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『食は生命なり』 【131】
『短命の食事 長命の食事』
ファイトケミカルが健康寿命を伸ばす
丸元淑生著 ワニブックス刊 より その2
第2章
本当にバランスのよい食事とは
● 宇宙飛行士から学ぶ正しい食生活!
宇宙飛行士の毛利衛さんは、ご自分の食事について、こういっておられます。
――宇宙飛行士になるまではいい加減な生活を送り、健康管理をしていなかった。
米航空宇宙局(NASA)の医学検査は厳しく、一年一度の定期健診で基準を満たさなければ宇宙に出られなくなる。
日本にいた頃はよかったが、1987年に米国に移ってからコレステロール値が急激に増えた。
渡米後の初検査では日本では全く問題なかったコレステロール値が199になった。
200以上が黄色信号、210以上がオレンジ、220以上だと宇宙へフライとできなくなるのがNASAの基準。
毎日、好物のステーキとワインをとっていたのが原因だった。
調べてみると、米国の飛行士はほとんど肉を食べない。
そこで肉をやめて魚にした。
訓練を受けたアバラマ州ハイイツビルはナマズの料理が有名。
そのフライなどを食べていたが、一年後の検診では値は200を越す結果だった。
ジムに通って運動を一生懸命やり、やせていたにもかかわらず数値は下がらなかった。
「そんなばかなことをしているのか」。
悩んで米国の飛行士に相談するとあきれられた。
原因は揚げ物にう買う油。
NASAの栄養士は「和食を食べればいい」というが、ハンツビルでは輪食の食材が買えない。
まったく役に立たないアドバイスだった。
仕方なく自分で調べたところ、メキシコ料理にたどり着いた。
豆やトウモロコシが多く数値を抑えるのに非常に役立った。(談)
日本経済新聞2005年12月19日
食事のリスク・ファクターとヘルスファクターを、これくらい端的に、かつ明確に示している文章はないので、引用させていただきました。
肉を食べるとコレステロール値が上がるのは、肉が含んでいる飽和脂肪のせいです。
それがわかっていたとしても、普通の人は、コレステロールをあげるファクターは要素があるはずだと思って肉を減らすことはまずしないでしょう。
そして、これまでどおりの食生活をつづけます。
しかし、健康状態が良好でなくてはならない宇宙飛行士は、コレステロールが基準値を超えると宇宙飛行士でいられなくので、肉を食べないようにしているのです。
もちろん、それがコレステロールを正常な値に保ついちばん確実な方法であることを知っているからです。
● タラコを意図的に避けるのは
正解とはいえない!
コレステロール値を上げるファクターとしては、飽和脂肪の摂り過ぎの他に、次の2つが挙げられています。
・ 総脂肪の摂り過ぎ
・ コレステロールの摂り過ぎ
しかし、総脂肪は摂る脂肪の種類によって大きく変わりますので一概にはいえません。
南地中海の食事のように、脂肪の大半をオリーブとオリーブ油で摂っている場合には、脂肪の摂取カロリーの37%を占めるような高脂肪食なのに、大多数の人のコレステロール値は正常な範囲に保たれています。
卵は高コレステロールの食品の筆頭で、卵1個にはコレステロールが235ミリグラム含まれていますが(飽和脂肪は1.5グラム)、卵1個食べたからといってコレステロール値がはね上がることはありません。
体の中では食事で摂るよりもはるかに多くのコレステロールがつくられていて、コレステロールがたくさん体に入ってきた場合には、肝臓でのコレステロールの合成量を減らすなどして調整が行われるからです。
その調整能力を超えてない範囲であれば、栄養価の高い一部の高コレステロール食品はむしろ、摂ることが望ましいのです。
スケソウダラの卵のタラコはその一つで、半腹(50グラム)に含まれるコレステロールは170ミリグラムですが、食品としての大きな特徴は、飽和脂肪がほとんどゼロ(半腹50グラム中に0.095グラム)という点にあります。
しかも、魚卵に共通する栄養を豊富に含んでいる上に、傑出したビタミンE源ですから、コレステロール値を気にして、タラコを避けるのは非常に愚かなことです。
● なぜ日本人は
アメリカ人より健康なのか!
飽和脂肪は、炭素の二重結合がない飽和脂肪酸を効率に含んでいる脂肪で、室温では固体状をなしています。
バターやラードを見ても、肉の脂肪の部分を見てもよれはよくわかりますが、脂肪の種類によってはその融点は異なっています。
しかも、融点が32度以下の脂肪酸よりも、44度以上の脂肪酸が多いために、肉の飽和脂肪は人間の体温下では溶けずに、大部分が固体状のままです。
こういう脂肪が摂取されるとどうなるかといいますと、水でできている血液に取り込むために、体は微小な粒にしなくてはなりません。
つまり、乳化しなければならないのですが、それでうまく循環するかというと、脂肪の粒は粘着性が高いので、赤血球同士をくっつき合わせて団子状態にしてしまうことがあります。
それでは小さい血管は通れないので、抹消循環が悪くなります。
つまり、肉の脂肪を頻繁に、かつ多量に摂取すると、抹消循環の悪化が慢性化するだけでなく、血液の粘度が高まって動脈硬化が進み、コレステロール値は高くなるのです。
健康な人では脂肪に見られない組織や臓器にも脂肪がたまってメタボリック・シンドロームも進みます。
では、われわれの体は全く飽和脂肪を受けつけることはできないのでしょうか?
それとも、許容量のようなものがあって、これくらいの量ならトラブルが起きないという線が示されるのでしょうか?
