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『食は生命なり』 【122】
生田 哲 著 PHP新書
『食べ物を変えれば脳が変わる』
その11
第6章 脳をダメにする物質と、その解毒法 の2
● 過剰摂取すると有毒になる銅
銅はわたしたちが生きていくのに欠かせないミネラルだが、過剰に摂取すると有毒となる。
体重60kgの人なら約70rの銅が身体に保たれている。
動が必要なわけは、アスコルビン酸酸化酵素、チトクロムc酸化酵素、SOD(ス-パーオキシド・ディスミューターゼ)などの補因子になるからだ。
銅は、水道管、宝石、台所用品、プールの抗菌剤にも使われている。
1日に必要な銅の摂取量は約2mgであるが、今日では不足する心配より、過剰な摂取が隠れた問題となっている。
2mgの銅というのは、たとえ食べ物を摂取しなくとも、銅管を通った水道水を飲むだけで体内に取り込まれるからだ。
銅は亜鉛とライバル関係にあるから、銅の摂取が増えるほど、亜鉛の吸収が低下することになる。
アメリカでの調査によると、ティーンエイジャーの3人に2人は亜鉛が不足しているという。
日本でも、1人暮らしの学生や独身女性に亜鉛不足が増えてきている、と報告されている。
亜鉛が不足しやすい理由は2つ考えられる。
一つめは、現代の食事では精製された原料を利用した食物を摂取することが多いため、原料に亜鉛があまり含まれていないことである。
2つめは、先に述べたように、フィチンが亜鉛の身体への吸収を妨げることだ。
銅が過剰になると、恐怖、パラノイア、幻覚を引き起こすことが知られているが、精神科医療で銅の濃度を調べることは皆無といってよい。
● ストレスで血液中の亜鉛が減り、銅が増える
人体には、過剰に摂取された重金属やストレスから私たちを守る仕組みが備わっている。
重金属を捉え無毒化してくれるのが、メタロチオネインという61個のアミノ酸からできた、かなり小型の亜鉛を含んだタンパク質だ。
61個のアミノ酸のう約3分の1に当たる21個がシステインという硫黄を含んだアミノ酸である。
このシステインが4個集まり、その4個のチオール基をカニのハサミのように使い、銅、カドミウム、鉛、水銀などの重金属を捕まえる。これを基レーションと呼んでいる。
これで重金属は酵素にくっつくことができないので、悪さはできない。
重金属を捕まえたメタロチオネインは、やがて体外に排出される。
こうしてメタロチオネインは、私たちの身体を重金属の被害から守っている。
メタロチオネインは体内の重金属が蓄積したり、ストレスに襲われたりしたときに、主に肝臓で、少しだが脳でも作られる。
このとき亜鉛がメタロチオネインに取れ込まれる必要があるため、血液中の亜鉛が肝臓や脳に移動する。
この結果、血液中の亜鉛レベルは低下する。
わたしたちがストレスに襲われるとき肝臓で作られるのが、セルロプラスミンというアミノ酸を1400個も含んだ巨大なタンパク質である。
セルロプラスミンの役割は、ストレスによって発生した活性酸素を分解することである。
ただし、セルロプラスミンは銅を抱え込んでいるから、ストレスがかかると血液中の銅レベルが高くなる。
以上のことから、私たちが重金属を摂取したり、ストレスの襲われると、血液中の亜鉛が不足し、銅が増えることがわかる。
● 亜鉛と銅と暴力の関係
血液中の亜鉛が不足し、銅が増えることで困るのは、イライラが募り、暴力が発生しやすくなることである。
イリノイ州にある健康研究所のウィリアム・ワルシュ博士の報告を紹介しよう。
同博士が、暴力行為で刑務所に収容されている135人の男性囚人と、暴力経験のない一般男性18人の血液に含まれる亜鉛と銅を測定した。
こんな結果が得られた。
暴力的な男性における「銅/亜鉛」日は1・40、一般の男性では1・02であった。
要するに、暴力的な男性は一般の男性に比べて亜鉛の濃度が低く、銅の濃度が高かったのである。
そこで亜鉛の不足と銅の過剰を解消したところ、彼らの暴力はかなりおさまった。
もちろん、食事からとる量の亜鉛では間には合わないから、サプリメントから亜鉛を取ったのである。
また、銅の過剰は、銅をほとんど含まない食事を取ることで解消できた。
ワルシュ博士の報告は健常人を対象にした暴力とミネラルの調査だが、統合失調症患者を対象にした同様の調査については、トルコにあるフィラット大学のトクダミア教授が報告している。
対象となったのは88人の統合失調症患者で、44人は暴力犯罪歴あり、44人は暴力犯罪歴なし、である。
血液100m中の亜鉛は、暴力犯罪歴ありが68マイクログラム。暴力犯罪歴なしが81マイクログラムであった。
一方、銅は、暴力犯罪歴ありが104マイクログラム、暴力犯罪歴なしが93マイクログラムであった。
「銅/亜鉛」比を見ていくと、暴力犯罪歴ありが1・53、暴力犯罪歴なしが1・15となる。
ワルシュ博士とトクデミア教授の報告は大筋において一致している。
もちろん、暴力などの攻撃的な行動は、血液中の亜鉛や銅の濃度だけによるものではなく、これら以外の多くの物質のアンバランスに由来するはずである。
