山ちゃんの食べもの考

 

 

その32
 

 全米でベストセラー、日本でも発売以来たちまち、大変なベストセラーになったということですが、エリック・シュローサー著 『ファストフードが世界を食いつくす』・楡井浩一訳(草思社)。私はたいへんなショックを受けました。知人の多くにぜひ読んで欲しいと購読をおすすめしました。
 「良い農業、良い食べ物が広まる」こと、「身土不二」「地産地消」「旬産旬消」「日本の自給自足」を願うものとして、ファストフーズに限らず今日の私たちの食のあり方についても考えさせられるところが多く、私のコメントはさけますがまだお読みでなかったら是非ご一読をと思い、序文の「はじめに」より一部を抜粋してご紹介させていただきます。


 拡大と成長を続けるファストフード産業。その成功を可能にしたマクドナルド方式が、今アメリカで経済、社会、文化の荒廃をもたらしているという。
 香料まみれのハンバーガーやフライドポテトで味と香りを刷り込まれる子供たち。フランチャイズによって起業家がつぶされ、専属契約で農地や牧場も荒廃に追い込まれているのだ。
 日本とて例外ではない。今世界中で産業構造の崩壊が進んでいる。本書は、牧場の牛が牛肉となり、ハンバーガーとして市場に出るまでに仕掛けられた巧妙な戦略を精査することで、自由市場経済を悪用し肥え太るファストフード界の実態を暴き出す。
 経済、社会の根幹を揺るがし、国家の動向まで左右する巨大産業の暗部を、緻密な取材と圧倒的筆力で描き出す。


 この30年余りの間に、ファストフードはアメリカ社会の隅々にまで浸透した。南カリフォルニアのささやかなホットドック屋台やハンバーガー屋台に始まったこの産業は、わが国のありとあらゆる場所に広がって、金を払う客の集まるところどこででも、さまざまな種類の食べ物を提供している。今やファストフードは、飲食店やドライブスルーはもちろん、競技場、空港、動物園、小学校、中学校、高校、大学や、クルーズ船、電車、航空機の中で、さらにコンビニ、デスカウントストア、ガソリンスタンドで、そして病院の食堂でも口にすることができる。1970年にアメリカ人がファストフードに費やした金額は60億ドルだが、2000年には1100億ドル以上にのぼった。今日のアメリカ人は、高等教育、パソコン、コンピュータ・ソフトウェア、新しい車に投じるよりも多額の金を、ファストフードに費やしている。映画や書物、雑誌や新聞、ビデオ、音楽に投じる額を合わせたよりも多くの金を、ファストフードにつぎ込んでいるのだ。

 ファストフードはアメリカ人の生活に革命的な影響を及ぼしてきた。アメリカではいついかなる日をとっても、成人人口の約4分の1が、ファストフード店に足を踏み入れている。ファストフード産業はかなりの短期間に、アメリカ人の食生活ばかりか、国の風景、経済、労働力、大衆文化までも変容させてきた。ファストフードは、そしてそれが引き起こした事象は、あなたが日に2回それを食そうと、できるだけ避けていようと、あるいはこれまで一口も食したことがなかろうと、決して否定することのできない現実だ。

 アメリカの労働者の平均時給(インフレ調整後)は1973年に頂点に達し、その後25年間にじわじわと下がっている。この間、記録的な数の女性が労働人口に加わったが、これは男女同権論に突き動かされてというよりは、生活費を捻出する必要に駆られてというのが主な理由だろう。1975年のアメリカでは、幼い子どもを抱えた母親の3分の1が、外で働いていた。今日では、約3分の2が就業している。数多くの女性が労働人口に加わったことで、それまで専業主婦が行っていた労働、すなわち炊事、掃除、育児などの労働への需要が著しく高まった。一世代前のアメリカでは、食費の4分の3が、家庭で用意される食事に当てられていた。今日では、食費の半分に当る額が、外食店に――それも、主としてファストフード店に――支払われている。

