に高いことも知られている。
アイルランドのコービン博士は、喫煙によって躁うつ病患者のうつの発生頻度が2倍に増えることを報告した。
タバコは脳に悪影響を及ぼすだけでなく、ガンや心臓麻痺を引き起こす要因にもなっている。
タバコの煙に含まれるベンツピレンという物質は、生体に入りDNA(デオキシリボ核酸)にダメージを与え、がんの引き金になることはよく知られている。
心臓麻痺は日本でガンについで2番目に多い死因である。
● 抗酸化物質が脳を守る
活性酸素が脳と身体によくないことは確かだが、その発生を完全に防ぐ手立てがあるかというと、「ない」。
なぜかというと、食物を酸化するのに酸素が利用されされるが、その2%が活性酸素に変換されるからである。
要するに、人が生きているかぎり、活性酸素が発生することになる。
脳は人体の20%もの酸素を消費するので、年間400gもの活性酸素を発生させている。
それでもあなたの脳を活性酸素から守ることはできる。
抗酸化物質が活性酸素の解毒剤となるのだ。
活性酸素を食物、タバコ、排気ガスなどの燃える炎から飛び出す火の粉にたとえるなら、抗酸化物質は脳を降りかかる火の粉から守る不燃性のカバーのようなものだ。
その一つが脂溶性のビタミンE。
本書はビタミンEを「脳の守護神」と呼ぶことにする。
脳の神経細胞の膜の主成分であるリン脂質やDHAは、とても酸化されやすい。
このリン脂質が活性酸素によって酸化されると、膜が硬くなり、流動性が低下する。
そうなると、シナプスを介した伝達物質の受け渡しが困難になる。
そして、伝達物質を受け取ることができなくなったシナプスは、消滅する。
こうして記憶が消える。
さらに困ったことに、細胞膜の1箇所が活性酸素によって酸化されて、「過酸化脂質」ができると、これが引き金になって酸化の連鎖が起こる。
この酸化の連鎖反応に終止符を打つエースが、ビタミンEなのである。
脂溶性の抗酸化物質ビタミンEは、細胞膜の脂肪と並んで存在し、活性酸素がやってくるのを待っている。
そして、やってきた活性酸素に電子を与えて無毒化するのだ。
アメリカで4809人の高齢者の血液を調べたところ、ビタミンEレベルが低いほど、記憶力が低下する傾向にあることが報告されている。
もう一つ、とても重要な抗酸化物質が、ビタミンCである。
22年間にわたって65歳以上を対象にしたスイスでの研究では、ビタミンCレベルが高いほど、記憶力が高いことが確認された。
また、ハーバード大学のラッセル・マシュー教授は、コエンザイムQ12をサプリメントで摂取することで、脳におけるエネルギー生産がすすむだけでなく、脳をニューロトキシンという毒物から守れることを報告している。
それから、統合失調症患者の脳内のコエンザイムQ12レベルは、健常者にくらべ、35%ほど低いことも明らかになっている。
● チームを組んで活性酸素を破壊する
抗酸化物質についての新しい発見を紹介しよう。
それは、抗酸化物質がチームを組んで活性酸素と戦うということである。
かつて抗酸化物質は、それぞれが独立して活性酸素と一騎打ちするものとばかり思われていたが、今では、チームを組んで活性酸素と戦っていることがわかっている。
これを「抗酸化ネットワーク」と呼んでいる。
そもそも活性酸素とは、フリーラジカルという化学反応を引き起こしやすい過激な物質である。
2個の原子は、電子が2個あると安定した結合をつくる。
だが、フリーラジカルは、電子を1個しか持たないため、とても不安定なのである。
だから、フリーラジカルは、もう1個の電子を手に入れるために化学反応を起こす。
こうして活性酸素は、神経細胞、タンパク質、DNAと手当たり次第に化学反応を起こす。
この結果、脳と身体の悪影響が生じるのだ。
抗酸化物質の役割は、活性酸素が生体物質に悪さをする前に1個の電子を活性酸素に与え、フリーラジカル状態を解消してしまうことに尽きる。