それに一つの回答をもたらしたのが、1957年に初めて1980年に発表された、セブン・カントリーズ・スタディとして知られる研究です。
世界の中から7つの国を選んで、食事と病気の関係を追求し比較した研究で、発表されてみると突出して健康な国が2つあり、それはギリシアと日本でした。
冠状動脈性心臓病でアメリカ人が10万人当たり100人死亡する期間に、何人死亡したかを比較すると、ギリシアのクレタ島は3人、日本、九州の牛深(熊本県)は13人でした(最悪はフィンランドの171人)。
ギリシアでは循環系の障害が少ないことが明白でしたが、どのくらいの量の飽和脂肪を摂っていたかといいますと、表のように総摂取量の8%を飽和脂肪で摂っていました。
肉の量は1日35グラムです。
週に1回250グラムのステーキを食べればその量になりますが、毎日の料理にすると、野菜の中にほんの少し肉が入っているという量です。
ギリシアの人たちの冠状動脈性心臓病による死亡率が極めて低いことから、それくらいの量ならば飽和脂肪の害はほとんどないと考えるのが妥当でした。
飽和脂肪の害がなく、肉の栄養が100%生かされてくるのは、肉の摂取量が1日35グラムくらいまでの場合だったのです。
● 1960年代の食事
● 魚と豆があなたの食生活を変える!
この1日35gという数値は、たまたま統計上に現れた数値ではなく、正確には1957年から1972年までの15年間、場所はギリシアのクレタ島で定点的に行われた何回もの調査の平均値です。
調査が行われた当時のクレタ島では、伝統的な食事が守られていましたので、昔からずっとそれくらいの肉は食べてきたものと考えられました。
おそらく千年以上にわたって同じような食事が続いてきて、健康な生活が保たれていたのです。
ですからそれは、人間の体が適応できて健康をもたらし、家畜を増やしすぎて環境を破壊することのない、重要な意味を持つ肉の量でした。
現在の日本人の肉の摂取量は、1日100gの摂取量のレベルに達していますから、問題はそれを35gのレベルに戻せるかどうかですが、肉を減らすには毛利さんがなさったように、魚と豆を増やさなくてはなりません。
肉が増えれば豆と魚が減り、豆と魚が増えれば肉が減る関係にあることは、表のアメリカ人の食事と日本人の食事を見れば一目瞭然で、1日273gの肉を食べているアメリカ人は、豆は1g、魚は3gしか食べていません。
日本人は魚を150g、豆を91g食べていて、肉は8グラムです。
それにしても、魚が手に入りにくいところで肉を魚に切り替えるのは困難ですが、フレッシュな魚の少ないアラバマ州で、毛利さんは豆類の多いメキシコ料理にたどり着かれて、コレステロール値を抑えることに成功されています。
● “からっと”揚げの揚げものが
健康寿命を縮める!
メキシコ料理には豆やトウモロコシが多く使われますし、ほとんどの料理に”生のソース”を意味するサルサがつけ合わされます。
生のグリーン・チリペッパー、玉ねぎ、トマト、にんにく、コリアンダーを刻んだソースです。
それに必ず加わるのが、ソースであり、ディップであり、ガーニッシュである。
グァカモーレという一品です。
これは完熟したアボガドと、たまねぎ、トマト、レモン汁、にんにくなどをブレンダーにかけたもので、いずれもファイトケミカルとエンザイム(酵素)が豊富で、食事を健康的な、充実したものにしてくれます。
しかし、このメキシコ料理にたどり着く前に、毛利さんはもっぱらナマズのフライを食べて、コレステロール値が200を超えました。
これは、魚もフライで食べると健康上の大きなリスク・ファクターになることを示しています。
フライなどの揚げ物は、百数十度になるまで加熱を続けている油の中で、食材を加熱する料理です。
その料理は2つの害をもたらしますが、一つは過酸化脂質です。
いまひとつは、パン粉などの衣をつけて揚げるため、それに油が浸み込んで油の摂り過ぎになることです。
百数十度という高温で加熱を続けた油は、酸化して一部が有害物質の過酸化脂質に変わります。
過酸化脂質は、体内に入ると細胞膜を傷つけますから、体は全身の細胞を守るために、ビタミンC、E、グルタチオンなどの抗酸化物質を配備していますが、過酸化脂質が増えれば増えるほど、それらの抗酸化物質は減ることになりますし、守れなかった細胞は細胞膜が傷つくことになります。
それは動脈硬化の原因を作りますし、発がん物質が存在していた場合にはがん化のきっかけをつくり、全身の健康レベルを低下させます。
特に抗酸化物質の減少は脳の健康を脅かします。
この過酸化脂質の害は、迅速に起きることなので、目の前で見ることができます。
加熱して過酸化脂質を増加させた植物油を、ウサギの目に注入して、その部分の血管の中を電子顕微鏡で見ると、血管壁に傷がついていくさまが観察できるのです。
一、二の食品添加物の有害性の疑惑については関心の高い人も、その何百万倍、何千万倍という量を、毎日のように口にしているこの有害物質については無関心なのか、今駅ビルを歩くと、外食店のショーケースは揚げもので埋まっています。
弁当や惣菜の売り場も揚げもので埋め尽くされていましたが、最近になって「揚げものは入っていません」というシールを貼った弁当が出てきました。
これは大変喜ばしいことで、健康上の大きな脅威となっている過酸化脂質の害を深刻に受け止めている消費者が増えてきたからに違いありません。
● 揚げ物を揚げる温度は
できるだけ低く!
