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『食は生命なり』 【165】 安全な「食物」を安心して食べよう! 食べてはいけない の基礎知識 食の危機・偽装表示を見抜く 石堂徹生 著 主婦の友社 より その1 第1章 野菜編 ■ ホウレンソウ ● 最高で残留基準の250倍も 今、ホウレンソウが危ない。 問題は中国産の冷凍ものだ。 日本の農業者団体(農民運動全国連合会食品分析センター)が2000年12月初旬、市販の中国産冷凍ホウレンソウを検査し、何種類かの毒性の強い残留農薬を見つけたのが発端だった。 しかし、厚生労働省はすぐには動かなかった。 食品衛生法では生鮮食品について残留農薬の基準は定められているが、加工食品には基準がなく、検査の対象になっていない。 冷凍野菜は冷凍前に下ゆでして加工食品扱いになるから検査しない、というわけだ。 だが食品の偽装表示や安全問題がクローズアップされる中で、厚労省も思い腰を上げた。 冷凍野菜も生鮮食品の基準を適用することにして、2002年3月から輸入食品の検疫所で冷凍野菜の検査に乗り出した。 その結果、出るわ、出るわ。 6月末までのわずか3ヶ月で厚労省の中国産麗容野菜の検査879件中、ホウレンソウ35件が基準を超えていた。 同時期に実施された都道府県などの検査でも同18件の基準超過が見つかった。 その大半(厚労省の超過分中36件、同都道府県分中17件)がクロルビリホスという殺虫剤の超過で、最高で基準の250倍もあった。 ● 湾岸戦争の兵器 「農薬毒性の事典・改訂版」(三省堂)のよれば、クロルピルホスは第二次大戦中、神経ガス利用のための研究対象になった有機リンから作られた殺虫剤(有機リン系)で、昆虫などの神経を麻痺させて殺す。 アメリカの世界的化学メーカーのダウ・ケミカル社が開発し、シロアリ駆除剤などで広く使われている。 「クロルピルホス」は日本では農薬取締法にもとづいて、毒物の次の毒性が強い劇物指定の農薬として登録されている。 ただ、使えるのはリンゴ、ナシ、ブドウ、ミカンなどのたとえばアブラムシなどの害虫に対してで、登録されていないホウレンソウには使えない。 なおホウレンソウは栽培期間が40日ぐらいと短く、その間にクロルピリホスなどの農薬をかけると、農薬はホウレンソウに残留しやすい。 輸入農作物のチェックは厚生労働省が管理する食品衛生法による。 食品衛生法では国内外の農産物を対象にした「残留農薬基準」が定められていて、ホウレンソウでのクロルピリホスのその残留基準は0.01ppm(ppmは100万分の1を表す濃度の単位)だ。 農薬取締法によって、農薬メーカーが農薬の登録を申請する場合、急性毒性や発がん性など農薬の毒性試験をしなければならないことになっている。 その1つが魚介類に対する”魚毒性試験”(水産動植物影響試験)で、かつてはPCP(ペンタクロロフェノール)という毒性の強い水田用の除草剤で魚が死ぬ事件が多発し、その毒性試験が義務づけられた。 試験は農薬を溶かした水槽に鯉を48時間入れておき、鯉が半数死ぬ濃度を調べて毒性の強弱のランクづけをする。 毒性の弱い順に5ランクあって、クロルピリホスは4ランク目とかなり強烈だ。 とくにニジマスに対するその毒性は鯉よりも6倍強く、養魚場周辺での使用は禁止されている。 これでは「農薬」というよりも「濃毒」ではないのか。 現にクロルピリホスは単に昆虫だけではなく、人間も皮膚や口から吸ったり、飲んだりすることで中毒を起こす。 それも量が少なければ頭痛がする程度だが、量が多ければ筋肉の震えや衰弱、よだれを流し、やがて意識を失い、けいれんを起こして死ぬこともある。 