山ちゃんの食べもの考

 

その10
 

◎ 『食の堕落と日本人』小泉武夫著(東洋経済新報社)

 友人のすすめで、醸造学・醗酵学の権威である東京農業大学教授・農学博士小泉武夫著『食の堕落と日本人』を読んだ。

 「食生活が乱れるとその人の体調が崩れるのと同じく、国民の食の周辺が乱れてくるとその国の社会も崩れてくる。早い話が今の日本だ。あちこちで若者ばかりか大人たちまでぶっち切れ、詐欺だ、使い込みだ、傷害だ、殺人だといったニュースが目から耳から入ってこない日はない」

 「食の堕落が長く続くと、生き方にもどんどん変化が現れて、食の周辺の文化も激しく崩れていく。農作物(食料)の生産活動や生産量はどんどん低下するから、食料の輸入量は逆に増加する。そのため、年々食料の自給率が低下して、遂に40パーセントを切ったのではないかといった現状である。アメリカやカナダ、フランスなどが軒並み140パーセント近い自給率を誇るなか、日本は食べ物の60パーセントを外国に依存している。このままの状況が続けば、外国からの食糧供給が途切れた時、日本は終わる」

  「物心がつく大切な時期に半強制的に施行される学校給食は、心のこもっていない味けない食いものだから、学童たちは『食べる』という、人間が生きるための不可欠な原点に感動などほとんどせず、云々」

 「この堕落が単に食の世界だけにとどまるものではなく、ひいてはこの民族の存亡にかかわるきわめて重大な現象であることに警鐘を鳴らすものである」

―――――「はじめに」より――

 

「金があるんだから買ってくればいいじゃないか」

 小泉氏は、昭和30年代後半からの高度経済成長によって、にわか成金となった日本人に、何でも金で解決しようという風潮が蔓延し「自分たちでつくらなくても、金があるんだから、買ってくればいいじゃないか」という発想が堕落の原点だと指摘する。

 ちなみに、『日本の輸入食品』(真崎正三郎著)によると、日本国民が1年間に食べる一人当たりの純食糧は520kg(平成7年)、家畜飼料や加工原料を含む全食料消費量は、1人当たり約1,000kg弱。世界全体では一人当たり450kg程度になり、日本の半分程度、つまり日本は世界の人々の2人分の食料を消費していることになります。日本の人口は世界の2%ですが、世界で生産される食料の4.6%を消費しているのです。

 世界では8億人以上の人々が飢餓で苦しんでいるといいます。そんな中で、日本人は命に直結する食糧を自ら作ることを放棄し、6割以上の食べものを世界中から買いあさって、美食・飽食を謳歌し、喰い散らかしているのです。

  同書によると主要品目の自給率(平成7年度)は、米103%、小麦7%、豆類5%(うち大豆は2%)、野菜85%、果実49%、肉類57%、鶏卵96%、牛乳・乳製品72%、魚介類74%、砂糖類35%となっています。

 味噌、醤油、豆腐、マーガリン、パン、うどん、菓子などは、ほとんど輸入原料によって作られています。

 小泉氏は、食糧自給率低下の問題は、農業だけでなく漁業も深刻で、世界一魚を食べる日本人だが、「取れなくなったら買えばいいじゃないか」と堕落しているという。真崎氏の書によると、水産物の輸入は圧倒的であり、世界の水産物全貿易量の30%弱を日本1ヶ国で輸入しており、2位のアメリカの2倍以上になるとのことです。

 

すべては心に始まって心に終わる

 続いて小泉氏は、日本の食の堕落と崩壊について、日本の酒造りの堕落を例にとり「酒も食べ物も料理も、すべては心に始まって心に終わるのである。したがって酒を飲むということは、酒自体を飲むだけでなく、心も飲むのである」と。

  人さまの健康を思う食べ物づくりから、儲けるための売り物づくりへ。いのちの糧を商う食べ物屋から、いかに売っていかに儲けるかの食品という商品販売業へ、美食・飽食・簡便性を求め、時には30%も食い残してゴミとなるという贅沢三昧に耽る食生活。他を慮るという利他の心のつながりがない。

  食の本質を忘れ、「作り手が食べ手を思い、食べ手が作り手を思う」という、心の絆がズタズタに切れ放たれてしまった恐ろしい食の世界である。そこには利己的な合理主義や経済効果が優先され、本物作りにかける哲学も丹精を込めるという情熱もない。命への心が見えてこないから「いただきます」も「ごちそうさま」も「もったいない」の心も生じてこない。

  小泉氏は「悪貨は良貨を駆逐する」として、一人の堕落が周囲の人間をも巻き込んで、堕落がさらなる堕落を生んで、やがてはこの国全体が堕落する。

 

食べ手の堕落、商い手の堕落、作り手の堕落

  先ごろ、孫の行く小学校で、牛乳パックを使って親子でつくる工作の催しがあり、親に代わって参加した。悪い癖で、家庭ではどのような飲み物を飲ませているのか飲んでいるのか、教室の中を何気なくグルグル廻ってお母さんやお父さんが山のように持参した空パックを見渡した。ザッと見て牛乳パックは2割程度、3割程度が乳飲料、あとは果汁飲料。牛乳では生産者の見えるものや低温殺菌牛乳なる物は残念ながら一個も目にする事ができなかった。大体スーパーやコンビニに並んでいる売れ筋と比例しているかなという印象で、私としては子供たちにあまり飲ませたくないものがほとんどである。

 健康志向から飲料関係では日本茶のペットボトルが伸びていて、特売ともなるとお母さん方に大変な売れ行きである。家庭でお茶を沸かさない。入れない時代なのである。ヤカンなる物もないのかもしれない。使われているお茶の栽培方法、加工の方法、添加物、内容成分、それに飲んだ後のペットボトルにも無関心なようだ。

 飽食の中にありながら、食と健康に不安を抱かない者はいない。高価な健康補助食品が爆発的な売れ行きだという。普段の食べ物への疑問、日頃の食生活への不安の裏返しであろう。にも拘らず安価で簡便で舌先三寸の美味を欲求する食の堕落は止まるところを知らない。普段私たちが食欲のおもむくまま、何の気無しに食べているもろもろの食べ物。その食べ物の作られ方や食べ方について「何の気無し」では困るのであって、「何の気あり」で、大いに疑問を持っていただきたいのである。

  売れるものを売る、売れるものを作る。それが売り手と作り手の論理であり、正義であるとしたら、これまた堕落の連鎖となる。


ごらんいただいたことを大変ありがたく感謝します。

 


生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
L ife A griculture F oods

FAX :076-223-2005
mail :m.ikeda@ninus.ocn.ne.jp

池田 優

 

 ◎ ご意見、ご教示はこちらまで    掲示板も御座います。是非ご利用下さい。→ 掲示板

最新号へ戻る