過酸化脂質は刺激的な不快なにおいがしますので、誰もがにおいで感じることができます。
嫌なにおいのしている過酸化脂質を多く含んだ揚げものを食べますと、何日間か胃に違和感を覚えますが、その経験は、多くの方がなさっていると思います。
油を空気中に長時間置いておいても、日光にさらしても、加熱しても過酸化脂質ができますが、過熱時間が長くなるほど、また高温になるほど量が増加します。
肉や魚など、脂肪を含んでいる食品を高温で揚げますと、揚げている油からだけでなく、肉や魚の脂肪からも過酸化脂質が生まれます。
では、脂肪をあまり含んでいない食品を揚げたらどうなるのかといいますと、じゃがいもなどでんぷんを多く含んでいる食品の場合は、アクリルアミドという発がん性の疑いがもたれている有害物質が生まれます。
生成されるアクリルアミドの量は、過酸化脂質に比べてけた違いに少ないので、健康上の脅威にはならないと主張している専門家も多くいますが、油の温度が高くなると急カーブを描いて生成量が増加することがわかっています。
高温になるほど過酸化脂質に加えて、アクリルアミドが大幅に増加するのですが、厚生労働省の研究報告では、揚げ油の温度を10度下げると、アクリルアミドの生成量は半分以下に減っています。
170度で上げたものも160度で上げたものも、見た目はほとんど変わりません。
170度のほうが少し焦げ色が強いくらいの違いですが、含まれている有害物質の量は大変な違いで、別な食べ物といったほうがよいくらいです。
高温で揚げるのは”からっと”上がるからというのが主な理由ですが、そのために多くの人が健康寿命を縮めているといってよいでしょう。
ですから揚げる温度はできるだけ低くすることが大事で、揚げもの料理の回数は減らすべきです。
● 豆乳が過酸化脂質の発生を抑える!
揚げ物の料理を減らしても、揚げる過程のある加工食品が出回っていますから、多くの人が自分が気づかずに過酸化脂質を口にしています。
過酸化脂質の多く含んでいる食品を挙げますと、かりん糖、インスタントラーメン、各種の半調理食品などですが、揚げものや、そうした食品を食べますと、3%くらいが体内に吸収されます。
それは動物実験の結果から確かめられている数値で、食品に含まれている量のわずか3%に過ぎませんが、体にとっては一挙に多量の過酸化脂質がなだれ込んでくるという事態となります。
体内でも過酸化脂質は生まれていますが、一度に多量に生成されることはありませんので、それを無害化するために配備されている抗酸化物質のネットワークは非常事態に陥るのです。
そこで抗酸化物質が不足すれば、傷つく細胞が多く出てきますし、不足しなくても抗酸化物質が多く消費されますので、体の抗酸化物質のネットワークは弱体化します。
ですから毎日のように揚げものを食べて非常事態を繰り返している人は、抗酸化物質を補わない限り抗酸化物質のネットワークが破綻し、傷つく細胞の数は増えつづけることになります。
それはがんをはじめ、さまざまな病気の発症につながっていきます。
空気を送り込みながら160度で40分間、植物油を加熱しますと、油の中の還元化脂質の量は6倍にはね上がります。
しかし、大豆サポニンを植物油に加えて同じ条件の加熱を加えますと、過酸化脂質はほとんど増加しません。
つまり、大豆サポニンが過酸化脂質の発生を抑えるのです。
サポニンは、植物中に含まれる泡の立つ性質を持った物質の総称ですが、一般に血球を溶かす溶血作用があるため、有害な成分とされてきました。
ただひとつだけ溶血作用のないサポニンが知られていて、重要な生薬として使われてきた高麗人参です。
1970年代に入って、大豆に含まれるサポニンと、小豆に含まれるサポニンは近畿大の研究者によって過酸化脂質の発生を抑制することが明らかにされました。
続いて、体内の過酸化脂質を大豆サポニンが分解し、無害化することも明らかにされます。
過酸化脂質の害が憂慮されている現代人の食生活にとって、それは大きな発見で、大豆サポニンは過酸化脂質の合成を抑制して、分解を促進し、過酸化脂質を体から出していく方向に作用するのです。
食事によって取り込まれるか酸化脂質の量は個人差が大きいので、揚げものをいつも食べている人には通用しませんが、たまに食べるような人の過酸化脂質と、体内で生成される過酸化脂質を無害化する大豆サポニンの量として、研究者が示したのは1日50mgから100mgでした。
大豆サポニンを最も多く含んでいる大豆食品は豆乳で、豆乳100gにはそれをぎりぎりクリアーする約50mgの大豆サポニンが含まれています。
ですから、揚げものを食べるときは豆乳を飲んでいたいのですが、大豆サポニンがそれだけの量含まれているのは、本物の豆乳100%の製品だけなので、購入の際注意する必要があります。
JAS「豆乳」は豆乳100%ですが、JAS「調整豆乳」は植物油やカルシウムなどが添加された豆乳です。
JAS「豆乳飲料」は牛乳やジュース、コーヒーなどが加わっていますから、成分は大きく変わってきます。
● トランス型脂肪酸は
血中脂質の数値を悪化させる!