実は湾岸戦争時、米軍が兵器としてクロルピリホスを使い、その影響で帰還した米従軍兵が神経症状を訴えたという。 つまり、クロルピリホスは農薬として作物に使用してはならない代物だ。 それがなぜ、中国で使われたのか。 ● 収穫直前や収穫後にたっぷりと 先のクロルピリホス基準超過の冷凍ホウレンソウを輸入した業者は、厚労省と都道府県などの検査分を含めて40社近い。 そのなかには、丸紅、伊藤忠、蝶理などの商社のほか、ニチレイ、ニチロ、加ト吉、そして味の素やキリンビールの関連会社などがある。 ホウレンソウを栽培した中国の現地がどこかは不明だが、この業者の数の多さは少なくとも日本向けの冷凍ホウレンソウに広範囲にクロルピリホスが使われていることを示す。 もともと開発輸入と称し、日本向けの野菜を中国で栽培させるようにしたのは商社や食品メーカー、スーパーなど日本の業者だ。 彼らは日本から野菜の種子と栽培技術を送り、現地の農家を指導しながら日本人好みの野菜を作らせ、日本に輸入した。 その多くはクロルピリホスしようの実態を知っていたのではないか。 当初、中国からの輸入野菜はタマネギなど保存のできる作物が中心だった。 それがコスト安や保存技術の向上などを背景に日持ちのしない野菜にまで広がってきた。 さらに冷凍して輸入すれば腐敗などのリスクも低く抑えられる。 一方、中国冷凍ホウレンソウは安価で調理が簡単なことから日本のファミリーレストランやコンビニ、スーパーの惣菜用、また家庭でも弁当のおかずや食事の付け合せなどの調理が増えた。 需要が増え、輸入業者の競争が激しくなり、供給が間に合わない。 需給が窮屈になれば無理をする。 それに冷凍ものとはいっても、冷凍前に下ゆでするから、腐敗する可能性もある。 そこで収穫直前や収穫後に、効き目が早いうえに長く残る「クロルピリホス」をたっぷりとふりかけて虫をシャットアウトし、品質の低下と収穫量の減少を防ぐ・・・・・・ ● 買わず・食べずでしっかりガード 2001年1年間の中国産ホウレンソウの輸入量は5万8000トンで、うち86%の4万9900トンが冷凍物のだった。 さらに2002年に入ると1200トンの週もあり、前年を上回る勢いで伸びた。 しかし、厚労省の検査などの規制強化や、マスコミや消費者の世論の高まりの中で、同年8月の第2週目には中国産冷凍ホウレンソウの輸入届けがゼロになった。 いわが、総力をあげて毒性の強い農薬漬け中国産冷凍ホウレンソウの封じ込めに成功したというわけだ。 しかし、検査で基準超過が発覚したものの廃棄処分や回収が間に合わず、すでに消費者の胃腸に納まった農薬漬けホウレンソウも多いのではないか。 その被害をくり返さないために、これからは自分や家族の胃袋をしっかりとガードしよう。 そのためには第一に便利だから手放せないといわずに、原則として冷凍ホウレンソウを買わないようにしたい。 それは淡に中国産だけではなく他の外国産でも、あるいは国産でも同じだ。 表示は偽装されやすいことを思い出そう。 ファミリーレストランやコンビニ、スーパーなどでは当分の間、冷凍の表示や国産・外国産の有無にかかわらず、ホウレンソウは買わない、食べないようにする。 ホウレンソウを食べたいときは確実に国産と表示してある生のホウレンソウを買ってきて、自分や家族が調理する。 たとえ国産であっても、農薬の点でまったく安心というわけではない。 国産もけっこう農薬を使って栽培されている。 ただ、少なくとも日本では“農毒”のクロルピリホスはホウレンソウに使用できないことになっているため、使われていないと信じていいのではないか。 ■ キュウリ ● 東京都産も農薬まみれ 東京のキュウリよ、お前もか。 農薬まみれの野菜は中国など外国産の専売特許ではない。 