山ちゃんの食べもの考

 

 

その101
 

 「肉食が飢えを招く」として中村三郎氏は、アメリカを先頭に先進国の過剰な肉食が、世界の人々の貧困と飢餓を招いていると警告しています。
 現代の畜産は、昔とは一変して草ではなく穀物から食肉を製造するという食肉加工産業になってしまったのです。中村氏は、「食肉はいわば穀物を濃縮した工業製品なのだ」、という。そして以下のように述べている。
 「その工業製品である畜肉を作るのにどのくらいの穀物を使っているのだろうか。これがとんでもない量にのぼるのだ。
 世界の穀物生産量は、年間約17億トンだが、なんと、そのうち半分に近い8億トン以上が飼料として消費されているのである。
 食肉1kgの生産に要する穀物量は、ブロイラーで2kg、豚肉で     4kg、牛肉では8kgになる。牛肉を100g食べることは、穀物を800g食べることに相当する。牛の場合、食用として500kgの体重となり出荷されるまでには1200kgの穀物を食べさせなければならない」という。
 そもそも牛は四つの胃を持つ反芻動物です。本来ならば広々とした原野でのびやかに草だけを食べて生きる草食動物です。その牛がぎゅうぎゅうに牛舎に閉じこめられ、黙々と穀物飼料を食べさせられています。狭い牛舎に押し込め、余分な運動をしないようにして、濃厚な穀物飼料を食べさ、軟らかく脂肪のたっぷりついた肉の牛を短期間に生産するためです。
 私達は一片の肉を食べるために多くの穀物が費やされており、その陰で多くの飢餓に苦しむ人のあることを忘れてはなりません。


 この地球では、すべての人間が飢えないだけの穀物の収穫が十分にありますが、その穀物の半分が家畜のための飼料に使われているのです。そのため経済力の弱い途上国の人々は、穀物を食糧として買うこともできずに、飢餓で苦しむことになっています。
 中村三郎氏によると、「世界の人口は62億8千万人で、穀物の生産量は年間約17億トンであるから1人当り1年に約270kgの穀物が世界中の人に分けられることになる。にもかかわらず、世界の多くの国で栄養失調や飢えに苦しむ人々がいる。人々の栄養源であり主食であるべき穀物の分配がうまく行っていないのである。
 例えばアメリカでは、一人当り年間1万トン以上の穀物が消費されている。しかもアメリカは、この1万トン以上の穀物のうち80%は、穀物で飼育された家畜を食肉として食べて消費している。
 その一方で、栄養状態の悪い国が多いアフリカでは、一人あたり200kg程度であり、もっともひどいくでは1人当り100kgにも満たない。この分配の不均等には、ひとえに先進国と発展途上国との経済格差、いわゆる南北問題が大きく関与しているという。
 そして、先進国の食肉志向が世界の飢餓に拍車をかけているいるのだ。本来人間の食料として回って来るべき穀物が食肉生産のために使われ、経済力の乏しい国ではいつまでも食糧難が解消せず、飢えるのがあたり前になっている。肉を食えば食うほど止める国はさらに富、飢える国はますます飢える仕組みになっている」と述べています。
 現在、世界の30カ国で5億の人間が飢えに苦しんでいる。その飢えた人間を救うには年間2700万トン(食肉生産に使われている穀物生産の30%)の穀物を供給すれば世界から飢餓はなくなる計算になると述べている。
 そして、今、私達が肉を食べるということが、途上国の飢餓というもっとも根元的な問題を引き起こしている現実をしっかり見つめる必要があるのではないかという。


 肉食を中心とするアメリカ流の食生活は、世界各国に広がって行っています。そして、肉食の風習が拡大するにつれて、貧しい国の食糧難が深刻化を増して行くということになります。そして肉食化した多くの国には、自国で十分な穀物が生産できないので、穀物大国であるアメリカから飼料用の穀物を輸入する、あるいは牛肉を輸入するという構図になっていきます。肉の需要が急速に増大し続けています。
 日本においては経済発展とともに、わずかの期間に日本型食生活が崩壊し、食卓に肉のない日がないというまでに、人々の日常食の中に食肉が主坐を占めるようになりました。肉の消費量が5倍になり、米の消費が半分になってしまったのです。そして、肉ばかりでなく、畜産のために大量の大豆、トウモロコシ、穀物を輸入しているのです。
 私達が日本人の体質にそぐわない不健康な肉食中心の食生活を止め、気候風土に合った米中心の伝統食に立ち返らない限りは、食糧自給率向上も望めないばかりか、日本人の食をアメリカに依存しなければならない仕組みは変ることがないでしょう。