アメリカでは複数の研究が、トランス型脂肪酸が原因で死亡している人の数は、年間3万人、心臓病で早死にする人の7〜8%という一致した推定値を出しています。
トランス型脂肪酸は、植物油に水素を添加してマーガリンやショートニングを作るときに生まれるものなので、マーガリンが出現する1911年以前の摂取量はほとんどゼロでした。
自然界にはほとんど存在しないこの脂肪酸は、悪玉のLDLコレステロール値を高め、善玉のHDLコレステロール値を下げます。
そして、血液中のコレステロールの数値を非常に悪くしています。
それだけでなく、心筋梗塞と脳卒中の引き金となるリスク・ファクターのリポプロティン・スモールAの血中値を高めます。
これだけ悪い働きを併せ持っている脂肪酸は、他には存在しません。
トランス型の脂肪酸の害は、1960年代から多くの研究者によって警告されてきましたが、消費量は減らずに増えていきました。
マーガリンの消費量は、アメリカでは健康を求める人たちの消費が止まったために1960年代以降横這いになりましたが、ショートニングの消費量が増え続けていたからです。
ほとんどの消費者がその事実に気づいていないのは、ショートニングが家庭で使われる食材ではないからでしょう。
ショートニングは、クッキーやスナック菓子、大量生産のケーキ類に使われてきましたが、家庭で料理に割く時間を短縮させてくれる新しいタイプの加工食品や調理済み食品など便利な食品の出現で、1980年代以降、消費量が一段と増加しました。
そして、現在、トランス型脂肪酸の消費量は、アメリカで1人当たり1日10数gという多量になっています。
環境汚染物質や、食品添加物とはケタ違いの量を毎日摂っていることになるのですが、2006年12月5日ニューヨーク市議会は、2008年7月までに、外食店で出される食品に含まれるトランス型脂肪酸の量を、顧客1人当たり0.5gまでに制限するという規制を可決しました。
現状では、ファーストフード1回分の食事には10g以上のトランス型脂肪酸が含まれていますので、その規制は実質的な使用禁止措置ということができます。
● 糖尿病になる食事とならない食事!
どういう食事をしていれば糖尿病になり、どういう食事をしていれば糖尿病にならないのでしょうか?
これは簡単に答えられるようでいて、事実の裏付けをもって正しく答えることは医師にもできない問いでした。
その答えを得るために、ハーバード大の研究者達が1980年から初めて1996年まで続けた研究があります。
健康な8万4941人の看護婦を対象に行ったもので、被験者はみな、心臓・血管の障害がなく、がんにも糖尿病にもかかっていない人たちでした。
その人たちのうち、1996年の時点では3300人が糖尿病になっていましたが、糖尿病になった人と、なっていない人の食事をさまざまなファクターで詳細に比較した研究者達は、明確に違いは次の3点にあると発表しています。
糖尿病になった人は、
(1) 穀類の食物繊維の摂取量が少ない。
(2) 飽和脂肪の摂取量が多い。
(3) トランス型脂肪酸の摂取量が多い。
(1)は、精白した白米や白いパンを食べていることを意味しています。
ですから、穀類に多く含まれている食物繊維の摂取量が少ないのです。
米の場合は、玄米でなくても、3分づき米にすれば、食物繊維は多く摂れますし、栄養素も多く摂れるのですが、白米で通している人たちです。
(2)は、肉と乳製品を多く食べていることを意味しています。
(1)(2)は、専門家であれば誰もが予想できた答えでしたが、(3)は医学・栄養学会に大きな衝撃を与えました。
20世紀の後半になって糖尿病が急増している理由は謎だったのですが、増大させている犯人がついに姿を見せたからです。
人間が生み出したトランス型脂肪酸に対して、自然の脂肪酸をシス型脂肪酸と呼んでいますが、両者の相違は分子式では表すことができません。
ですから、マーガリンが生み出された当初、トランス型脂肪酸は体にとっての異物とは考えられていませんでした。
脂肪酸は炭素原子と水素原子が鎖状につながった構造をしていますが、炭素原子の数にも、水素原子の数にも変わりがなかったのです。
しかし、顕微鏡の精度が上がって分子の形が見えるようになると、全く形が違っていることがわかりました。
シス型の脂肪酸は、炭素が二重結合している箇所で少し折れ曲がった、軟らかいイモムシのような形をしていますが、トランス型脂肪酸は、それが反り返って硬直し、ピンと張った針金状になっていたのです。
体内における脂肪酸の役割の一つは、細胞膜を構成することで、全身の細胞に使われていますが、そこでは柔らかなイモムシのような形が重要な意味を持っています。
ブドウ糖を細胞内に取り込むレセプターもそのひとつですが、細胞膜にはたくさんレセプターが埋め込まれていて、それがスムーズに動くように、細胞膜は少し曲がった軟らかいイモムシのような脂肪酸で構成されている必要があるからです。
針金のような脂肪酸が体に入ってくると、細胞膜には使えないため、体は壊して燃料にしようとしますが、体内の酵素はトランス型に対応したことがないため、その作業はシス型よりも長い時間がかかります。
そして、シス型の脂肪酸の代謝のために使う酵素を、トランス型の脂肪酸の処理のために使わなくてはならない事態にも陥ります。
● 心臓病を増加させていった
トランス型脂肪酸!
ですから、トランス型が混ざってくれば脂肪酸の代謝のスピードが落ちることになりますが、それは、期間がタイトに定められている妊娠には深刻な影響を及ぼすはずです。
それが最初に危惧されたトランス型脂肪酸の害で、ノルウェー・スカンディナヴィア大学の研究者が未熟児とトランス型脂肪酸の相関を明らかにしています。
29人の未熟児を調べて研究者は、出産時体重とトランス型脂肪酸の濃度の間に、逆の相関があることを確かめました。
トランス型脂肪酸が多い赤ちゃんほど体重が少なかったのです。
これは、トランス型脂肪酸を含んでいる食品の場合、お母さんがそれを多く食べれば食べるほど、赤ちゃんの発育が遅れることを意味しています。
これまで有害物質といえば、ほとんどが毒物のことで、その毒性を問題にすればよかったのですが、単純に毒性を測ることができない、広範囲に及ぶ有害性を問題にしなければならない物質が現れたのです。
しかも、その有害性が証明され始めた1960年代には既に、アメリカでは摂取される脂肪酸の5.5%をトランス脂肪酸が占めていました。
それだけのパーセンテージでトランス型脂肪酸がシス型脂肪酸に混じっていたらどうなるでしょうか?
体は仕方なく、針金状のトランス型脂肪酸も細胞膜に使うようになるのではないでしょうか?