しかし、亜鉛と銅が、暴力という極めて攻撃的な行動に大きな影響を持っていることは確認できたといえる。
● 重金属による汚染から脳を守る
では、どうすれば重金属による汚染からあなたの脳を守ることができるのだろう。
そもそも、あなたの体内にはどれくらいの重金属が蓄積しているのだろうか。
これを容易に判定する方法が毛髪検査である。
ほんのわずかな毛髪さえあれば、鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、銅といった悪玉ばかりでなく、マグネシウム、亜鉛、クロム、マンガンなどの善玉の濃度も測定できる。
約1万円ほどで検査ができるので、気になるなら一度、測定してみる価値はある。
もともと人体には、有毒な物質を体外に排泄する解毒という仕組みが備わっている。
だから、有毒物質を少しくらい摂取しても、脳や身体に悪影響はあわ割れない。
だが、加齢に伴い、これらの有毒ミネラルは人体に蓄積していく。
その一方で、人体に必要なミネラルは減少していく傾向がある。
また、摂取する有毒金属が大量だったり、あるいは、貧弱な食事のせいで必須ミネラルや必須栄養素が不足するなら、人体による解毒はその能力を超えてしまう。
要するに、有毒金属を解毒しきれなくなる。
必須ミネラルの摂取が不十分なら、鉛、カドミウム、水銀、アルミニウムの毒性がさらに強く現れる。
そうなれば、私たちの知的能力は低下するし、感情面でもマイナスの影響が出るのは疑う余地がない。
次に、栄養素を用いた解毒を見ていこう。
■ ビタミンCが鉛を解毒する
鉛の毒性がもっともあらわれやすいのは、脳である。
だが厄介なことに、一度脳に入ってしまった鉛は除くのが難しい。
ペニシラアミンやEDTA(エチレンジアミン4酢酸)といったキレート剤は血液中の鉛を除去できるが、脳内の鉛の除去には適していない。
それは、どちらのキレート剤も血液‐脳関門を通過しにくいからである。
それができるのは、ビタミンCである。
これは動物実験の結果だが、脳内に高濃度の鉛の蓄積したネズミにEDTAを注射すると鉛濃度が8%減少し、ビタミンCを経口で投与すると、22%減少したとの報告がある。
ビタミンCによって血液中に含まれる多くの重金属が捉えられ、いっしょに体外に排泄される。
この解毒のたびにビタミンCが失われる。
重金属による汚染が大きいほど、必要とされるビタミンCが増えることになる。
さらにビタミンCは、鉛だけでなく、砒素やカドミウムの除去にも有効とされている。
■ 亜鉛が鉛やカドミウムを解毒する
鉛を解毒することがわかっているもう一つの栄養素が、亜鉛である。
亜鉛の化学的性質は鉛によく似ていることは先に述べた。
鉛は腸で吸収されて血液に入るなだが、このとき、亜鉛は、鉛と競合することで鉛の吸収を妨げる。
それと、亜鉛がメタロチオネインの生産を促進するのも、鉛やカドミウムの解毒の要因になっている。
ニュージャージー精神研究所のカール・ファイファー博士は、鉛の解毒にビタミンCと亜鉛の併用が効果的であることを報告した。
被験者となったのは、血液中の鉛濃度の高い、鉛電池工場の作業員である。
同博士は、被験者22人に毎日、2gのビタミンC、亜鉛60rを摂取してもらった。
そして研究のスタート時、6、12、24週後に、被験者の血中の鉛濃度を測定した。
研究のスタート時における鉛濃度は、血液100ml中、平均62マイクログラムであった。
しかし、職場で鉛に晒されていたにもかかわらず、24週後における、22人のうち19人の鉛値は平均25%も減少していた。
また、亜鉛は鉛だけでなく、カドミウムとも競合するので、カドミウムの解毒剤にもなりうる。
■ カルシウムが鉛に蓄積を防ぐ
カルシウムレベルが低くなると、その隙をついて鉛が骨に蓄積しやすい。
とりわけ、女性は更年期ころからカルシウムを急激に流出させやすいので、要注意。
カルシウムの流出を防がないと、更年期ごろから骨に含まれている重金属が15%も増えるという。
そして更年期の後に、骨の組織が壊れるにつれ、この重金属が血液中に放出される。
逆に、カルシウムレベルが高く維持されれば、鉛の体内への蓄積を最小限に抑えることができる。
■ セレンが水銀を解毒する
毒物である水銀を撃退するのは、セレンだ。
水銀のライバルは、セレンなのである。
セレンは、小麦胚芽、ブラジルナッツ、大麦、ヌカ、大根に多く含まれるから、ふだんから積極的に摂るとよい。
■ 重金属を解毒する食べ物
メチオニンやシステインといった含硫アミノ酸は、水銀、カドミウム、鉛などの重金属を捉え、その毒性を抑える。
しかもシステインは、強力な解毒剤メタロチオネインの原料にもなっている。
含硫アミノ酸は、ニンニク、玉ネギ、ニラ、鶏卵に多く含まれている。
また、アルギン酸やペクチンといった食物繊維は血液中の重金属を捉え、排泄してくれる。
アルギン酸はノリやコンブに、ペクチンはリンゴ、ニンジン、柑橘類に大量に含まれる。
昔から1日1個のリンゴを食べると健康によいといわれてきたが、リンゴを食べる理由がこれでも1つ増えるわけだ。
● タートラジンで多動が発生か?