 いま、中国でも経済発展に伴って肉の消費が増え、そのため穀物飼料の需要が急速に増大しています。そのため、これまで余剰であった穀物の輸出国であったのに、アメリカからの食肉生産のための穀物飼料を輸入しなければならないという、穀物輸入国に転じてしまったのです。アメリカは穀物飼料で世界を制覇しています。  
 肉食化する中国の驚異について中村三郎氏は次のように述べています。
 「2006年には人口が15億人を超えると予測されている中国では、この人口増加とともに急速に進んでいる食生活における肉食かが脅威になっているという。中国のGDP(国内総生産)は10%台の伸び率を続けており、経済成長にともなって人々は食事に豊かさを求める。
 穀物を中心にしていた食事から、卵、鶏肉が増え、豚肉、牛肉へと食事内容がステップアップしていく。
 中国において牛肉の消費量が2倍に増えたとすると、牛肉1kg作るのに8倍の穀物を必要とするわけであるから、単純計算で穀物の消費量が16倍に増えることになる。世界人口の4人ないし5人に一人が中国人であるから、実に恐るべき穀物の大消費となる、という。
 世界有数の穀物輸出国であった中国は1994年以降穀物輸入国国となった。食肉生産に使われる穀物の量がみるみるうなぎ上りに増えて行き、国内の生産量では間に合わなくなった。穀物の輸出を全面的に禁止しなければならなくなったどころか、逆に、穀物の輸入国に転じ、今や中国は、巨大な穀物輸入国となっているという。」
 中国における現在の穀物生産量は、年間4億7000万程度だが、2025年には穀物消費量は6億4000万トンになり、1億7500万トンの穀物輸入が必要となるという。この量は、現在の世界穀物輸出量に匹敵し、日本における10年分の穀物消費量に相当するという途方もない量である。
 中国ばかりでなく、近代化路線をひた走っているアジアの各国々も経済成長とともに食の豊かさ、肉食志向を高めていく。」


 中村三郎氏は中南米などにおける牛の放牧地開発の寄っても熱帯林が消えて行っている、と次のように述べている。
 「世界の森林は激しいスピードで減少を続けており、森林伐採と焼畑農業が主たる原因であるが、牛や羊など家畜の放牧地への転換も大きな原因になっている。
 先進国における畜産はフィードロット方式が主流であるが、世界全体で見ると放牧により飼育の方が多い。そしてそのほとんどがブラジル、ボビリア、ベネズエラなどアマゾン川流域の中南米諸国に集中している。
 食肉を大量消費する先進国の企業が、これらの国で食肉増産のためにアマゾンの熱帯林を切り開いて家畜の放牧地に変えているからだ。
 世界の熱帯林の半分をアマゾン地帯が占めており、そのうちの20%(日本の総面積の3倍に当たる1100万ヘクタール)が放牧地の開発ですでに失われている。今日、アマゾンの土地に早く600万等の牛が放牧されている」という。


 続いて中村氏は、このまま肉食が続いて行くならば、熱帯林が消えてなくなる、と以下のように述べています。
 「放牧地は、牛の群に根こそぎ牧草を食いつくされ、養分や水分の枯渇、表土の流出を招いて、たちまちのうちに種をまいても芽が出ないほどに荒れ果ててしまう。そして、放牧に使えなくなるとその土地は打ち捨てられ、牧場主は次の放牧地を求めてさらに熱帯林を切り開いていく。
 先進国の牛肉消費を支えるアグリビジネスの企てのもとに、こうした乱開発のパターンが繰り返され、アマゾンの熱帯林がどんどん減少していったのだといいます。
 中南米の中でも熱帯林の3分の1をしめるブラジルでは、1970年から10年足らずで40%もの森林が消えた。アメリカのワールドウォッチ研究所によると、アマゾンで生産された牛肉からハンバーガー1個を作るのに、5平方メートルの森林が伐採されて放牧地に転換された計算になるという。
 熱帯林は、人間に多大な恵みを授けてくれる資源の宝庫なのであり、私たちの日々の生活が、いかに熱帯林に依存しているかを深く心に止めなければならない。今、残されている熱帯林が消滅してしまった時、地球の生態系は完全に崩壊し、すべての動植物は永遠に消えることになるであろう。もちろんその時は人間も同じ運命である」。


 中村三郎氏は世界における肉食の急増は各地に過放牧をもたらし、それが土地を荒廃して砂漠化を促している、と次のように述べています。
 「現在、世界の放牧地面積は耕作地面積の2倍に上り、そこに13億3000万頭の牛と17億2000万頭の羊や山羊が飼われている。家畜の放牧による影響は森林だけにとどまらず、土地の砂漠かも招いている。
 過放牧とは、牧草地で牧草の生産量が家畜の消費量に追いつけない状態で、常にエサ不足にある牛たちは食欲を満たすために、あちこちの草地の牧草を食い荒らし、草の根まではぎ取ってしまうのである。地層が剥き出しになってしまい、土壌基盤が脆弱化して、雨や風に浸食されやすくなるのです。
 過去50年間で、世界の放牧地の60%が過放牧のために荒廃したといいます。そして、飼料用穀物栽培のための過耕作を行うことで、さらに土地の荒廃に追い打ちがかけれれていて、国連の調査報告では、世界全体で年間6000平方メートルの土地が表土の流出によって砂漠化している。そのため穀物収穫量が900万トン減少しているとされています。
 特にアフリカ諸国における砂漠化は深刻で、年々膨大な面積の放牧地が砂漠に埋もれており、大陸の生態系と住民の生存を脅かしているという。ヨーロッパをはじめとする国際食肉市場でのシェアを拡大するために過放牧が続けられているからです。現在、牛だけでもアフリカ全体で2億頭が放牧されており、これはアフリカの総人口の3分の1以上に匹敵するということです。
 今、地球上で進行している砂漠化は、人間の欲望がもたらした“人災”に他ならない、と中村氏はいう。



 

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生命の農と食を考える
L A F 健農健食研究所 ラフ
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池田 優

 

 

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