つまり、抗酸化物質は活性酸素に1個の電子を与え、刺し違えるのである。
ここからが抗酸化物質についての新しい知見のはじまりである。
活性酸素と刺し違えた抗酸化物質は、フリーラジカルになるが、活性酸素のフリーラジカルに比べ温厚なのが特徴である。
神経細胞、タンパク質、DNAなどから電子を奪うほどの狂暴性はない。
しかも、一仕事終えた抗酸化物質は、近くにいる他の抗酸化物質から電子を1個わけてもらう。
こうしてフリーラジカル状態を解消して復活した抗酸化物質は、活性酸素を分解する戦線に復帰するのである。
では、「抗酸化ネットワーク」が活性酸素と戦う様子を見ていこう。
ビタミンEは活性酸素に電子を与えて無毒化するが、同時にビタミンEはフリーラジカルになる。
だが、ビタミンEのフリーラジカルは、ビタミンCやコエンザムQ10から電子をもらって再び抗酸化物質としてよみがえる。
要するに、ビタミンEはビタミンCとコエンザムQ10によってリサイクルされるのである。
同じように、ビタミンCのフリーラジカルはグルタチオンやα‐リポ酸などにとってリサイクルされる。
そしてα‐リポ酸のフリーラジカルはアントシアニジンによってリサイクルされる。
抗酸化ネットワークの目的は、貴重な抗酸化物質が損失するのを最小限に抑えること。
そのために、できるだけリサイクルしながら活性酸素と戦うのである。
これまでに数百種類もの抗酸化物質が知られているが、こうしたリサイクル能力に優れた抗酸化物質はごく少数しかない。
その代表が、ビタミンE、ビタミンC、コエンザムQ10、α‐リポ酸、アントシアニジン、β‐カロチン、セレン、グルタチオンである。
以下に代表的な抗酸化物質とそれを含む食品をあげておく。
● ビタミンE
ビタミンEの摂取がアルツハイマー病を防ぐだけでなく、進行も遅れさせることが確認されている。
アーモンド、ピーナツ、納豆などの豆類、種子類、ホーレンソウなどの緑色野菜などに豊富だ。
● ビタミンC
ミカン、イチゴ、キウイ、グアバ、ニガウリ、ウリ、パセリ、コマツナなどに多く含まれている。
● コエンザムQ12
サケ、レバー、酵母、それから動物の内臓に多く含まれる。
塩辛やモツの煮込みなどを食べるとよい。
● α‐リポ酸
ホウレンソウ、ウシの腎臓・心臓・肝臓、ブロッコリー、トマト、グリーンピース、芽キャベツ、米ヌカに多く含まれる。
● アントシアニン
ブルーベリー、イチゴ、チェリー、赤ブドウ、プルーンなどに多く含まれる。
● β‐カロチン
ニンジン、サツマイモ、アプリコット、スクワッシュ(洋種の小さなカボチャ)などに多く含まれる。
● セレン
カキ、イワシ、サクラエビ、ウニ、牛ヒレ肉、タラコなどに豊富。
● グルタチオン
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンという3つのアミノ酸がつながったトリペプチド。
グルタチオンは胃腸の酵素によって分解されてしまうので、食べ物から摂っても効果がない。
脳内では、構成成分である3つのアミノ酸からS−アデノシルメチオニンの力を借りて作られる。
実際に、S−アデノシルメチオニンを摂取すると、グルタチオンレベルも上がることが確認されている。
S−アデノシルメチオニンレベルをあげるには、ダイズ、ゴマ、ヒマワリの種、カシューナッツ、シラス干し、カツオ節、マグロ、ヒラメ、キンメダイ、スジコなど、メチオニンを多く含む食物を摂取するとよい。
抗酸化物質を多く含む食物を積極的に摂取するように心がけよう。
それと同時に、降酸化物質のサプリメントを摂ることも忘れずに。
抗酸化物質は、アルツハイマー病や記憶力の減退からあなたの脳を守る救世主であるからだ。
|
|
||||||||||||||||||
|
|
|