とうとう国産、それも農林水産、厚生労働省おヒザ元の東京で、残留農薬基準を超えた食品衛生法違反の農産物が栽培されていた。 問題が表面化されたのは、2002年7月末、実は前年、都下武蔵野市で栽培されていたキュウリからディルドリンという農薬が見つかっていたのだという。 そこで都はもしかすると今年もカと、同市内の16農家から1本ずつ計16本を選んで農薬の残留調査、つまり作物の中に農薬がどれだけ残っているかを調べてみた。 すると案の定、うち1本から基準の3倍残量していたディルドリンのほかにエンドリンという農薬、もう1本からエンドリンだけが見つかった。 ディルドリンは殺虫剤で、キュウリなどにつくハエの一種・ウリバエ、ネギなどのネギモグリバエ、大根などのダイコンシンクイムシなどの害虫を殺す。 しかも、ディルドリンは公害問題を起こしたPCB(ポリ塩化ビフェニール)と同じ有機塩素系であり、効果が安定して長く続く優れた農薬だが、その反面、分解しにくく、作物や土壌中に蓄積しやすい問題児だ。 毒性も強い。 マウスの実験背は肝臓がんができ、ウサギでは細胞への抵抗量が低下し、免疫力が落ちた。 人間の場合、皮膚や口から入り、急性の中毒症として頭痛やめまい、吐き気、不眠、筋肉けいれんなどのほか、肝・腎臓の働きがおかしくなり、意識をなくしてしまうこともある。 ● 農薬の怨念 ディルドリンは1971年、「土壌残留性農薬」に指定され、松に被害を与えるマツクイムシなどの木の害虫の場合を除き、一般の農薬としての使用・販売が中止された。 その後、シロアリ駆除や合板の防虫加工などに使われ続けたが、1981年、「特定化学物質」に指定され、使い道のいかんにかかわらず一切の製造・販売・使用ができなくなった。 それがなぜ、今問題を起こすのか。ディルドリンはとんだ置きみやげを残した。 ディルドリンの土壌での残留性は高く、実験では使用したディルドリンの95%を分解し、消えさせるのに5~25年かかったという。 しかし、今回、表面化した武蔵野市のキュウリでは、使用禁止になってから25年どころか、31年になる。 都の調査では、農家が改めてディルドリンを使用したということではなさそうだ。 だとすれば、それは過去に大量のディルドリンを使って野菜などを栽培していたことのまぎれもない証明であり、使用を禁止され、抹殺されたディルドリンの怨念ではないのか。 ディルドリンは作物への吸収率が高く、特にキュウリやトマトなどウリ科では吸収されやすいというから始末が悪い。 一方、もうひとつのエンドリンも、ディルドリンと同じ有機塩素系の殺虫剤であり、兄弟分。 ディルドリンとほぼ同様の運命をたどっている。 1954年、ディルドリンと同時に農薬として登録され、当初は野菜のアオムシ、アブラムシなどを退治するのに重宝がられた。 しかし、その後、「土壌残留性農薬」に加えて「水質汚染性農薬」のレッテルを貼られ、ディルドリンとほぼ同時期に一切の製造・販売・使用が禁止された。 しかも、ディルドリンは厚労省により残留基準が設けられているが、エンドリンにはそれがなくて「検出限界以下」、つまり痕跡すらあってはならないという厳しい扱いだ。 ● 時空を超えた恐怖感 今回、ディルドリンとエンドリンが見つかった農家のキュウリ133袋(1袋3~4本入り)が同7月中旬、東京むさし農協の店頭で売られた。 都は「検出された(ディルドリンとエンドリンの)量は極微量で健康への影響はないというが、それでそのキュウリを食べた都民は安心していいのかどうか。 検査のためのサンプリング、たくさんのキュウリの中から検査対象を選ぶのは統計学的に、つまり科学的根拠に基づいて行なわれたはずだから、その検査法に問題があるといっているわけではない。 ただ、たくさんのキュウリのなかには当然、バラツキがあり、そのバラツキがどの程度なのか。 