それをすべてハネて、エネルギーに変えようとすれば、大変な時間と酵素が消費されるはずです。
そして、脂肪酸代謝のスピードは大幅にダウンするに違いありません。
心臓のように通常、脂肪酸を燃料にしている臓器にとって、それは深刻な意味を持っていますが、アメリカではトランス型脂肪酸の消費の増加とぴったり歩調を合わせて、冠状動脈性心臓病による死亡者数が増加していきました。
そして、1996年に発表されたこのハーバード大学の研究は、トランス型脂肪酸の摂取量の多い人の中には、細胞膜にトランス型脂肪酸が使われている人がいることを裏付けるものとなったのです。
柔らかな脂肪酸で構成されている細胞膜の中に、たとえわずかでも針金のような脂肪酸が混じってくれば、細胞膜の柔軟性は失われます。
そして、細胞膜の中に埋め込まれているレセプターは自由な動きができにくくなります。
ブドウ糖を細胞内に取り込むレセプターの動きが悪くなれば、ブドウ糖は血液中にだぶつくことになり、糖尿病の基盤がつくられていくことになるのです。
● こわいのは食品添加物の長いリスト!
グルタチオンは、体内で作り出される抗酸化物質で、細胞内の体液中に存在しています。
細胞内に存在しているビタミンEの数百万倍と多数です。
しかし、病気のときは激減することがわかっています。
病気と闘うために使い果たされるからです。
病気でなくてもストレスによっても、激しい運動をしても、その数は落ち込みます。
マラソンランナーが、ビッグレースの後でよく呼吸器の感染症にかかるのは、そのためと考えられています。
ですから、グルタチオン値を高く保っていることが健康の要諦となるのですが、喘息のような慢性的な呼吸器の病気を抱えている人の、肺のグルタチオンのレベルは低いことが知られています。
肺は呼吸するたびに酸素と一緒に環境汚染物質を吸い込んでいますので、その害を防ぐ働きをするグルタチオンを特に必要としている臓器です。
その肺のグルタチオン値が低いと完全な防衛ができずに、慢性的な病気につながっていくことになるのです。
発がん物質、食品添加物、薬品、アルコール、その他の有害物質の解毒を受け持っている肝臓は肺以上にグルタチオンを必要としていて、全身の中で最も多くグルタチオンが存在しています。
肝臓のグルタチオン値が低くなると極めて深刻で、解毒機能が果たせなくなるだけでなく、肝臓自体の健康も損なわれます。
ではどうしたらグルタチオンを増やすことができるのでしょうか?
研究によるとグルタチオンを大幅に減らす物質を取り込まない食事にすることが第一で、添加物を多く使った加工度の高い食品を排除すると、グルタチオン値は大きく改善することがわかっています。
それだけ食品添加物の害は大きいわけで、ここの添加物の害よりも、使われている添加物の数が問題とされています。
数が多く使われているほど肝臓の負担が大きくなりますから、添加物リストの長いものは避けなくてはなりません。
最悪なのは大量生産の加工度の高いソーセージで、ラベルを見ればおわかりのように、これには大変な数の添加物が加えられているものがあります。
ケーキや菓子類も、添加物のリストが長いものがあるので要注意ですが、同じ加工食品でも添加物がゼロという食品があることも知っておくべきでしょう。
タラコも生ハムも、加わっているのは塩だけという伝統的な製法のものもありますので、ラベルをよく見てそういう食品を選択すべきです。
● いいことづくしの豆を積極的に食す!
豆料理がいつも食卓に出ているかどうかは、その家庭の健康度を見るモノサシになります。
豆のサラダ、豆の入ったスープなど、料理は何でもよいのですが、豆をよく食べる食事をしている人は、脂肪の摂り過ぎになりません。
豆を食べると肉が減る上に、豆は低脂肪・高タンパク食品ですから、脂肪の摂取量が減ることにからです。
その上豆は、傑出した食物繊維源ですから、腸の健康レベルも上がります。
よいことづくめですが、豆のサラダが非常においしいことはご存知でしょうか。
豆のサラダは酢を加えれだけで何も味を足す必要がなく、豆自体がおいしいのです。
豆のサラダをおいしく作るコツは、2.5倍の水で煮ること。
約40分間弱火で煮て、豆が軟らかく、おいしく煮えたらそれ以上の加熱をしないことです。
豆は2.5倍より少ない水では煮えませんので、それは最少の水で短時間煮ることになり、豆の栄養が最大限に守られるために、酢をかけるだけでおいしくなるのです。
それに亜麻仁油をかければ、オメガ3脂肪酸を補う料理になって、毎日の食事をバランスよい食事にする力になります。
サラダに適している豆は、大豆金時豆、キドニービーンズ、白花豆、ヒヨコマメ(ガルバンゾー)。
いずれも、6時間から一晩水に戻す必要があります。
水に戻すというのは、水につけて、かつて含んでいた水分をとり戻させることですが、それが手間なだけで、2.5倍の水で約40分間煮て、煮汁をこぼし、酢と亜麻仁油で和えたら豆のサラダの出来上がりです。
豆には水で戻す必要のないものがあり、これはそのまま煮ることができるので重宝します。
小豆、レンティル、イエロー・スプリトピー、グリーン・スプリトピー、レッド・レンティルなどがそれで、小豆を除いてみなスープに適しています。
レパートリーに加えていただきたい豆のスープを3つ、第4章に載せていますので、つくってみてください。
● 肉を食べて緑色野菜を食べないリスク!
