山ちゃんの食べもの考

 

 

その100
 

 日本では、この5月20日にカナダで狂牛病(BSE=牛海綿状脳症)が発生していらいカナダ産の牛肉輸入は禁止されている。しかし、カナダ産の牛肉がアメリカ経由で日本に輸出されてくる危険性がある。
 8月10日の『日本農業新聞』によると、農水省は9日、カナダ産の牛肉が日本に入るのを防ぐ措置をアメリカに求めていた問題で、アメリカがカナダなど外国から輸入したものとアメリカ国内で屠畜した牛肉とを分別して流通するガイドラインを作り、それを守る業者の牛肉に限って輸入を認めることに日米が合意した。米農務省は「米国で屠畜された牛の肉である」と明記した輸出証明書を発行。日本はこの輸出証明書がついた牛肉に限って輸入を認めるというものである。この「牛肉輸出証明プログラム」は、9月1日から実施される。
 アメリカではトレーサビリティ―・システム(生産および流通等の履歴を追跡する仕組み)が導入されていないための妥協であり、カナダ産の肥育もと牛が「米国産牛肉」として日本に輸出される危険性は残ったままだという。
 日本における牛肉の消費量は151万トンで、そのうちの97万トンが輸入品。、国産牛肉はわずかに36%の54万トンです。 大量に輸入されているアメリカの牛肉などはどのように作られたものなのでしょうか。
 私達が食している牛肉の約65%は輸入牛肉で、その過半数がアメリカ産。国民が一人当たり年間に食べる牛肉は8.2kgですが、そのうち国産の牛肉を食べるのはわずか3kgばかりです。
 これまで、牛肉や豚肉、鶏肉、鶏卵、牛乳など日本における畜肉品の作られ方について、伊藤宏著『食べ物としての動物たち』を中心に学んできました。
 世界の牛肉の20%を生産し、大量に食し、又大量に輸出するアメリカでの牛肉はどのように作られているのでしょうか。


 ある女性グループの勉強会で、皆さんはどの程度に輸入肉を食べていますかと言う質問に対して、ほとんどの人は国産しか買わない食べないと答えられました。国産牛は35〜36%しかありません。私たちは無意識のうちにアメリカ産の牛肉をたくさん食べて(食べさせられて)いるのです。
 ここではアメリカおける畜肉生産について、ジャーナリストの中村三郎著『肉食が地球を亡ぼす』(ふたばらいふ新書)から、学んでみたいと思います。


以下、中村三郎著『肉食が地球を亡ぼす』より抜粋要約しました。
 アメリカの北西部を中心に、都市の郊外に行けばどこにでもアメリカの牛肉ビジネスを支えているフィードロットが見られる。
 フィードロットとは、牛を放牧せずに、フェンスで仕切った牛囲いに入れて効率的に肉牛を生産する集団肥育場のことで、アメリカの肉牛生産は、大手食品メーカーによる5万頭から10万頭単位の大規模なフィードロット生産のもとに、徹底した大量生産が行われているといいます。
 農家の下で生まれた子牛は6〜8ヶ月で離乳し、体重が200kgを越したころに育成業者に渡される。そこで約1年間牧草を食べさせながら飼育し、体重が350kg程度に達したらフィードロットに送られる。
 フィードロットでは、牛囲いの中に入れ4〜5ヶ月間の短期間の間に穀物を主体とした配合飼料を与えて肥育し、体重が500kg前後の成牛になると食肉加工場に出荷される。
 狭い牛囲いの中に押し込められたフィードロットの牛は、より早く、より太らせるために、青草の代わりにトウモロコシや大豆などの濃厚飼料をひたすら食べさせられる。
 加えて、病気の発生を未然に防ぐために抗生物質が投与される。
 同時に、肥育効率と肉質を高めるためにホルモン剤が与えられる
 体重他体調をコンピューターで管理され、給餌や糞尿処理などすべて機械化されたシステムの中で、監禁状態のような生活が強いられる。


 子牛肉として生産される牛の場合はさらに残酷で、まだ乳離れ前の子牛は母牛から引き離され、子牛がやっと入るくらいで体の向きを変えることもできない狭い木枠の中に閉じ込められる。
 そんな不自由な状態で、しかも1日の大半を暗闇の中に於かれ、ミルプレイサーと呼ばれる、鉄分と繊維質を除いた液状の餌だけが食べさせられる。
 それは、子牛を貧血状態にし、「ホワイトヴィール」という、高値で売れるピンク色の上質肉に仕上げるためである。そして、体重が150kgほどになる3〜4ヵ月後、食に区処理場へ送られる。その頃には貧欠がひどくなっていて、それ以上長く飼えば死んでしまうという。

