山ちゃんの食べもの考

 

 

その38
 

 前回に続いて、富山県西砺波郡福光町新町の石黒種麹店をお訪ねした時の話です。糀の話に花が咲いている時、石黒さんの奥様から温かい甘酒が振舞われた。湯飲みの中から漂ってくる懐かしいあまーい香りが鼻をくすぐる。乳白色の軟らかい液体が口中に広がり、踊るようにのど元を流れ入って、ほんのり幸せ感がしみ込んでいく。こんな濁りのない美しい甘酒は見たことはもちろん飲んだことはない。酒粕などを使って作る甘酒とは根本的に違うのです。
「甘いですねぇ、でもとてもやわらかくてあと味すっきり」。糀粒が見えているのに口の中です〜ととろけていきます。ふくよかな満足感とさわやかさが残って、甘味が後を引かないのです。「砂糖などは全く入っていません。100%糀だけの甘味です。この糀でかぶら寿司を作るのです」。Kスーパーの社長が自慢していた“かぶら寿司”も、味で評判の老舗が作る加賀名産“かぶら寿司”や“大根寿司”にもこの石黒種麹店の糀が使われている。
幼少の頃、田舎では祖母が“どぶろく”を作ってよく飲ませてくれたものである。始めは甘くだんだん酢っぱ味が増してくると共にアルコール分も強くなる。寒い冬の夜に囲炉裏を囲みかじかんだしもやけの手をかざしながら、甘くて熱いどぶろくを大事に大事に飲んだこと、兄と一緒によく盗み飲みしたことなどが頭の中を去来し、一層懐かしさが増してお腹の中までうれしくなってきた。何もないような戦中戦後の田舎であったが、体に良い手作りの食べものや飲みものがあったのだなぁ。昔から伝わる知恵の食べものを残していかなければならない。こんな賢い飲みものを多くの子どもたちに味わってほしいものだと強く感じ入った。


 これはどうしたことだ。近代的な機械らしい機械、道具らしい道具は全くと言っていいほど見当たらない。美味しい甘酒を楽しんだところで「それじゃ麹の室(ムロ)ご案内しましょう」と屋敷の奥にある工場に導いていただいて驚いた。レンガ作りの室が2つ、糀を寝かせ発酵させるためお盆のような楕円形の木製の折箱、温度や湿度を保つために藁で編んだ菰、麻布、木桶……。
 ほかに何があっただろう。自然の素材による素朴な道具ばかりである。よく“手作り”というが手作り風はあっても、最初から最後までこれほど徹底した手による作業のものとは驚きである。温度や湿度が“肌で感じるようにならないと本物は作れない”と室の中には温度計の一つも置かない。糀を発酵させるために藁で編んだ菰を被せることを述べましたが、この藁スベの小さく切れたものがどうしても糀に混じる。出荷に当ってこの藁スベを1個1個ピンセットで取り除くのである。糀のことを知っている人なら理解してくれるが、特に最近は異物混入とかで大変なことになるのである。ほかに何か考えられないのかと思うが、この菰でないとだめなのだという。
 レンガ造りの室には人がかいくぐって入る程度の木製ドアと、中の糀の状態を見るために覗き込む小さな小窓が取り付けられている。室の中では糀を仕込むためにお二人の職人さんが、床もみと言ってすべての米粒にもれなく芯まで麹菌が入りこむようにする作業をしていました。室の中は30度と言いますから大変な仕事です。床もみした糀は木の折の糀蓋に入れ、表面積が大きくなるように指で模様を描いてぬれた菰を被せ、室の中の両側に作られた木製の棚に一枚ずつ並べられていきます。「これを真夜中と早朝に起き出して万遍なく温度が一定に保つよう入れ替えするのです。上段から下段、下段から上段へ、すべてを入れ替えていくのはかなりな重労働で、とうとう家内が腱鞘炎になり今も医者通いしています」
 私は美味しい味噌汁がいただける陰に、このような糀作りにかけるひた向きな情熱とご苦労があろうとは、つゆほどにも思い至らなかったことを恥入った次第でした。


 糀を作る工場の奥に味噌蔵がある。芳しい香りが大きな味噌桶から漂ってきます。厳選された素材とたっぷり使った糀の味噌が長い時間をかけてじっくりじっくり発酵醸造されていくのです。
 この味噌には素晴らしい人々の思いがいっぱい込められているのです。良い米を作ってくれる人の思い、よい大豆を作ってくれる人の思い、良い塩を作ってくれる人の思い。これらの人々の良い思いが、良い糀作りをする石黒さんの思いとの出会いによって生み出された結晶なのです。手作りであるほど「大自然のリズムとの調和である」といいます。「気象条件が変わると味噌も変わり一定ではないのです。暑い夏には味噌の色も進みますから気が抜けません」。天然醸造の味噌づくりには気の休まる暇がない。生き物の味噌であるから出荷先の販売店が心してしっかり管理してくれるところでないと、売れるところならどこへでもというわけにはいかないのです。
 労を惜しまず手間暇をかけ、真心込めて生み出していく尊い尊い食べものなのです。それは“作る”というよりも我が子を思う親心が、手塩にかけて命がけで育てるに似て、人の思いや願い、祈りが命を“育くむ”ものなのです。