 マクドナルド社は、現在アメリカ国内の新規雇用の90%を担うサービス業の、大きな象徴となっている。1968年に、同社の店舗数は約1000店だった。現在世界中に約2万8000店あり、毎年新に2000店舗が開店している。推計によると、アメリカの労働者の8人にひとりが、いずれかの時期にマクドナルドで働いたことになる。同社が毎年新規に雇う約100万人という数は、アメリカの公営、市営を合わせたどんな組織の新規雇用数よりも多い。マクドナルドはわが国最大の牛肉、豚肉、ジャガイモ購入者であり、2番目に大きい鶏肉購入者でもある。また世界一多くの店舗用不動産を所有している。実のところ、利益の大半を、食品の販売からではなく家賃収入から得ているのだ。マクドナルドは、他のどんなブランドよりも多額の広告宣伝費を投じている。その結果、コカコーラの座を奪って、世界一有名なブランドになった。同社はアメリカのどんな私企業よりも、数多くの遊び場(プレイランド)を運営している。そしてわが国有数の玩具販売業者でもある。

 大規模外食チェーンが仕入を集中化して、商品の規格化を求めた結果、一握りの企業が食品供給に未曾有の影響力を持つようになった。その上、ファストフード産業が途方もない成功を収めたことにより、他産業も同じような経営手法を採り入れはじめている。ファストフードの背後にある基本思想が今日の小売業のオペレーティング・システムとなって、中小事業者を駆逐し、地域性を一掃して、さながら自己増殖する遺伝暗号のように、国じゅうにまったく同じ店舗を普及させている。

 店の調理場を工業化したお陰で、ファストフード・チェーンは、低賃金の非熟練労働力に頼ることができるようになった。一握りの労働者が出世街道をのぼる一方で大半が正社員になれないばかりか、社会保障の恩恵にあずかれず、技能もほとんど身につけられず、職場環境を改善するすべもないまま、数ヶ月で離職してしまい、転々と職場を渡り歩いている。現在、外食産業はアメリカ最大の民間雇用セクターでありながら、最低賃金しか支払っていない。1990年代の好景気の間、アメリカ人労働者の多くは初任給の上昇をほしいままにしたが、外食産業の賃金の実質価値は下がり続けた。およそ350万人のファストフード就業者は、他をはるかに引き離して、アメリカ最大の最低賃金労働集団となっている。彼らよりも確実に時給が低いアメリカ人は、渡りの農場労働者だけだ。

 大手のファストフード・チェーンは、今もこよなく科学を信奉する――その結果、アメリカ人の食べ物ばかりか、その調理法まで変えてしまった。現行のファストフード調理法は、料理の本よりも、むしろ《フード・テクノロジスト》や《フード・エンジニアリング》といった業界紙に載ることが多い。サラダ用の青物やトマトを別にすれば、ファストフードの大半はあらかじめ冷凍されたり、缶に詰められたり、水分を抜かれたり、フリーズドライされたりした状態で店に届けられる。ファストフード店の調理場は、極めて複雑で大がかりな大量生産システムの最終工程の場に過ぎない。一見すると昔から変わりのないはずの食べ物だが、実は調理法がすっかり変わってしまっている。この40年間にわれわれの食べ物に生じた変化は、過去4万年間に生じた変化よりも大きい。

 この4半世紀におけるファストフード産業の目覚しい成長は、政策と無関係ではない。この間インフレ調整後の最低賃金は約40%ほど下がり、大衆消費者向けマーティングの巧妙なテクニックが初めて幼い子どもたちに用いられ、労働者や消費者を保護するために設けられてきたはずの政府機関が、往々にして、規制対象の企業の出張所であるかのように振舞った。リチャード・ニクソン政権以降、ファストフード業界は議会やホワイトハウスの協力者たちと結託して、労働者や食品の安全を図る法律、最低賃金を定める法律の新たな制定に反対してきた。そして表向きは自由市場を信奉していながら、実にさまざまな政府補助金をひそかに手に入れ、その多大な恩恵に浴してきた。アメリカのファストフード産業の今日の姿は、必然の結果であるどころか、特定の政治的、経済的意志のなせる業なのだ。