 牧場といえば、かつては牛は草原で一日のんびりと草を食み、日が沈むころになるとカウボーイがゆったりと馬で牛たちを畜舎に追い込んでいくという牧歌的な風景であった。動物と人間のおだやかで自然な融合があったが、今ではその見る影もない。
 フィードロットの牛たちは、人間の利益を生み出すビジネスの対象としか存在せず、命ある生き物として認められていないのだ。フィードロットは巨大な肉牛生産工場であり、車やテレビを大量生産する機械工場と同じなのである。


 フィードロットでの牛たちは、食肉処理工場へ送られるまで完全管理の下で毎日腹いっぱいの濃厚飼料を食べさせられる。
 濃厚飼料は、粗飼料といわれる青草や稲わらに比べてデンプンや脂肪、タンパク質の含有量が高く、繊維が少なくて消化が早い。牛を短期間に太らせ、やわらかく適当にサシの入った旨味のある肉を作るのにうってつけなのである。
 しかし、牛たちの病気は濃厚飼料によって起きている。本来繊維質の多い野草の葉や茎を食べる牛は、4つの胃を持つ反芻動物である。濃厚飼料ばかり食べている牛は消化機能に異常をきたして健康を損ねて障害を引き起こす。濃厚飼料はカロリーが高いがビタミン類が少なく、夜盲症、神経炎、脚気、尿路結石などの病気を招く。そして、食肉処理場で解体されて始めて脂肪肝や肝炎にかかっていたことがわかるのだという。そこで合成ビタミン剤が飼料に添加されたり直接注射されたりする。


中村三郎氏は『肉食が地球を亡ぼす』の中で、ゴミや廃棄物を飼料とする信じられないようなリサイクル飼料について記している。
 「古紙飼料」――読み捨てられ使い捨てられた新聞や雑誌、ダンボールなどを回収し、それらを水にと課して閑想し、牛の好む香料などを添加して再生加工するというものである。もともと紙は木で作られているから適量の繊維質が含まれており、牛の反芻運動によって栄養源になるというのである。
 「糞尿飼料」――鶏や豚の排泄物を粉末にし、トウモロコシなどの穀物を混ぜて加工すれば出来上がりであるという。
 中村氏は、こうした廃棄物再生飼料は、一部のフィードロットで実際に使われている。ゴミの急激な増加で地球環境が悪化しつつある現代、リサイクルも結構だが、まるで牛の健康を考えていない。と述べている。


 狭い場所でぎゅうぎゅう詰で肥育され、濃厚飼料で短期間に太らせられる牛たちには、ストレスに起因する病気の発生率が高くなる。消化器系の病気にかかりやすく、細菌性の乳房炎もあり、万一牛結核や口蹄疫などの伝染病でも発生したら大変である。
 こうした病気を未然に防ぐために、餌には栄養添加物とともに抗生物質が混ぜられる。フィードロットの牛たちには10数種類以上もの抗生物質が大量に投与されているという。
 細菌は抗生物質に対して耐性をもつようになり、やがて抗生物質を投与しても効かなくなる。大量の抗生物質使用は強い耐性菌がどんどんはこびる原因となり、新しい病原菌を生み出すだけでなく、人間の食卓の安全をも脅かすことになる。


フィードロットの牛たちには、さらにホルモン剤投与の問題がある。
 牛は成長するにしたがって筋肉が荒くなって肉質が硬くなる。特に雄牛はそうであって、食肉としての品質が落ちてくる。そこで肉質を軟らかくするためにホルモン剤が使われる。
 ホルモン剤の使用によって適度な脂肪の蓄積した上質の肉ができ、太りがよくなって体重の増加も早くなる。濃厚飼料と併用することで、肥育の促進と肉質の向上が一段とアップするというわけである。
 もし食肉にホルモン剤が残留していることでもあれば大変である。微量のホルモンが異常をきたすと、女性の場合には生理不順や子宮・卵巣障害、乳ガンなどの婦人病に罹りやすくなり、男性の場合には体毛が薄くなったり、精気の発育不全、体質や性格の女性化がある。
 ヨーロッパで、アメリカから輸入された牛肉から使用が禁止されているはずの合成ホルモン剤が検出された。
 1985年、プエルトリコで約3000人の赤ん坊や女児に初潮が起こり、乳房が膨らむという異常成熟が発生した。その子供たちすべてがアメリカ産牛肉を食べており、その牛肉からは、通常人体が分泌する10倍以上のホルモンが検出されたのであった。
 このこと出EU諸国はホルモン剤使用のアメリカ産牛肉の輸入禁止措置をとった。これに対してアメリカは経済制裁に及んだ。そしてアメリカとEUではホルモン剤の使用をめぐって「ホルモン戦争」が繰り広げられている。
 アメリカにも一切ホルモン剤を使わないで牧草主体で育てている農場経営者はいる。「牛をなるべく自然な形で育てることによってこそ、牛肉だけにしかない本来の味がでるのだ」「何の薬にしても無理に使ったら害がでる。牛が必要としない薬を使うことは、牛をダメにするばかりでなく、その肉を口にする人間もダメにしてしまうからだ」と述べているという。



 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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