 味噌と共にお土産にいただいて帰った“甘酒”に、私はぞっこん惚れ込んでしまったのです。家内と一緒にあらためてふくよかな甘酒の風味を楽しみながら思ったのです。こんないいものを多くの子どもたちに飲ませたい。子どもたちばかりではない、寒い冬には有機栽培の薫り高い生姜汁を入れてこの温かい甘酒を飲ませたら、風邪の予防にも最高の飲み物ではないかと。それにこの甘酒を使って大根寿司やかぶら寿司を家庭での手作りなんてすばらしいではないか……。思ったが吉日、甘酒を使ったお料理レシピをお願いしました。
以下に石黒さんからいただいたものをご紹介します。ご不明な点は直接下記までお問い合わせ下されば教えていただけます。
お問い合わせは…
(有)石黒種麹店  富山県西砺波郡福光町新町54番地
  TEL 0763‐52‐0128 FAX 0763‐52‐0184


@ 飲む甘酒
 甘酒を、1.5〜2倍に薄めて、ごく少量の塩と生姜のしぼり汁を入れ、煮立ててお飲みください。甘口をお好みの方は、少量の砂糖を入れてください。

A サバの糀漬け
 甘酢に漬け込んだサバ(しめサバ)と甘酒を交互に漬け込み、軽い重石をします。3〜4日間くらいでおいしくいただけます。

B 鮭の糀漬け(焼き魚として)
 塩鮭の切り身を甘酒の中に漬け込みます。2〜3日程度で食べられます。鮭についた甘酒をふき取ってから焼いてください。

C ナスのからし漬け
 甘酒の中に、少量の砂糖と、(お好みにより醤油を入れる)、からし(からし粉を使用)を入れ、いったん塩漬けした塩ナスを塩抜きをしてから固く絞ったナスと混ぜ合わせて漬け込みます。3〜4日間でおいしく食べられます。


[材料の準備]
 生の大かぶらと、そのかぶらの半分の重さの特製甘酒をご準備下さい。(2kgのかぶらに対して1kgの甘酒、4kgのかぶらに対して2kgの甘酒となります)
[作り方]
1、生かぶらは上下を切り落として横に二つ切り(特に大きなものは3つに輪切りにし、皮も厚めにむきます。輪切りにしたかぶらは1切れごとに厚みの半分のところを、切り落とさないよう注意して8分どおり切り目を入れ、3.5%〜4%の自然塩(かぶら1kgに対して、35gから40g)を振り、重石をして2〜3日塩漬けします。樽(容器)の底にかぶらの葉をひと並び敷き、かぶらをきちんと一段並べて塩をふります。2段、3段と重ね、全部漬けたら一番上にもかぶらの葉を乗せて重石をします。
2、前もってブリの大き目の切り身を自然塩に埋めるような感じで一週間ほど塩漬けしおいたものを使います。その塩ブりの切り身(または塩サバでもよい)を薄切りにして、ブリはみりんに、サバは甘酢に2〜3時間つけます。塩漬けしたかぶらをざるに上げて水気を切り、かぶらの切り込みの間に魚肉をはさみます。
3、昆布は千切りにし、ニンジンは千切りまたは薄く花形に切ります。
4、容器に塩漬けしたかぶらの葉を敷き、その上に昆布を敷き、その上に特製甘酒を一面に敷くようにのせます。ブリ(またはサバ)を挟んだかぶらを隙間なくきっちりと一段並べ、千切りしたコンブとニンジンを散らします。その上に特製甘酒をのせます。2段目にもかぶらを並べ、同様に重ねていき、最後に昆布をのせて、さらに塩漬けした葉をひと並べして、落し蓋をして軽めの重石を乗せます。
5、3日後から重石を強くして、寒いところに置いてください。5〜6日くらいでおいしい自家製の“かぶら寿司”が食べられます。
★ 特製甘酒は、このままでお使いになるのが一番おいしい漬け方ですが、甘口をお好みの方は、適量の砂糖を甘酒にお加えください。


[作り方]
 1、だいこんは適当な大きさに皮ごと切り、4%の塩をふって、3日間漬け込みます。その後、水を切り、1%の塩をふって、再び2日間漬け込みます。
 2、身欠きにしんは、ウロコを落として水洗いし、米のとぎ汁に一晩つけて渋みを抜きます。
 3、特製甘酒に甘酒の1割の砂糖を加え、水を切っただいこんの上に身欠きにしんを置き、だいこんとにしんの量の4割程度の甘酒を塗りつけるようにして乗せます。
 4、コンブやニンジンの千切りを散らします。このとき輪切りの唐辛子や柚子を加えるのもおいしいです。
 5、これを繰り返し漬け込みます。重石は最初は軽めにし、3日後からは強くして寒いところに置いてください。
 6、1週間から2週間でおいしい自家製の“だいこん寿司”が食べられます。
 ★ 身欠きにしんを入れなければ、本格的な“べったら漬け”となります。



 

ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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