 アイダボのジャガイモ畑や加工工場においても、コロラドスプリングズ東部の牧場においても、ハイプレーンズの肥育場や食肉処理場においても、ファストフードが農業従事者の生活に、国内の環境に、労働者に、国民の健康に及ぼしている影響を、あなたは目の当りにするだろう。今やファストフード・チェーンは、アメリカの農業を牛耳る食品業界ピラミッドの頂点に君臨している。1980年代、多国籍大企業――例えばカーギル、コナグラ、アイオワ、ビーフ・パッカーズ(IBP)など――は、商品市場を次から次へと独占するのを黙認されてきた。農家や酪農家は自営できなくなり、必然的に、農業関連大企業の下請けにまわるか、泣く泣く土地を手放すはめに陥った。今や家族経営の農場は、不在地主すなわち大企業の経営する農場にとって代わられた。農業地帯での共同体では中流階級が失われ、少数の裕福な階級と、多数の貧しい労働者階級とに二分化し始めている。小さな町々が農村部のスラム街に変わりつつある、トーマス・ジェファーソンがアメリカ民主主義の基盤であると考えた頑健な自営農民は、まさに絶滅寸前だ。現在のアメリカでは、囚人の方が専業農民より数が多い。

 莫大な購買力を持つファストフード・チェーンが均一に製品を求めた結果、肉牛の飼育法、食肉の処理法、挽肉の加工法も根底から変わった。そのせいで、食肉の加工業務全般――かっては高度な技術を要し、高賃金が得られた職業――が、アメリカで最も危険な仕事に、貧しい流れ者の移民が行う作業になってしまった。彼らの就業中の怪我については、大半が記録に残されず、補償もされない。しかも、まさに労働者を危険にさらすこの食肉産業によって、大腸菌O―157H7などの致死性の病原体がハンバーガー用食肉に、子どもたち相手に猛烈な売り込みがなされている食品に、持ち込まれている。汚染された挽肉の販売を阻止しようという試みは、何度となく、食肉業界のロビイストと議会内の協力者によって退けられた。アメリカ政府は欠陥オーブントースターや動物の剥製をリコール(回収)する法的権限を有する。それなのに、何トンもの、死を招きかねない汚染された食肉を回収する権限は、いまだに持っていないのだ。

 エリート主義者はことあるごとにファストフードを見下して、その味を酷評し、アメリカ大衆文化の安っぽい一事例とみなしてきた。わたしに言わせると、ファストフードの見た目や味は、それが労働者や消費者など一般アメリカ人の生活に与えてきた影響に比べれば、取り立てて難じるに値しない。私が何よりも気にかけているのは、子どもたちへの影響だ。ファストフードは子供たちを対象に大量に販売され、当の子どもたちとさほど年齢の変わらない若者によって作られる、この業界は年少者に食べ物を提供すると同時に、年少者を食いものにしているのだ。本書のための取材を行った2年間、私は大量のファストフードを口にした。そのほとんどはとても美味しかった。だからこそ、人々はこれを買う。ファストフードは、おいしくなるようにと、細心に計算し尽くされている。しかも、安くて手軽だ。だがバリューセットや、一品買うともう一品ついてくる特典や、飲み物のお代わり自由サービスは、ファストフードにかかる本当の費用をくらましている。真の価格は、メニューには載せられていない。

 毎日、何億人もの人々が、深く考えることもなく、自分の行動の間接的あるいは直接的な派生的効果に気づくこともなく、ファストフードを買っている。彼らはこの食べ物がどこから来るのか、どうやって作られるのか、そして周囲の共同体にどんな影響を及ぼすのかなど、まずもって考えない。ただ漫然と、カウンターからトレーを持ち上げ、テーブルを探して席につき、包み紙をあけてかぶりつくだけ。この一連の行為は束の間のものであって、すぐに忘れ去られる。わたしが本書を著したのは、ファストフードを買うという晴れやかで楽しい行為の裏側に潜むものを、人々は知っておくべきだと考えたからだ。あの胡麻のついたバンズの間に、本当は何が隠されているのかを。古い諺にあるように「人の体は食べ物しだい」



 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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