ここまで脳を汚染するミネラルを見てきたが、脳に有害という点では、食品添加物も負けてはいない。
よく知られているのが、タートラジン〈黄色4号〉をはじめとする合成着色料である。
イギリスにあるサレイ大学のネイル・ワード教授は、飲料に添加されているタートラジンが、尿で排泄される亜鉛の量を増やすことを発見した。
彼は子ども達にタートラジンを添加したジュース、あるいは、タートラジンを添加しないジュースを飲んでもらい、尿中の亜鉛を調べた。
その結果、タートラジン添加ジュースを飲んだ子ども達の尿中の亜鉛レベルが、タートラジン無添加ジュースを飲んだ子ども達にくらべ、高くなっていたのである。
さらに同教授は、タートラジン添加ジュースを飲んだ子どもたち10人の心理と行動に異変が生じたと報告している。
他の研究でも同様の結果が得られている。
欧米では、多くの親達が、タートラジンに限らず、サンセットイエロー〈黄色5号〉、キノリンイエロー〈日本指定外〉、カルモイシン〈日本指定外〉、ポンソー4R〈赤色102号〉、アルラレッド〈赤色40号〉など6種類の合成着色料が子どもの脳に悪影響を及ぼすと主張してきた。
現在、多くの多動児の自助グループが、これらの人工着色料を食品に添加しないように製造元に呼びかけたり、これらの合成着色料の使用を禁止する法律を制定するように政府に働きかけている。
だが専門家たちは、その主張の科学的根拠について長く議論をつづけてきた
■ 合成着色料のミックスで多動が発生する
これでは埒があかない。
そこで英国食品基準長〈FSA〉は、信頼に足りる結果を得るために、サザンプトン大学のジム・スティブンソン教授のグループに資金を提供し、研究を委託した。
その結果が2つの論文となって発表された。
一つは、2004年に「子どもの病気」誌に発表されたもので、多動児1873人の食事から上記6種類の合成着色料と安息香酸ナトリウム〈保存料〉のミックスを取り除いたら、子ども達の多動が減少したことを報告した。
もう一つの論文は2007年9月に「ランセット」誌に発表されたものである。
研究者は、地元の3歳児と8〜9歳児297人に上記6種類の合成着色料と、安息香酸ナトリウムのミックスを含んだジュースを6週間飲んでもらった。
着色料と保存料は、子ども達が日常食べている食品に含まれるものばかりである。
その量は、1日1〜2個のキャンディに含まれるものにほぼ等しい。
そして対照群には着色料と保存料を含まない、味のまったく同じジュースを飲んでもらった。
子どもの注意欠損や多動の程度は、親や先生による観察とコンピュータによるテストで調べられた。
研究者にも観察者にも、子どもたちがどちらのジュースを飲んでいるのかわからないようにされており、2重盲検が保たれた。
結果はこうなった。
3歳児と8〜9歳児のどちらのグループも、着色料と保存料を含んだジュースを飲んだとき、注意力のスパンが短くなったのだ。
以上をまとめると、まず、合成着色料と安息香さんナトリウムの摂取をやめると、多動児の症状が改善されることが証明された。
しかも、一般の子どもでも合成着色料と安息香さんナトリウムを摂取すると、多動が発生するのである。
FSAは、スティブンソン教授の2つの論文は精度の非常に高いものであることを認めた。
それなら直ちに、6種類の合成着色料の使用を禁ずる処置をとるかと期待さてたのだが、FSAは消費者向けに、多動児には合成着色料と保存料として使われている安息香酸ナトリウムの含まれた食品を与えないほうがよいとの勧告を出すにとどまった。
FSAはリスク回避の責任を食品の製造業者にではなく、消費者に負わせたのである。
囂々たる非難がFSAの浴びせられたのは当然である。
それは、製造業者がこれらを使用した食べ物や飲料のすべてに表示する義務を負っていないため、消費者はリスクを回避できないからだ。
日本ではまだ合成着色料と多動との関係の研究は始まってさえいないという状況だが、イギリスやアメリカを中心に研究は着実に進んでいる。
結果を見れば、多動と合成着色料との関係は明らかだが、「合成着色料が子どもの脳のどの箇所に、どうはたらきかけて多動を発生させるのか」など、はっきりした結論が出るまでに数年以上かかるだろう。
だが、合成着色料が子どもに有害であるという結論が出てから制限するのでは、被害が拡大してしまう。
それでは遅いのではないだろうか。
有害と思われるものについては、科学的な結論が出る前に、まず制限し、被害を食い止めるべきであろう。
生田哲著 『食べ物を変えれば脳が変わる』 (おわり)
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