血液中のホモシステインという物質の量が増加すると、動脈に有害に作用するため心臓病と脳卒中のリスクが高まることがわかっています。
1997年に、イギリスの医学雑誌「ランセット」が、世界の8つの国と地方の、血中ホモシステイン値と、心臓血管障害による死亡率を発表していますが、それによるとこの2つは明確な相関を示しています。
フランス、スペインと並んでホモシステイン値が低かった沖縄は、心臓血管障害による死亡率が最低でした。ホモシステイン値が最高だったフィンランドは、心臓兼官障害による死亡率も最高でした。
それは実に、沖縄の3倍でした。
それだけの大きなリスクをもたらすホモシステインはアミノ酸の一種で、主として肉を食べると、そのタンパク質から体内でつくり出されます。
つまり、これはいまひとつの肉の害ですが、食事に、ビタミンB群の葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が十分に含まれていますと、ホモシステインは必須アミノ酸のメチオニンとシステインに転換されて無害になります。
ビタミンB6とB12は肉に多く含まれていますから、無害にする鍵となるのは、肉にあまり含まれていない葉酸です(レバーには非常に多く含まれています)。
葉酸が最初に単離されたのはほうれん草からで、ほうれん草に最も多く含まれていますが、ほうれん草以外の濃緑色野菜にも、アスパラガス、オクラ、ブロッコリー、グリーンピース、サヤエンドウ、アボガドのような緑色野菜にも豊富に含まれています。あと、葉酸源となるのは、レバーと豆です。
フランスの代表的なサンドイッチは、豚のレバーペーストをバケットにはさんだパテ・ド・カンパニュですから、フランス人のレバーの消費量は多く、緑色野菜も多く食べていて、ホモシステイン値が沖縄並みに低くて不思議はありませんが、フィンランド人たちは緑色野菜の摂取量が少ないのでしょう。
これは肉を多く食べている人が緑色野菜をあまり食べないと、肉の害が非常に大きくなることを教えています。
ホモシステインの害は、動脈だけでなく脳細胞にも及び、現在ではアルツハイマー病のリスク・ファクターでもあることがわかっています
● 本当にバランスのよい食事とは何なのか
「バランスのよい食事」という言葉が、医師によってよく使われます。
[バランスのよい食事を心がけてください]とか、「バランスのよい食事をしていれば、サプリメントをとる必要はありません」など。
そういわれた人が頭の中で思い描く「バランスのよい食事」とはどういううものなのでしょうか?
おそらく一人ひとり違っていると思いますので、私は、かねがね、できるだけ多くの人に聞いてみたいと思っていました。
栄養学の正しい知識と、誤った知識が社会にどれくらい浸透しているか知りたい興味からですが、しかし、ここではそのような悠長な話ではなく、厳しく保たれていなくてはならない、まさにバランスのよい食事について考えて見ましょう。
われわれの体が内分泌系のホルモンにより調整されていることは、誰もが知っています。
ホルモンは産出腺や臓器で作られて必要とする臓器に運ばれて調整を行いますが、そのホルモンとは別に、全身の組織に細胞で作られて、局所的にホルモン様の作用をする細胞機能の調整物質が存在していることは、以前から知られていました。
アレルギーを激化させたり、陣痛を起こさせたり、血液の粘度を高めたり、血液を流れやすいものにしたり、炎症を激化させたり、炎症を抑えたりする物質ですが、調整を行うとすぐに壊れて消えてしまうために、見つけることも構造をつきとめることもできませんでした。
長く謎の物質とされてきましたが、1975年にそのひとつが見つかり、1976年にはもうひとつが見つかり、1978年にはさらにもうひとつが見つかって構造が決定されました。
それからは芋づる式に見つかっていって構造も決定しましたが、全容がわかってみると何十という数の大所帯でした。
しかも、その先駆体となっていたのは、体内では作り出すことができないために、食事で摂取しなくてはならない3つの必須脂肪酸でした。
オメガ6のジホモ・ガンマ・リノレンサンとアラキドン酸、オメガ3のEPA(エイコサペンタエンさん)の3つから調整物質が作られていたのです。
この3つの必須脂肪酸からプロスタグランジンという調整物質がつくられ、アラキド酸とEPAからはさらにロイコトリエンという調整物質がつくられます。
プロスタグランジンもロイコトリエンも少しずつ変化した物質に変わっていきますので、調整物質は全体で何十という数になりますが、それを総称してエイコサノイドと呼んでいます。
このエイコサノイドによって、全身の調整が行われていたのですが、調整が正しく行われるには、先駆体となっている脂肪酸の量的バランスが取れていなくてはならないことがわかりました。
オメガ6とオメガ3のバランスが非常に重要だったのです。
● 肉の摂りすぎは食事のバランスを崩す!