残留基準の3倍どころか、10倍、20倍と入っているキュウリを食べても安全なのかどうか。 ましてや、残留してはならないとされるエンドリンさえ存在していた。 いたずらに恐怖心をあおるつもりはないが、今回の1件はさらに深刻で重大な問題があることを示しているようだ。 都は対策として都内で栽培されたり、都内の農産物直売所で販売されているキュウリの残留調査を進めるという。 また都内全域(1000地点)で、主要野菜類の畑の土壌と生産物を対称にして同様の調査を行なう。 これは単に武蔵野市だけではなく、都内全域で“農薬汚染”の危険性が考えられるからだ。 しかも、この危険性は何も都内だけに限られる理由はない。 都民への野菜供給基地である埼玉や千葉、神奈川など周辺地域はどうなのか。 いや、日本全体では同なのだろうか。 “列島汚染”の可能性はないのか。 ”農薬汚染”の時間の長さも気になる。 実験データによる農薬の残留がほぼなくなるはずの4分の1世紀を過ぎても、今回、まだ残留していたことになる。 これから先、いつまで残留し続けるのか。 また他の農薬ではどうなのか。 この時間と空間の果てしない広がり、いわば時空を超えた恐怖感が私たちを包む。 さらにもう一つ、土壌がすでに農薬で”汚染”されていれば、後にそこで無農薬栽培をしようとしても意味がない、ということになってしまう。 その絶望感は実にやるせない。 ● 自根キュウリを救世主に 救いはないのか。 そう思って見渡したとき、ふと目についたのが、「自根(じこん)キュウリ」だ。 自根というのは、文字通り自分の根という意味だが、なぜ改めて自分の根なのか。 実は今日本で作られているキュウリの大半は自分の根がない。 カボチャに接木してあり、根はカボチャのそれだ。 キュウリは水分の蒸発を防ぐため、実の表面からブルーム(果粉)という白い粉を出す。 ところが、それが農薬のように見え、消費者から嫌われた。 たまたまカボチャの苗に接木してみたら、病気にも強くなるし、それに何よりもブルームのないキュウリができた。 「ブルームレス」の誕生だ。 「ブルームレス」は皮が硬いから日持ちはするし、光沢があって見栄えがいい。 人気が出た。 農家もカボチャの苗(台木)を買って「ブルームレス」の生産に励み、自分で種をまき、苗を育てて作る自根キュウリをやめた。 でも、実は「ブルームレスキュウリ」は皮も硬い上に、あまりおいしくないそうだ。 それに対し、自根キュウリは皮がやわらかくて果肉は硬く、シャキッとした歯ごたえがある。 自根きゅうりはいわば昔ながらの“正しいキュウリ”か。 ”正しいキュウリ”はあらぬ誤解を受けて、大量生産・大量消費向けの「ブルームレス」に排除され、いまや畑の隅で孤塁を守るのみ。 その”正しいキュウリ“を正しく評価し、もり立てて復活させることが農薬汚染からの救いにつながりはしまいか。 過去の農薬汚染は行政の指導や農薬メーカーの思惑に加え、農家・農協など生産関係者と消費者との”共犯”だったはずだ。 いつでも、どこでも食べられるという便利さ、重宝さにはリスクがある。 そのリスクは共犯者同士、ともに背負っていくしかない。 客土といって、汚染されていない土に換えた上で、自根きゅうりを無農薬栽培する。 しかし自根キュウリは栽培に手間がかかるし、歩留まりも悪く、病気にも弱い。 一口の無農薬栽培といっても難しい。 農家のコストも合わない。 そのリスクを消費者とどのようにして負担しあうのか。 その方策を探りながら、まさに地に足のついた“正しい食生活”を目指す。 それが復活の道筋ではないか。
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