エイコノサイドの発見によって、長く謎の物質として追及されてきた気管支喘息の要因物質は、4系列のロイコトリエンC4、E4であることがわかりました。
食事で摂っているオメガ6のアラキドンから喘息の激しい症状を生む物質が作られているのです。
アトピー性皮膚炎の症状を激化している物質は、やはり4系列のロイコトリエンB4であることも突き止められました。
従来の皮膚科の治療法では解決できなかった症状ですが、これで原因はアラキドン酸とEPAの著しいアンバランスをつくっている食事であることが判明します。
ロイコトリエンB4の産出を抑制して炎症を緩和する物質があり、それはEPAからつくられる5系列のロイコトリエンA5であることが確認されたからです。
従来の皮膚科の治療法では治せなかった症状は、患者がEPAを摂取してEPAからロイコトリエンA5がつくられると消えました。
それで体はアトピー性皮膚炎の症状をなくす方法に調整しようとしていることがわかりますが、食事でオメガ3を摂ってくれなければその調整を行うことはできないのです。
食事では逆にオメガ6ばかりが取られるために、アラキドン酸から作られるエイコサノイドによる作用が、ほとんど無調整に行きわたっている状況だったといっていいでしょう。
そういう状況は一般に、調整機能が破綻しているとか、調整が狂っている、というふうに表現されると思います。
内分泌系のホルモンによる調整を第一の調整系とするならば、第二の調整系であるエイコサノイドが発見されたとき、それが深く食事に関わっていて、しかも、多くの病気を招くくらいに狂った状況にある事実を突きつけられたとき、栄養学者は過去にまで遡って、そもそも人類はどういうバランスの食事をしてきたのかを、検討する必要に迫られました。
重要な調整系を狂わせるような食事をしてきて、人類が今日まで繁栄してこれたはずはないからです。
ですから、人類の長い食事の歴史の中から、正しいオメガ6対オメガ3の比率が見つけ出せるのではないかと考えるのは当然でした。
さまざまなデータから石器時代からの食事に含まれていたオメガ6の量と、オメガ3の量が推定されて、オメガ6対オメガ3比が示されていますが、石器時代のそれは1:1でした。
人類の食事は、オメガ6対オメガ3比が1:1のバランスから始まったのです。
時間的にはそれが非常に長く続き、農耕を始めてからはオメガ6が少し増えますが、比率は1〜3:1以上にはならずに推移しています。
そして、20世紀の後半に比率が突然に大きく変わりました。
肉を多く食べるようになったことと、オメガ6を高率に含んだ植物油(以後、オメガ6油と略して書くことにします)が大量に消費されるようになったからで、現在、西ヨーロッパでは比率が最も高いところは17:1に、アメリカ人の食事は9:1になっています。
それは平均の数値ですから、肉、フレンチフライ、ファーストフード、揚げものを多く食べている人は、もっと高い比率になっていると思わなくてはなりません。
● アトピーも食生活で改善できる!
食事の根底にあるアンバランスが、今現代人が見舞われている多くの病気の原因となっていることは明らかなことから、FAO(国連食料農業機構)とWHO(世界保険機関)の合同委員会は、オメガ6対オメガ3比を5:1から10:1にするよう勧告しています。カナダ政府は、4:1から10:1を勧告しています。
それは食事の実態からすれば改善できる可能性のある可能性のある比率で、現実を踏まえた勧告と評価することもできますが、その比率では病気は治らないし、改善もしないというのが、医療現場で起きている現実です。
激しい症状に苦しんでいる患者に接して、何とか治してあげようと努力している臨床医にとっては、そういう勧告値はなんに意味も持たないでしょう。
現実に病気を治して患者の苦しみをなくしてくれる比率のみが意味を持つからです。
ですからオメガ6対オメガ3の正しい比率は、臨床医による個々の治療例の治療実績の積み重ねの中から、今見つけられていっているといってよいでしょう。
アトピー性皮膚炎を例に取りますと、治療効果を挙げているのは、食事指導を行ってお目が6対オメガ3日を下げていっている治療ですが、非常に高い実勢を上げている下関市立中央病院永田良隆小児科部長は、次のような成績を発表しています。
思春期と成人のアトピー性皮膚炎患者32人に、食事療法を平均16週間行いました。
その治療を始める前と治療後のオメガ6対オメガ3比は、平均でこう変化しました。
治療をはじめる前 5.5:1
治療後 2.8:1
そして、治療効果は、著効率56%、有効率25%でした。
著効率と有効率を合計すると81%で、これはアトピー性皮膚炎の治療では群を抜いた成績です。
そしてオメガ6対オメガ3の正しい比率が、3:1よりも低いところにあることを強く示しています。
言い換えますと、3:1より低くならないと、症状は消えないし、病気は治らないことを強く示しています。
そして、カナダ政府やWHOが勧告している比率は、その比率の人が症状に苦しんで病院に行っているのですから、全く正しい比率ではないことがわかります。
● [魚を食べると頭がよくなる]は真実!
オメガ3は魚に多く含まれていますが、それは海に無数の存在する植物性のプランクトンがつくりだすアルファ・リノリン酸に端を発しています。
植物性のプランクトンを動物性のプランクトンやイワシが食べ、イワシはアルファ・リノリンサンからEPAやDHAをつくりだします。
それがイワシを食べた魚に受け継がれるというふうに、食物連鎖によって、魚にはEPAやDHAなどの代謝が進んだオメガ3が含まれています。
ですから魚を食べると、われわれの体はすぐぬ使える形のオメガ3が入ってくるわけです。
EPAの重要性は今見たばかりですが、DHAは代謝の過程で脂肪酸の鎖構造が伸びて行って炭素原子数が22になった最も長い脂肪酸です。
そして炭素の二重結合の箇所が6つと最も多くなっています。
二重結合の箇所で脂肪酸は少し曲がりますから、DHAは腰が丸くなったイモムシのような形になっていて、細胞膜の柔軟性が要求される脳細胞は、この形の脂肪酸をとくに必要としています。ですから、魚を食べて体にDHAが入ってきますと、脳に入って脳細胞の細胞膜に組み込まれます。
そうすると、脳細胞の働きがよくなりますから、「魚を食べると頭がよくなる」といわれてきたのは偽りではなかったのです。
脳意外でDHAが細胞膜に多く使われているのは、神経、網膜、内示、副腎、生鮮であることが解剖の結果わかっていますから、魚を食べるとその働きもよくなると思ってよいでしょう。
魚を食べるとよいことばかりですが、表で見るように、オメガ3を多く含んだ地上食品は、クルミと大豆以外はほとんどないことから、食事を正しいオメガ6対オメガ3比にするには魚を食べることが第一だということがわかります。
★ オメガ3を多く含んでいる食品 (可食部100g中)g
● 食事のバランスを取り戻す
=「和食に戻す」!
オメガ3脂肪酸の融点は低く零下でも液体状をしていますから、冬野菜の多くはオメガ3脂肪酸を含んだ油を作り出して霜から自分を守っています。
寒い時のほうれん草がおいしいのは、オメガ3油を多く含んでいるからなのです。
ですから、魚に比べると量は少ないものの、冬野菜の葉や根、特に葉緑素のある部分にはアルファ・リノレン酸が多く含まれています。
それにしても陸の食品にはオメガ3源となるものが少ないのは確かで、海の食品は魚だけではなく、量は減りますが貝類にも、海藻類にも含まれています。
魚介類と海藻類をよく食べてきた日本人の食事は、それでオメガ6対オメガ3比が正常に保たれてきたと考えられています。
正常に保たれてきたのはいつ頃までかといいますと、明治30年代(1955〜65年)までで、そのときはアトピー性皮膚炎はゼロでした。
発症例が少ないために少なくとも医療統計上はゼロで、食事のオメガ6対オメガ3比は3:1より低かったと推計されています。
昭和35年(1960年)の肉の消費量は、1人1日当たり平均30gで、くしくもそれはクレタ島の肉消費量と、ほぼ同じ量ですが、この後わが国の肉消費は一直線の増加を示していくことになります。
それと歩調を合わせてリノール酸を効率に含んだオメガ6油の大消費が始まり、日本型の食事は大きく変形していきました。
それが食事のバランスを狂わせていったことは今や明白ですが、アトピー性皮膚炎の治療で高い治療実績を収めている下関市立中央病院が行っている食事指導は、具体的には食事を日本型の「和食に戻す」ことで、食事モデルにしているのは、昭和30年代の食事です。
それは近過去の食事にモデルに戻ることですから、患者にとっては達成可能な目標で、誰もが理解できる食事モデルだったと思われます。
そして同病院は、脂肪に関しては、感作度が強く症状が激しくなるとして、次の4つを除去する食品のリストを揚げています。
揚げの料理、マーガリン、ドレッシング、スナック菓子。
ドレッシングを除いてみな、これまでその有害性を見てきましたが、アレルギーの治療現場では、はっきり症状を激化させていたのです。
永田芳隆小児科部長は、オメガ6油の過剰摂取も問題を引き起こしているとして、中等量以上の摂取がもたらす症状を、次のように指摘しています。
アレルギー性鼻炎――鼻づまりやいびきが悪化。
気管支喘息――痰、喘鳴(ゼイゼイ)が悪化。
皮膚――皮膚のかゆみがます。
アトピー性皮膚炎。皮膚掻痒症、慢性じんま疹、慢性湿疹の悪化。
臨床医のこの観察結果からも、食事のバランスを取り戻すには、オメガ6油の摂取を減らさなくてはならないことがよくわかります。
● サラダ用の油には亜麻油を!
では、オメガ6とのバランスをとる食品は魚以外にないのかというと、アルファ・リノレン酸を豊富に含んだり陸の食品が、少数ながら存在しています。
しそ油、えごま油、ククイノキの種子油、亜麻仁油です。
亜麻の種から絞った亜麻仁油は、58%がアルファ・リノレン酸という高オメガ3油です。
ただ、食用油としてのオメガ3油の欠点は、非常に酸化しやすいことで、流通の方法や保存の条件によって、すぐに酸化してしまいます。
油が酸化して劣化することを酸敗といいますが、酸敗すると不快なにおいが出て味はもちろん悪くなります。
そうなった油は食用に適さないだけでなく、有害物質と思わなくてはなりません。
ですから、しそ油やえごま油を食用にしてきたのは、生産者とその周囲の人たちくらいで、ごく小数に限られていました。
亜麻仁油がもっぱら使われてきたのは、ペンキや油絵の具の溶剤として、あるいはリノリウムの原料としてでした。
しかし、亜麻仁油を食用にできれば、オメガ6対オメガ3比を是正するほとんど唯一の油であることから、最新の技術を駆使して食用にできる亜麻仁油をつくろうというメーカーが何社か現れました。
栄養学の知見に基づいて、狂っている食事のバランスを正すためにつくられる食用油ですから、メーカーは理想的な製品をつくるべく競いました。
まず、亜麻を無農薬・無化学肥料のオーガニックで栽培すること。
その亜麻仁(亜麻の種)から、光、空気、熱による変化を限りなくゼロに近づけても油を絞ることを目指したのです。
現在、販売されている亜麻仁油の良心的な製品は、第三者機関が証明したオーガニックの亜麻の種を原料に、光と空気(酸素)を遮断するハイテクによる制御システム下で、40度以上にならないように管理された機械によって、GMP(医薬品品質管理規則)に基づいて製造されています。
メーカーはカナダに集中していますが、この食用油として作られている亜麻仁油は、英語ではフラックス・シード・オイルまたはフラックス・オイルと呼ばれています。
この亜麻仁油は、購入されたら冷蔵庫で保存すべきで(冷凍しても完全には凍りません)、開封した瓶だけを冷蔵庫に移して使用なさることをおすすめします。
開封後の使用期間は4〜6週間です。
亜麻仁油は金茶に近い黄金色で。香味もすばらしく、グリーン・サラダ、豆のサラダ、トマト、サラダなどを、食欲をそそるおいしいサラダにしてくれます。
治療を目的でお摂りになる場合は、そのまま何さじか適量を飲みます。
サラダに使う油を亜麻仁油にすれば、オメガ6とオメガ3のバランスは大きく改善します。
加熱調理に使う油をオリーブ油にして、家庭ではオメガ6油を使わないようにすれば、オメガ6対オメガ3比を正常比率に保つことが可能です。
いうまでもありませんが、もっとも酸化しやすい植物油ですから、亜麻仁油を加熱調理に使うことは避けなくてはなりません。
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